企業が新たに人材を採用する際、しばしば設けられるのが「試用期間」です。
書類選考や面接だけでは把握しきれない能力・適性を見極めるために重要な制度ですが、実務に落とし込もうとすると、「賃金は下げても良いのか」「解雇しても問題はないのか」など、疑問点も少なくありません。
試用期間の運用を誤ると従業員とのトラブルに発展し、「せっかく採用した人材がすぐに離職してしまった……」ということも。
本記事では、人事採用担当者向けに試用期間の概要や目的、通常の雇用期間との違い、さらにメリット・デメリットから解雇のルールまで詳しく解説します。
目次
試用期間とは
そもそも試用期間とは「労働者を本採用とする前に、実際の業務を行ってもらい、その能力や適性を評価するための一定期間」を指します。
企業は採用選考を行ってから人材を採用しますが、書類や面接だけでは把握しきれない性格面・業務への適応度をしっかりと観察できるのが特徴です。
試用期間の基本として下記のポイントを押さえておきましょう。
ポイント1: 雇用契約は正式に成立している
- 週の所定労働時間など条件を満たせば、社会保険などの手続きが必要
- 勤怠管理や安全衛生などは他の正社員と同様の扱い
ポイント2: 企業に解雇権留保がある
- 「採用後14日以内なら即時解雇できる」など、特別な取り扱いが認められている
- ただし無制限ではなく、合理的な理由が求められる
さらに、試用期間は「まだ様子を見る段階」とはいえども、企業側には基本的な勤怠管理や安全衛生義務が課せられます。
たとえば業務中の怪我・事故などは労災保険の対象になるため、通常の正社員と変わらない責任が発生します。
試用期間の目的
試用期間は、企業と労働者の双方が「お互いに合った職場・人材かどうか」を最終確認する期間です。
【企業側の目的】
- 採用後のミスマッチを防ぐ
- 本採用後の最適な配属先を検討する
【労働者側の目的】
- 組織や職場環境が自分に合うかどうか確認
- 人間関係や仕事の進め方を肌で感じる
試用期間で得られる評価は、単に「できる・できない」というスキル面だけではなく、「周囲とのコミュニケーション能力」「上司や先輩社員との相性」「積極性や学習意欲」「チームワーク」など総合的な人物評価につながります。
そのため、試用期間を経て正式な配属先を決める企業もあります。
一般的な試用期間の長さは3〜6カ月程度
試用期間の設定は法律で厳密な上限が定められているわけではありません。
しかし、あまりにも長い試用期間は労使ともに不安定要素が大きくなるため、多くの企業では「3〜6カ月程度」に設定されています。
実際、新卒・中途採用問わず、3カ月や6カ月を目安に運用されるケースが一般的です。
また、1年を超える試用期間は長すぎると判断される可能性が高く、求職者の離職リスクにもつながるため注意が必要です。
なお、試用期間の長さを決める際は、従業員が実際の業務で成果を出し始めるまでのリードタイムも考慮しましょう。
たとえば、新卒の場合は業務未経験者が多く、ある程度の研修が必要なケースが多いですが、研修の進度や実務に慣れるまでの時間を踏まえると「3カ月程度」でも短く感じる企業もあります。
逆に、中途採用でスキルや即戦力を期待する場合は、3カ月よりも短い試用期間を設定している企業もあるなど、業種や採用形態ごとに最適な期間を見極めることが大切です。
試用期間中の労働条件や待遇について
試用期間中の労働条件や待遇は本採用時と何が違うのか。求職者からもよく質問されるポイントです。
そこでここでは、就業規則や給与体系など、具体的に気をつけるべき点を解説します。
「試用期間だからこそ、できること」「本採用とまったく同じ扱いをする必要がある部分」などを正しく理解しておくことで、トラブルや誤解を防ぎやすくなるでしょう。
労働条件は基本的に同じ
「試用期間は正社員じゃないのでは?」と勘違いされがちですが、試用期間中であっても、雇用契約は正式に結ばれています。
そのため、基本的な就業規則や労働条件は本採用後と大きく変わらないのが通常です。就業規則を整備し、本採用後と同様に適切な労働条件を提示することが求められます。
ここで注意したいのは、試用期間中だからといって会社独自のローカルルールを適用し、極端に不利益な待遇を設定しないことです。
たとえば「試用期間中は残業代が出ない」「労働時間が長めでも問題ない」といった誤解が生じると、労働トラブルにつながるリスクがあります。
試用期間は“労働条件の特例”ではなく、“解雇権留保の特例”が認められているに過ぎない点を再確認しましょう。
賃金や手当、賞与
試用期間中の給与を、本採用後よりも低く設定することは法律上禁止されていません。
ただし、あまりに本採用時との差が大きいと、求職者が不安に感じて応募を控えたり、試用期間中に退職してしまったりする原因にもなります。
もちろん、各都道府県で定められた最低賃金を下回ってもなりません。
なお、ボーナス(賞与)は法的に義務づけられていないため、試用期間内は支給しないと定める企業もありますが、その場合でも「試用期間中の賞与は支給しない」という旨を就業規則や雇用契約書で明確にすることが重要です。
※雇用契約書の作り方はこちらの記事で解説しています
雇用契約書の書き方 テンプレ付きでご紹介!
残業や有給休暇
試用期間中も残業が発生する場合は、本採用時と同じく割増賃金の支払いが必要です。
有給休暇の付与については「入社後6カ月継続勤務し、所定労働日の8割以上に出勤する」ことで10日間付与されるという法定ルールがあります。
この6カ月の起算日は雇用契約を結んだ日からスタートするため、「試用期間が終わった段階でリセットされる」わけではありません。
試用期間中の就業実績もしっかり合算されます。
社会保険の加入要件
試用期間であっても、週の所定労働時間が一定以上であれば、健康保険や厚生年金などの社会保険に加入させなければなりません。
パート・アルバイトなども要件を満たせば対象となります。
企業は法的義務として加入手続きを行う必要がありますので、「試用期間だから保険はまだ加入しない」という判断はせず、「社会保険の加入対象を満たすかどうか」を間違いなく確認しましょう。
※社会保険の加入要件についてさらに詳しく知りたい方はこちら
2024年10月に社会保険の適用が拡大。対象企業や支援制度まで
企業が試用期間を設けるメリット・デメリット
では、試用期間を設定することで企業にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
両方を踏まえたうえで、自社にとってどちらの影響が大きいのかを考慮することが重要です。
試用期間を設けるメリット
■採用ミスマッチの回避
書類選考や面接では見えにくい従業員の働き方や社風への適応度を、実際の業務を通じて確かめられる点が最大のメリットです。
もし明らかに能力や適性が違うとわかった場合は、解雇や配置転換などの対応が検討しやすくなり、企業・従業員双方の負担を軽減できます。
■本採用後の配置が容易
試用期間中に従業員の強みや人柄、コミュニケーションスタイルなどを把握できれば、正式採用後の部署・業務配置を最適化しやすくなります。
社員が早期に戦力化できるよう、適材適所を見極めることを目的として試用期間を活用する企業も多いです。
試用期間を設けるデメリット
■人材の不安や負荷が高まる
労働者側から見ると「本採用されるかわからない」という不安定な時期が続くため、心理的負担が大きくなる場合があります。
その結果、本来優秀な人材が試用期間中の不安を理由に「退職したい」と感じるリスクもゼロではありません。
■教育・評価コストがかさむ
試用期間中に適切な指導や評価を行うためには、人事担当や現場管理者など複数名の時間・労力が必要です。
試用期間明けで結果的に本採用に至らなかった場合、かけたリソースが無駄になると感じる企業もあるでしょう。
試用期間と似た意味の言葉との違い
ここでは、「仮採用」「研修期間」「見習い期間」「インターン」の4つを比較し、その相違点を確認します。
仮採用との違い
「仮採用」は意味が曖昧な言葉で、日常的には試用期間と同義で使われることもあれば、「まだ雇用契約を結んでいないが採用を暫定的に決めている」という意味合いを含むことがあります。
もし内定後、入社前の研修や課題がある場合はまだ労働契約が成立しておらず、試用期間とは異なります。
実際に雇用契約を結んでから初めて「試用期間」として成立する点を押さえましょう。
【ポイント】
企業が内定を出し、入社前研修を実施している段階で「仮採用」と呼ぶことがあるが、まだ雇用関係が成立していないので法的には試用期間ではない。
研修期間との違い
研修期間は「業務に必要なスキルや知識を身につけるため」に設けられます。
一方で試用期間は、あくまでも「会社との相互マッチングを最終確認するための期間」という意味合いが強いです。
実務上、研修期間と試用期間が重なる企業も多いですが、目的が異なることを理解しておく必要があります。
【ポイント】
営業マナーや商品知識などを学ぶ研修を「試用期間中」に行う企業も多いが、研修の有無は試用期間の本質ではない。
見習い期間との違い
見習い期間は研修期間と類似しており、先輩社員から指導を受けながら実務を学ぶ段階を指すことが多いです。
特に飲食業や建設業、建築業などでよく使われます。
試用期間を「見習い期間」と呼ぶ企業もありますが、法的には「試用期間」が正式な文言であり、“解雇権の留保”といった性質が明確な点が特徴です。
【ポイント】
本来、試用期間とは意味が異なる。
しかし「見習い期間3カ月」など試用期間と同じように使っている企業もあり、解雇要件や賃金面が試用期間と同様に取り扱われるケースが多い。
インターンとの違い
インターンは「就業体験」という位置づけであり、学生などが短期または中長期で企業の業務を体験する制度です。
インターンでは本採用を前提としないケースも少なくなく、「本採用を前提にした評価期間」である試用期間とは大きく目的が異なります。
【ポイント】
インターンを数カ月行い、正式入社時にあらためて試用期間を設定する企業もある。
試用期間満了後の対応
使用期間を終えて本採用にスムーズに移行するには、企業側の適切な対応が不可欠です。
そこで、試用期間満了後に求められる対応について紹介します。
本採用へのプロセスと通知
試用期間が満了した段階で、特段の問題がなければ本採用に移行するのが通例です。
試用期間の終了日に合わせて本人に正式採用の意思表示を行い、雇用契約書や辞令などで通知するとスムーズです。
企業側から何も通知をせずに「気が付いたら本採用になっていた」という事態は避けるようにしましょう。
【具体例な移行の流れ】
- 試用期間終了1週間前に面談を実施
- 本採用可否を本人に説明
- 本採用の場合、書面で給与や勤務条件を再度提示
- 必要に応じて本人から確認のサインをもらう
試用期間を延長する場合の対応
試用期間中の勤務実態や評価が不十分などの理由で「もっと見極めたい」と考える場合、就業規則や雇用契約書に延長可能な旨が明記されていれば、期間を延長できます。
ただし、延長を有効とするには「事前説明」「合理的な理由」「労働者本人の合意」が求められます。
延長を繰り返したり、根拠なく延ばしたりするのは違法とみなされる可能性があるため、慎重に対応することが大切です。
試用期間中の解雇(本採用拒否)について
試用期間中であっても、企業が正当な理由なく一方的に解雇できるわけではありません。
むしろ「解雇権を留保している」とはいえ、ささいなことで解雇したりと、無制限に労働者を排除できる性質ではないのです。
ここでは解雇に必要な合理性や手続きについて紹介します。
解雇(本採用拒否)には合理的な理由が必要
試用期間中の解雇(本採用拒否)が認められるには「合理的で社会通念上相当である理由」が必要とされています。
たとえば「出勤状況が極めて悪い」「健康上の理由で業務遂行が不可能」「採用時の経歴詐称が重大である」といったケースが代表例です。
逆に、十分な指導をせずに「なんとなく合わないから」という理由だけで解雇すると、不当解雇に該当するリスクがあります。
仮に「作業ミスが多すぎる」「勤務態度があまりに悪い」といった場合も、まずは企業が下記のような流れで指導や環境整備を十分に行うことが必要です。
- 先輩や上司によるフォロー体制を整える
- 定期面談で改善状況をチェック
- 改善が見られず、業務遂行が著しく困難な場合は解雇を検討
14日以内の解雇ルールと解雇予告の要件
労働基準法では、雇用開始から14日以内であれば解雇予告なしに即時解雇が可能とされています。
しかし15日目以降は試用期間中であっても通常の解雇と同様に、30日前の解雇予告、または解雇予告手当を支払う義務が発生します。
また、解雇を通告する場合は口頭で済ませるよりも、解雇通知書や解雇予告通知書を作成して渡すほうがトラブル予防につながります。
解雇の理由や時期を明示し、企業側の主張に客観性を持たせることが重要です。
まとめ
企業としては、試用期間中に従業員をフォローしつつ適性を見極め、本採用後にミスマッチを減らすことが最終的な目的です。
そのためにも、就業規則や雇用契約書に期間や待遇、解雇要件などを正確に定めておくことが欠かせません。
丁寧な運用と明確なルール設定が、企業と従業員の双方にとって有益な試用期間を実現する鍵です。
なお、試用期間からスムーズに本採用につなげるには、そもそも「採用時のミスマッチを減らすこと」が重要です。
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