従業員を1人でも雇ったら、事業場ごとにそろえる帳簿が3つあります。労働者名簿、賃金台帳、出勤簿です。実務では法定三帳簿と呼ばれますが、この呼び方は法律の言葉ではありません。3つのうち1つは、作成を定めた条文が労働基準法に置かれていないからです。
記録を残す義務が始まるのも、人を雇ったときではありません。求人を出した時点から始まっています。
この記事では、労働基準法と職業安定法の条文、それに厚生労働省が配っている様式そのものをもとに、募集から雇い入れ、保存までを作る側の順番で並べ直します。条文は2026年8月26日にe-Gov法令検索で確認したものです。
| 労働者名簿 | 賃金台帳 | 出勤簿 | |
|---|---|---|---|
| 根拠 | 労基法107条 | 労基法108条 | 直接の条文なし(作成・保存は必要。後述) |
| 作る単位 | 事業場ごと・労働者ごと(法107条1項) | 事業場ごと・労働者ごと(法108条・則54条1項) | 労働者ごと(条文の定めはありません) |
| 書くタイミング | 期限の条文はなし。変更があれば遅滞なく訂正(法107条2項) | 賃金支払の都度、遅滞なく(法108条) | 労働日ごと |
| 対象から外れる人 | 日々雇い入れられる人(法107条1項) | なし(欄の一部を省ける人はいます) | なし(ただし層ごとに除外あり。後述) |
| 保存の起算日 | 死亡・退職・解雇の日 | 最後の記入をした日 | その完結の日 |
目次
3つの帳簿の前に、募集の記録があります
職業安定法第5条の3第1項は、労働者の募集を行う者に対して、従事すべき業務の内容と賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないと定めています。求人票に書く内容そのものです。
その先があります。明示した内容には、保存の義務も付いています。
求人者、労働者の募集を行う者及び労働者供給を受けようとする者は、求職者、募集に応じて労働者となろうとする者又は供給される労働者に対して法第五条の三第一項の規定により明示された従事すべき業務の内容等に関する記録を、当該明示に係る職業紹介、労働者の募集又は労働者供給が終了する日(当該明示に係る職業紹介、労働者の募集又は労働者供給が終了する日以降に当該明示に係る労働契約を締結しようとする者にあつては、当該明示に係る労働契約を締結する日)までの間保存しなければならない。
職業安定法施行規則第4条の2第7項
期限が年数ではなく、募集が終わる日で切られているのが特徴です。その募集から採用する人がいる場合は、その人と労働契約を結ぶ日まで延びます。求人原稿を差し替えたあとで元の条件が分からなくなる、という状態を防ぐための決まりだと読めます。
ですから、帳簿の準備は雇ってからでよい、という順番にはなりません。求人を公開した時点で、その原稿の控えを残す義務がもう発生しています。媒体の管理画面に履歴が残らないタイプのサービスを使っているなら、公開前にスクリーンショットかPDFで手元に残しておくのが確実です。
募集のときに何を書くかは募集要項の書き方で、雇うときの届出や保険を含めた手続き全体は個人事業主が従業員を雇う際に必要な手続きで扱っています。
労働者名簿に何を書くか
使用者は、各事業場ごとに労働者名簿を、各労働者(日日雇い入れられる者を除く。)について調製し、労働者の氏名、生年月日、履歴その他厚生労働省令で定める事項を記入しなければならない。
労働基準法第107条第1項
この条文から、実務で効く点が3つ読み取れます。
1つ目は各事業場ごとという部分です。本社でまとめて1冊ではなく、店舗や営業所ごとに作ります。2つ目は各労働者についてという部分で、正社員だけでなくパート・アルバイトも対象です。3つ目は括弧の中で、日々雇い入れられる人は対象から外れます。なお、作る主体は条文の「使用者」=事業主です。社会保険労務士に頼まなければならないという条文はなく、事業主が自分で作ってかまいません。
記入する項目は、107条本文の3つと、労働基準法施行規則53条1項の6つを合わせた9つです。
| 項目 | 根拠 | 備考 |
|---|---|---|
| 氏名 | 法107条1項 | |
| 生年月日 | 法107条1項 | |
| 履歴 | 法107条1項 | 条文は範囲を定めていません(後述) |
| 性別 | 則53条1項1号 | |
| 住所 | 則53条1項2号 | |
| 従事する業務の種類 | 則53条1項3号 | 常時30人未満の事業では記入不要(則53条2項) |
| 雇入の年月日 | 則53条1項4号 | |
| 退職の年月日及びその事由 | 則53条1項5号 | 解雇のときはその理由も含みます |
| 死亡の年月日及びその原因 | 則53条1項6号 |
「従事する業務の種類」に例外があるのは、規模の小さい事業場で誰が何をしているかは把握できている、という前提があるからだと考えられます。条文はこう書かれています。
常時三十人未満の労働者を使用する事業においては、前項第三号に掲げる事項を記入することを要しない。
労働基準法施行規則第53条第2項
条文は「事業」と書いています。労働基準法9条が「事業又は事務所」をまとめて「事業」と呼んでいるとおり、会社全体ではなく場所ごとの単位です。全社で50人でも、その店舗が10人なら記入は不要という読み方になります。ただし境目の規模なら、所轄の労働基準監督署に確認してください。
人数は動きます。30人を超えたときに書き足す運用にしておくより、最初から書いておくほうが手間は少ないはずです。
もうひとつ、107条2項は「前項の規定により記入すべき事項に変更があつた場合においては、遅滞なく訂正しなければならない」と定めています。住所が変わった、部署が変わった、という連絡を受けたら、その都度直します。年に1回まとめて更新する運用は条文に合いません。
労働者名簿の様式第19号(労働基準法施行規則第53条関係)。厚生労働省のサイトから2026年8月26日に取得しました。
様式は縦書きで、欄は氏名、性別、生年月日、従事する業務の種類、住所、雇入れ年月日、退職又は死亡(年月日と事由)、履歴の8区分です。市販のソフトや自作のExcelを使ってもかまいませんが、この9項目が入っているかは確認しておきます。様式の入手先は後半にまとめています。
記入例
飲食店で1名を採用した場合を例にすると、次のような形になります。
| 欄 | 記入例 |
|---|---|
| 氏名 | 山田 花子 |
| 性別 | 女 |
| 生年月日 | 1998年4月10日 |
| 住所 | 大阪府大阪市中央区◯◯1-2-3 ◯◯マンション201 |
| 従事する業務の種類 | ホール業務(接客・レジ) |
| 雇入の年月日 | 2026年11月16日 |
| 履歴 | 2026年11月16日 入社(以後、異動や昇進があれば追記) |
| 退職の年月日及びその事由 | (退職時に記入) |
| 死亡の年月日及びその原因 | (該当時に記入) |
従事する業務の種類は、部門と実際の仕事が分かる粒度で書きます。ホール、キッチン、事務のように区分が変わったら書き直します。ここも107条2項の遅滞なく訂正の対象です。
履歴はどこまで書くのか
条文には「履歴」としか書かれていません。厚生労働省の様式にも記入例は付いていません。前職をどこまでさかのぼるか、社内の異動をどこまで書くかは、条文からは決まらないということです。
実務では社内の異動・昇進の記録として使うことが多いのですが、それが条文上の正解というわけではありません。社内で基準を決めておくか、判断に迷う場合は所轄の労働基準監督署に確認してください。この記事で「前職は3社まで」といった線を引くことはできません。
履歴書は労働者名簿とは別の書類です。名簿の履歴欄を埋めるために履歴書を保管し続ける、という整理にはなりません。ただし採用した人の履歴書は109条の保存対象に入ります(後述)。応募書類の扱いは保管の目的と期間を分けて考えます。
賃金台帳に何を書くか
使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。
労働基準法第108条
労働者名簿と違うのは、賃金支払の都度という部分です。名簿は入社時に作って変更があれば直すものですが、賃金台帳は給与を払うたびに書き足していきます。
記入する項目は労働基準法施行規則54条1項に8つ挙げられています。
| 号 | 記入する事項 |
|---|---|
| 1号 | 氏名 |
| 2号 | 性別 |
| 3号 | 賃金計算期間 |
| 4号 | 労働日数 |
| 5号 | 労働時間数 |
| 6号 | 時間外労働・休日労働をさせた場合の延長時間数と休日労働時間数、午後10時から午前5時までの間に労働させた場合の深夜労働時間数 |
| 7号 | 基本給、手当その他賃金の種類毎にその額 |
| 8号 | 賃金の一部を控除した場合はその額 |
厚生労働省の様式第20号を見ると、この8項目がさらに細かい欄に分かれているのが分かります。
賃金台帳の様式第20号(労働基準法施行規則第55条関係)。下部の記載心得に、実務で迷いやすい3点が書かれています。厚生労働省のサイトから2026年8月26日に取得しました。
時間の欄は労働時間数、休日労働時間数、早出残業時間数、深夜労働時間数の4つに分かれ、賃金の欄は基本賃金、所定時間外割増賃金、手当、小計、臨時の給与、賞与、合計、控除金、実物給与に分かれています。条文の8項目より細かい単位で書くことが想定されています。
この様式の下部には、記載心得として3つの注意が書かれています。ここは条文にも解説記事にも出てこないので、そのまま引用します。
一 氏名は当該事業場で使用する労働者番号をもつて代えることができる。
二 残業又は休日労働が深夜に及んだ場合には、深夜の部分の残業労働時間数を深夜労働時間数の欄にも記入すること。
三 実物給与の欄には、当該賃金計算期間において支給された実物給与の評価額をその種類ごとに記入すること。様式第20号(賃金台帳)記載心得
2つ目が実務では効きます。18時から24時まで残業した人がいたら、22時から24時の2時間は残業の欄と深夜の欄の両方に書きます。同じ時間を2か所に書くので、合計が合わないように見えますが、それで正しい形です。
3つ目の実物給与は、社宅や食事などお金以外で支給したものを指します。金額に換算した評価額を、種類ごとに書きます。則54条3項も、通貨以外のもので支払われる賃金があるときはその評価総額を記入すると定めています。
書かなくてよい人がいます
賃金台帳には、労働者ごとに一部の欄を省ける規定があります。
| 対象 | 省ける欄 | 根拠 |
|---|---|---|
| 日々雇い入れられる人(1か月を超えて引き続き使用される人を除く) | 賃金計算期間(3号) | 則54条4項 |
| 労働基準法41条各号に該当する人(管理監督者など)/高度プロフェッショナル制度で働く人 | 労働時間数(5号)と時間外・休日・深夜の時間数(6号) | 則54条5項 |
省けるのは欄の一部で、賃金台帳そのものを作らなくてよいわけではありません。管理監督者にも賃金台帳は必要です。
また、この免除の対象は41条該当者と高度プロフェッショナル制度の対象者だけです。事業場外労働のみなし労働時間制や裁量労働制で働く人を、労働時間数の記入から外す規定はありません。みなした時間を労働時間数として記入します。
給与明細で代用できないか、という質問もよく出ます。条文の8項目と見比べると分かりますが、多くの給与明細には労働日数と労働時間数の欄がありません。その2つが抜けている以上、明細をそのまま賃金台帳とすることはできません。
記入例
時給1,300円のパートで、月の途中に残業と深夜労働があった月を例にすると、次のようになります。
| 欄 | 記入例 |
|---|---|
| 氏名 | 山田 花子(社員番号1042でも可) |
| 性別 | 女 |
| 賃金計算期間 | 2026年12月1日〜12月31日 |
| 労働日数 | 15日 |
| 労働時間数 | 126時間(うち所定内120時間) |
| 早出残業時間数 | 6時間 |
| 休日労働時間数 | 0時間 |
| 深夜労働時間数 | 2時間 |
| 基本賃金 | 156,000円(所定内120時間=1日8時間×15日×1,300円) |
| 所定時間外割増賃金 | 10,400円(残業6時間分9,750円+深夜割増650円) |
| 手当 | 通勤手当 8,000円 |
| 控除金 | 雇用保険料 872円(労働者負担5.0/1000)/所得税(源泉徴収税額表による) |
労働時間数の126時間には、下の早出残業6時間を含めています。基本賃金は所定内の120時間分で、残業分は所定時間外割増賃金の欄に入れます。残業6時間は1,300円の1.25倍で9,750円、うち深夜にかかった2時間には0.25倍が上乗せされるので650円が加わります。
この例では、残業6時間をいずれも1日8時間を超えた分として計算しています。所定労働時間が8時間より短い会社では、所定を超えていても1日8時間までの分は割増の対象になりません。残業と呼んでいても扱いが分かれるので、賃金台帳では割増の対象になる時間とそうでない時間を区別できるようにしておきます。
この例の深夜労働2時間は、残業として働いた6時間のうち22時以降にかかった分です。記載心得の二にあるとおり、早出残業時間数の6時間に含めたうえで、深夜労働時間数の欄にも2時間と書きます。二重に書いているように見えますが、割増率が違うので分けて記録しておく必要があります。
氏名を社員番号で代えられるのは記載心得の一のとおりですが、代えるなら番号と氏名の対応が分かる一覧を別に持っておきます。番号だけでは労働者名簿の側と突き合わせられません。
出勤簿には、作成を定めた条文がありません
労働基準法107条は労働者名簿、108条は賃金台帳の作成を定めています。では出勤簿はどこにあるかというと、労働基準法にも施行規則にも、出勤簿という語は出てきません。作成を命じる条文が無いという意味で、法定三帳簿という呼び方は法律の言葉ではありません。
では作らなくてよいのかというと、そうではありません。根拠が3つの層に分かれています。
| 根拠 | 何を求めているか | 性質 | 罰則 |
|---|---|---|---|
| 労働基準法109条 (その他労働関係に関する重要な書類) |
保存 | 法律上の義務 | あり(法120条1号・30万円以下の罰金) |
| 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日) | 始業・終業時刻の確認と記録(自ら現認またはタイムカード等の客観的記録)と、109条にもとづく保存 | 行政指導 | ガイドライン自体にはなし |
| 労働安全衛生法66条の8の3/労働安全衛生規則52条の7の3 | 労働時間の状況の把握と、記録の3年間保存 | 法律・省令上の義務 | 明文の罰則なし |
109条には出勤簿という語がありませんが、厚生労働省労働基準局のQ&Aが、109条の対象となる記録を具体的に挙げています。⑦「その他労働関係に関する重要な書類」の例として、出勤簿、タイムカード等の記録、始業・終業時刻など労働時間の記録に関する書類が並んでいます。ガイドラインも同じ整理で、次のように書いています。
使用者は、労働者名簿、賃金台帳のみならず、出勤簿やタイムカード等の労働時間の記録に関する書類について、労働基準法第109条に基づき、3年間保存しなければならないこと。
労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日)
ここで層が分かれる理由がはっきりします。ガイドラインは第2で、労働基準法41条に定める者とみなし労働時間制が適用される労働者を対象から外しています。管理監督者や裁量労働制の人はガイドラインの外にいる、ということです。ただしガイドラインは、適用されない労働者についても健康確保のため適正な労働時間管理を行う責務があるとも書いています。
3つ目の労働安全衛生法は、少し違う目的で同じことを求めています。長時間労働者への医師の面接指導を実施するために労働時間の状況を把握せよ、という健康管理の側からの規定です。方法は労働安全衛生規則52条の7の3に書かれています。
法第六十六条の八の三の厚生労働省令で定める方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法とする。
労働安全衛生規則第52条の7の3第1項
同条2項が、この記録を3年間保存する措置を講じるよう定めています。ただし労働安全衛生法119条と120条の罰則の対象条文を見ると、66条の8の3は入っていません。罰則が付くのは労働基準法109条を通した保存義務のほうです。
出勤簿には作成を直接定めた条文がなく、根拠が3つの層に分かれています。罰則が付くのは労働基準法109条を通した保存義務です。
出勤簿に何を書くか
出勤簿には様式がなく、記入事項を定めた条文もありません。ただしガイドラインが求めていることははっきりしています。
使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること。
労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン 4(1)
労働日ごとの始業時刻と終業時刻、それに休憩時間があれば、その日の実労働時間が出せます。ここまでそろえば、賃金台帳の労働日数・労働時間数・早出残業時間数・休日労働時間数・深夜労働時間数の欄がそのまま埋まります。最低限そろえるのは次の5つです。
| 欄 | 書く内容 |
|---|---|
| 日付 | 労働日ごとに1行 |
| 始業時刻 | 実際に働き始めた時刻 |
| 終業時刻 | 実際に働き終えた時刻 |
| 休憩時間 | その日に取った休憩の合計 |
| 実労働時間 | 終業から始業を引き、休憩を差し引いた時間 |
これに欠勤・遅刻・早退の別と、時間外・休日・深夜にあたる時間を分けて書ける欄を足しておくと、給与計算のときに数え直さずに済みます。市販のタイムカードやExcelでも、この5つが入っていれば足ります。
手書きでもよいのか
ガイドラインは、始業・終業時刻を確認して記録する原則的な方法を2つ挙げています。1つは使用者が自ら現認して適正に記録する方法、もう1つはタイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録などの客観的な記録をもとに確認して記録する方法です。店主が毎日その場にいて出退勤を見ている店なら前者にあたるので、手書きの出勤簿でも原則的な方法のままです。
自己申告制になるのは、この2つによらず本人の申告だけで時間を把握する場合です。そのときはガイドラインが定める措置(本人と管理者への説明、記録との著しい乖離があるときの実態調査と補正、申告を妨げない運用など)を講じたうえで運用します。分かれ目は手書きかどうかではなく、誰がどうやって確認しているかです。
自己申告で回している場合は、講じている措置を書き出したうえで所轄の労働基準監督署に相談すると話が早くなります。
求人票に書いた内容は、どこへ引き継がれるか
3つの帳簿と求人票は、同じ人の同じ労働条件について書かれます。それなら1回書けば済みそうですが、条文を並べると同じ言葉でも書く中身が違います。
| 項目 | 募集のとき (職安法5条の3・則4条の2第3項) |
契約のとき (労基法15条・則5条) |
労働者名簿 (則53条) |
賃金台帳 (則54条) |
|---|---|---|---|---|
| 業務 | 従事すべき業務の内容(変更の範囲を含む) | 就業の場所及び従事すべき業務(変更の範囲を含む) | 従事する業務の種類(30人未満は不要) | 欄なし |
| 賃金 | 賃金の額。臨時に支払われる賃金・賞与・則8条各号の賃金を除く | 賃金の決定、計算及び支払の方法、締切りと支払の時期、昇給 | 欄なし | 基本給、手当その他賃金の種類毎にその額と控除額 |
| 氏名 | 明示するのは求人者側の氏名・名称 | 労働条件が対象で本人氏名の規定なし | 氏名 | 氏名 |
| 記録の保存 | 募集が終わる日まで(採用するならその契約日まで) | 5年(当分の間3年)/起算=退職または死亡の日 | 5年(当分の間3年)/起算=死亡・退職・解雇の日 | 5年(当分の間3年)/起算=最後の記入をした日 |
同じ人の同じ労働条件でも、書類ごとに書く粒度と範囲が変わります。
業務の欄を横に見ると、粒度が3段階で変わっています。募集のときはこれから任せる可能性のある範囲まで示します。2024年4月から変更の範囲の明示が加わったのはこのためです。労働者名簿は逆で、いま実際に従事している業務の種類を1つ書きます。賃金台帳には業務を書く欄がありません。
賃金の欄はもっとはっきりしています。募集のときに明示する額からは、臨時に支払われる賃金、賞与、労働基準法施行規則8条各号の賃金が除かれます。8条各号にあたるのは、1か月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当、1か月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当、1か月を超える期間にわたる事由によって算定される奨励加給または能率手当です。
一方、賃金台帳のほうにはこれらの欄があります。様式第20号を見ると、手当や小計とは別に臨時の給与と賞与の欄が独立して置かれています。記録する側は、募集のときに示さなくてよかったものまで含めて、実際に支払った額を種類ごとに書きます。
求人票に載せた月給と、賃金台帳の支給額は一致しません。求人票のほうは賞与や臨時の賃金を含まない額で、賃金台帳のほうは残業代も賞与も含めて実際に払った額だからです。応募者から金額が違うと言われたときは、どちらが正しいかではなく、それぞれ何を指しているかを説明すると話が早くなります。
労働条件通知書に何を書くかは労働条件通知書の記入例と書き方、雇用契約書との使い分けは雇用契約書の書き方と記入例で扱っています。
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いつまで残すか
期間の話に入る前に、作らなかった場合を確認しておきます。労働基準法120条1号は、106条から109条までに違反した者を30万円以下の罰金と定めています。労働者名簿の107条も、賃金台帳の108条も、保存の109条もここに入ります。作っていない、必要な項目が抜けている、保存していない、のいずれも対象です。ガイドラインも、賃金台帳に労働時間数を記入していない場合は120条の罰金にあたると書いています。
保存期間は労働基準法109条に定めがあります。
使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない。
労働基準法第109条
本文は5年です。ただし、これで終わりではありません。同じ法律の附則、つまり本則のうしろに置かれる当面の扱いを書く部分に、読み替えの規定があります。
第百九条の規定の適用については、当分の間、同条中「五年間」とあるのは、「三年間」とする。
労働基準法附則第143条第1項
2020年4月の改正で本文が3年から5年になりましたが、附則の経過措置によって当分の間は3年と読み替えられます。2026年8月時点でもこの状態が続いているので、実務上の保存期間は3年です。解説記事によって5年と書かれていたり3年と書かれていたりするのは、本文を見ているか附則まで見ているかの違いです。両方を押さえたうえで、社内の運用は5年にそろえておくと、経過措置が終わったときに慌てずに済みます。
数え始める日は書類ごとに違います。
| 書類 | 起算日 | 根拠 |
|---|---|---|
| 労働者名簿 | 労働者の死亡、退職又は解雇の日 | 則56条1項1号 |
| 賃金台帳 | 最後の記入をした日 | 則56条1項2号 |
| 雇入れ又は退職に関する書類 | 労働者の退職又は死亡の日 | 則56条1項3号 |
| 災害補償に関する書類 | 災害補償を終わった日 | 則56条1項4号 |
| 賃金その他労働関係に関する重要な書類 | その完結の日 | 則56条1項5号 |
出勤簿とタイムカードは、この表の5番目「賃金その他労働関係に関する重要な書類」に入るので、起算日は「その完結の日」です。条文はこれ以上のことを書いていないので、どこを完結とするかは綴じ方によって変わります。月ごとに締めているのか、その人が辞めるまで1冊で持つのかを、先に社内で決めておきます。
もうひとつ条件が付きます。則56条2項は、賃金の支払期日が2号(賃金台帳)または5号(賃金その他労働関係に関する重要な書類)の日より遅い場合には、その支払期日を起算日にすると定めています。月末締めの翌月25日払いなら、25日から数えます。1か月弱の差ですが、廃棄の判断をするときに効いてきます。
雇用契約書と労働条件通知書も、109条の対象に入ります。厚生労働省労働基準局のQ&Aが、③「雇入れに関する書類」の例として雇入決定関係書類、契約書、労働条件通知書、履歴書、身元引受書等を挙げています。応募書類の扱いは履歴書の保管期間と適切な保管方法で扱っています。
出勤簿とタイムカードは、同じQ&Aの⑦に例示されているので109条の対象です。前の章で見た労働安全衛生規則52条の7の3の3年とは別建てです。109条側は本則が5年で経過措置により3年、安衛則側は最初から3年で、いま数字が同じなので気づきにくいのですが、成り立ちが違います。
退職者が出たときに何をどう残すかは、退職手続きで会社側がやること一覧にまとめています。
4つ目の帳簿と、経過措置がもう1か所ある話
2019年4月から、有給休暇を与えたときに年次有給休暇管理簿を作る義務が加わりました。3つに足して法定四帳簿と呼ばれることもあります。根拠は労働基準法施行規則24条の7です。
使用者は、法第三十九条第五項から第七項までの規定により有給休暇を与えたときは、時季、日数及び基準日(第一基準日及び第二基準日を含む。)を労働者ごとに明らかにした書類(第五十五条の二及び第五十六条第三項において「年次有給休暇管理簿」という。)を作成し、当該有給休暇を与えた期間中及び当該期間の満了後五年間保存しなければならない。
労働基準法施行規則第24条の7
ここでも5年と書かれていますが、読み替えの規定があります。ただし今度は労働基準法の附則ではなく、施行規則71条のほうです。
第十七条第二項、(中略)第二十四条の七及び第三十四条の二第十五項第四号の規定の適用については、当分の間、これらの規定中「五年間」とあるのは、「三年間」とする。
労働基準法施行規則第71条
つまり、5年から3年への読み替えは法律の附則と施行規則の2か所にあるということです。法109条の対象になる労働者名簿・賃金台帳は法附則143条1項、年次有給休暇管理簿は施行規則71条で、どちらも当分の間3年になります。片方だけを見て「年休管理簿は5年」と書いてしまう解説があるので、社内で期間をそろえるときは両方を確認してください。
よくある詰まり
役員だけの会社はどうなるか
労働基準法の帳簿は労働者について作るものです。従業員を1人も雇っておらず役員だけで回している会社なら、名簿にも台帳にも書く相手がいないので、3つを作る場面は出てきません。問題になるのは、役員が労働者にもあたる場合です。役員が労働者にあたるかは、役員としての職務のほかに従業員としての仕事をしているか、指揮命令を受けているかなどで判断されます。使用人兼務役員の扱いは個別性が高いので、所轄の労働基準監督署に確認してください。
本社でまとめて1冊、ではありません
107条も108条も「各事業場ごとに」と書かれています。本社と店舗が分かれているなら、それぞれの事業場に備えます。データで一元管理している場合でも、その事業場で必要なときに表示・印刷できる状態にしておく必要があります。
パート・アルバイトも対象です
労働者名簿も賃金台帳も、雇用形態で対象が変わるとは書かれていません。週1日の勤務でも労働者であれば作ります。例外は労働者名簿の日々雇い入れられる人だけで、賃金台帳のほうは日雇いでも作ります。省けるのは賃金計算期間の欄だけで、それも1か月を超えて引き続き雇う場合には書きます(則54条4項)。
様式はどこで手に入るか
厚生労働省が、労働基準法関係の主要様式をまとめて公開しています。労働者名簿は様式第19号、賃金台帳(常時使用される労働者用)は様式第20号です。
| 様式 | 入手先 |
|---|---|
| 労働者名簿(様式第19号) | 様式第19号のPDF |
| 賃金台帳・常時使用される労働者用(様式第20号) | 様式第20号のPDF |
| 一覧ページ | 労働基準法等関係主要様式 |
この様式を使わなければならない、という決まりはありません。労働基準法施行規則59条の2が、様式は必要な事項の最少限度を定めたもので、横書き・縦書きその他の異なる様式を用いることを妨げないと定めているからです。記載事項がそろっていれば市販のソフトや自作のExcelでもかまいません。
なお賃金台帳の様式は2種類あります。則55条は、常時使用される労働者を様式第20号、日々雇い入れられる人(1か月を超えて引き続き使用される人を除く)を様式第21号としています。出勤簿には様式そのものがありません。
実務では、給与計算ソフトが賃金台帳の出力機能を持っていることが多く、労働者名簿も人事管理の機能で作れる製品があります。3つを別々に用意するより、いま使っているソフトで出せるかを先に確認するほうが早いはずです。
データで持ってよいか
紙でなければならない、という条文はありません。行政解釈でも、要件を満たせば電磁的記録による調製・保存が認められています。ただし要件があるので、紙を残さずデータだけにする前に、所轄の労働基準監督署に確認しておくと確実です。
なお、ここでいうデータ保存は労働基準法の話で、税務書類を対象にした電子帳簿保存法とは別の制度です。国税関係帳簿の要件をそのまま当てはめる必要はありません。
出勤簿の記録は何で取るか
出勤簿は自ら現認して記録する方法でも要件を満たしますが、人数が増えて全員の出退勤を見ていられなくなると、タイムカードや打刻システムのほうが確実です。製品ごとの違いは勤怠管理ソフトの比較を参照してください。ここでは帳簿の中身に絞ります。
どれから手を付けるか
3つには、いつまでに用意するかの差があります。労働者名簿には期限の条文がありません。107条は調製(作って備え付けること)しなければならないと書いているだけです。ただし雇入の年月日を書く欄がある以上、入社日には作れる状態になっています。
賃金台帳は108条が賃金支払の都度遅滞なくと書いているので、最初の給与を払うまでに用意します。出勤簿は初日から記録が要ります。結果として、いちばん急ぐのは出勤簿です。入社日から打刻や記録が始まっていないと、あとから埋めることになります。
初めて1人を雇うところなら、順番はこうなります。
| いつ | やること |
|---|---|
| 求人を公開する前 | 求人原稿の控えをPDFかスクリーンショットで残す(募集が終わる日まで保存) |
| 入社日の朝まで | 出勤簿を用意する。日付・始業・終業・休憩・実労働時間の5欄があればよい |
| 入社日 | 労働者名簿を作る。厚生労働省の様式第19号か、同じ9項目が入ったExcelで |
| 最初の給与を払うまで | 賃金台帳を用意する。様式第20号か、給与計算ソフトの出力で |
| その後 | 住所や業務が変わったら名簿を直す。給与を払うたびに台帳へ書き足す |
まとめ
最後に、押さえておく点をまとめます。
| 押さえる点 | 中身 |
|---|---|
| 記録は募集から始まる | 明示した労働条件の記録を、募集が終わる日まで保存します(職安則4条の2第7項) |
| 3つは中身も起算日も違う | 業務は内容・種類で粒度が変わり、賃金は募集時と台帳で対象範囲が違います。起算日も書類ごとに別です |
| 出勤簿だけ根拠が別 | 作成を直接定めた条文がなく、根拠が労基法109条・ガイドライン・労働安全衛生法の3つに分かれています |
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