人手不足が叫ばれて久しい、保育士の採用市場。保育士確保に向けたさまざまな施策が国主導で進められていますが、保育士不足の状況は依然として続いています。
どの方法で募集すれば良いのか分からない、なかなか応募が集まらない、採用にうまくつながらない……。そうした課題に頭を抱える採用担当者は、多いのではないでしょうか。
保育士採用では、応募の確保はもちろん、入職後のミスマッチを防止するためにも、自社(園)にあった採用手法を見つけることがとても大切です。
この記事では、保育士を採用するための6つの方法を解説。保育士採用の成功事例も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
目次
保育士の有効求人倍率
採用活動をはじめる前に、改めて確認しておきたいのが採用市場の状況です。
画像出典:こども家庭庁
上記は有効求人倍率の推移を示したグラフです。
赤色の折れ線(保育士の有効求人倍率)に注目してみましょう。令和5年(2023年)1月時点の有効求人倍率は、3.12。これは、求職中の保育士1人に対し、3.12件の求人がある状態を意味しています。
一方、同時点における全職種の有効求人倍率(ピンク色の折れ線)は、1.44です。保育士と全職種の有効求人倍率の差が2倍以上ある点からは、保育士の人手不足がいかに深刻であるかが読み取れます。保育士の採用活動は、こうした状況を踏まえて取り組むことが不可欠です。
保育士が就職・転職の際にチェックする4つのポイント
求職中の保育士は、どのようなポイントで求人を比較しているのでしょうか。知っておきたい4つのポイントと、求人票を作成する際の注意点を解説します。
給与・待遇面
給与や待遇などの労働条件は、保育士の人手不足における要因のひとつといわれています。近年では国主導による処遇改善が進められていますが、それでも給与や待遇が就職・転職をする際に重視するポイントであることには変わりありません。
求人票の給与欄は、基本給だけでなく、賞与や手当等も記入します。また年齢・経験ごとの給与例を記載すると、昇給のイメージがつきやすいでしょう。
独自の人事評価制度がある場合には、それらを待遇欄等に記載しておくことで、人事制度がきちんと整備された保育園である印象を与えることができます。
また提示する給与や待遇が求める経験・スキルに見合っているか、同じ区・市内の保育園と比較して低すぎないかなどについて、求人を始める前に確認をしておくことも重要です。
勤務時間・業務量
業務量の多さは離職理由になることが多く、求人票で勤務状況が分かりづらい場合も応募の敬遠につながります。
勤務時間はもちろん、休憩時間やシフト(早番・遅番)の詳細、月あたりの平均残業時間についても明記しておきましょう。
また業務負担を軽減するための工夫や取り組みを行っている場合は、その内容を具体的に記載することで保育園として働きやすい環境作りに注力していることが伝わりやすく、応募を促すことが可能です。
休みのとりやすさ
人手不足の保育園では有給を取りづらいことが多いため、休日日数や休暇の取りやすさは保育士が重視するポイントです。
年間休日や有給のほか、独自の特別休暇があれば詳しく記載します。有給休暇は日数だけでなく、消化率も併記。休みを取りやすくするために工夫していることがあれば、それもしっかりとアピールしましょう。
職場の人間関係
職場の人間関係は、どの職種でも気にする人が多いポイントです。人間関係は働きやすさ(または働きづらさ)に影響を与えることが多いため、離職率が高い職場では、その理由として人間関係が挙げられることも珍しくありません。
求職者のそうした不安を解消するため、求人票には職場の雰囲気や一緒に働く職員が分かる写真や動画の掲載がおすすめです。
仕事中のコミュニケーションや飲み会(食事会)の頻度、プライベートでの交流など、職員同士の関係性が分かるエピソードがあれば、なお良いでしょう。
人によってはそうした交流が苦手な場合もありますが、どういうタイプの人が多い職場なのかを伝えることは、ミスマッチを防ぐことにもつながります。
保育士を採用するための6つの方法
保育士採用にはさまざまな手法があり、その中で自社(園)にあった方法を選んで利用することが必要です。ここでは6つの採用方法を紹介します。
1.Indeed(インディード)
Indeedでの保育士採用
Indeedは、月間利用者数3,700万人以上(※)の国内最大級の求人サイトです(世界で3億人が利用)。自社採用ホームページを連携して求人情報を掲載することや、Indeedに直接求人票を登録することもできます。
Indeedを利用する求職者は、「キーワード」と「勤務地」を入力して求人情報を検索。Indeedではそれらの情報や検索履歴などをもとに、マッチングする可能性の高い求人情報を優先的に表示します。企業にとっては、より多くの採用ターゲットに自社(園)の求人を届けることが可能です。
※1 月間利用者数 出典:Indeed Japan株式会社
Indeedの費用
Indeedは無料で利用できるサービスです。掲載する求人票の数や掲載期間の制限もありません。
表示回数を増やして応募効果を高める、有料オプションも用意されています。Indeedの有料オプションは「クリック課金型」と呼ばれるもので、求人票がクリック(=閲覧)されて初めて料金が発生する仕組みを採用。採用予算の無駄をなくし、効率的な採用活動を行うことが可能です。
また2024年1月からは、「IndeedPLUS」がスタート。Indeedで有料オプションを利用すれば、連携する各種求人メディアにも求人票が掲載されます(※2)。Indeedによると、“国内主要求人サイト利用者の最大7割にリーチできる(※3)”とのことです。
※2 TOWNWORK、とらばーゆ、はたらいく、fromAnavi、リクナビNEXT、リクナビ派遣が対象(2024年7月時点)
※3 出典:Indeed Japan株式会社
Indeedの注意点
Indeedで求人を掲載するには、掲載基準を満たした採用ホームページを作成するか、Indeedに直接求人票を登録する必要があります。
また応募効果を高めるためには、応募状況をみながら求人票の修正やオプションの変更など(広告運用)を行うことがおすすめです。求人票を掲載するだけでは、期待どおりの効果が得られない可能性もあるため、広告運用の担当者を配置できない場合には、求人広告代理店への依頼を検討しても良いでしょう。
【保育士業の求人成功事例】Indeed有料広告で応募単価を大幅に下げる秘訣
2.ハローワーク
ハローワークでの保育士採用
ハローワークは、求職者への職業紹介や企業への人材紹介、雇用手続きなどを無料で支援する公共職業安定所です。全国に500カ所以上ある施設やインターネット上でサービスを提供しています。
ハローワークの費用
ハローワークは公共サービスのため、すべてのサービスを無料で利用することができます。
ハローワークの注意点
ハローワークでの求人掲載には期限があります(求人の受付年月日の翌々月末まで)。無料で延長ができますが、延長には延長申請または新規求人として新たに申込みが必要です。
ハローワークでは失業給付金(失業手当)の手続きも行っており、求職者として登録している全員がすぐの就職を希望しているとは限りません。また民間の求人サービスでは就職が決まりづらい人の登録も少なくないと考えられるため、他のサービスと併用して利用することをおすすめします。
【参考記事】ハローワークとは?求人掲載の出し方は?流れと記入のコツを解説
3.求人サイト
求人サイトは、求人情報を掲載できるサービスです。スカウトメールなどを活用して求職者に直接アプローチを行うことも可能。求職者からの応募があれば選考を進めることができます。
求人サイトの費用
求人サイトには、求人掲載に対して費用を支払う「掲載型」と、掲載ではなく応募数や面接数、入社数などの成果に対して費用を支払う「成果報酬型」があります。
掲載型は掲載できる求人数や掲載期間が決まっており、成果報酬型ではその制限がないことが一般的です。また掲載費用や応募・面接数に対する費用を支払ったからといって、必ずしも採用ができるとは限りません。
どちらが費用対効果が高いかについては、利用する企業や求人によって異なります。採用難易度や採用条件、見込まれる応募数などを踏まえ、求人媒体の営業担当者と相談して検討しましょう。
求人サイトの注意点
一般的に求人サイトを選ぶ際には、求人サイトの規模(会員数や掲載求人数)が採用の可能性を高めるポイントのひとつですが、会員数が数百万人いる大手求人サイトでも、保育士資格をもつ求職者はそう多くありません。そのため求人サイトを比較する際には、会員数を単純に比較するのではなく、採用ターゲットとなる保育士資格の保有者人数を確認しましょう。
また経験者を採用したい場合には、保育士採用に特化した専門求人サイトの利用がおすすめです。
【参考記事】求人広告の費用相場は?【16社比較】採用方法ごとに掲載料金をご紹介
4.人材紹介
人材紹介とは、紹介会社の登録者の中から、自社(園)の採用ターゲットとマッチする人材を紹介する求人サービスです。保育士採用においては、紹介可能な登録者の数が重要といえます。保育士特化の人材紹介会社を優先し、複数の紹介会社を利用するのも良いでしょう。
人材紹介の費用
人材紹介では、人材を採用した場合に費用が発生します。紹介手数料は、年収の20~40%程度が一般的。人材紹介会社の大半が、入社者が一定期間内に退職した場合の返金規定を設けています。
人材紹介の注意点
人材紹介では、営業担当者が大きな役割を担います。担当者が自社(園)の特長や採用ターゲットを理解していなければ、採用後のミスマッチが起こる可能性が高まるため注意が必要です。
また採用コストが大きな負担と成り得るため、採用予定人数が多い場合には、予算について十分に検討しておきましょう。
【参考記事】人材紹介の手数料の相場とは?注意点についても解説!
5.転職フェア・合同説明会
転職フェア・合同説明会は、求職者と直接出会えるイベントです。主要求人メディアなどが主催しており、新卒・中途採用それぞれのイベントを定期的に実施。近年ではリアルイベントだけでなく、オンラインで説明や面談を行えるイベントも開催されています。
転職フェア・合同説明会では、イベントに参加する求職者に対して仕事や職場の魅力を直接伝えることができます。また求職者の希望に応じて、当日の面接実施や後日の面接を確約することも可能です。
一般企業とは異なり、「応募する前に実際の様子を見たい、知りたい」という求職者の希望を叶えづらい保育施設にとって、直接会って話せる貴重な機会といえるでしょう。
転職フェア・合同説明会の費用
数十万円~100万円程度が相場といわれています。ただし、主催企業や開催地域、出展ブースの大きさ、イベントの規模などによっても異なるため、出展を検討する際にはしっかりと情報収集を行いましょう。
転職フェア・合同説明会の注意点
転職フェア・合同説明会の参画には、事前準備が不可欠。またイベント当日の人員確保も必要です。より良い機会にするために、計画的に準備を進めましょう。
6.保育士・保育所支援センター
保育士・保育所支援センターは、現役保育士や潜在保育士(資格は保有しているが、保育士の仕事をしていない人材)向けの就職支援のほか、就職・復職に必要な資金の貸付なども行う機関です。保育士を募集する保育園や認定こども園等に対しては、入職希望者を紹介する無料職業紹介事業を行っています。
保育士・保育所支援センターの費用
求人の登録や人材紹介など、保育士・保育所支援センターのサービスはすべて無料で利用することができます。
保育士・保育所支援センターの注意点
保育士・保育所支援センターは、都道府県や自治体が直接運営する施設と、社会福祉協議会や保育関係団体などが委託を受けて運営している施設があります。いずれもサービス内容に違いはありませんが、情報発信力は地域や施設によって差が見られます。
ホームページ等の情報が少ない施設では、求職者(保育士)の登録も少ないことが考えられるでしょう。採用スケジュールに余裕がない場合や、複数名の採用を行う場合などは、他の求人サービスとの併用がおすすめです。
保育士採用の成功事例
保育士採用の成功事例には、採用成功のヒントが隠れています。自社(園)でも取り組めることがないか、ぜひ確認してみてください。ここでは3つの成功事例を紹介します。
成功事例1:通勤が不便な保育園で、10名の採用に成功
新規開設の保育園(関東)
課題 |
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・開園までに10名以上採用しなければならない ・保育園が駅から遠く、通勤が不便な場所にある ・人材紹介やハローワークでは応募がほとんどない |
取り組み内容 |
・保育士の採用に特化した求人サイトで掲載を開始(応募数保証付き) ・上位プランを利用し、露出を高めた ・求人広告では、「施設の新しさ」「給与体系」「借り上げ社宅完備」など、働く環境や待遇の特長を訴求した ・掲載中は応募状況に応じて求人広告を見直し、改善を図った |
結果 |
半年間で18名の応募を獲得でき、10名の採用に成功した |
参考:みんなの採用部
成功事例2:Indeedの活用で、採用ホームページ経由の応募獲得に成功
保育園運営会社(関東・関西)
課題 |
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人材紹介と求人サイトを利用していたが、いずれも応募が少なく、採用人数が目標に届いていない |
取り組み内容 |
Indeedを活用し、採用ホームページからの応募獲得を狙った(採用ホームページがIndeedで掲載されるよう改修を実施) |
結果 |
・採用ホームページ経由で月間10名以上のエントリーを獲得できるようになった ・採用ホームページ経由の応募増は、採用コストの削減にも貢献している |
参考:みんなの採用部
成功事例3:スカウトメールの“再送”で、3名の採用に成功
保育園運営会社(関東)
課題 |
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・求人サイトを利用していたが、応募確保に苦戦 ・スカウトメールを活用したが、反応はない |
取り組み内容 |
・スカウトメールの再送信(返信のない候補者への再送)ができる、別の求人サイトでの掲載を開始 ・資格保有者にスカウトメールでアプローチし、定期的な再送を実施した |
結果 |
スカウトメール経由で応募者を確保し、8週間の掲載で3名の採用に成功した |
まとめ
処遇改善をはじめとした国主導の保育士支援制度は、以前よりも拡充が進みました。一方で2024年からは配置基準改善が進められることとなり、保育施設を運営する企業や法人の多くは引き続き人材確保に追われています。
保育士採用は、入職後の定着も重要課題です。ミスマッチが起こりにくい採用方法の選択だけでなく、離職防止に向けた各種制度の見直し、働きやすい環境づくりなど、人材を確保するためには総合的な取り組みが必要でしょう。
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