最低賃金の引き上げ、68.2%が「負担に感じる」。賃上げ実施は42.2%|中小企業の最低賃金引き上げ対応に関するアンケート調査

2022年10月1日に最低賃金の改定が行われます。引き上げ幅の全国平均は、過去最大。最低賃金の引き上げは、多くの働く人々にとって朗報でしょう。 一方で、新型コロナウイルス感染症やウクライナ情勢に伴う原材料の高騰に加え、急速に進む円安によって、業績悪化に苦しむ中小企業は少なくありません。 先行き不透明な状況が続く中、中小企業は最低賃金の引き上げをどのように受け止めているのでしょうか。 株式会社ネットオンは、最低賃金の改定に伴う賃上げの予定について、採用業務クラウド「採用係長」の登録ユーザーである中小企業の採用担当者を対象にアンケート調査を実施しました。

42.2%の事業所が賃金を引き上げる「予定あり」

Q1.2022年10月より最低賃金が改定されますが、賃金を引き上げる予定はありますか?

はじめに、最低賃金の改定に伴う賃上げ予定について質問しました(n=258)。

 改定によって「最低賃金を下回ったため、引き上げる予定」の事業所が24.4%。「下回っていないが、引き上げる予定」の事業所は17.8%です。賃金を引き上げる予定の事業所は、全体の42.2%でした。 一方、「最低賃金を下回っていないため、引き上げる予定はない」と回答した事業所は、57.8%に上っています。全体では、引き上げる予定のない事業所が過半数を占める結果となりました。 さらに引き上げ予定の事業所について、「最低賃金を下回った」「下回っていない」の割合を業種別に確認したところ、業種間では以下のような違いが見られました(ここでは、賃金の引き上げを予定している21業種のうち、5事業所以上から回答があった7業種をグラフ化しています)。 グラフ(賃金を引き上げる事業所の状況/業種別)

「飲食」「小売」はいずれも、「最低賃金を下回っているため、引き上げる」と回答した事業所が80%以上です。反対に「医療」「その他」「運輸」では、「下回っていないが、引き上げる」事業所が半数を超えています。また過半数には至らないものの、「介護・福祉」と「工場・製造」は40%以上が「下回っていない」と回答しました。 業種ごとにそれぞれの賃上げ事情がうかがえる結果といえるのではないでしょうか。

引き上げ後の最低賃金額に「負担を感じる」事業所は68.2%

続いて、Q1で「賃金を引き上げる予定」と回答した事業所へ(n=109)、引き上げ後の最低賃金額に負担を感じるかどうかについて質問したところ、「負担に感じている」が68.2%に上りました。 内訳は、「非常に負担に感じている」が、40.9%。「多少負担に感じている」が27.3%です。

Q2.引き上げ後の最低賃金額に負担を感じますか?

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 一方で、17.2%は負担に感じていない(「あまり負担に感じていない(13.6%)」+「まったく負担に感じていない(3.6%)」)と回答している点も注目すべきポイントでしょう。

そこで、現状の賃金が改定時の最低賃金を「下回るか」「下回らないか」の状況別でそれぞれの反応を比較してみました。 

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現状の賃金では最低賃金を下回る事業所は、85.7%が賃上げを負担に感じています。それに対し、下回わらない事業所では45.7%でした。 両者には大きな開きがあり、同じ引き上げ予定の事業所であっても、状況はまったく異なることが読み取れますね。

理由は「引き上げに対応」が最多。採用目的も40.0%に

Q3.賃金を引き上げる理由として当てはまるものを選択してください(複数回答)

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 賃金を引き上げる予定の事業所へ(n=109)、その理由を質問しました。 理由としてもっとも多かったのは、「最低賃金の引き上げに対応するため」。引き上げを予定している事業所の65.5%が選択しています。 2位は「人材採用を有利に進められるため」、3位には「従業員の定着率向上(引き留め)のため」が続きました。人材確保に向けた積極的な賃上げを行った事業所も少なくないことが分かります。 一方、「業績が伸びた(回復した)ため」と回答した事業所はわずか2.7%です。賃上げを実施する事業所の大多数が、業績に関わらず賃金を引き上げる予定であることが読み取れます。

引き上げ予定の事業所は、経営悪化や人材確保への影響を懸念

Q1の質問で「賃金を引き上げる予定」と回答した事業所へ(n=109)、引き上げに関する意見や感想を求めたところ、経営悪化や扶養内で働くパート従業員の労働時間減少を懸念する回答が多く集まりました。 ここでは45件の回答の中から、一部を抜粋して紹介します(可読性を高めるため、文言を調整済み)。

Q4. 最低賃金の引き上げに関してご意見やご感想があれば自由にお書きください(自由回答)

経営悪化への懸念
※カッコ内は、業種/従業員規模/所在地

・人材採用にあたっては賃金引き上げは必要かもしれないが、経営圧迫につながる(家事サービス・クリーニング/100~199名/神奈川県)
・最低賃金および仕入れ価格上昇のダブルパンチで非常につらい(飲食/50~99名/兵庫県)
・物価高騰の現状を考えると賃金引上げは必要だと思うが、会社経営自体も物価上昇や円安の影響を受けており、最低賃金引上げ分の確保すら厳しい状況である(小売/1~4名/大阪府)
・物価の上昇に合わせて賃金が上がるのは仕方がないが、経営面ではかなり厳しい(その他/5~9名/大阪府)

扶養内で働くパート従業員への影響

・最低賃金の引き上げは致し方ないが、130万円の壁も変更を希望する(小売/10~19名/静岡県)
・扶養の範囲内で働くパートさんは、勤務時間が減るだけで賃金は変わらない。雇用者側としても、仕事ができるパートさんが少ししか働けなくなるのは非常に困る(医療/10~19名/神奈川県)
・扶養の範囲内で働きたい従業員もいるので、調整が必要となり気を遣う(工場・製造/20~29名/長野県)
・扶養控除の枠は変わらないため、人材確保が余計に大変になった(出版・印刷 /1~4名/東京都)

労働と賃金のアンバランス

・正直に言えば、そこまで能力が到達していないのに支払うのは不満である(飲食/5~9名/愛知県)
・1時間における労働と賃金のバランスが合わなくなってきた(飲食/5~9名/埼玉県)

前向きな賃上げ

・収入が増えることは、とても良いことだと思う(IT/50~99名/千葉県)
・従業員に還元するのは当たり前である(その他/5~9名 /静岡県)

「一律の引き上げは良くない」「扶養制度の見直しが必要」などの意見も

Q1の質問で「賃金を引き上げる予定はない」と回答した事業所にも(n=149)、同じく引き上げに対する意見や感想を求めたところ、60件の回答が得られました。ここでは一部を抜粋して紹介します(可読性を高めるため、文言を調整済み)。

一律ではない引上げが必要
※カッコ内は、業種/従業員規模/所在地

・賃金の引き上げは、業種業態を選定すべき(飲食/1~4名/神奈川県)
・業種に合った適切な賃金体系を作ってほしい(介護・福祉/5~9名/宮崎県)
・業種や規模に応じた、細かい差が必要だと思う(介護・福祉/5~9名/宮崎県)

このタイミングでは引き上げない

・元の賃金が低くないため、引き上げは今のところ無い。ただ、最低賃金の引き上げ自体は良いことだと思う(コールセンター/1~4名/神奈川県)
・業界最高水準の時給を出しているため、最低賃金の変更による影響はない(教育/10~19名/東京都)
・今年賃金を上げたばかりなので、10月に上げるつもりはない(その他専門・技術サービス/1~4名/福岡県)
・賃金の考え方として、基本給のほかに各種手当やインセンティブ、または賞与等で総合賃金として考えている(整備・修理/10~19名/広島県)

扶養制度の課題も解消すべき

・学生の場合、扶養を外れないように勤務すると年間の勤務時間が減ってしまう。雇用する側からすると勤務可能時間の減少は厳しい(飲食/5~9名/東京都)
・最低賃金の引き上げと同時に扶養の範囲か扶養の制度自体見直しをしたほうが良い(士業/1~4名/山梨県)

経営面で引き上げは厳しい

・コロナ対策が出来ない限り仕事が安定しないため、まだ無理だと思う(建築・不動産/1~4名/愛媛県)
・中小企業は経済活動がまだ低迷している上、値上げの転嫁を十分にできていない(商社・卸売/5~9名/岡山県) 働く人が守られるのは良いことだが、コロナ禍で売上が落ちている中、賃金が上がると安定して雇用できない零細業者には厳しい(飲食/5~9名/東京都)

まとめ

今回の調査では、2022年10月1日から改定される最低賃金の引き上げに関するアンケート調査を実施しました。その結果、42.2%の事業所が今回の改定に伴って賃上げを予定していることが分かりました。

また引き上げ後の最低賃金額を「負担に感じている」事業所は、賃上げ予定の事業所の68.2%に上っています。 そうした中でも、賃上げを予定している事業所の42.2%(全体の17.8%)は「最低賃金を下回っていないが、賃上げを予定している」と回答。採用や既存従業員の引き留めなど、人材確保のための対策として賃上げを実施する事業所も少なくないことが分かります。

また自由回答では、扶養内で働く従業員を多く雇用する事業所を中心に、年収の壁に関する意見が多くみられました。賃上げの影響によって、賃上げの影響によって、中小企業が人材確保における新たな課題に直面していることも明らかになっています。 加えて、「経営面で厳しい」という回答も散見されましたが、多くの事業所に共通しているのは、賃上げ自体を否定してはいない点です。原材料の高騰や円安が進む現状においての賃上げが、中小企業にとって大きな負担になっていることは言うまでもないでしょう。

2022年10月からは、社会保険加入の適用拡大が中小企業にも段階的に義務付けられるため、雇用に伴う負担はさらに大きくなることが予想されます。経営コストが急激に上昇する中、生産性や価格転嫁力の向上など、中小企業に求められる事業変革の必要性は加速度的に高まっていくのではないでしょうか。

株式会社ネットオンは、今後も中小企業の動向を見守りながら効率的な採用活動を支援し、採用業務クラウド『採用係長』の提供を通じて採用課題の解決に貢献してまいります。

調査名 賃金の引き上げに関するアンケート調査
調査対象 『採用係長』利用事業所の人事・労務担当者様
有効回答数 258
調査期間 2022年9月5日(月)~9月15日(木)
調査方法 インターネット調査
調査結果の注意点 %を表示する際に小数点第2位で四捨五入しているため、単一回答の場合は100%、複数回答の場合は合計値に一致しない場合があります。

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馬嶋 亜衣子(samusillee)

採用・キャリア関連、医療分野を中心に執筆を行うフリーランスライター。 各種メディアの取材ライティングやSEOライティング、採用HPのライティングなどに携わっています。

監修者
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辻 惠次郎

ネットオン創業期に入社後、現在は取締役CTOとしてマーケティングからプロダクトまでを統括。
通算約200社のデジタルマーケティングコンサルタントを経験。特に難しいとされる、飲食や介護の正社員の応募単価を5万円台から1万円台に下げる実績を作り出した。
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