【2024年4月】職業安定法施行規則の改正に向けて、求人企業が押さえるべきポイントとは

職業安定法は、職業紹介や労働者募集等に関わる事業者の適正な運営を確保するために、必要な規則が定められた法律です。

その時々の労働市場に合わせて改正が実施されており、2022年10月にも改正職業安定法が施行されました。
2022年10月の改正では、求人メディアをはじめとした募集情報等提供事業者だけでなく、採用を行う求人企業に対しても新たな義務が設けられています。

さらに2024年4月からは求人企業に関わる規則が追加されるため、採用担当者は必ず理解しておく必要があるでしょう。

この記事では、2022年10月に施行された職業安定法の改正内容と、2024年4月1日から新たに追加される「労働条件明示事項」について解説します。 中小企業の採用担当者は、採用活動を開始する前にぜひチェックしてください。

職業安定法とは

職業安定法とは、職業紹介事業(公共および民間の人材紹介事業)などが適正かつ円滑に行われるよう定められた法律です。 職業安定法の第一条には、その目的が以下のように記されています。

(前略)公共に奉仕する公共職業安定所その他の職業安定機関が関係行政庁又は関係団体の協力を得て職業紹介事業等を行うこと、職業安定機関以外の者の行う職業紹介事業等が労働力の需要供給の適正かつ円滑な調整に果たすべき役割に鑑みその適正な運営を確保すること等により、各人にその有する能力に適合する職業に就く機会を与え、及び産業に必要な労働力を充足し、もつて職業の安定を図るとともに、経済及び社会の発展に寄与することを目的とする。

引用元:e-GOV法令検索(職業安定法 第一条)

つまり職業安定法の目的は、「職業の安定を図り、経済および社会の発展に寄与すること」です。
職業の安定を図るためには「各人の能力に適合する職業に就く機会を与え」、「産業に必要な労働力を充足する」ことが欠かせません。
それらを実現するには、職業紹介事業などの適正な運営を確保することが必須となるため、必要な規則が定められているのです。

「職業紹介(人材紹介)」「労働者供給」「人材派遣(労働者派遣)」の違い

職業安定法では、主に「職業紹介(人材紹介)事業」「労働者募集」「労働者供給事業」に関する規則が定められており、以下の事業者が各規制に関係しています。

規制の対象 関係する事業者・企業
職業紹介(人材紹介)事業 職業紹介等を行う事業者(ハローワーク、人材紹介会社など)
労働者募集 労働者募集を行う募集情報等提供事業者、職業紹介等を行う事業者、求人企業 など
労働者供給 労働組合 など

人材派遣(労働者派遣)との違い

「職業紹介」や「労働者供給」と誤認されやすい事業に「人材派遣(労働者派遣)」があります。各事業の仕組みとそれぞれの特徴を確認しておきましょう。

事業 事業の仕組み・労働者との雇用関係
職業紹介(人材紹介)事業 ・職業紹介(人材紹介)を行う事業者は、企業へ求職者の紹介を行う(有料職業紹介の場合、企業は事業者へ紹介手数料を支払う)
・求職者は採用後に企業と雇用関係を結ぶ
労働者供給事業 ・労働組合の組合員(労働者)を企業へ紹介(供給)する
・供給先企業に勤務する間のみ、労働者は企業と雇用関係にあり、企業の指揮命令のもとで業務を行う
・労働者は労働組合の組合員(構成員)であり、労働組合との間に雇用関係はない
・労働者供給事業は、厚生労働省から認可を受けた労働組合等が非営利目的で実施する場合以外は法律で禁止されている
人材派遣(労働者派遣)事業 ・労働者派遣(人材派遣)を行う事業者は、自社で雇用する派遣社員を企業へ派遣する
・労働者(派遣社員)は、派遣先の指揮命令のもと派遣先で業務を行う
・派遣社員は、派遣先企業と雇用関係にない
・人材派遣(労働者派遣)に関する規則は、職業安定法ではなく、労働者派遣法で定められている

職業紹介(人材紹介)、労働者供給、人材派遣(労働者派遣)の特徴を知れば、まったく異なる事業であることが理解できますね。

職業安定法の公布日・施行日

現行の職業安定法は、雇用保険法等の一部を改正する法律の公布に基づき、2022年10月1日に施行されました。

公布日 令和4(2022)年3月31日
施行日 令和4(2022)年10月1日(一部は4月1日に施行)

職業安定法改正の目的とポイント

現行の職業安定法は「求職者が安心して求職活動をできる環境の整備と、マッチング機能の質の向上」を目的として、主に以下3点について改正が行われました。

  • 求人等に関する情報の的確な表示の義務化
  • 個人情報の取扱いに関するルールの整備
  • 求人メディア等に関する届出制の創設

また改正のポイントには、以下の2つが挙げられます。

新興メディア・サービスに対する法の適用

職業安定法では、「募集情報等提供事業者」に対する事業運営のルールが規定されています。
規定そのものは改正前から存在していますが、その対象となるのは従来の求人メディアや求人情報誌でした。
求人に関連するサービスはインターネットの普及に伴い多様化し、新しい形態の求人サービスが次々と登場しています。

今回の改正ではそうした事業者も職業安定法の規制対象とするべく、募集情報等提供事業者の定義を拡大。2022年10月からは、以下のサービスも募集情報等提供事業者として職業安定法の対象となっています。

・インターネット上の公開情報等から収集(クローリング)した求人情報・求職者情報を提供するサービス
・求人企業や求職者だけでなく、職業紹介事業者や他の求人メディア等(募集情報等提供事業者)から求人情報・求職者情報の提供依頼を受けたり、情報提供先に提供するサービス

引用元:厚生労働省:令和4年職業安定法の改正について

さらに求職者情報を収集する事業者は届出が必須となり、年に一度の事業概況報告書の提出も義務付けられました。

ルールの整備と法制化

もう一つのポイントは、募集情報等提供事業者が従うべきルールが法制化された点です。 募集情報等提供事業者が職業安定法に違反した場合は行政処分や罰則の対象となり、求人企業が違反した場合の罰則も規定されました。

職業安定法施行規則の改正内容

2022年10月の改正では、求人に関わる事業者、求職者の情報収集に関わる事業者、採用を行う求人企業それぞれについてルール変更が行われました。
ここでは、2022年の改正で設けられた求人企業への義務と、2024年4月から追加される新たな義務(求人募集時の明示事項)について解説します。

1.求人情報および自社に関する情報の的確な表示の義務付け

虚偽または誤解を生む表示の禁止

求人情報や自社について、虚偽の情報を提供して採用を行うことは禁止されています。
また誤解を生じる内容にならないよう、表現方法にも注意が必要です。

【具体例】

  • 雇用する企業とは異なる企業名で募集を行う
  • 表示している職種・賃金・雇用形態・職種等が実際と異なる
  • 非上場企業が上場企業と表示する など

正確かつ最新情報の維持

求人情報や企業情報について、最新情報の提示に努める必要があります。正確でない情報が求職者に公開・明示されている場合は、訂正等の措置を講じなければなりません。

【具体例】

  • 募集内容に変更があった場合や募集を終了した際には、すぐに更新または募集を終了する
  • 求人情報がいつの時点の情報であるかを明示する
  • 募集情報等提供事業者(求人メディアなど)から、求人情報の訂正・変更を依頼された場合は、速やかに対応する

2.個人情報の取扱いに関するルールの変更

個人情報を収集・使用・保管する際は、その業務の目的を明らかにすることが必要です。
また目的以外の用途で個人情報を収集・使用・保管することは禁止されています。

【禁止事項の例】

  • 求人とは関係のないサービス等へ入会させる(入会するよう誘導する)
  • 求職者が応募していない他社への選考目的で使用する

労働者の募集等における明示すべき労働条件の追加(2024年4月1日施行)

ここまで紹介した改正内容に加え、2024年4月1日からは求人募集時などに明示すべき労働条件が追加されます。

【2024年4月から追加される明示すべき労働条件】

  1. 従事すべき業務の変更の範囲
  2. 就業の場所の変更の範囲
  3. 有期労働契約を更新する場合の基準(通算契約期間または更新回数の上限を含む)

それぞれの意味と記載例を確認しましょう。

「1.従事すべき業務の変更の範囲」の意味と記載例

業務内容は、雇用直後だけでなく、将来的な配置転換を含めた業務範囲を記載します。
また在籍出向(出向元企業および出向先企業と雇用契約を締結したうえで出向先企業にて勤務する)の可能性がある場合において、出向先での業務内容が当初の「変更の範囲」を超える場合は、その旨の明示も必要です。 職業安定法施行規則改正(従事すべき業務の変更の範囲の記載例) 画像出典:厚生労働省(明示事項の記載例1 変更の範囲)

「2.就業の場所の変更の範囲」の意味と記載例

就業場所も業務内容と同じく、将来的な配置転換を踏まえた就業場所の記載が必要。
在籍出向の場合においても当初の「変更の範囲」を超える場合には、その旨を記載します。 職業安定法施行規則改正(就業の場所の変更の範囲の記載例) 画像出典:厚生労働省(明示事項の記載例2 変更の範囲)

「3.有期労働契約を更新する場合の基準」の意味と記載例

有期の契約社員を募集する場合は、契約更新を行う際の基準を記載します。
加えて「通算契約期間」または「更新回数の上限」のいずれかの記載も必要です。 職業安定法施行規則改正(有期労働契約を更新する場合の基準の記載例) 画像出典:厚生労働省(明示事項の記載例3 有期契約を更新する場合の基準)

(補足)有料職業紹介事業における手数料表等の掲示方法の見直し

2024年4月1日からは明示すべき労働条件等の追加に加え、有料職業紹介事業(人材紹介サービス)の手数料等の明示方法も変更されます。

これは行政手続きのデジタル化に向けた、アナログ規制(アナログ行為を求める法令等)の見直しの一環として行われる改正です。

今後は事業所内での掲示だけでなく、自社ホームページなどオンライン上での情報提供も可能になります。

【自社ホームページ等での情報提供が可能になる明示事項】

  1. 手数料表
  2. 返戻金制度に関する事項
  3. 業務の運営に関する規程

ホームページ内の分かりやすい場所に明示することが推奨されていますが、オンラインでの情報提供自体は義務ではなく、その判断は各企業に委ねられています。
人材紹介サービスの利用を検討中の採用担当者は、そうした情報を分かりやすく公開しているかどうかを人材紹介会社選びの判断基準のひとつにしても良いかもしれません。

労働条件の明示における注意点

明示が必要とされるタイミング

労働条件は、求人票を公開する時点で明示されていなければなりません。求人広告だけでなく、自社ホームページ等で募集を行う際も同様です。

すべてを明示できない場合の対処法

文字数の都合などですべてを記載できない場合には、労働条件の一部のみを記載することが可能です。

ただしその場合には、別のタイミング(面接等)で詳細を伝える旨を付け加えることが必須。
そのうえで、求職者と初めて接触する前(面接を実施する場合はその時点まで)に労働条件の詳細を示すことが求められます。

また選考過程で労働条件に変更が生じた場合は、変更内容を速やかに明示しましょう。

『採用係長』なら職業安定法規則改正後の求人掲載も安心

求人広告などを出稿する際は、一般的には決められたフォーマットに入力するため、明示すべき事項の記載が漏れてしまう心配はないと考えて良いでしょう。

ところが自社ホームページなどで求人募集を行う場合には、採用業務に精通していないスタッフ(デザイナーやエンジニアなど)が採用ページの作成に関わる可能性もあり、意図せず必須項目が抜けてしまうことがあるかもしれません。

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まとめ

職業安定法は2022年の改正によって規制の対象となる事業者が拡大し、求人企業に対する罰則も設けられました。

例えば、「忙しくて労働条件の変更を伝え忘れていた」「求人票の更新ができていなかった」「求職者の個人情報を自社サービスの勧誘に利用した」などは、法律違反となる行為です。
万一、行政指導などを受けることになれば、企業イメージの悪化や採用活動への影響は避けられません。

また2024年4月には新たな改正(明示すべき労働条件の追加)が控えています。
「職業安定法を知らなかった」「更新を忘れていた」などの事態が起きないよう、採用業務に関わるスタッフ全員が求人企業の義務について理解し、最新の労働条件を明示(更新)できるようにするための仕組みを整えておくことが必要でしょう。

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この記事を書いた人
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馬嶋 亜衣子(samusillee)

採用・キャリア関連、医療分野を中心に執筆を行うフリーランスライター。 各種メディアの取材ライティングやSEOライティング、採用HPのライティングなどに携わっています。

監修者
監修者
辻 惠次郎

ネットオン創業期に入社後、現在は取締役CTOとしてマーケティングからプロダクトまでを統括。
通算約200社のデジタルマーケティングコンサルタントを経験。特に難しいとされる、飲食や介護の正社員の応募単価を5万円台から1万円台に下げる実績を作り出した。
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