2024年度施行のトリプル改定とは? 改定のポイントと必要な対応

診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬が3つ同時に改定される、トリプル改定(同時報酬改定)。2024年(令和6年)は、6年に1度行われるトリプル改定に該当する年度です。

2023年12月20日には、報酬改定に向けた基本方針をもとに各報酬の改定率が発表されました。現在は2024年6月(一部は4月)の施行に向けて、報酬の点数設定や制度の見直しなど詳細な議論が行われています。

この記事では2024年度トリプル改定のポイントと、改定に伴って必要となる医療機関・介護事業者の対応について解説します。

2024年度に行われる医療・介護・障害福祉の「トリプル改定」とは?

日本では、医療・介護・障害福祉分野における各報酬が法律によって定められています。診療報酬の改定は定期的に行われており、改定の頻度は診療報酬(医療)が2年に1回、介護報酬(介護)および障害福祉サービス等報酬(障害福祉)は3年に1回です。

トリプル改定(同時報酬改定)とは、医療・介護・障害福祉の3つの報酬改定が同時に実施されること。2024年(令和6年)は6年ぶりにトリプル改定が実施される年度のため、多くの関係事業者から注目を集めています。

2024年度トリプル改定における報酬改定率

2024年(令和6年)度の診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬の各改定率は、2023年12月20日に決定しました。薬価改定などの一部を除いて6月1日に施行されます。

各報酬の説明と改定率は、以下のとおりです。

診療報酬 +0.88 %
保険医療サービスに対する対価として、保険医療機関(保険証が使用できる病院・診療所・薬局)に支払われる費用
介護報酬 +1.59 %
要介護者または要支援者に提供した介護サービスの対価として、事業者に支払われる費用
障害福祉サービス等報酬 +1.12 %
利用者に提供した障害福祉サービスや障害児支援の対価として、事業者に支払われる費用


出典:厚生労働省(診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬改定について)

2024年度トリプル改定の議論に不可欠な「2025年問題」と「2040年問題」

今回のトリプル改定では、日本が抱える「2025年問題」と「2040年問題」を見据えた改定となるよう審議が行われました。

2025年は、人口に占める割合の多い「団塊の世代(1947年~1949年生まれ)」のすべてが75歳以上になる年です。社会保障費の負担増や労働者不足などの社会課題が表面化。医療・介護ニーズの増大による需給バランスの崩壊も危惧されています。

また高齢者人口がピークを迎える2040年には、社会の担い手となる生産年齢人口が急減。社会保障制度の維持そのものが困難となり得る危機的な局面を迎えます。

グラフ(2025年以降、「高齢者の急増」から「現役世代の急減」に局面が変化する)
画像出典:厚生労働省(第93回社会保障審議会医療部会)かかりつけ医機能について

医療・介護提供体制の見直しや制度改革は、日本が直面するこれらの課題を見据えて進められています。
今回のトリプル改定は、2025年を目前に控えた改定です。公開資料でも“ポスト2025”という表現が散見され、2025年以降の医療・介護等の在り方を実現していくための報酬改定および制度改正が行われます。

2024年度トリプル改定に向けて実施された意見交換

2024年度のトリプル改定は、6年に1度の同時報酬改定です。そのため医療報酬や薬価の公定価格を決定する「中央社会保険医療協議会」と、介護報酬を決める「社会保障審議会」が審議に入る前に意見交換を行いました。
医療と介護等の連携・調整を一層進められる報酬改定を目指して実施され、トリプル改定に向けた審議に役立てられています。

意見交換は、以下のテーマで行われました。

  1. 地域包括ケアシステムのさらなる推進のための医療・介護・障害福祉サービスの連携
  2. リハビリテーション・口腔・栄養
  3. 要介護者等の高齢者に対応した急性期入院医療
  4. 高齢者施設・障害者施設等における医療
  5. 認知症
  6. 人生の最終段階における医療・介護
  7. 訪問看護
  8. 薬剤管理
  9. その他

2024年度トリプル改定のポイント

診療報酬は2024年12月11日に改定に向けた基本方針が決定し、介護報酬については12月19日に審議報告がまとめられました。これらをもとに2024年度トリプル改定のポイントを解説します。

人材確保・働き方改革の推進

医療・介護・障害福祉サービス分野は、いずれも人手不足です。そうした中で良質な医療・介護サービス体制を確保することは、共通の課題といえるでしょう。
今回の改定に向けた基本方針では、人材確保と働きやすい職場環境づくりの必要性が明記されており、賃上げやICTの活用等による生産性向上の推進が掲げられています。

中でも診療報酬改定の基本方針では、「現下の雇用情勢に応じた人材確保・働き方改革の推進」を重点課題に据えていました。賃金上昇や物価高騰への対応の必要性や、2025年以降の医療供給体制の構築に不可欠な取り組みについての主張です。こうした点が過去10年でもっとも高い改定率(本体部分)となった、今回の診療報酬改定につながったのかもしれません。

医療・介護・障害福祉サービスの連携強化(地域包括ケアシステムの深化・推進)

厚生労働省は団塊世代が75歳以上になる2025年以降を見据え、住まい・医療・介護・予防・生活支援を地域内で包括的に提供する仕組み(=地域包括システム)の構築を2003年から推進してきました。

地域包括ケアシステムの推進・強化は、今回の改定においても重要なテーマのひとつです。多様化・増大する介護ニーズだけでなく、医療・介護の複合ニーズへの対応も求められる中で、必要なサービスを切れ目なく提供するために、「地域包括ケアシステムの深化・推進」が引き続き重要事項として明示されています。

介護報酬改定では、これらを実現していくために連携体制の見直しや新たな義務付けのほか、取り組みを評価する加算も新設されました。

医療DXの推進

医療情報の利活用や医療機関同士の円滑な連携をはじめ、効率的かつ効果的な質の高い医療の提供に不可欠な医療DXが進んでいないことは、日本における大きな課題のひとつです。
しかし、新型コロナウイルス感染症拡大によってデジタル化の遅れが顕在化したことで、医療DXの必要性が認知され、変化の兆しがみえています。

今回の診療報酬改定の基本方針には「医療DXやイノベーションの推進等による質の高い医療の実現」が盛り込まれており、医療情報の有効活用や遠隔医療の推進を通じて、より効率的・効果的な質の高い医療サービスの提供を目指すことが明記されています。

また介護報酬改定においては、介護ロボットや ICT 等のテクノロジーの活用を促進するために新たな加算が設けられ、人員配置基準も緩和されました。


【参考】
令和6年度診療報酬改定の基本方針
令和6年度介護報酬改定に関する審議報告

2024年度トリプル改定に関連する制度

2024年度はトリプル改定だけでなく、診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬に関わる制度も開始します。その中でも関連の深い制度について触れておきましょう。

「第8次医療計画」と「第9期保険事業計画」

医療計画とは医療法に基づく国の基本方針に則り、地域の実情に応じた医療提供体制の確保を図るために策定される計画です。6年ごとに見直しが行われ、第8次医療計画は2024年度からスタートします。
介護保険事業計画は、保険給付のスムーズな実施を計画的に実現するための計画。介護保険事業計画も同じく見直しが行われており、2024年度が第9期のスタートです。

またこれらの上位指針となる「総合確保方針」の見直しも行われました。ポスト2025とそ
の先の生産年齢人口の減少を見据えた、医療・介護提供体制を構築していくための方向性が示されており、報酬改定の議論でも活用されました。

2024年度トリプル改定では各分野の課題だけでなく、医療・介護・障害福祉のさらなる連携を視野に入れて報酬改定が実施されたことで、課題解決に向けた取り組みが進みやすくなるのではないでしょうか。

医師の働き方改革(時間外労働の上限規制の適用)

2019年4月1日から始まった働き方改革(中小企業は2020年4月1日から)。時間外労働の上限規制などを定めた働き方改革関連法の医師への適応開始は、2024年4月1日です。

審議会に示された「令和6年度診療報酬改定の基本方針」には、働き方改革等の推進が重点課題に据えられています。医療DXや外来医療を中心に加算の見直しや評価項目の新設が検討されており、2024年2月頃には個別の改定項目が決定する予定。診療報酬の改定によって、医師の労働時間短縮および健康確保のための環境整備が進むことが期待されています。

2024年度トリプル改定を受けて強化される取り組み

医療・介護業界では、以前から医療従事者のタスク・シフトやICT等デジタルツールの導入が推進されています。2024年度トリプル改定を受けてこれらの取り組みは一層強化されるため、医療機関や介護事業者はこれまで以上に対応が求められるはずです。

医療従事者のタスク・シフト/タスク・シェアリング

タスクシフト(タスク・シフティング/タスク・シェアリング)とは、医師が行っている業務を他の医療従事者(※)に移管(シフト)または共同実施(シェア)すること。国内では、医師の業務負担軽減およびチーム医療の水準向上を図ることを目的に、2017年から取り組みが進められています。

現在、働き方改革(時間外労働の上限規制)の医師への適用を念頭に、法整備をはじめとした仕組みづくりが進行中です。医療機関では、意識改革や研修の実施、業務の見直しなどを進め、タスクシフト・シェアを積極的に実践することが求められるでしょう。

※ 看護師、薬剤師、診療放射線技師・臨床検査技師・臨床工学技士、救急救命士など

ICT等デジタルツールの導入・業務改革

基本方針で医療DXの推進が掲げられているとおり、デジタルツールの活用や業務改革は、業界全体で注力していく取り組みのひとつです。医師の業務負担の軽減はもちろん、医療現場の生産性向上の実現にも欠かすことができません。

また地域包括ケアシステムの深化・推進において重要となる、医療・介護・障害福祉サービス間の多職種連携を強化するためにも必須の取り組みです。医療・介護分野においてIT化が進んでいないことは以前からの課題ではありますが、2024年度トリプル改定を機に医療DXに対する考え方も変化していくでしょう。

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まとめ

団塊世代のすべてが75歳以上(後期高齢者)となる2025年以降、医療・介護ニーズは大幅に増加することが予想されています。一方で働き手は減少を続けるため、医療・介護の提供体制の持続性を確保するべく、さまざまな改革が進められていますが、トリプル改定後はその動きがさらに強まっていくでしょう。

社会の形に応じて医療・介護・障害福祉サービスの“あり方”が変化する中でも、人材確保は常に重要課題のひとつです。働き手の減少を踏まえれば、今まで以上に大きな課題となることは言うまでもありません。
人材確保には採用活動を効果的に進めることが必要ですが、近年は採用DXを支援するさまざまなサービスがあります。2025年以降の変化を視野に入れた人材確保のために、自社に合った採用DXを今から検討してみてはいかがでしょうか。

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この記事を書いた人
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馬嶋 亜衣子(samusillee)

採用・キャリア関連、医療分野を中心に執筆を行うフリーランスライター。 各種メディアの取材ライティングやSEOライティング、採用HPのライティングなどに携わっています。

監修者
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辻 惠次郎

ネットオン創業期に入社後、現在は取締役CTOとしてマーケティングからプロダクトまでを統括。
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