賃金引き上げ予定の事業所、63.0%が販売価格に転嫁できず|中小企業における最低賃金引き上げに関するアンケート調査

令和6年(2024年)度の最低賃金の改定は、全国平均で50円の引き上げが決定し、1055円(加重平均)となりました。
引き上げ幅は昨年度を更新し、過去最大。1000円を超える地域は、昨年の8都府県から16都道府県へと拡大しています。

こうした動きは日本経済にとっては好材料ではありますが、賃上げの原資確保に課題を抱える中小企業にとっては死活問題ともいえる状況です。

今年度の最低賃金の改定に対し、中小企業はどのように対応するのでしょうか。

株式会社ネットオンは、最低賃金の改定に伴う賃上げの予定について、採用マーケティングツール「採用係長」の登録ユーザーである中小企業の採用担当者を対象にアンケート調査を実施しました。

アンケート回答者属性

今回、アンケートにご回答いただいた事業所様の属性は以下の通りです。
従業員規模50名以下の事業所様を中心に「飲食」、「介護・福祉」、「医療」、「小売」など様々な事業所様にご回答いただきました。
また、地域につきましても、都市部を中心に全国的に散らばり、あらゆる地域の事業者様にご回答いただきました。

業種

従業員規模

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都道府県

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53.2%の事業所が「賃金を引き上げる」と回答

はじめに、最低賃金の改定による賃上げ予定について質問したところ(n=173)、もっとも多かったのは「引き上げる予定はない」事業所で、46.8%を占めました。

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賃金を引き上げる事業所は、「最低賃金を下回っていないが、引き上げる予定」が23.1%、「下回っていないが、引き上げる予定」が30.1%です。
事業所全体では、過半数(53.2%)が賃上げを予定していることが分かりました。

前回調査(2023年8月実施/n=210)で、引き上げ予定(「最低賃金を下回っているため、引き上げる」+「下回っていないが、引き上げる」)と回答した事業所の割合は63.3%です。

グラフ(前回調査の結果)

今回の調査では「引き上げ予定」が前回より10.1ポイント低下していますが、そのうち「下回っていないが、引き上げる」事業所の割合は7.7ポイント増加しました(前回調査時22.4%/上記グラフ赤枠部分)。

賃上げ予定の割合は減少しましたが、賃上げを行う事業所については、昨年度よりも積極的な賃上げを行う事業所が多い結果となっています。

さらに、「最低賃金を下回った」「下回っていないが引き上げる」「下回っていないため、引き上げない」と回答した事業所の割合を業種別に確認したところ、業種間では以下のような違いが見られました(ここでは24業種のうち、8事業所以上から回答があった11業種をグラフ化しています)。

グラフ(業種別賃金の引き上げ予定)

※表中のカッコ内の数字は回答事業所数

「小売」「医療」「人材」「その他」「建築・不動産」の5業種においては、引き上げない事業所の割合が引き上げる事業所を上回っています。
「その他専門・技術サービス」は「下回っていないが引き上げる」が45.5%を占め、他の業種を大きく上回りました。

引き上げ理由は、「最低賃金の引き上げに対応するため」

Q1で「引き上げる予定」と回答した事業所へ理由について質問したところ(n=92)、71.7%が「最低賃金の引き上げに対応するため」と回答しています。

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2位以下には、「人材採用を有利に進めるため」「従業員の定着率向上(引き留め)のため」が続きました。 一方、「業績が回復した(伸びた)ため」は、7.6%に留まっています。

89.1%が引き上げ後の最低賃金額を「負担に感じる」

引き上げ予定の事業所へ、引き上げ後の最低賃金額を負担に感じるかどうかについて質問したところ(n=92)、57.6%が「非常に負担に感じている」と回答しました。

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「多少負担に感じている(31.5%)」と合わせると、「負担に感じる」事業所は89.1%。最低賃金の引き上げが、中小企業の経営に大きな影響を与えていることが分かります。

もっとも賃金が低くなる職種は「調理」職。平均時給は1021円

すべての事業所へ、今回の最低賃金の引き上げによってもっとも賃金が低くなる職種と、その賃金(時給換算)について質問しました(n=173)。

グラフ(Q4.2024年10月1日時点で、もっとも賃金が低くなる職種と賃金(時給換算)を教えてください)

※表中のカッコ内の数字は回答事業所数

引き上げ後(10月1日時点)にもっとも賃金が低くなる職種は「調理」職。賃金(時給換算)の平均額は1021円です。
最低賃金は地域によって異なるため一概に語ることはできませんが、今回の調査では職種間で500円以上の賃金差が見られました。

人件費の上昇分を「販売価格に転嫁する」事業所は、4割未満

Q1で「引き上げる予定」と回答した事業所へ、人件費の上昇分を販売価格に転嫁するかどうかについて質問したところ(n=173)、63.0%の事業所が「価格転嫁を行わない」と回答しました。

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6割以上の事業所が上昇する人件費を価格に転嫁できないことが明らかとなり、賃上げにおける課題が鮮明になっています。

販売価格にすべて(10割)転嫁できた事業所は、わずか4.7%

Q5で「価格転嫁を行う」または「行った」と回答した事業所へ、販売価格に転嫁した割合について質問したところ(n=64)、もっとも多かったのは「1~3割」で73.4%でした。

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上昇分すべて(10割)を転嫁できた事業所は4.7%です。販売価格に転嫁できた場合においても、上昇分すべてを転嫁することは決して容易ではないことを示す結果といえます。

不安定な株式市場の影響は「ない」が67.1%

すべての事業所へ、昨今の株価の影響について質問しました(n=173)。 「影響がある」と回答したのは32.9%。現状では、「影響がない」事業所が多数を占めています。

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価格転嫁に関する課題が多数。経営悪化を懸念する声も

最低賃金の引き上げに関する意見や感想を求めたところ、賃上げによる経営負担に対する懸念、価格転嫁や人材確保における制度上の課題についての意見を中心に回答が集まりました。

ここでは58件の回答の中から、一部を抜粋して紹介します(可読性を高めるため、文言を調整済み)。

最低賃金の引き上げに対する意見
※カッコ内は、業種/従業員規模/所在地

・適正水準は分からないが、国際競争力等も踏まえて、もう少し現実的な賃上げをしないと生活は苦しいままだと思う(商社・卸売/30~49名/群馬県)
・県でひとくくりにされても困る。賃金を上げるなら雇う側にも補助が必要(小売/10~19名/愛知県)
・中小零細企業には相当の痛手。継続的に補助金(返済義務なし)が欲しい(飲食/5~9名/茨城県)
・配偶者控除などの撤廃なども含めて検討しなければ、就労希望者は働くことができない(金融・保険/5~9名/奈良県)
・扶養の範囲で仕事をしている人の労働時間を減らすことについて、国としてはどう考えているのか知りたい(医療/10~19名/茨城県)

価格転嫁に関する課題

・フランチャイズ経営で価格を変更できないため、賃金引き上げはかなり負担になる(教育/5~9名/大阪府)
・医療は国が定める診療報酬によるので、価格を操作できない。その中での最低賃金の5%の引き上げはとても厳しい(医療/5~9名/大阪府)
・介護報酬も引き上げてほしい(介護・福祉/10~19名/沖縄県)
・国がサービスの料金を定める業種では、賃金を上げても収入は増えない(介護・福祉/10~19名/大分県)
・最低賃金を上げるのは構わないが、価格転嫁が不可能な業種については賃金を引き上げるための予算を作ってほしい(介護・福祉/10~19名/千葉県)

経営悪化に対する懸念

・価格転嫁が厳しい中で最低賃金が毎年上がり、経営継続が難しい状況に追い詰められている(飲食/5~9名/大阪府)
・この景気の悪さで賃金の引き上げは、非常に厳しい。廃業する会社も増えると思う(そのほか生活関連サービス/5~9名/東京都)
・引き上げしても人材確保は難しい(医療/5~9名/鹿児島県)

まとめ

今回の調査では、2024年10月から改定される最低賃金の引き上げに対するアンケート調査を実施しました。
その結果、53.2%の事業所が「引き上げる予定」であることが分かりました。

引き上げ予定の事業所は前回調査(2023年10月実施/n=210)よりも10.1ポイント低下しましたが、「最低賃金を下回っていないが、引き上げる」事業所の割合は7.7ポイント増加しています。
賃上げ理由の2位「人材採用を有利に進めるため」と、3位の「従業員の定着率向上(引き留め)のため」は、いずれも30%近い事業所が選択しました。

一方で「業績が回復(伸びた)した」は7.6%に留まっており、これらの点からはいわゆる“防衛的賃上げ”を選択する事業所が少なくなかったことが読み取れます。

今回の調査では、価格転嫁の有無についても質問しました。
結果は「価格転嫁を行わない」と回答した事業所が63.0%。「価格転嫁を行う(行った)」事業所についても、人件費上昇分のすべて(10割)を転嫁できた事業所は4.7%です。

厳しい経営状況に言及する自由回答からは、価格転嫁できなかった上昇分は生産性の向上でもカバーできていないことが示唆されます。

近年、最低賃金の引き上げ幅は過去最高を更新し続けており、大幅な引き上げは今後も継続するでしょう。
適切な価格転嫁、生産性の向上、支援制度の活用など、中小企業には持続的な賃上げを前提とした経営の舵取りが求められています。
株式会社ネットオンは、採用マーケティングツール『採用係長』の提供を通じて採用課題の解決に貢献し、中小企業の持続的な成長に寄与してまいります。

調査名 2024年最低賃金の引き上げに関する実態調査
調査対象 『採用係長』利用事業所の人事・労務担当者様
有効回答数 173
調査期間 2024年8月20日(火)~9月3日(火)
調査方法 インターネット調査
調査結果の注意点 %を表示する際に小数点第2位で四捨五入しているため、単一回答の場合は100%、複数回答の場合は合計値に一致しない場合があります。

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この記事を書いた人
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馬嶋 亜衣子(samusillee)

採用・キャリア関連、医療分野を中心に執筆を行うフリーランスライター。 各種メディアの取材ライティングやSEOライティング、採用HPのライティングなどに携わっています。

監修者
監修者
辻 惠次郎

ネットオン創業期に入社後、現在は取締役CTOとしてマーケティングからプロダクトまでを統括。
通算約200社のデジタルマーケティングコンサルタントを経験。特に難しいとされる、飲食や介護の正社員の応募単価を5万円台から1万円台に下げる実績を作り出した。
Indeedはもちろん、インターネット広告やDSP広告を組み合わせた効率的な集客や、Google Analytics等の解析ツールを利用した効果分析、サイト改善を強みとしている。

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