労働人口の減少が続く昨今、多くの企業が「人材確保」に悩んでいるでしょう。
「応募を増やしたい……」
「採用した人材を定着させたい……」
今回は、そんなお悩みを解決するために、人材確保が難しい理由や課題を明らかにし、「採用」と「定着」の両面から具体的な対策を紹介します。
当記事を読めば、自社の人材確保戦略を見直し、効果的な施策を立案するためのヒントが得られます。人材不足解消への筋道を立てるためにぜひお役立てください。
目次
人材確保とは
そもそも「人材確保」とは、企業が必要とする人材を獲得し、長期的に維持することを指します。
具体的には、以下の3つのプロセスから成り立ちます。
- 採用:新たな人材を企業に迎え入れること
- 育成:従業員のスキルや能力を向上させること
- 定着:従業員の離職を防ぎ、長期的に働き続けてもらうこと
人材確保に成功することで、企業にとっては「事業継続性の確保」や「生産性の向上」「イノベーションの創出」といったメリットがあります。
人材確保はなぜ難しい?3つの課題
人材確保が難しくなっている背景には、いまから紹介する3つの大きな課題があります。
これらの課題を理解し、適切に対応することが、効果的な人材確保戦略を立てる上で重要です。
生産年齢人口の減少
日本の生産年齢人口(15歳から64歳)は減少を続けています。
「令和6年版高齢社会白書」によると、2023年時点での高齢化率(65歳以上人口割合)は29.1%。2000年は17.4%、2010年が23.0%なので、生産年齢人口が急減していることが分かります。下記は実際のグラフです。
(出典:令和6年版高齢社会白書「1高齢化の現状と将来像」|内閣府)
これにより、限られた人材を複数企業で取り合う状況になっています。少子高齢化は今後も進むので、この傾向はますます加速するでしょう。
人材要件の高度化
技術革新やグローバル化の進展に伴い、企業が求める人材の要件が高度化・多様化しています。特に、IT・デジタル分野の人材不足が顕著です。
これにより、そもそも求める人材の母数が少なく、企業の人材不足につながるケースがあります。
企業は最初から高度なスキルや経験を持つ人材を狙うのではなく、ポテンシャルを秘めた人材を見極め、社内で育成することも念頭に置く必要があります。
労働者の変化
近年、特に若い世代を中心に、労働者の価値観や働き方に対する考え方が大きく変化しています。
以前の日本は「終身雇用制度」や「年功序列制度」が一般的で、求職者は「長く安定して働ける職場」を求める傾向にありました。
しかし近年は、求める条件が多様化しており、単に高待遇を提示するだけでは優秀な人材を引き付けることができなくなっています。
一例として、さまざまな調査において「ワークライフバランス」を重視する傾向が明らかになっています。
【採用編】人材確保のポイント7選
人材確保に大切なことはひとつではなく、いくつかのポイントを踏まえて戦略を考える必要があります。ここでは、特に意識したい7つのポイントについて解説します。
※こちらの記事では求職者の興味をひくユニークな求人方法を紹介しています
効果の高い求人アイデアとは?方法やユニークな求人事例を徹底解説
※中小企業が抱えやすい採用課題と解決策について知りたい方はこちら
中小企業の採用課題と解決策 成功させる方法とコツを徹底解説
求める人材を明確にする
人材確保の第一歩は、自社が求める人材像を明確にすること。
具体的には以下の3つのステップを踏みます。
スキルや資質を明確にする
求める人材のスキルや資質を具体的に列挙します。
例として、整理したほうがいい要素の一部を紹介します。
- 必要なスキル
- 求められる資格や経験年数
- これまでの実績
- コミュニケーション能力などチームワーク面のスキル
- 自社の企業文化に合致する価値観や姿勢
市場調査
次に「自社の求める人材像」が市場にどのくらいいるのか、他社はどんな募集の仕方をしているのかを調査します。
人材市場の現状を把握するためには、以下のような調査を行います。
- 同業他社の求人情報の分析
- 業界団体や人材紹介会社へのヒアリング
- 求人サイトでの類似職種の給与相場チェック
- 人材確保に成功している企業の採用ページチェック
定期的な見直し
人材像を定期的に見直しましょう。
企業は日を追うごとに成長するので、事業環境に合わせて求める要件は変わってきますし、採用市場におけるトレンドも日に日に変化しているためです。
実際に、人材要件の見直しを定期的に行っている企業は、採用成功率が高い傾向にあります。
離職理由を明確にする
人材の流出を防ぐためには、過去の離職理由を分析することが重要です。ここの対策ができていないと、同じ理由で別の人材が離職してしまうかもしれません。
以下の方法で情報を収集し、対策を立てましょう。
- 退職者へのアンケートや面談の実施
- 現従業員への定期的なヒアリング
- 部署ごとの離職率の比較分析
- 業界平均との比較
主な離職理由としては「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」「人間関係の問題」「仕事が自分に合わない」などがあります。これらの課題に対処することで、人材の定着率向上につながります。
求人媒体を増やす
多様な求人媒体を活用することで、より幅広い層の求職者にアプローチできます。
例えば最近は「求人サイト+求人検索エンジン+自社サイト(採用ページ)」という組み合わせで人材を募集する企業が多くなっています。
これは、求人サイトや求人検索エンジンで「良いかも」という求人を見つけた求職者が、自社サイトでより詳細な情報を確認したうえで応募を決めるためです。
労働条件に関する魅力を伝える
求職者の関心を引くためには、自社の労働条件の魅力を効果的に伝えることが重要です。
以下の点に注目して情報を発信しましょう。
- 給与水準(業界平均との比較)
- 福利厚生の充実度
- 有給休暇取得率や残業時間の実態
- 育児・介護支援制度の内容
- キャリアアップ支援(研修制度、資格取得支援など)
- テレワークや副業の可否
厚生労働省の雇用動向調査においても、「労働時間・休日・休暇の条件」や「職場の雰囲気・人間関係」は、求職者が重視する項目の上位によく挙げられます。
これらの情報を具体的に提示することで、応募者の増加につながる可能性が高まります。
求人情報はわかりやすいものにする
求人情報は、求職者にとって分かりやすく、魅力的なものである必要があります。
以下のポイントに注意して作成しましょう。
- 具体的な職務内容の記載(曖昧な表現は避ける)
- 必要なスキルや経験の明確化
- キャリアパスの提示
- 会社の成長性や将来ビジョンの説明
- 職場環境や社風の紹介(写真や動画の活用)
- 応募プロセスの明確化
求職者が自身のキャリアプランと照らし合わせやすい情報を提供することが重要です。
面接の際も自社の魅力を伝える
面接は、企業側が求職者を評価するだけの場ではありません。
求職者の理解を深めて、入社意欲を高めてもらう場でもあります。
実際に、面接での企業側の対応が入社の決め手になることは少なくありません。
面接官の態度や説明の丁寧さが、応募者の印象形成に大きく影響することを意識して、「ぜひ一緒に働きたい」という思いが伝わるようにコミュニケーションを取りましょう。
内定者を手厚くフォローする
多くの求職者は、同時に複数社の選考を受けています。
内定から入社までの期間は、応募者が他社の選考を継続している可能性もあるため、きめ細かいフォローが重要です。
以下のように、入社後のイメージを具体的に描けるようにサポートしましょう。
- 定期的な連絡(メール・電話・面談など)
- 入社前研修や会社説明会の実施
- 社内イベントや懇親会への招待
- 入社後の配属部署や業務内容の事前説明
- 入社に必要な手続きのサポート
- 内定者同士の交流機会の提供
【定着編】人材確保のポイント5選
人材を確保するには、採用だけでなく「定着」も重要です。
以下に、人材の定着を促進するための5つのポイントを紹介します。
※こちらの記事では人材確保と関係の深い「離職率」について解説しています
離職率とは?下げる方法や計算方法もご紹介。|実際の計算例をあわせて紹介
教育訓練体制を整える
従業員の成長と能力開発は、企業の競争力向上と個人の満足度に直結します。
効果的な教育訓練体制を整えることで、従業員の定着率アップにつながります。
効果的な教育訓練には、実務を通じて学ぶOJT(On-the-Job Training)と、座学や外部研修などのOff-JT(Off-the-Job Training)を適切に組み合わせることが重要です。
特徴 | メリット | |
OJT | 実務を通じて従業員の成長を促進する。 | ・実践的なスキル習得に向いている ・その場でフィードバックをすることができる ・指導担当の従業員のスキル向上にもつながる |
Off-JT | 日常業務と離れた座学や外部研修の機会を設ける。 | ・体系的な知識習得に向いている ・従業員にとって日頃の業務について客観的に見直す機会になる |
人事評価制度を適切にする
公平で透明性の高い人事評価制度は、従業員のモチベーション維持と向上に不可欠です。
企業からの評価が適切であれば、信頼度アップにもつながります。
人事評価制度が曖昧な企業は、その整備を進めましょう。
「360度評価」の導入を検討することもおすすめです。
上司からの視点だけでなく、同僚や部下からの視点も取り入れることで、多角的な評価が可能になります。
※人事評価制度の設計方法について次の記事で解説しています
人事評価制度とは?制度の目的と作り方を徹底解説
労働時間や負担を抑える
長時間労働や過度な負担は離職の原因となります。
ワークライフバランスを保てなくなることはもちろん、健康を害することにもつながるのです。
労働時間を抑えるためのアプローチとして「システムの導入」があります。
例えば、採用活動の情報管理に困っている企業が「採用管理システム」を活用すれば、すべての情報が一元管理でき、コミュニケーションがスムーズになります。
柔軟な働き方ができるようにする
多様な働き方を支援することで、ワークライフバランスの向上と人材の定着につながります。以下のような制度の導入を検討しましょう。
フレックスタイム制 | 会社としてコアタイムを設定したうえで、始業・終業時間を従業員が自由に決められる制度。 通勤ラッシュの回避や、個人の生活リズムに合わせた勤務が可能になります。 |
在宅勤務・テレワーク | ICTを活用し、オフィス以外の場所で業務を行う働き方です。通勤にかける時間や労力の削減、育児・介護との両立などが可能になります。 |
副業・兼業の許可 | 従業員のスキルアップや、多様な経験の獲得を目的として、副業や兼業を認めます。情報管理や労務管理には十分注意が必要です。 |
職場の人間関係を良好に保つ
良好な人間関係は、従業員の満足度に大きな影響を与えます。
もちろん個々の性格や特性も大事ですが、職場環境を整えれば、それ自体が良い人間関係を築くための基盤となります。
例えば、社内イベントや研修を通じ、従業員同士の接点を増やして結束力を高めるのが良いでしょう。
企業理念やビジョンを社長が決めるのではなく従業員同士で考えてもらい、団結力を生むことも効果的です。
取り組み事例5選
人材確保に向けた筋道を立てるには、他社の成功事例を参考にすることも効果的です。
そこで、厚生労働省が公表する「地域で活躍する中小企業の採用と定着 成功事例集」より、採用に成功した事例を5つ紹介します。
事例1:株式会社九州パール紙工
【業種、企業規模】
紙容器・ウッド容器製造販売、包装資材販売
従業員数138名
【取り組み内容】
全国のプロ人材をオンラインで採用できるサービスを活用。若手従業員の育成をかねて、定期的なオンラインミーティングやメッセージのやり取りを実施しました。
また、高校生の求職者にアプローチするためにSNS発信をスタートしました。
【結果】
若い人材を中心に応募が増えて、毎年3~4名の新規採用に成功しています。
SNS発信が従業員のやりがいを向上させ、離職率も低下しています。
事例2:社会福祉法人あいの士山福士会
【業種、企業規模】
特別養護老人ホーム、ケアプランセンター 、デイサービスセンター等の運営
従業員数:167名
【取り組み内容】
過去に退職者が相次いだことからその原因を分析し「腰痛・長時間労働(残業)・メンタル不調」を三大原因として特定。その上で、下記の取り組みを実施しました。
・腰痛対策:リフトをはじめとした機器を導入
・長時間労働:作業をマニュアル化して効率アップ
・メンタル不調:月に1度10分間の1on1面談を実施
【結果】
離職率が3〜5%にまで低下。
さらに、取り組み内容を発信することで幅広い年代の人材確保に成功しています。
事例3:九州環境建設株式会社
【業種、企業規模】
土木工事全般(河川工事、道路工事、下水道工事、舗装工事、既設管更生工事)
従業員数:27名
【取り組み内容】
若い技術者の採用に向けて業務のデジタル化を推進。バックオフィスにクラウド系アプリ、現場に受発注者間で工事情報を共有できるアプリを導入しました。
また、入社後の育成を前提に未経験者採用をはじめたほか、子育て中の従業員を対象に時短勤務制度を設けました。
【結果】
2020~2023年に30代以下の人材を9名採用。休日が増えて働きやすくなったことが大きな要因でした。9名のうち2名が女性、6名は土木科以外の卒業生です。
事例4:アサヤ株式会社
【業種、企業規模】
漁具・船具・漁業資材・漁撈機械の販売、水中ロボットでの漁場調査
従業員数:83名
【取り組み内容】
元々は社長が自分の仕事をしながら採用業務をしていたので、応募者へのレスポンスに時間がかかることがありました。
そこで専任の採用担当者を配置。さらに一次面接を現場責任者が担当して、応募者の適性を判断する際に現場の意見を尊重することにしました。
他に、カジュアル面談の実施や人材に関するコンテンツの充実化といった取り組みも進めました。
【結果】
他業種やUIJターン希望者の応募が増え、1年間で12名の採用に成功しました。
情報発信の強化により応募者が前もって働くイメージを持つことができ、ミスマッチの防止につながっています。
事例5:株式会社みらい
【業種、企業規模】
認可保育園、小規模保育事業所の運営
従業員数:37名
【取り組み内容】
認可保育園への移行に伴い保育士の人材確保が必要になった同社。採用はしたものの、保育士の間に「保育の在り方」について考え方の違いが生じていました。
そこで、従業員とともに保育理念を明確にしたうえで会社の保育方針を策定。HPや採用サイトでも積極的に発信しました。
【結果】
保育理念が保育士に根付いたことで定着率が向上。離職者が減ったことで採用コストが減少し、余裕をもった人員配置ができるようになりました。
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まとめ
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