【2025年6月施行】労働安全衛生規則改正とは?熱中症対策の強化や対策法、罰則について解説

熱中症による労働災害はここ5年で急増し、死亡率は他の災害の5〜6倍とも言われています。
2025年6月には「労働安全衛生規則」が改正され、特定条件下における熱中症対策が企業にとって義務化されました。違反すれば罰則や是正命令も……。

本記事では、今回の法改正のポイントをはじめ、対象業務の基準、必要な対応手順、想定される罰則、そして実際の対策事例までを、企業の人事・労務担当者向けに分かりやすく解説します。

労働安全衛生規則改正とは?

2025年(令和7年)6月1日、「労働安全衛生規則の一部を改正する省令」が施行され、熱中症対策の義務化が正式に始まりました。
この改正は、猛暑による労働災害が年々増加している現状に対応するものです。

従来の法律では、高温環境に対する「飲料水の備え付け」などが主な義務でしたが、今回の改正では、熱中症患者の報告体制整備や症状の悪化を防ぐための具体的な措置の準備・周知が企業に求められるようになっています。

労働安全衛生規則改正により事業所の熱中症対策が義務化に

労働安全衛生規則改正の背景には、労働中の熱中症による死亡件数の増加や、その要因としての初期症状の放置・対応遅れがあります。
下表は、近年の熱中症による死亡災害数をまとめたものです。

(出典:職場における熱中症対策の強化について|厚生労働省

事実、2020年以降の死亡災害のうち約97%が、初期症状の放置・対応の遅れによるもの。適切な初動対応を行っていれば防げた可能性があったと報告されています。

しかも熱中症は、他の災害と比べて死亡災害に至る割合が約5~6倍です。政府は企業に対し、熱中症を“予防・早期発見・重篤化の回避”まで含めた包括的な対策を求めています。

労働安全衛生規則改正により企業に求められること

企業が実施すべき具体的な対応は、以下の3点に集約されます。

報告体制の整備

熱中症の自覚症状(めまい、頭痛、吐き気など)がある場合に、誰に報告すべきかを明確にし、周囲が異変に気づいた際の通報ルールも整える必要があります。

【例】

  • バディ制の導入(2人1組で作業)
  • 定時の健康チェック
  • ウェアラブルデバイスによる体温・心拍数のモニタリング

実施手順の作成

報告を受けた際の対応マニュアルを整備し、緊急時の医療搬送先や緊急連絡先を記載したリストを全従業員に共有する必要があります。
これにより、熱中症の可能性がある従業員がいた場合に適切かつスピーディーな対応ができます。

【対応例】

  • 作業中断の判断基準
  • 冷却措置の方法(保冷剤、ミストシャワー等)
  • 119番通報の判断タイミング

関係者への周知

作成した手順内容を、対象となるすべての労働者にしっかりと周知しましょう。経営層が

ルールを定めても、それが現場に伝わり切っておらず形骸化してしまっているケースは少なくありません。
全社、あるいは管理職や現場リーダーを集めて研修を実施するなど、確実に浸透させるための工夫が求められます。

労働安全衛生規則改正により熱中症対策が義務付けられる業務の基準

今回の改正で義務対象となるのは、以下のような条件を満たす作業です。

  • WBGTが28度以上または気温が31度以上
  • その環境下で連続1時間以上、または1日4時間を超えて作業すると見込まれる作業

この条件は屋内・屋外を問いません。例えば、工場勤務、倉庫内作業、警備、屋外営業なども該当する可能性があります。

WBGT基準値とは

WBGT(Wet Bulb Globe Temperature)は「暑さ指数」とも呼ばれ、気温、湿度、輻射熱、気流などを加味した人体が感じる熱ストレスを表す指標です。
たとえば、気温が28度でも湿度が高ければWBGT値は上昇し、熱中症リスクが高まります。

また、下表をもとに身体作業強度とWBGT基準値を比べて、必要な場合にはいずれかのレベルを下げることが求められます。

身体作業強度に応じたWBGT基準値

(出典:職場における熱中症対策の強化について|厚生労働省

環境省や厚生労働省が公表しているWBGT予測データも参考にしつつ、企業ごとにしっかりとした判断ができるよう整備しましょう。

※全国のWBGTはこちらのページで確認することができます
熱中症予防情報サイト|環境省

熱中症対策を怠った場合に想定されるペナルティ

熱中症対策を怠った企業には、以下のような法的措置が課される可能性があります。

  • 労働基準監督署による是正指導
  • 改善命令
  • 使用停止命令
  • 6か月以下の懲役または50万円以下の罰金

特に死亡災害に至った場合は、企業の社会的信用が大きく損なわれるだけでなく、損害賠償リスクも生じます。

企業が行うべき熱中症対策事例

厚生労働省では、「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」と題し、暑さ指数を活用して熱中症予防をしている事業所の増加や、熱中症による死亡者数の減少を図っています。

このクールワークキャンペーンでは、以下のような実践例が紹介されています。

  • WBGT値の把握と見える化(現場掲示、アラート機能つき機器導入)
  • 作業時間の調整とこまめな休憩
  • 空調設備・送風機の設置
  • プレクーリングの導入(作業前に体温を下げる)
  • 暑熱順化プログラムの実施(新人・久しぶりの作業者に有効)
  • 塩分や水分補給用の飲料設置、塩飴配布
  • 熱中症予防管理者の選任

工場内に冷却ベストの貸与制度を導入した企業や、屋外現場で氷嚢ステーションを設置した建設会社など、創意工夫を凝らした対策が広がっています。

まとめ

2025年6月の労働安全衛生規則改正は、職場における熱中症の「見落とし・対応遅れ」を防ぐための抜本的な法改正です。
人事・労務担当者は、自社の業務が対象作業に該当するかを今一度確認し、報告体制・対応手順・教育の3本柱を整備する必要があります。

熱中症対策は、従業員の命を守る「命のインフラ」です。法令遵守はもちろん、企業価値を高める視点からも、主体的な対策が求められています。
まずは、WBGTの計測体制や報告フローの整備から着手するのがおすすめです。

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コンノ

公務員として4年間、人事労務の実務経験あり。 これまで100名以上の事業者をインタビューしており、「企業や個人事業主が本当に悩んでいること」を解決できる記事を執筆します。

監修者
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辻 惠次郎

ネットオン創業期に入社後、現在は取締役CTOとしてマーケティングからプロダクトまでを統括。
通算約200社のデジタルマーケティングコンサルタントを経験。特に難しいとされる、飲食や介護の正社員の応募単価を5万円台から1万円台に下げる実績を作り出した。
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