2年に一度行われる診療報酬の見直し、いわゆる「診療報酬改定」。従来は4月1日付けで施行されますが、2024年は6月1日付けでの施行です。
各医療機関は、改定内容を踏まえて必要に応じた準備を進める必要があります。
そこで今回は、2024年度診療報酬改定の基本方針と、そのポイントについて解説します。
目次
2024年度診療報酬改定の基本方針とは?
「2024年度診療報酬改定の基本方針」とは、2024年6月から適用される診療報酬改定の方針をまとめたものです。2023年12月上旬に社会保障審議会医療保険部会で策定され、この方針に基づいて施行に向けた準備が進められています。
診療報酬改定は、社会の変化に対応するために2年ごとに実施されます。2024年は、3年ごとに実施される「介護」および「障害福祉」の報酬改定とタイミングが重なり、「トリプル改定」として注目を集めてきました。
今回の改定は、以下の「基本認識」のもとで進められています。
- 物価高騰・賃金上昇、経営の状況、人材確保の必要性、患者負担・保険料負担の影響を踏まえた対応
- 全世代型社会保障の実現や、医療・介護・障害福祉サービスの連携強化、新興感染症等への対応など医療を取り巻く課題への対応
- 医療DXやイノベーションの推進等による質の高い医療の実現
- 社会保障制度の安定性・持続可能性の確保、経済・財政との調和
(出典:令和6年度診療報酬改定に向けた基本認識、基本的視点、具体的方向性について|厚生労働省)
改定のポイントと方向性
2024年度の診療報酬改定の重点項目は「人材確保・働き方改革」の推進
本改定にあたって最も重要な課題とされているのが「人材確保・働き方改革」です。
近年、政府主導で各産業の賃上げが進められていますが、医療分野は賃上げが遅れています。また、少子高齢化が進行して医療需要が高まっているにもかかわらず、人材確保に困っている法人が少なくありません。
現に、厚生労働省の雇用動向調査によると、全国的に、医療職(福祉も含む)の入職率は離職率より低い現状です。
こうした状況の中、解決策として、医療スタッフが専門性を発揮するための職場整備やICT利活用、評価方法の最適化、といった対応が求められています。
【具体的方向性の例】
- 医療従事者の人材確保や賃上げに向けた取組
- 各職種がそれぞれの高い専門性を十分に発揮するための勤務環境の改善、タスク・シェアリング/タスク・シフティング、チーム医療の推進
- 業務の効率化に資する ICT の利活用の推進、その他長時間労働などの厳しい勤務環境の改善に向けての取組の評価
- 地域医療の確保及び機能分化を図る観点から、労働時間短縮の実効性担保に向けた見直しを含め、必要な救急医療体制等の確保
- 多様な働き方を踏まえた評価の拡充
- 医療人材及び医療資源の偏在への対応
2025年を見据えた地域ケア包括システムの推進や医療DXを含めた医療機能の強化
2025年、団塊の世代(1947~1949年生まれ)が75歳以上になることで、日本は超高齢化社会に突入します。これにより、「労働力不足」や「社会保障費の負担増」といったさまざまな社会課題が発生することが見込まれており、総称して「2025年問題」と言われています。
そんな中で質の高い医療を提供し続けるには、介護施設とも連携を図りながら、地域で包括的なケアを推進する必要があります。また、地域全体の連携を強化するために、医療DXの推進を着実に進めることが重要です。
【具体的方向性の例】
- 医療DXの推進による医療情報の有効活用、遠隔医療の推進
- 生活に配慮した医療の推進など地域包括ケアシステムの深化・推進のための取組
- リハビリテーション、栄養管理及び口腔管理の連携・推進
- 患者の状態及び必要と考えられる医療機能に応じた入院医療の評価
- 外来医療の機能分化・強化等
- 新興感染症等に対応できる地域における医療提供体制の構築に向けた取組
- かかりつけ医、かかりつけ歯科医、かかりつけ薬剤師の機能の評価
- 質の高い在宅医療・訪問看護の確保
安心・安全で質の高い医療の推進
物価高が続く今の日本において、高品質な医療を提供するためには、医療技術の進展や疾病構造に柔軟に対応できる体制を整える必要があります。
また、アウトカムに着目した評価や、第三者による評価をはじめ、患者のさらなる安全・安心につながる取り組みが求められます。
【具体的方向性の例】
- 食材料費、光熱費をはじめとする物価高騰を踏まえた対応
- 患者にとって安心・安全に医療を受けられるための体制の評価
- アウトカムにも着目した評価の推進
- 重点的な対応が求められる分野への適切な評価(小児医療、周産期医療、救急医療等)
- 生活習慣病の増加等に対応する効果的・効率的な疾病管理及び重症化予防の取組推進
- 口腔疾患の重症化予防、口腔機能低下への対応の充実、生活の質に配慮した歯科医療の推進
- 薬局の地域におけるかかりつけ機能に応じた適切な評価、薬局・薬剤師業務の対物中心から対人中心への転換の推進、病院薬剤師業務の評価
- 薬局の経営状況等も踏まえ、地域の患者・住民のニーズに対応した機能を有する医薬品供給拠点としての役割の評価を推進
- 医薬品産業構造の転換も見据えたイノベーションの適切な評価や医薬品の安定供給の確保等
効率化・適正化による医療保険制度の安定性・持続可能性の向上
高齢化の進行をはじめ、さまざまな社会的要因から医療費が増えると見込まれています。
そんな中で、医療保険制度の安定性・持続可能性を向上させるために、後発医薬品やバイオ後続品の使用促進をはじめ、先発品からの移行が求められます。
- 後発医薬品やバイオ後続品の使用促進、長期収載品の保険給付の在り方の見直し等
- 費用対効果評価制度の活用
- 市場実勢価格を踏まえた適正な評価
※各改定ポイントにおける具体的方向性の例は「令和6年度診療報酬改定に向けた基本認識、基本的視点、具体的方向性について|厚生労働省」より引用
2024年の診療報酬改定率では診療報酬がプラス0.88%に変更
今回の改定により、診療報酬全体が0.88%プラス。9回連続の引き上げとなりました。
なお、0.88%の内訳は下記のとおりです。
- 本体部分:+0.46
- 看護職員、病院薬剤師、その他衣装関係職種の賃上げ:+0.61%
- 入院時の食費基準額引き上げ:+0.06%
- 効率化・適正化部分:-0.25%
「本体部分」の0.46%のうち0.28%は、40歳未満の勤務医師・勤務⻭科医師・薬局の勤務薬剤師、事務職員、⻭科技⼯士などの賃上げ分です。
そのため、医療機関の実質的な診療報酬のプラス分は「0.18%」となります。
【参考】
令和6年度診療報酬改定説明資料等について|厚生労働省
2024年度の診療報酬改定のポイント
2024年度の診療報酬改定によって医療従事者の処遇改善が報酬手当で行われる
診療報酬改定に伴う報酬本体0.88%の引き上げのうち、0.61%は看護職員や病院薬剤師などの処遇改善です。なお、これは2024年度に+2.5%、2025年に+2.0%のベースアップを行うための対応だとされています。
また一方で、入院基本料や初診料をはじめ、患者の自己負担額が上がることになっています。
医療DXに関する検討と実行
2023年6月、政府から「医療DXの推進に関する工程表」が発表されました。
今後、政府はこの工程表をベースにしながらDXを進めていくことになります。機関同士の情報連携をはじめ、さまざまな用途において改革が図られていくでしょう。
関連して、今回の改定では「医療DX推進体制整備加算」が新設されます。マイナ保険証を活用したオンライン資格確認や電子カルテ情報共有サービスなどを行う医療機関が評価される仕組みです。
【参考】
令和6年度診療報酬改定の概要【医療DXの推進】|厚生労働省
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まとめ
高齢化の進行や物価高騰をはじめ、さまざまな社会的要因から、医療を取り巻く環境は変化しています。今回の診療報酬改定では、特に「情報連携」と「医療DXの推進」がポイントとなっているため、動向をしっかりと押さえて、経営に落とし込むことが重要です。
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