新卒の採用活動において企業が気を付けるべき行為のひとつが「オワハラ」です。オワハラとは「就職活動終われハラスメント」の略であり、就活生とのトラブルや自社の評判低下などのさまざまなリスクにつながります。
意識的にオワハラするのはもちろん問題外ですが、少子高齢化や人材の流動化により採用競争が激しくなっている近年、無自覚でオワハラをしてしまうケースもあります。最近は新卒性が就活口コミサイトで情報収集をするのが当たり前になっているため、トラブルをきっかけに悪い内容が書かれれば、今後の採用にもマイナスです。
そのため、新卒採用で失敗しないためにも、オワハラについて理解を深める必要があります。この記事では、オワハラについて具体例を交えて解説します。オワハラが悪い理由、オワハラの防止策についても明確に記載するため、企業の人事・採用担当の方はぜひ参考にしてください。
目次
オワハラとは
オワハラとは、「就職活動終われハラスメント」の略であり、企業が強制的に就活を終わらせようとする行為です。
たとえば、就活生に内々定・内定を出した段階で、以降に控えている企業の面接を受けないように訴える行為が挙げられます。
「ハラスメント」という言葉が使われているように、オワハラはいけない行為です。行為の内容によっては犯罪に該当し、就活生から訴えられるケースもあります(詳細は後述)。
内閣府が行った調査では、内々定を1社以上から得た2020年度卒就活生の9.0%が、オワハラを受けていると明らかになっています。オワハラをされて入社してしまった就活生は9.0%に含まれていませんから、実際はさらに多くの人が被害にあっているといえるでしょう。
(出典:就活生の就活・採用活動開始時期等に関する調査|内閣府)
なお、人事・採用担当者の就活生に対する言動が、意図せぬうちにオワハラになっている場合もあるため注意が必要です。たとえ企業側に就活を阻害する意図がなかったとしても、応募者の捉え方によってはオワハラに該当する可能性があるため注意が必要です。
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オワハラが起こる背景
そもそも「就職活動終われハラスメント」がいけない行為であるにもかかわらず、何故オワハラが起きてしまうのでしょうか?
その理由は不安や焦りです。
「優秀な人材を確実に採用したい……!」
「採用人数のノルマをクリアしないといけない……。」
このような採用担当者なら誰でも直面する悩みが不安や焦りを生み、オワハラにつながっています。
その焦り・不安の背景にあるのは、少子高齢化の進行や就活開始時期の後ろ倒しといった、新卒採用市場の変化です。
少子高齢化による労働人口の減少が、人材の獲得競争を厳しいものにしています。
また、経団連は2015年から大手企業の採用活動開始を後ろ倒しにし、面接解禁を6月としました。就活期間が短くなったため、優秀な人材の大手企業流入すると取り返しがつかなくなってしまうため、意図せずオワハラをしてしまった、そんなケースもあります。
さらに、京都大学の研究グループは、日本的雇用の色合いが強い企業ほどオワハラが起こりやすいことも明らかにしています。日本的雇用の具体的な条件としては、内資や年功序列、設立してから長年が経過していることです。
同調査では、日本的雇用の企業は、労働者に長期かつ密接な関係を求める傾向が強いことが、オワハラにつながっているのではないかと推測しています。
【出典】 「就職活動終われハラスメントが日本的雇用に起因することを解明‐内資・年功序列・古い設立年の企業がオワハラをしやすい-」著:太郎丸博、水野幸輝(2020年)
オワハラをしてはいけない理由
企業がオワハラをすべきでない理由には、法律が関係しています。オワハラは、応募者を傷つけるだけでなく、違法行為として大きなトラブルにつながる可能性もあるのです。
ここからは、オワハラをしてはいけない理由について、2つの観点から解説します。
労働者には職業選択の自由がある
日本国憲法第22条第1項において、すべての人には職業選択の自由があると定められています。就活生は就職先を自由に選ぶ権利があり、企業側に就活を終わらせる権利はありません。
「内定を承諾した時点で労働契約が成立するから、企業側が辞退や就活継続は許さないのは正当ではないか」と疑問に思う人もいるでしょうが、それは間違いです。
たしかに、内定は応募者と企業の間に労働契約を成立させるための制度です。しかし、民法では労働者が自由に契約を解消できる権利を認めています(民法627条)。労働契約が成立している状態でも、他社の選考を自由に受けることは憲法の範囲内です。
「内定を承諾しておいて、他社に行くなんてマナー的にどうなの?」という不満はあると思いますが、法律的には認められているので、採用側が認識を改める必要があります。
脅迫罪や強要罪に該当する可能性がある
オワハラの程度によっては、脅迫罪(刑法第222条)や強要罪(刑法第223条)に該当する可能性があります。
脅迫罪とは、「生命、身体、自由、名誉または財産」を害する発言をした場合に科せられる罪です。たとえば、「辞退するまで返さないぞ」と行動や時間の自由を奪えば、脅迫罪に該当する場合があります。
強要罪に該当するケースは、「生命、身体、自由、名誉または財産」に対し義務のないことを行わせる場合です。たとえば、内定を拒否された場合に無理やり土下座をさせれば、強要罪に該当する可能性があるでしょう。
脅迫罪・強要罪と認められれば、違法行為として大きなトラブルに発展します。周囲にも知れ渡った場合、従業員や顧客、就活生など、組織の内外における信頼を失いかねません。
当然のことですが、絶対に行わないようにしましょう。
オワハラに当たる可能性が高い具体例
オワハラが駄目だと言われても、どのような行為が該当するのか、イメージを掴みにくい人もいるのではないでしょうか。そこで最後に、オワハラに当たる可能性が高い具体例を4つ紹介します。
なお、オワハラは本人の捉え方による部分もあるため、あくまで可能性のひとつとして参考にしてください。
就活終了と内々定・内定を引き合いに出す
オワハラの代表的なケースのひとつが、就活終了と内々定・内定を引き合いに出すことです。例として、「就活を終えれば内定を出すよ」「就活を終えないと、内々定は取り消しだよ」といった言動が挙げられます。
なお、「面接で自社が第一志望だと言われたのだから、他社の選考は断って当たり前だ」と感じる人もいるでしょう。しかし、あくまで第一志望なのは面接時点の話であり、就活を続ける中で志望順位が変わるケースは珍しくありません。そもそも、どの応募先にも「御社が第一志望です!」と言っている場合もあります。
入社してほしい旨を伝える際は、内々定・内定を引き合いに出すのではなく、どのような部分に惹かれたのかを具体的に伝えてください。自社に必要な人材であることを伝えられれば、前向きに入社を考えてくれるでしょう。
他社の選考を受けられないように長時間拘束する
他社の選考を受けられないように、就活生を長時間拘束して就活スケジュールを圧迫するオワハラもあります。
たとえば、他社の面接がある日に、内々定者を対象とした研修会を参加必須で開催する場合です。ほかにも、内定を断りにくくさせるために懇親会を開いて、過度に囲い込む行為もオワハラに挙げられます。
ただし、研修や懇親会を開催すること自体は問題ないため、必要以上に心配しないようにしてください。あくまで、就活スケジュールがタイトな時期や、他社の面接がある日などに参加必須のイベントを開催する場合がオワハラに該当する可能性があります。
内定承諾書や入社誓約書を無理やり提出させる
内定承諾書や入社誓約書を無理やり提出させる行為も、オワハラのひとつです。本来であれば書類に法的効力はないものの、記名・捺印することで、応募者に「もう内定を辞退できない」と誤解させる行為はオワハラに該当する可能性があるので注意しましょう。 書面で内定の同意を得る場合は、あくまでその時点で入社の意思があるかを確認する書類であることを説明してください。ただし、企業側にも採用スケジュールがあるため、いつまでに最終的な入社の判断をしてもらうか、応募者と相談して決めると良いでしょう。
後から教授の推薦状を出させようとする
自由応募にもかかわらず、後から大学のゼミや研究室の教授による推薦状を求めようとする行為もオワハラです。教授による推薦状が企業に提出されれば、就活生は立場的に内々定・内定を断りにくくなります。断ることで、就活生と教授の信頼関係にマイナスの影響を及ぼす可能性もあります。
選考にあたって教授の推薦状を必要とする場合は、かならず事前に告知しておきましょう。求人内容や応募要領に盛り込んでおけば、基本的にオワハラには該当しません。
まとめ
オワハラとは、「就職活動終われハラスメント」の略であり、企業が就活を強制的に終わらせる行為です。オワハラが起こる背景には、少子高齢化による人材不足や就活スケジュールの後ろ倒しによる不安や焦りがあります。
憲法ですべての人に職業選択の自由が定められているとおり、オワハラはいけない行為です。程度によっては、脅迫罪や強要罪に該当し、大きなトラブルに発展する可能性もあります。
本記事では、オワハラに該当する可能性がある例として、「就活終了と内々定・内定を引き合いに出す」「長時間拘束する」など4つのケースを挙げました。ぜひ、各ケースを参考にしながら、自社におけるオワハラ防止に努めてください。
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