2024年10月に社会保険の適用が拡大。対象企業や支援制度まで

2024年10月、社会保険の適用対象が拡大されます。
企業は誰が新規対象となるのかを確認し、必要な事務や手続きを進めなければなりません。

そこで当記事では、2024年10月に新たに社会保険の適用対象となる企業について、その条件や必要な手続きを解説します。
社会保険の基礎知識や企業を支援する制度にも触れるため、ぜひ日頃の業務にお役立てください。

社会保険の種類

まずは、そもそも社会保険とは何かを整理します。
社会保険という言葉に定義はなく、一般的には下記2つの使い方がされています。

【狭義の社会保険】

社会保険=健康保険(介護保険)+厚生年金

【広義の社会保険】

社会保険=厚生年金+健康保険(介護保険)+雇用保険+労災保険
※雇用保険と労災保険を合わせて「労働保険」と言われることもあります

今回の適用拡大は「狭義の社会保険」が対象となります。
では、各保険の概要について解説します。

①健康保険

健康保険とは、従業員が怪我や病気など心身の不調を抱えた場合、その生活を保障するための制度です。加入者に渡される被保険者証を医療機関で提示すれば、全額のうち一定の割合の負担で済みます。

管轄は「日本年金機構」で、厚生年金とセットで取り扱うことが多いです。

正社員は基本的に全員健康保険の加入対象であり、パート・アルバイトが厚生年金・健康保険に加入するには下記が前提となります。

(1)常時雇用されていること
(2)週の所定労働時間および1か月の所定労働日数が正社員の4分の3以上

そのうえで、「従業員数101人以上の特定適用事業所に勤務していること。従業員数100人以下の事業所であれば、パート・アルバイトの社会保険加入について労使間での合意があること」が条件です。ただし、2024年10月以降はこの「特定適用事業所」の範囲が広がります(詳細は後述)。

なお、保険料は月給に応じた標準報酬月額をもとに決まり、事業主と雇用者で半分ずつ負担します

※こちらの記事では「健康保険法」について詳しく解説しています
健康保険法とは?制度概要や適用事業所、被扶養者などの基礎知識について徹底解説

②厚生年金保険

厚生年金は、「厚生年金保険法」に基づき国が管理する公的年金です。
70歳未満で常時雇用されている労働者は、全員が加入することになっています。

パート・アルバイトなど短時間勤務労働者の加入条件は、健康保険と同じです。
保険料負担の考え方も同じで事業主と雇用者で半分ずつ負担します。

※厚生年金の制度概要や計算方法など実務面について詳しく知りたい方はこちら
厚生年金保険とは?制度概要や国民年金との違い、計算方法、必要な手続きを解説

③介護保険

介護保険は、介護が必要な方がサービスを受けるために一定の年齢から保険料を納める制度です。
具体的には40歳以上が加入対象で、「社会全体で介護を支える」という考えのもとで成り立っています。

保険料は健康保険と併せて徴収することが一般的で、厚生年金・健康保険と同じく企業と労働者の折半です。

2024年10月の社会保険適用拡大の対象となる企業は?

ここからは2024年10月からの変更点について解説します。

社会保険の適用要件

まずはそもそものパート・アルバイトが社会保険の適用となる要件についてです。

【短時間労働者の社会保険の適用要件】

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 給与月額が88,000円以上
  • 継続雇用期間(見込み)が2か月以上
  • 学生ではないこと

この要件がパート・アルバイトの社会保険加入にあたってのベースとなります。

改正後に適用対象となる人

【適用拡大のイメージ】

(出典:社会保険適用拡大特設サイト|厚生労働省

2024年10月から、従業員数「51~100人」の企業で働くパート・アルバイトが新たに適用対象です。つまり、従業員数が51人以上の企業で上記の適用要件に該当する場合は、パート・アルバイトでも社会保険に加入します。

これまでは従業員数101人以上の企業が対象であったため、パート・アルバイトの社会保険の適用が広がったということになります。

なお、この場合の「従業員数」は下記のどちらかに該当するかどうかでカウントします。

【従業員の数え方】

  • フルタイムで働く従業員
  • 1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数がフルタイムの3/4以上

10月1日の時点で特定適用事業所に該当の場合

パート・アルバイトといった短時間労働者を社会保険の適用対象とすべき事業所は「特定適用事業所」と呼ばれます。

10月1日時点で新たに「特定適用事業者」となるのは、厚生年金保険の被保険者総数が50人を超える月が令和5年(2023年)10月以降で6か月以上である事業所です。
該当する企業には日本年金機構から「特定適用事業所該当通知書」が送付されます。

10月2日以降に特定適用事業所に該当の場合

10月2日以降に「特定適用事業所」となる場合、要件を満たす可能性のある事業所に「特定適用事業所に関する重要なお知らせ」が送付されます。

特定適用事業所の要件を満たしたタイミングで、「特定適用事業所該当届」により届出してください。
なお、要件を満たすのに該当届が提出されていない場合、特定適用事業所に該当したとみなされ、日本年金機構から「特定適用事業所該当通知書」が送付されます。

適用拡大対応のための社内準備

社会保険の適用拡大に対応するためには、下記の流れで準備を進めることが効果的です。

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(出典:社会保険の適用が拡大!従業員数51人以上の企業は要チェック|政府広報オンライン

各ステップでどのような業務が必要なのかについて解説します。

新たな加入対象者を把握する

最初に行うのが新規に加入対象となる従業員の把握です。
新たに特定適用事業所となった企業のうち、「社会保険の適用要件」で説明した内容に該当するアルバイト・パートが対象となります。

【短時間労働者の社会保険の適用要件】

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 給与月額が88,000円以上
  • 継続雇用期間(見込み)が2か月以上
  • 学生ではないこと

対応方針を決定

新たに社会保険に加入する従業員が増えるということは、企業として人件費の支出も増えるということです。どのくらい保険料の負担が大きくなるかを踏まえて、人材活用の方針を固めましょう。
社内だけで方針を固めるのが難しい場合、外部の専門家に相談することもおすすめです。

社内周知を行う

新たに社会保険の加入対象となる従業員に、法律改正の内容を踏まえて周知しましょう。
伝えるのが遅くなると医療機関で保険証を提示した際にトラブルが発生したりするため、できるだけ早めの周知がポイントです。

労働者への説明や面談

周知したうえで、中には制度をよく理解できない方もいると思います。必要に応じて1対1で説明や面談を行いましょう。
特に現在配偶者の扶養内で働いている人は、そのままの労働条件で社会保険に加入すると手取り額が減る可能性があります。社会保険に加入するメリットを明確に伝えながら話し合いを進めることが重要です。

書類を作成・提出

新たに健康保険・厚生年金保険の適用を受ける短時間労働者がいる場合、「被保険者資格取得届」を日本年金機構へ提出します。
被保険者資格取得届は「電子申請・電子媒体申請」で24時間提出することもできますし、日本年金機構の公式サイトから届出用紙をダウンロードして紙媒体での提出も可能です。

企業を支援する制度はあるの?

外部の専門家に支援してもらいたい場合、国として下記のサービスを勧めています。

●専門家活用支援事業
年金事務所が社会保険労務士を紹介してくれる無料サービスです。
社会保険適用拡大や企業の対応について気軽に相談でき、企業の課題に応じたアドバイスをもらえます。

利用にあたってまずは管轄の年金事務所に問い合わせる必要があります。
日本年金機構「全国の相談・手続き窓口」

●よろず支援拠点
よろず支援拠点とは、中小企業・小規模事業者の経営をサポートするための相談窓口で、都道府県ごとに国が設置しています。社会保険適用に関することだけでなく、経営に関する悩みを無料で相談可能です。
下記の専門ページから各都道府県の支援拠点情報にアクセスできます。
よろず支援拠点一覧

●キャリアアップ助成金、働き方改革推進支援センター
キャリアアップ助成金の中に「社会保険適用時処遇改善コース」があり、短時間労働者が新たに社会保険の被保険者となった場合に賃金総額を増加させるなど、処遇改善を講じたときに適用されます。
助成金の申請に不安がある場合は、無料相談窓口である「働き方改革支援センター」を活用するのがおすすめです。
無料相談窓口 働き方改革推進支援センター|厚生労働省

まとめ

パート・アルバイトの社会保険の適用対象が広がることで、給与計算や本人への周知といったいくつかの事務が発生します。対応が遅れると従業員とのトラブルにも発展する恐れがあるため、できるだけ早い準備が望まれます。

なお、自社だけでの対応が難しい場合は、当記事の最後に紹介したように外部機関に頼ることも重要です。無料で相談できるところもあるので、まずは気軽に問い合わせてみるのが良いでしょう。

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この記事を書いた人
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コンノ

公務員として4年間、人事労務の実務経験あり。 これまで100名以上の事業者をインタビューしており、「企業や個人事業主が本当に悩んでいること」を解決できる記事を執筆します。

監修者
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辻 惠次郎

ネットオン創業期に入社後、現在は取締役CTOとしてマーケティングからプロダクトまでを統括。
通算約200社のデジタルマーケティングコンサルタントを経験。特に難しいとされる、飲食や介護の正社員の応募単価を5万円台から1万円台に下げる実績を作り出した。
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