- ハラスメント(harassment)は、日本語で「嫌がらせ」や「迷惑行為」などの意味をもつ言葉です。
- 「SOGIハラスメント」「お菓子ハラスメント」など多様化しているので常に最新の情報をキャッチする必要がある。
- ハラスメントは線引きが難しいので、人事担当者はガイドラインなどを用意して共通の認識を持たせることが重要。
ハラスメント(harassment)は、日本語で「嫌がらせ」や「迷惑行為」などの意味をもつ言葉です。現在は多様化が進み、さまざまな種類のハラスメントが存在しています。
企業の人事・採用担当者であれば、従業員からハラスメントの相談を受ける機会もあるのではないでしょうか。「〇〇ハラをされています」と相談を受けた際に、そのハラスメントの内容がよく分からないという事態は、なるべく避けたいですよね。
またハラスメントは、対処を誤ると訴訟などの大きなトラブルに発展する可能性があるため、ハラスメントに対するガイドラインを設けることも必要です。
そこで今回は、どの職場でも起こりうる14のハラスメントと、その対処法について解説します。
目次
職場でよく起こりうるハラスメント一覧
まずは、職場でよく起こりうるハラスメントを紹介します。
パワーハラスメント(パワハラ)
パワーハラスメント(パワハラ)とは、職場における地位や優位性を利用した、他者への嫌がらせのこと。業務に必要な範囲を超えた言動によって、精神的または身体的にダメージを与えたり、職場環境を悪化させたりする行為を指します。恐らく誰もが聞いたことのある、代表的なハラスメントです。
必ずしも役職の高い人から低い人に対するものではなく、部下から上司、同僚同士でもその地位を利用した嫌がらせであればパワハラに該当します。
これまでパワハラに関する法律はありませんでしたが、2020年に職場におけるいじめや嫌がらせを防止する、「パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)」が施行され(中小企業は2022年4月に施行)、パワハラの対策は事業主の義務となりました。
パワハラをする人の中には、自覚なく行っているケースも少なくないはずです。パワハラについての正しい理解、パワハラに対する会社の方針や対処法の周知、相談窓口の設置。そのほか法律に基づいて、パワハラを防止するための仕組みづくりが必要です。
パワハラ防止法についてはこちらのサイトで詳しく説明されておりますので、気になる方はこちらをご覧ください。
中小企業も対象に!「パワハラ防止法」義務内容・罰則・就業規則のポイント
セクシャルハラスメント(セクハラ)
セクシャルハラスメント(セクハラ)とは、相手の意に反する性的な嫌がらせのことです。相手に対する直接的な言動だけではなく、性的な内容のうわさを流すことなども含まれます。また男女ともに被害に合う可能性があり、同性同士でも起こりうるハラスメントです。男女雇用機会均等法では、拒否することで不利益を受ける「対価型」と、職場環境が不快になることで就業に支障が生じる「環境型」の2つを職場におけるセクシャルハラスメントとしています。
セクハラ対策には、セクハラに対する方針の明確化、研修による啓蒙、被害にあった際に相談できる仕組みの構築など、企業が講じるべき措置が定められています。これは男女雇用機会均等法において企業に課せられた義務であり、違反した場合は企業名が公表されることもあるため、自社のルールや運用状況を確認しておきましょう。
モラルハラスメント(モラハラ)
モラルハラスメント(モラハラ)とは、モラル(道徳や倫理)に反するいじめや嫌がらせです。言動や文書などによって相手の尊厳を傷つけたり、精神的な暴力によって相手にダメージを与えたり、それらによって職場環境を悪くする行為全般を指します。例えば、暴言を吐く、無視する、睨む、不機嫌に振る舞うことなどもモラハラです。
パワハラと並んでメンタルヘルス不調の原因となることの多いハラスメントですが、パワハラと違う点は職場における地位とは関係がないこと。また加害者は被害者だけに態度を変えるケースが多いことから、周囲が気づきにくいという特徴があります。
モラハラもパワハラの一種とみなすことができるため、同様の対策が必要です。加えてモラハラの特徴を踏まえ、被害者がすぐに相談できる環境と、相談があった場合にきちんと対処できる仕組みづくりが求められるでしょう。
モラハラは家庭(主に夫婦間)におけるトラブルとしても話題になることが多いハラスメントのひとつ。実はとても身近なハラスメントであることを知っておきたいですね。
テクノロジーハラスメント(テクハラ)
テクノロジーハラスメント(テクハラ)とは、IT知識やITスキルに長けた人が、IT知識に乏しい人に対して行なう嫌がらせ。ITツールを使えないことを責めたり、見下すような発言をしたりして、相手を不快な気持ちにする行為です。
主に若い世代から中高年者に対して行われるハラスメントとして知られていますが、テクハラはIT知識の優位性が背景にあるため、実際には年代に関わらず起こりえます。
テクハラ加害者は、自覚のないままハラスメントをしていることも珍しくありません。特にデジタルネイティブ世代にとって、スマートフォンやパソコンの操作は“できて当たり前”のこと。まずはテクハラについて理解する機会を設ける必要があります。さらに業務に必要な範囲において、従業員のIT知識の標準化も不可欠です。IT知識の習得を本人任せにせず、学習環境を用意してテクハラ対策を図りましょう。
アルコールハラスメント(アルハラ)
アルコールハラスメント(アルハラ)とは、飲酒の強要をはじめとする嫌がらせや迷惑行為を意味します。急性アルコール中毒を引き起こし、最悪のケースでは命を奪う危険性もあるアルハラは、人権侵害として位置付けられるハラスメントです。
飲み会の際に飲酒の強要や一気飲みをさせるなどの行為、泥酔して他人に迷惑をかけることは、刑罰の対象になる可能性があります。知らなかったでは済まされないため、アルハラを正しく理解することが必要です。また、お酒を飲めない場合や飲みたくない場合には、はっきりと断ることも周知しておきたいですね。
頻度は違えど、飲み会は多くの企業で行われています。本来は親睦を深めたり、結束を強めたりする機会のはず。飲み会をハラスメントの場にしないために、社内ルールを作りましょう。
マタニティハラスメント(マタハラ)
マタニティハラスメント(マタハラ)とは、妊娠や出産、育児休業を理由とする不当な扱いや、嫌がらせのことです。女性に対してだけでなく、育児休暇を取得する(または取得した)男性に対する嫌がらせもマタハラに含まれます。
マタハラの対策には、マタハラを起こさないための仕組みづくりが欠かせません。例えば、妊娠した従業員の業務を他の誰かが引き継ぐ場合には、人手の確保や業務体制の見直しが必須。単に業務を引き継ぐだけでは他の従業員の業務負担が増え、その不満が妊娠した従業員に向けられやすくなるからです。どうしても残りの従業員がフォローするしか方法がない場合は、負担が増加した分を給与に反映するなど何らかの対応を検討しましょう。
スメルハラスメント(スメハラ)
スメルハラスメント(スメハラ)とは、においに関するハラスメントです。体臭や口臭、香水や柔軟剤のにおいによって周囲に迷惑をかけたり、不快にさせたりします。
ところが、体臭や口臭は自分では気づきにくいもの。香水や柔軟剤も本人が好んで使用しています。そのため、気づかないうちに相手を不快にさせているケースが多いことがスメルハラスメントの特徴です。
においの感覚は人によって異なるため、被害を訴える従業員がにおいに敏感であるケースも考えられます。その場合は、空気清浄機や消臭剤の設置、または席替えをして物理的な距離を設けることも有効でしょう。多くの人が被害を訴えている際には、本人に伝えることが必要になります。ただし、体臭や口臭のトラブルは、とても扱いが難しい問題です。注意することで本人を傷つけてしまうこともあるため、十分に配慮して対応しなければなりません。
できれば理解を深めることに力を入れ、トラブルを未然に防ぐことが理想といえます。においのケアを含め、身だしなみを整えることはビジネスマナーのひとつであること。また香水や柔軟剤のにおいもハラスメントになる可能性があること。研修や情報共有の場を通してスメルハラスメントを周知し、においケアの方法も紹介しましょう。
ロジカルハラスメント(ロジハラ)
ロジカルハラスメント(ロジハラ)とは、正論によって相手を追い詰める嫌がらせ行為のことです。ロジカル(logical)は「論理的」を意味する言葉ですが、論理的であること自体はハラスメントではありません。議論の場で物事を論理的に伝えることは、仕事をする上でとても重要です。
ロジハラに該当するのは、反対意見を発言させないために正論を振りかざすことや、論破することを目的に相手を追い詰めること。他者よりも優位に立ったり、自分の正しさを証明したりするために行う業務に必要のない行為です。
ロジハラをする人は自分が正しいと思い込んでおり、相手のためと思って正論を押し付けることが多いといわれています。間違いを指摘するだけではかえって自身の考えに固執してしまう恐れがあるため、コミュニケーションにおける共感の重要性や伝え方を学ぶ研修などを取り入れてみましょう。またロジハラの被害者が萎縮して成長の機会を逃したり、落ち込んで業務が手につかなくなったりすることがないよう、気軽に相談できる環境を用意しておくことも大切です。
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最近よく聞くようになったハラスメント一覧
続いて、最近耳にする機会が増えたハラスメントを紹介します。
終われハラスメント(就活終われハラスメント/オワハラ)
終われハラスメント(オワハラ)とは、企業が内定を出した就活生を自社に入社するよう誘導し、強引に就活を終わらせようとする行為です。他社の内定辞退を強く迫ったり、面接の引き伸ばしや回数を意図的に増やすことで他社の選考を妨害したりすることなどが嫌がらせに当たります。
終われハラスメントは、近年の売り手市場における厳しい採用環境が生み出したハラスメントといえるでしょう。しかし、企業にとって人材確保のための対策であったとしても、行き過ぎるとそれはハラスメントになってしまいます。
オワハラをせずに内定者を入社へと導くには、内定者が入社したくなるような施策が必要です。例えば内定者同士の懇親会や社員との交流会の開催。実際の仕事や職場環境を知ってもらうために、内定者インターンを実施する方法もあります。無理やり入社させるのではなく、自社を選択してもらうための取り組みに力を注ぎましょう。
SOGIハラスメント(SOGIハラ)
SOGIハラスメント(SOGIハラ)とは、「性的指向(Sexual Orientation)」と「性自認(Gender Identity)」に関連する嫌がらせや差別のこと。SOGI(ソジ)はそれぞれの頭文字からとった用語で、「性的指向(好きになる人の性別は何か)」と「性自認(自身の性をどう認識しているか)」を表す言葉であり、LGBTQをはじめとする性的マイノリティーの人々だけでなく、すべての人に当てはまる概念であることを知っておきましょう。
性的指向や性自認を理由とする不当な扱いや差別的な発言などがSOGIハラの代表例ですが、戸籍上の性をもとに、望まない性別の制服着用を強制することもSOGIハラに当たります。
まずはSOGIハラに対する会社の方針を明確にし、研修を通して理解を深めることが必要です。またSOGIハラの相談はカミングアウトを伴う場合があるため、相談窓口はSOGIハラ専用として設けることが望ましいでしょう。
SOGIハラを受けた方へのインタビュー記事はこちら
「SOGIハラ」とは?SOGIハラをはじめとする「ハラスメント」を防ぐために大切な考え方
咳ハラスメント(セキハラ)
咳ハラスメント(咳ハラ)とは、口や鼻を覆わずに咳やくしゃみをし、周囲の人を不快にする迷惑行為です。
新型コロナウイルスの流行以降、マスクの着用が習慣になりました。従来の咳ハラが少なくなる一方で、職場でのマスク着用の有無を巡ってストレスを抱える人が増えているようです。さらにマスクをしているにも関わらず、咳やくしゃみをした人に対して周囲が過剰に反応する現象も起きています。これはコロハラ(コロナハラスメント)と呼ばれており、コロナ禍で形を変えた新たな咳ハラといえるかもしれません。
エンジョイハラスメント(エンハラ)
エンジョイハラスメント(エンハラ)とは、「仕事は楽しいもの」「やりがいがあって当然だ」という価値観を強要することです。
特に部下や後輩社員に対して指導する立場にある人が加害者になりやすいため、ハラスメント研修などを設けてエンハラが起きにくい職場環境を目指しましょう。
少し珍しいハラスメント一覧
ハラスメントは多様化が進んでおり、中には「こんなものまで!」と思うハラスメントも登場しています。
告白ハラスメント(コクハラ)
告白ハラスメント(コクハラ)とは、告白によって相手を困らせたり、精神的なストレスを与えたりすることです。告白する側に嫌がらせの意図はありませんが、どちらかが一方的に好意を寄せている場合には、その告白が望まない結果を生むことがあります。
告白された側が交際を断った場合、トラブルがまったく起きないとは言い切れません。顔を合わせることが気まずくなり、働きづらくなる可能性もあるでしょう。そのためコクハラは相手への配慮に欠けた行為として、ハラスメントと捉えられることがあるのです。
難しい問題ではありますが、職場での地位や優位性を利用して交際を迫る行為であれば許されません。コクハラも職場で起こりうるハラスメントのひとつとして周知し、トラブルを防止するための対策を施しましょう。
お菓子ハラスメント(オカハラ)
お菓子ハラスメント(オカハラ)とは、職場で配られるお菓子にまつわる嫌がらせです。
特定の人にお菓子を配らない、配ったお菓子を無理やり食べさせる、旅行などの際に職場へのおみやげを強要するなどの行為が挙げられます。
よほど目に余る行為でなければ、オカハラのためだけに特別な対策を講じることは考えにくいですが、ハラスメント研修の中でオカハラの存在に触れておくことはトラブル防止に役立つでしょう。
まとめ
近年、多くの「〇〇ハラ」が登場しています。今回紹介したハラスメントの中には、「ここまでは人事部門で管理しきれない…」というハラスメントもあったのではないでしょうか。しかし、最近ハラスメントといわれるようになった言動でも、それまで不快に思っていた人がいなかったわけではないはずです。SNSの普及で個人が意見を気軽に発信できるようになったことで、隠れていたハラスメントが顕在化しただけなのかもしれません。
ハラスメントは、その線引きが難しいことも事実です。そのため従業員全員がハラスメントに対する共通の認識を持っておくことはとても重要でしょう。ガイドラインの作成や、研修などを通じて繰り返し周知すること。さらに問題が起きた際に企業としてきちんと対処できる仕組みを作っておくことが、トラブルを未然に防ぐことにつながるのではないでしょうか。
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