飲食店が抱える人手不足の原因は?採用課題の解消方法、改善策を解説

居酒屋で働く人の写真

飲食業界は採用・定着ともに難易度が高い業界です。
平成30年の経済産業省の調査によれば、飲食業界全体の約78%が非正規雇用で、他の業界と比べて突出しています。有効求人倍率は常に高い数値を記録しており、雇用が安定していないことが明らかです。

飲食業界の採用状況を改善するためにはどうしたら良いのでしょうか。今回は飲食業界が抱える採用課題とその解決方法についてお伝えします。

飲食店の人手不足の実態

まずは、飲食店における人手不足の現状について確認します。
下記は、株式会社帝国データバンクが毎月実施している、各業界の人手不足割合についての調査結果です。左側が「正社員」、右側が「非正社員」の人手不足割合を示しています。

(出典:人手不足に対する企業の動向調査(2023 年 10 月)

「正社員」の人手不足に悩む店舗も全体の6割以上と多いですが、「非正社員」に限定して見ると、飲食店は唯一の8割越えとなる「82.0%」で、全体トップの数値となっています。

非正社員の人手不足は、過去数年間にわたって上位です。今後も飲食店の人手不足が続くことが見込まれます。

なぜ飲食業界は採用が難しいのか?その原因

飲食業界で新規の人材を採用するのが難しい理由はなんでしょうか。応募数は集まっているように見えても、採用にまで至らないケースが多いようです。

残業が他業種と比べて長い

「正社員の待遇」というところで見ると、他業種に比べて整備されていない飲食店が多いです。
厚生労働省の令和5年就労条件総合調査によると、1週間あたりの所定労働時間は39時間37分で全業種の中で最も長い数字となっています。

また、労働者1人あたりの有給休暇平均取得日数は、宿泊業・飲食サービス業が6.7日で、全業種の中で圧倒的に少ない結果です。有給休暇の消化率で見ても49.1%とかなり低い割合となっています。

飲食業界で身を立てていくという野心がある方はともかく、業界こだわりなく就職・転職活動を行なっている層にとっては、他業種と比較した時にメリットが少ない業界に見えてしまうかもしれません。

(出典:令和5年就労条件総合調査 結果の概況|厚生労働省

即戦力を求めすぎている

教育制度が整っている飲食店や、従業員が若年層で占められている飲食店であれば、採用側としても応募者のスキルはあまり気にかけないでしょう。しかし、お店によってはそれなりに洗練された接客スキルや料理人としてのスキルなどマルチタスクな能力が求められます。

応募者の意欲があっても採用側が「即日現場に出せない」と判断し採用を見送るケースもあるでしょう。このように新人教育に回すリソースや成長を待つ余裕がない飲食店で採用が難しくなっています。

拘束時間を考えると給与が安い

固定給がそれなりの額であっても、1日の拘束時間が15時間程度に達するケースは珍しくありません。
給与の額自体も業界の平均から見ると低く、拘束時間を踏まえると割に合わないと感じる人が多いでしょう。

令和元年の四季報によれば調査対象の64業種のなかで外食産業は57位の年収平均となっており、年収額は491万円と、全体の平均の600万円を大きく下回っています。

休みが少ない・取りにくい

飲食店はその日の客足を予測することが難しいため、事前に休みを申請しにくい面があります。
また、土日祝日やGW、年末年始など、多くの人が休むタイミングは、飲食店にとっては稼ぎ時です。そのため、まとまった休みを取ることがなかなかできません。

これらの理由からワークライフバランスを充実させることが難しい場合があり、採用の難しさにつながっています。

売上が低く新たに採用できない

株式会社ムジャキフーズが飲食店オーナー1010名を対象に実施した調査によると、開業後、店舗経営が軌道に乗るまでの期間は「4か月~6か月」が27.9%で最多、次いで「7か月~1年程度」が27.3%です。
※調査は2023年7月実施

「7か月以上」という視点で見ると全体の51.1%であり、売上が安定するまでは長い期間を要することが分かります。

飲食店としての売上が低く新たな従業員を採用できないケースは珍しくないと言えます。

(出典:【飲食店オーナー1,010名に調査】およそ9割が開業時に不安なことや大変なことがあったと回答!予想外に苦労したこととは?|ゼネラルリサーチ調査 株式会社ムジャキフーズ

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なぜ飲食業界は人材が定着しないのか

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常に人を募集しているイメージのある飲食業界ですが、せっかく入社しても定着しない原因はどこにあるのでしょう。

長期で働くつもりの人材が少ない

飲食業界は学生やフリーターのアルバイトに多くを頼っています。学生であれば卒業後はやめてしまうことも多く、フリーターも夢を追っている間や定職が見つかるまでの間のつなぎとして働いているケースがほとんどです。

また、中途採用で飲食業界に転職した層の場合、必ずしもポジティブな要因ではなく「他にどこも内定をもらえなかったから」「学歴や職歴不問であるのが飲食業界しかなかったから」という理由で決めたケースも多く見られます。こういった層は必ずしも意欲や適性があるとは限らないため、定着しづらいです。

さらに、平成27年の飲食店.comの調査によると、飲食店の正社員で3年以下の退職割合は6割に上っています。より待遇がいい飲食店や別業界に自発的に転職するケースに加え、能力がある人材の場合は引き抜きや独立の誘惑が非常に多いため、一箇所のお店に引き止めるのが困難のようです。

他業界に比べて過酷な労働条件

未経験で入社したものの、給与が安く休日が少ないため生活が成り立たない、健康を害してしまったというケースもよく聞きます。

結婚や出産というライフステージの変化にも対応しづらく、家族のことを考えた時に飲食業界で継続して勤務することを断念するのは自然な成り行きかもしれません。

将来のビジョンを描きにくい

入社後にどのようなキャリアがあるのかが不透明なことも多いです。
大手企業であれば店長、エリアマネージャー、本社勤務など他業種に近いキャリアパスがあり得ますが、小規模な飲食店の場合は店長になった後の目標や収入アップの道筋が分かりにくいケースもあります。このまま勤めていても将来がないと感じた人材はお店を離れることになります。

研修期間が短く、スキルが追い付かない

現場の対応が忙しく、研修をはじめとした従業員の育成にまで手が回っていないケースがあります。

スキルが追い付かないと、仕事においてうまくいかないことが増えて、仕事がつらくなっていきます。それらが「もう辞めよう」という気持ちにつながるのです。

特に個人経営や小規模の飲食店は、OJTのように現場で慣れていくことが前提で、研修自体を設けていない場合もあります。従業員の育成機会を設けることで、人材の定着率が上がるかもしれません。

休憩時間を確保できていない

労働基準法上は、労働時間に応じて一定の休憩時間を与えることが必須です。
しかし、飲食店では現場が忙しくて休憩できなかったり、通常より短い休憩時間になっていたりすることがあります。

当然ながら、その分心身の負担は大きくなり、より良い労働環境を求めて退職する人が増えるのです。

責任が重くストレスになっている

人手不足により、経験の浅い社員やパート・アルバイトにも責任が重い仕事を任せている場合があります。

責任のある仕事が人材の成長につながることもあります。ですが、「経験の浅い従業員にも頼らないと仕事が回らないから」というようなマイナスな理由だと、任せられた従業員はストレスを抱える可能性が高いでしょう。

ポジションごとの役割を明確にしたうえで、意味を持って業務を振り分けることが重要です。
どうしても責任のある仕事を任せる場合は、できている面に着目してその社員の成長につなげましょう。

飲食店のスタッフはどう思っているのか?

飲食店で働くスタッフは、仕事のどのような点にやりがいを感じて、一方でどのような点に不満を抱いているのでしょうか。ここでは、SNSやインターネットなどを元に、よく挙げられている声を紹介します。

スタッフのやりがいに繋がることや、重視されていること

  • お客様と良好なコミュニケーションが取れること
  • 店舗の仲間と仲良くなれること
  • 上司や同僚に褒められること
  • 接客スキルが身に付けられること

全体的に、人とのコミュニケーションにやりがいや魅力を感じる声が多くありました。風通しのよい職場づくりが、従業員に定着してもらうカギとなりそうですね。

スタッフの不満につながること

  • 忙しいのに人手が足りないこと
  • お客様からクレームを受けること
  • 長時間労働が当たり前になっていること
  • 給料が安いこと

やはり、労働環境についての不満が多いようです。給料や労働時間など、自店舗のどこが不満要素になっているのかを一度確認してみると良いでしょう。

飲食事業者が採用率と定着率を上げるために行うべき取り組み

飲食事業者が行うべき取り組みの理想は労働環境や賃金を改善することですが、利益率を考えた時に難しいのも事実です。薄利で経営しており1店舗当たりの売り上げは税金対策程度にしかならないというケースも多いでしょう。労働環境や賃金などの面以外でまず行える対策をご紹介します。

採用条件を見直す

飲食店は人手不足が続いていますが、パート・アルバイト先として人気が高い側面もあります。
もし周囲の飲食店に比べて人手が不足しているのであれば、採用条件が他店より劣っている可能性があります。

採用条件を見直す場合は、実際に周辺飲食店の求人を見て、「給与」「福利厚生」「勤務時間」など、項目ごとに比較してみることがおすすめです。
自社求人のどこが劣っているのかを、客観的に比較することができます。

評価制度を整える

評価制度を整備して、従業員の頑張りをしっかりと待遇に反映させることが重要です。
「頑張った分だけ評価してもらえる」とモチベーションアップの要因になり、結果的に採用率・定着率の向上につながります。

また、従業員一人ひとりの目標が明確になって、生産性が向上するというメリットもあります。

評価制度は「等級制度」「評価制度」「報酬制度」の3つの指標から成り立つのが一般的で、各指標について評価方法を明確にしたうえで、店舗内の評価者と認識をすりあわせます。

※次の記事では、人事評価制度の導入から運用まで、必要な取り組みについて詳しく解説しています
人事評価制度とは?制度の目的と作り方を徹底解説

多様な働き方、人材を受け入れる

国の働き方改革の施策もあり、社員であっても週3日や時短での勤務を認める「限定社員」のような雇用が各業界で増えつつあります。現時点で設定しているシフトや日数の枠でうまく採用ができないのであれば、雇用形態を柔軟にすることで解決できるかもしれません。

これまで一人の人区で埋めていたシフトを2人で埋める、業務を細かく切り分けて効率化を図るなど、これまでのやり方を見直すのです。

また、外国人や高齢者などは働きたい人材がまだまだ多くいる状況ですので、外国人・高年齢労働者の受け入れ態勢を整えることで採用・定着に結びつきやすくなるでしょう。

※下記の記事では、外国人採用のメリットや注意点などについて解説しています
飲食店で外国人スタッフを雇用したい!雇用メリットや手続きの注意点を解説

表彰やイベントでスタッフを承認する

給与が上がらず労働状況が過酷でも、定着率を高める方法があります。それはスタッフの頑張りを承認することです。これは表彰式のようなイベントで実現することができます。例えば一時期話題になった居酒屋甲子園はスタッフの承認を行うわかりやすい例です。

スタッフが普段の業務の中で頑張ったことや実現した成果に対して、みんなの前で承認する場にするのが良いでしょう。「きちんと評価してくれているからもっと頑張ろう」「表彰された○○さんのようになりたい」というようなポジティブな空気が生まれるのが理想です。

キャリアパスを構築する

こうしたスタッフのモチベーションを高める取り組みをしつつ、社内でのキャリアパスも考える必要があります。これは会社の成長段階とも密接に関係しており、特に創業期を抜けて成長期に入った飲食企業の場合は急務です。成長期は店舗展開も拡大し採用人数も増えますが、創業期と同じ感覚で人材に対する取り組みを行っていると採用も定着も失敗します。

成長期には創業期ほど創業者のビジョンや属人的な魅力が行き渡らないため、途中から入った社員は社内で日々不安を抱きやすくなります。これまではなんとなく成り立っていたことでも、見える化することが必要です。キャリアパスは最優先で見える化すべき項目といえます。

仮に自社内でキャリアパスを提示することが難しい場合でも、独立への道筋を示すことで定着率を高めることが可能です。平成27年の飲食店.comの調査によると、飲食店の正社員希望者は53%が将来的な独立を視野に入れています。「このお店で働くことで独立が現実的になる」と社員が感じられれば独立までは定着してくれるかもしれません。

ITツールを導入して効率化する

最近はITツールを導入して業務効率化を図る飲食店が増えています。

「オンライン予約システムを導入して電話対応時間を減らす」「セルフオーダーを導入して注文対応時間を減らす」といった取り組みが一例です。

ITツールの導入において大切なのが、「効率化したい業務」を明確にすることです。時間や人手がかかっている業務を効率化することで、重要な業務にリソースを割けられるようになります。

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採用係長 活用・成功事例(飲食)

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2018年より導入!累計で700応募以上獲得し、今では採用係長1本で自社の採用をまかなっています!(株式会社鷹勝カレント様)

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まとめ

飲食業界の募集記事を見ると「未経験歓迎」や「楽しさ」「やりがい」を前面に出したものが多く見られます。それはそれで良いのですが、今回紹介したような求職者が不安に感じている飲食業界の課題について解消されるような求人募集記事であるかも考慮すべきでしょう。

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この記事を書いた人
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コンノ

公務員として4年間、人事労務の実務経験あり。 これまで100名以上の事業者をインタビューしており、「企業や個人事業主が本当に悩んでいること」を解決できる記事を執筆します。

監修者
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辻 惠次郎

ネットオン創業期に入社後、現在は取締役CTOとしてマーケティングからプロダクトまでを統括。
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