業務委託でフリーランスに仕事を依頼し、SNSやクラウドソーシング、自社サイトなどで募集をかけている、または今から募集をかけようとしている方向けの記事です。2024年11月1日(令和6年11月1日)に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(公式略称はフリーランス・事業者間取引適正化等法。以下、検索されやすい通称にならい「フリーランス新法」と表記します)の第12条により、この募集広告には書かないと法律違反になりうる項目があります。何を書けば足りるのか、逆に何を書かないと危ないのかを、厚生労働省の通達と実際の指導事例をもとに整理します。
目次
業務委託の募集広告には、書かないと「誤解を生じさせる表示」になる項目があります
結論から書きます。業務委託でフリーランスに仕事を依頼する事業者が、広告やウェブサイトで募集情報を出すとき、氏名・住所・連絡先・業務の内容・従事する場所・報酬の6つを欠いていると、それだけで「誤解を生じさせる表示」として第12条違反になりえます。厚生労働省が令和6年12月18日に出した通達に、この6項目がそのまま明記されています。
フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は2024年11月1日に施行されています(e-Gov法令検索、2026年8月21日取得)。
この法律の取引条件に関するルール(報酬の支払期日や禁止行為など)は公正取引委員会と中小企業庁が、就業環境の整備に関するルール(募集情報の的確表示やハラスメント対策など)は主に厚生労働省が所管しています。第12条の「募集情報の的確な表示」は後者にあたります。なお「フリーランス新法」は検索でよく使われる通称で、厚生労働省や公正取引委員会の公式資料には出てきません。ここでも通称は使いますが、条文の名称は正式名称・公式略称で表記します。
この記事の対象になる募集かどうかを、まず確認します
第12条の義務は、業務委託をする事業者すべてにかかるわけではありません。誰が対象になるかは、発注する側が従業員を使っているかどうかで決まります。
法律は、業務委託の相手方(フリーランス側)を「特定受託事業者」、業務委託をする側(発注事業者側)のうち従業員を使っている者を「特定業務委託事業者」と呼び、第12条の義務は特定業務委託事業者にかかると定めています。「従業員を使う」とは、1週間の所定労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる労働者を雇用していることで、同じ基準を満たす派遣労働者を受け入れている場合も該当します。同居の親族だけを使っている場合は該当しません。
あなたの会社(個人事業)は、従業員を1人でも雇っていますか。
雇っていれば、この記事の6つの記載事項が第12条の義務としてかかります。雇っていない場合(従業員ゼロの個人事業主や、役員1人だけで従業員のいない法人)は第12条の義務はかかりませんが、業務委託をする際の取引条件を明示する義務(第3条)は業務委託をする事業者全員にかかるため、別途注意が必要です。
フリーランスと発注事業者の定義(厚生労働省「フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ」、2026年8月21日取得)。
対象になる募集の範囲も押さえておきます。新聞・雑誌などの広告、SNSのメッセージ機能を使った勧誘、自社ホームページ、クラウドソーシングサービスなどのデジタルプラットフォームはいずれも対象です。一方で、1人に対して個別に打診する場合(すでに契約交渉に入っていると考えられるため)は対象外です。ただしBCCでの一斉送信は、実質的に複数人へ広く募集していると言える場合は対象になります。募集を他社(プラットフォーム運営者など)に委託して広く勧誘してもらう場合も、その募集は対象に含まれます。
求人広告・募集ページに書く6つのこと
厚生労働省は令和6年12月18日付の通達で、募集情報から次の6項目のどれかが欠けていると「誤解を生じさせる表示」に該当し、第12条違反になるとしています。
- 募集を行う者の氏名または名称
- 住所(所在地)
- 連絡先
- 業務の内容
- 業務に従事する場所
- 報酬
厚生労働省は6つの記載事項をお知らせとして案内しています(厚生労働省ウェブサイト、2026年8月21日取得)。
この通達が出された背景には、インターネット上で犯罪の実行者を集めるいわゆる「闇バイト」の募集に、通常の募集と誤解させるような広告等が見受けられる状況があります。6項目のうちどれか1つでも欠けていれば、それだけで違反になりうるという、条文よりも一段具体的な基準です。
それぞれ何を書けばよいかの目安は、政令と指針が示しています。「業務の内容」は成果物や役務の内容、必要な能力・資格、検収基準など。「業務に従事する場所」は遂行場所や納期・期間・時間。「報酬」は報酬額(算定方法を含む)、支払期日、支払方法、交通費や材料費などの諸経費。契約の解除に関する事項(解除事由や中途解除時の違約金など)や、募集を行う者の実績なども、区分としては用意されています。
募集の時点で報酬額を確定できないケースもあります。厚生労働省のQ&Aは、第3条(取引条件の明示)ほど細かい記載までは求めていません。「1件1,500円〜」「報酬40万円〜(要相談)」のように目安の金額を示す、あるいは過去の発注実績を参考に示す形でよいとされています。
募集情報の掲載イメージ(厚生労働省・公正取引委員会パンフレット「フリーランス・事業者間取引適正化等法 ここからはじめる」p.19、2026年8月13日取得)。
募集をクラウドソーシングサービスなど他社(仲介事業者)に委託して掲載してもらう場合、その仲介事業者自身は特定業務委託事業者に当たらないことがあります。その場合は、仲介事業者側の掲載に6項目が入るよう依頼する必要があります。仲介事業者が個別の照会に応じて回答する運用になっていて、その旨と照会先を募集情報に示している場合は、6項目が直接示されていないことだけをもって違反にはならないとされています。
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なぜ「募集を出した時点」で義務がかかるのか
フリーランス新法には、業務委託の期間や金額に応じて義務が発生する条文がいくつもあります。第12条はそのなかで珍しく、期間・金額を問わず適用される条文です。
| 条 | 義務の内容 | 期間の足切り |
|---|---|---|
| 第3条 | 取引条件の明示 | なし |
| 第4条 | 報酬の支払期日(受領から60日以内) | なし |
| 第5条 | 禁止行為(受領拒否・報酬減額・買いたたきなど) | 1か月以上 |
| 第12条 | 募集情報の的確な表示 | なし |
| 第13条第1項 | 育児介護等への配慮(義務) | 6か月以上 |
| 第16条 | 契約解除の30日前予告・理由開示 | 6か月以上(継続的業務委託) |
第5条の禁止行為は業務委託の期間が1か月未満なら対象外ですし、第13条や第16条は6か月以上の継続的な業務委託でなければ対象になりません。ところが第12条には、こうした足切りが条文上ありません。1回限りの短期の業務委託を募集するときでも、募集情報を広告等で出した瞬間に義務がかかります。
「雇用の求人」なのか「業務委託の募集」なのか、書かないとどちらに転んでも違反になりえます
労働者を雇用する場合の求人にも、よく似た条文があります。職業安定法第5条の4「求人等に関する情報の的確な表示」です。虚偽の表示・誤解を生じさせる表示を禁止し、正確かつ最新の内容に保つことを求める構造は、第12条とほぼ同じです。
この2つの条文は表裏の関係にあります。業務委託の募集なのにそれを明示せず、雇用契約前提の労働者募集であるかのように誤解させれば、職業安定法第5条の4違反の可能性があります。逆に、雇用契約前提の労働者募集であることを明示せず、業務委託(フリーランスへの委託)であるかのように誤解させれば、フリーランス新法第12条違反の可能性があります。つまり、雇用なのか業務委託なのかをはっきり書かない募集は、どちらに転んでも違反になりうるということです。
実際にあった指導事例でも、この点が問題になっています。ウェブ予約サービスなどを手がける事業者が、IT開発のテスト作業を委託するためプラットフォームに掲載した募集情報について、フリーランスの募集なのか労働者の募集なのか判然としない内容だったとして、混同されないよう表示を改めるよう助言を受けています。募集の冒頭で「業務委託です」「雇用契約ではありません」と明示するだけでも、この種の指摘は避けやすくなります。
なお、雇用の求人票側で押さえておく的確表示の実務は、職業安定法施行規則の改正で求人企業が押さえるべきポイントにまとめています。
募集を出したあとも、内容を正確かつ最新に保つ義務があります
第12条には第2項があり、募集情報を正確かつ最新の内容に保つことも義務づけています。厚生労働省の指針は、具体的に3点を求めています。募集を終了・変更したら速やかに情報の提供を終了・変更すること。他社に委託して掲載していた場合は、終了・変更を依頼するだけでなく、実際に反映されたかを確認すること。そして、その情報がいつ時点のものかを明らかにすることです。
実際の指導事例でも、更新漏れが問題になっています。美容室を営む事業者が、美容師の業務を委託するため複数の媒体に募集情報を掲載していたところ、報酬額を変更したのに一部の募集情報に反映されていなかったケースで、最新の内容に更新するよう助言を受けています。複数の媒体に同じ募集を出しているときほど、更新の反映漏れが起きやすいということです。
なお、他社(媒体側)に訂正を繰り返し依頼したにもかかわらず、その媒体側が訂正しなかった場合は、依頼した側の特定業務委託事業者は違反にならないとされています。依頼した記録を残しておくことが実務上の防御線になります。
違反するとどうなるか
第12条を含む第3章の所管は厚生労働大臣で、実際の権限は多くの場合、事業所の所在地を管轄する都道府県労働局長が行います。特定受託事業者は労働局に申し出て、適当な措置を求めることができます。
違反が疑われた場合の流れは、まず労働局が調べたうえで勧告を行い、従わなければ命令、命令をしたときは公表もできる、という段階を踏みます。罰則があるのは命令に違反したときで、50万円以下の罰金です(法人には両罰規定があります)。第12条違反そのものに、直接の罰則があるわけではありません。
厚生労働省が公表している令和7年度の運用実績では、第12条第1項について助言65件・指導1件・勧告0件・命令0件、第12条第2項について助言9件・勧告0件・命令0件でした。申出全体291件のうち第12条に関する申出は68件(19.5%)で、ハラスメント関係(第14条・43.3%)に次ぐ規模です。実際に飛んでくるのは、勧告や命令ではなく「助言」が大半だというのが実態です。
困ったときの相談先
第12条を含む第3章(就業環境の整備)に関する相談・申出の窓口は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)です。取引条件の明示や報酬の支払いなど、取引の適正化に関する第2章については、公正取引委員会(または中小企業庁長官)が窓口になります。どちらの窓口に相談すべきか迷う場合や、フリーランスとの取引全般について相談したい場合は、厚生労働省が委託しているフリーランス・トラブル110番も利用できます。
まとめ
業務委託でフリーランスに仕事を依頼し、従業員を1人でも雇っている事業者が募集広告を出すときは、氏名・住所・連絡先・業務の内容・従事する場所・報酬の6項目を書くことが、第12条の「誤解を生じさせる表示」を避ける実務上の目安になります。あわせて、雇用の求人ではなく業務委託の募集であることを明示すること、募集後も内容を最新に保つことの2点を押さえておけば、労働局から助言を受ける可能性はかなり下げられます。
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