中小企業の賃上げ、58.5%が「実施予定」。原資確保の取り組みは「販売価格の値上げ」が最多|<2024年度>中小企業の賃上げ実態調査

中小企業の賃上げに関する実態調査

2024年度の春季労使交渉(春闘)が佳境を迎えています。昨今の物価高や人手不足、また脱デフレに向けて、政府は2023年を上回る賃上げを要請。国内主要企業の多くが労使の要求に対して満額、あるいはそれ以上のベースアップや初任給の引き上げを決定しました。

3月末にかけては中小企業の労使間交渉が本格化します。賃上げの気運が中小企業へと広がることが期待される中、中小企業は2024年度の賃上げについてどのように対応するのでしょうか。

株式会社ネットオンでは、採用業務クラウド『採用係長』の登録ユーザーである中小企業の採用担当者を対象に、2024年度の賃上げ予定に関するアンケート調査を実施しました。

アンケート回答者属性

今回、アンケートにご回答いただいた事業所様の属性は以下の通りです。
従業員規模20名以下の事業所様を中心に「建築・不動産」、「飲食」、「医療」、「運輸」など様々な事業所様にご回答いただきました。
また、地域につきましても、都市部を中心に全国的に散らばり、あらゆる地域の事業者様にご回答いただきました。

業種

従業員規模

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都道府県

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58.5%の事業所が賃上げを「実施する」と回答

はじめに全事業所へ2024年度の賃上げ予定について質問したところ、58.5%が「実施する予定」と回答。賃上げを実施する事業所が6割に迫る結果となりました(n=557)。
前回調査(2023年3月実施/n=335)との比較では、「実施する予定」の事業所が3.9ポイント増加しています。

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賃上げ予定を業種ごとに確認したところ、以下のような違いが見られました(回答が10事業所以上あった業種のみをグラフ化しています)。

業種別賃上げ予定
※( )内の数字は事業所数

賃上げ予定の事業所の割合がもっとも多かった業種は、同率で「医療」「工場・製造」です。
回答が10事業所以上あった15業種のうち、11業種において「実施する予定」の事業所が「実施しない予定」の事業所を上回りました。

過半数が「正規雇用・非正規雇用の両方」を賃上げ

続いて、賃上げを実施する雇用形態について質問したところ(n=326)、「正規雇用・非正規雇用の両方」と回答した事業所が56.1%を占めました。

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「正規雇用のみ」と回答した事業所は30%を超えましたが、前回調査(n=183/33.3%)よりも減少。雇用形態による格差の改善が見られます。

賃上げ内容は「ベースアップ」が半数以上

賃上げ予定の内容については、半数以上の事業所が「ベースアップ」と回答しています(n=326)。前回調査と比べて3.5ポイントの上昇です。一方、「定期昇給」は8.3ポイント減少する結果となりました。

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「ベースアップ」を実施する事業所の割合は、前々回調査(2022年3月/n=104)は39.4%、前回調査(2023年/n=183)は51.4%、2024年は54.9%となり、3年連続で増加しています。

賃上げ率は「2~3%未満」が最多。約6割が1~5%未満の範囲で実施

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賃上げ率について質問したところ、もっとも多かったのは「2~3%」です。次に「1~2%」、「4~5%」が続きました。
全体の約6割が1~5%未満の範囲で賃上げを行う予定であることが明らかになっています。

賃上げ理由上位は「従業員の生活を支える」「従業員の定着率向上」「人材採用」

賃上げ理由については「従業員の生活を支えるため」がもっとも多く、42.6%の事業所が回答しました。
2位は「従業員の定着率向上(引き留め)のため」。3位には「人材採用のため」が続いており、従業員確保に向けて賃上げを実施する事業所も少なくないことが読み取れます。

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一方、「業績が伸びた(回復した)ため」を賃上げ理由とした事業所は16.9%に留まりました。前回調査から1.7ポイント減少していますが、依然として業績に関わらず賃上げを実施する事業所が大半であることが分かります。

賃上げしない理由1位は「現在の賃金が適切であるため」

Q1の質問で賃上げを「実施しない予定」と回答した事業所にもその理由について質問しました(n=231)。
1位は「現在の賃金が適切であるため」で、62.3%が回答。前回調査(n=152)から24.8ポイント上昇しています。前回1位の「業績の向上(回復)が見込まれていないため」は、28.4%減少して2位に順位を下げました。

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3位と4位は順位こそ変化はありませんが、その割合は大幅に減少しています。3位の「物価高や円安によるコスト増加のため」は、21.6ポイント減少。4位の「社会保険料の増加により会社の負担が増えるため」は、11.1ポイントの減少です。
賃上げを実施しない事業所については、前回調査時と異なる状況であることがうかがえる結果といえるでしょう。

原資の確保は「販売価格の値上げ」が最多

Q1の質問で賃上げを「実施する予定」と回答した事業所(n=326)へ、賃上げの原資確保に向けて実施する(した)取り組みについて質問したところ、1位は「販売価格の値上げ」でした。

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「取り組みはないが賃上げに踏み切った」と回答した事業所が25.8%である点は、それ以外の75.2%は何らかの取り組みを行っていることを示しています。
賃上げを実施する事業所の多くが価格転嫁や生産性の向上に努めており、今回の賃上げはその成果であるといえるでしょう。

賃上げは「人材確保のため必要」「業績は厳しいが従業員のため」など

Q1で賃上げを「実施する予定」と回答した事業所(n=326)へ、賃上げに対する意見や感想を聞いたところ、51件の回答を得ることができました。ここではその一部を紹介します(可読性を高めるため、文章の一部を調整済み)。

<自由回答・一部抜粋>※カッコ内は、業種/従業員規模/所在地

人材確保のために必要

  • 企業存続のため、人材を確保するには必要と考えている(飲食/5~9名/東京都)
  • 賃上げは正直厳しいが、水準より下回ると人材の確保ができない(飲食/10~19名/三重県)
  • 従業員確保のため必須である(ホテル・旅館/10~19名/山口県)
  • 中小企業にとって賃上げはとても大きな負担。しかし人材確保のためには仕方のないところもある(建築・不動産/~4名/東京都)
  • 賃上げによって離職率を低下させ、品質と売上の向上を図りたい(運輸/50~99名/東京都)

従業員のために実施

  • 業績があまり伸びず苦しいが、従業員の生活も苦しいと思われるため賃上げする(運輸/30~49名/福岡県)
  • 物価上昇が続くため必要だと考えている(小売/5~9名/大阪府)
  • 地方ではまだまだ賃上げには踏み込めない状況だが、物価の高騰もあり思い切って舵を取ることにした(飲食/10~19名/北海道)

賃上げに向けた課題

  • 売値が上がらず、経営負担が大きい(工場・製造/~4名/兵庫県)
  • 販売価格に転嫁するのは難しい(建築・不動産/10~19名/埼玉県)
  • 賃上げをしても従業員が気づいていなければ効果はない。従業員に見える形での賃上げが必要(商社・卸売/20~29名/三重県)

制度等への意見

  • 賃上げを行うためにも法人税や消費税等の見直しを図ってもらいたい(介護・福祉/20~29名/長野県)
  • 社会保険料率が高いため、思うように賃上げができていない。賃上げをしても職員の手取り収入はそれほどは増えていない(医療/20~29名/神奈川県)
  • 大企業と中小企業の賃上げ格差が大きい。大企業に対して下請けや協力会社への還元を義務化できないか(人材/500~999名/広島県)

「原材料の高騰が解消されれば検討」「売上が上がれば反映」などの意見も

Q1で賃上げを「実施しない予定」と回答した事業所(n=231)にも賃上げに対する意見や感想を聞きました。30件の回答の中から一部を紹介します(可読性を高めるため、文章の一部を調整済み)。

<自由回答・一部抜粋>※カッコ内は、業種/従業員規模/所在地

  • 原材料の高騰が解消されれば検討する(飲食/~4名/愛知県)
  • 売上が上がれば給料に反映したい(整備・修理/~4名/東京都)
  • 物価・光熱費の高騰により、景気が良くなっていない(飲食/5~9名/埼玉県)
  • 賃金が上がっても保険料を上げられたら手取りが減ってしまう(人材/50~99名/東京都)
  • コロナ中の賃金を借り入れで支払っていた。返済が始まって賃上げができない(そのほか生活関連サービス/10~19名/東京都)
  • 税金を下げてほしい(小売/~4名/千葉県)

まとめ

今回の調査では、中小企業における2024年度の賃上げ予定に関するアンケートを実施しました。結果は、賃上げを「実施する予定」と回答した事業所が58.5%。1年前(2023年3月)に実施した前回調査から3.9ポイント上昇しています。

賃上げ理由の1位は「従業員の生活を支えるため」。2位は「従業員の定着率向上(引き留め)のため」となり、いずれも前回調査と同じ順位です。3位の「人材採用のため」は、昨年の4位から順位を上げ、8.1ポイント上昇しました。賃上げの目的には変化が見られましたが、「業績が伸びた(回復した)ため」は16.9%に留まっており、厳しい経営状況の中での賃上げであることは昨年と変わりません。

一方で賃上げに向けた原資確保の方法については、「販売価格の値上げ」が最多です。加えて、賃上げを実施した事業所の大半が何らかの取り組みを行っており、賃上げに対する前向きな姿勢もうかがえました。

政府は中小企業の賃上げを支援するために、補助金や税制優遇制度の創設・拡充を予定しています。現状では「助成金や補助金を活用」している事業所は20%未満であり、その伸びしろは決して小さくないでしょう。経営努力はもちろんですが、賃上げに活用できる施策の情報収集、積極的に活用するための体制整備も賃上げを進めるうえでは重要といえるのではないでしょうか。

株式会社ネットオンは、採用業務クラウド『採用係長』の提供を通じて採用課題の解決に貢献し、中小企業の持続的な成長を支援してまいります。

調査概要

調査名 2024年度の賃上げに関するアンケート調査
調査対象 『採用係長』利用事業所の人事・労務担当者様
有効回答数 557
調査期間 2024年2月22日(木)~2024年3月7日(木)
調査方法 インターネット調査
調査結果の注意点 %を表示する際に小数点第2位で四捨五入しているため、単一回答の場合は100%、複数回答の場合は合計値に一致しない場合があります。

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この記事を書いた人
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馬嶋 亜衣子(samusillee)

採用・キャリア関連、医療分野を中心に執筆を行うフリーランスライター。 各種メディアの取材ライティングやSEOライティング、採用HPのライティングなどに携わっています。

監修者
監修者
辻 惠次郎

ネットオン創業期に入社後、現在は取締役CTOとしてマーケティングからプロダクトまでを統括。
通算約200社のデジタルマーケティングコンサルタントを経験。特に難しいとされる、飲食や介護の正社員の応募単価を5万円台から1万円台に下げる実績を作り出した。
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