中小企業の賃上げ、54.6%が実施予定。インフレ手当は「支給しない」が85.1%|<2023年度>中小企業の賃上げ実態調査

物価上昇と人手不足を背景に、国内主要企業はベースアップや初任給の大幅な引き上げなど高水準の賃上げを予定しています。

しかし、中小企業を取り巻く環境は依然として厳しく、コロナ禍で落ち込んだ業績の回復が進む一方で、長引く原材料価格の高騰や人材獲得競争の激化、社会保険の適用拡大など、利益確保に苦慮する企業が少なくありません。
中小企業への賃上げの波及が期待される中、2023年度の賃上げについて中小企業はどのように対応していくのでしょうか。

株式会社ネットオンでは、採用業務クラウド『採用係長』の登録ユーザーである中小企業の採用担当者を対象に、2023年度の賃上げ予定に関するアンケート調査を実施しました。

目次

アンケート回答者属性

今回、アンケートにご回答いただいた事業所様の属性は以下の通りです。
従業員規模が20名以下の事業所様を中心に、「飲食」、「建築・不動産」、「介護・福祉」、「運輸」など様々な事業所様にご回答いただきました。
また、地域につきましても、都市部を中心に全国的に散らばり、あらゆる地域の事業者様にご回答いただきました。

業種

従業員規模

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都道府県

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54.6%が賃上げを「実施する予定」と回答

Q1.2023年度に賃上げ(賞与等の一時的な賃金も含む)を実施する予定はありますか?

はじめに、2023年度の賃上げ予定について質問したところ(n=335)、54.6%の事業所が「実施する予定」と回答。僅差で実施予定のない事業所を上回る結果となりました。

グラフ(Q1.2023年度に賃上げを実施する予定はありますか?)
前回調査(2022年3月実施/n=192)との比較では、「実施する予定」が0.4ポイント上昇。賃上げ予定の事業所の割合には、大きな変化はありませんでした。

業種別の賃上げ予定では、業種ごとに以下のような違いが見られます(回答が10事業所以上あった業種のみをグラフ化しています)。

グラフ(業種別賃上げ予定)※( )内の数字は事業所数

「医療」「冠婚葬祭」「教育」は、60%以上の事業所が賃上げを実施する予定です。さらに「運輸」「介護・福祉」を含めた5業種においては、賃上げを「実施する予定」の事業所が「実施しない予定」の事業所を上回りました。
一方で「小売」は16.7%に留まっており、業種間の差が鮮明になっています。

半数以上が「定期昇給」または「ベースアップ」を実施

Q2.賃上げの内容を教えてください(複数回答)

続いてQ1の質問で賃上げを「実施する予定」と回答した事業所へ(n=183)、賃上げ内容について質問したところ、半数以上の事業所が「定期昇給」または「ベースアップ」を行うことが分かりました。

グラフ(Q2.賃上げの内容を教えてください)
企業が一時的な賃金の増額よりも、従業員にとって長期的な安定につながる「定期昇給」や「ベースアップ」を優先した点については、2022年度と同様です。
ただし、今回の調査では「ベースアップ」が前回調査(39.4%)から12ポイント上昇しています。「ベースアップ」は長期にわたる人件費増が見込まれますが、その割合が増加した点からは、企業がベースアップの必要性を意識せざるを得ない状況にあることが読み取れるのではないでしょうか。

賃上げ率は「2~3%未満」が最多。過半数が5%未満の範囲で実施

Q3.賃上げ率を年収換算ベースで教えてください

賃上げ率については、「2~3%未満」がもっとも多く、20.2%。次に「4~5%未満(16.4%)」、「1~2%未満(15.8%)」が続きました。
全体の63.4%が、5%未満の範囲で賃上げを実施することが明らかになっています。 

グラフ(Q3.賃上げ率を年収換算ベースで教えてください)

56.8%が「正社員と非正規雇用の両方」を対象に賃上げを予定

Q4.賃上げを実施する雇用形態を教えてください

賃上げ対象となる雇用形態についての質問では、56.8%が「正社員と非正規雇用の両方」と回答しています。

グラフ(Q4.賃上げを実施する雇用形態を教えてください)
雇用形態に関わらず賃上げを実施する事業所が過半数を占めた一方で、30%以上が「正規雇用のみ」と回答しました。雇用形態による待遇格差が解消されていない現状を示す結果にもなっています。

賃上げ理由上位は「従業員の生活を支えるため」「従業員の定着率向上のため」「物価高騰に対応するため」

Q5.賃上げを実施する理由を教えてください (複数回答)

賃上げを実施する理由としてもっとも多かったのは、「従業員の生活を支えるため」で、58.5%でした。2位の「従業員の定着率向上(引き留め)のため」も52.5%に上り、半数以上がいずれかを賃上げ理由として選択。3位の「物価高騰による生活費増加に対応するため」も50%に迫っています。

グラフ(Q5.賃上げを実施する理由を教えてください)
一方、「人材採用のため」「業界の給与水準に合わせるため」「業績が伸びた(回復した)ため」は30%未満に留まりました。

賃上げしない理由は「業績の向上(回復)が見込まれていないため」が最多

Q6.賃上げを実施しない理由を教えてください(複数回答)

Q1で賃上げを「実施しない予定」と回答した事業所にも、その理由について質問しました(n=152)。

グラフ(Q6.賃上げを実施しない理由を教えてください)

もっとも多かったのは「業績の向上(回復)が見込まれていないため」。47.4%の事業所が選択しています。2位は「現在の賃金が適切であるため」(37.5%)です。中小企業の厳しい経営状況がうかがえる一方で、現状においては賃上げの必要性を感じていない事業所も少なくないことが分かります。

インフレ手当は、85.1%の事業所が「支給しない」

Q7.物価高騰に対応するためのインフレ手当(特別手当)を支給しますか?

全事業所へ、物価高騰に対応するためのインフレ手当(特別手当)を支給するかどうかについて質問したところ(n=335)、支給する(「すでに支給した」+「これから支給する」)事業所は14.9%に留まりました。

グラフ(Q7.物価高騰に対応するためのインフレ手当を支給しますか?)
賃上げを実施する事業所は半数を超えましたが、インフレ手当については大半の事業所が「支給しない」と回答しています。

インフレ手当の支給額は、一時金・月額手当ともに「1~5万円」が最多

Q8.インフレ手当(特別手当)の支給額を教えてください(自由回答)

Q7でインフレ手当を「すでに支給した」「これから支給する」と回答した事業所へ支給額について質問したところ(n=50)、43事業所から回答が得られました。

支給額は「一時金」「月額手当」ともに「1~5万円」での支給がもっとも多く、いずれも過半数を占めています。
その他の支給には、「休日の食事代」「電気料金補助」「決算賞与の増額」などの回答がありました。

一時金の支給額(28事業所で支給)

グラフ(Q8.インフレ手当(一時金)の支給額を教えてください)
1万円未満には「3,000円」「5,000円」、1~5万円には「10,000円」「20,000円」「30,000円」「40,000円」「50,000円」「10,000〜20,000円」「10,000~30,000円」「10,000~50,000円」、10~30万円には「250,000円」「100,000円~300,000円」の回答がありました。

月額手当の支給額(23事業所で支給)

グラフ(Q8.インフレ手当(月額手当)の支給額を教えてください)
1万円未満には「3,000円」「5,000円」、1~5万円には「10,000円」「12,000円」「15,000円」「20,000円」「30,000円」「40,000円」「10,000〜20,000円」「10,000~30,000円」「15,000~30,000円」「10,000~50,000円」、その他には「10,000~120,000円」の回答がありました。

その他(6事業所で支給)

・休日の食事代1万円(不定期)
・決算賞与を15万円増額
・ランチ代補助(不定期)
・電気料金補助 など

賃上げは「定着率向上のため必須」「資材価格が上がって簡単ではない」など

Q9.賃上げに対して意見や感想があればお聞かせください(自由回答)

Q7でインフレ手当を「すでに支給した」「これから支給する」と回答した事業所(n=50)へ、賃上げに対する意見や感想を聞いたところ、17件の回答を得ることができました。ここではその一部を紹介します(可読性を高めるため、文章の一部を調整済み)。

<自由回答・一部抜粋>※カッコ内は、業種/従業員規模/所在地

  • 出来る限り利益は還元したい(その他/10~19名/埼玉県)
  • 定着率の向上のためには必須(建築・不動産/5~9名/京都府)
  • 物価高ではあるが、企業にとっても資材価格が上がっていて賃上げは簡単ではない(建築・不動産/10~19名/京都府)
  • 成長を続けることにより待遇面を改善できるが、社員には危機感を持って行動してもらいたい(出版・印刷/10~19名/大阪府)
  • 賃上げによって仕事に対する姿勢や意欲が向上すれば、何よりだと思う(その他/~4名/山口県)

「賃上げしたくてもできない」「インフレ手当以外で対応」などの意見も

Q10.賃上げに対して意見や感想があればお聞かせください(自由回答)

インフレ手当を「支給しない」事業所(n=285)からは、101件の回答がありました。内容別に一部を紹介します(可読性を高めるため、文章の一部を調整済み)。

現状では賃上げの実施は難しい

<自由回答・一部抜粋>※カッコ内は、業種/従業員規模/所在地

  • コロナ前の売上まで回復しておらず、賃上げをしたくてもできない(飲食/~4名/埼玉県)
  • 営業利益減少、経費増加の中での賃上げは難しい(教育/~4名/大阪府)
  • 社会保険料の負担と物価高の影響が大きく、賃上げどころではない(介護・福祉/5~9名/茨城県)
  • 電力料の高騰のため、賃上げしたくてもできない(工場・製造/10~19名/愛知県)
  • 福祉・介護業界(特に中小企業)には難しいと思う(介護・福祉/10~19名/大阪府)
  • 加工単価の上昇次第で対応したいとは考えている(工場・製造/5~9名/愛知県)

インフレ手当以外の方法で賃上げを実施

  • インフレ手当ではなく、ベースアップで対応している(飲食/5~9名/茨城県)
  • 定時昇給に織り込んで対応している(医療/5~9名/大阪府)
  • 業績の先行きが分からないため、昇給ではなく賞与で対応する(医療/10~19名/神奈川県)
  • 個々の業績に対する手当で賃金を上げている状況。今のところインフレ手当等は考えていない(士業/~4名/鹿児島県)
  • インフレ手当としては検討していないが、業績と行動評価により査定を行っており、ここ数年は年収ベースで3~12%の賃上げが継続している(整備・修理/5~9名/東京都)

その他

  • 時給アップだけでなく年収の壁もあるため、パートさんの勤務時間が減って困っている(工場・製造/100~199名/愛知県)

まとめ

今回の調査では、中小企業における2023年度の賃上げ予定に関するアンケートを実施しました。結果は、賃上げを「実施する予定」の事業所が54.6%でした。1年前(2022年3月)に実施した前回調査との比較では、0.4ポイントのみの上昇です。
賃上げ状況は横ばいではありますが、賃上げ内容については「定期昇給」または「ベースアップ」を実施する事業所がそれぞれ50%以上。特に企業にとって人件費増につながる「ベースアップ」を実施する事業所の割合が前年(39.4%)よりも増加した点は、記録的な物価上昇や激しさを増す人材獲得競争などを背景に、給与水準の引き上げが避けられない状況にあることを示しているのかもしれません。
それと同じく、賃上げ理由の上位を「従業員の生活を支えるため」「従業員の定着率向上(引き留め)」「物価高騰による生活費増加への対応」が占めていることからも、企業の立場を読み取ることができるでしょう。

一方、賃上げを「実施しない予定」の事業所は全体の45.4%です。その半数近くが「業績の向上(回復)が見込めない」ことを理由として挙げており、「賃上げしたくてもできない」という意見も散見されました。
2023年度は大手主要企業が高水準の賃上げを予定しており、中小企業との格差拡大が懸念されていますが、今回の調査結果からは中小企業間における格差の広がりも進んでいることがうかがえます。

コロナ禍以降、中小企業にとって厳しい状況が続いていますが、企業の存続・成長には人材の確保と定着が不可欠であり、そのための持続的な賃上げは最重要課題のひとつです。厳しい状況にある中小企業こそ、適正な価格転嫁を行うための付加価値の向上やDX導入などによる生産性の向上など、経営体質の強化に力を入れる必要があるのではないでしょうか。
株式会社ネットオンは、採用業務クラウド『採用係長』の提供を通じて採用課題の解決に貢献し、中小企業の成長を支援してまいります。

調査概要

調査名 2023年度の賃上げに関するアンケート調査
調査対象 『採用係長』利用事業所の人事・労務担当者様
有効回答数 335
調査期間 2023年3月9日(木)~3月16日(木)
調査方法 インターネット調査
調査結果の注意点 %を表示する際に小数点第2位で四捨五入しているため、単一回答の場合は100%、複数回答の場合は合計値に一致しない場合があります。

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この記事を書いた人
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馬嶋 亜衣子(samusillee)

採用・キャリア関連、医療分野を中心に執筆を行うフリーランスライター。 各種メディアの取材ライティングやSEOライティング、採用HPのライティングなどに携わっています。

監修者
監修者
辻 惠次郎

ネットオン創業期に入社後、現在は取締役CTOとしてマーケティングからプロダクトまでを統括。
通算約200社のデジタルマーケティングコンサルタントを経験。特に難しいとされる、飲食や介護の正社員の応募単価を5万円台から1万円台に下げる実績を作り出した。
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