人材確保に動く中小企業、59.6%が賃金を「引き上げ済み」または「上げる予定」|中小企業の賃金に関するアンケート調査

緊急事態宣言解除に伴う経済活動の再開を受け、営業時間の平常化が進む飲食業を筆頭に、各業界において人材確保に向けた動きが活発化しています。求人件数の急速な回復を背景に時給の上昇が進んでおり、10月度の平均時給が新型コロナウイルス流行前の2019年11月を上回ったという調査結果も発表されました(※)。

中小企業が人材採用を行ううえで、「賃金の引き上げ」は重要なテーマのひとつです。そこで株式会社ネットオンでは、採用業務クラウド『採用係長』の登録ユーザーである中小企業の採用担当者を対象に、賃金に関するアンケート調査を実施しました。

コロナ禍からの脱却に向けて各社が採用活動を活発化させている今、中小企業は賃金の引き上げについてどのように考えているのでしょうか。中小企業の採用動向と賃金引き上げへの対応状況について、アンケート結果をもとに紹介します。

2021年10月度 三大都市圏(首都圏・東海・関西)におけるフード系職種のアルバイト・パート平均時給(株式会社リクルート)

現在、中小企業の87.8%が採用活動を行っている

はじめに採用活動の状況について質問したところ(n=409)、87.8%の事業所が「はい(=採用活動をしている)」と回答しました。緊急事態宣言が解除され、中小企業の大部分が人材確保に動いています。

Q1.現在採用活動を行っていますか?

円グラフ(Q1.現在採用活動を行っていますか?)

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35.1%の事業所が緊急事態宣言解除後に賃上げを実施

続いて現在採用活動をしている事業所へ、賃金の引き上げについて質問したところ(n=359)、「はい(=引き上げた)」と回答した事業所は、35.1%。採用活動を行う中小企業の3割以上が、緊急事態宣言の解除後に賃金を引き上げていたことが分かりました。

Q2.緊急事態宣言が解除された10月以降で、賃金の引き上げを行いましたか?

円グラフ(Q2.緊急事態宣言が解除された10月以降で、賃金の引き上げを行いましたか?)

賃上げの主な理由は、「最低賃金の改定」と「人材確保」

賃金の引き上げ理由については、「最低賃金が改定されたため」がもっとも多く、2位は「人材確保」でした。
2位と3位の「従業員の定着率向上(引き留め)のため」を合わせると、人材に関わる回答が75%を超えており、賃金アップの効果に期待する事業所が多いことがうかがえます。

Q3.賃金の引き上げを行った理由を教えてください(複数回答)。

棒グラフ(Q3.賃金の引き上げを行った理由を教えてください(複数回答)。))

また「業績が伸びた(回復した)」は11.9%に留まっており、業績に関わらず賃上げを実施した事業所が多いことも分かりました。

94.4%は、賃金引き上げ後も「人材不足が解消されていない」

人手不足の解消状況については、94.4%が「いいえ(=解消されていない)」と回答しています。中小企業における人手不足は、すでにコロナ前の状況に戻っていることが明らかになりました。

Q4.人手不足は解消されましたか?

円グラフ(Q4.人手不足は解消されましたか?)
ただし、賃金の引き上げ時期が10月以降のため、人手不足の解消状況を評価するには、今後の経過を見守ることが必要でしょう。

1年以内に賃上げを予定している事業所は、37.8%

緊急事態宣言解除後に賃上げをしなかった事業所へ、今後の予定について質問したところ(n=233)、「上げる予定」と回答した事業所は37.8%でした。

Q5.賃金を上げる予定はありますか?

円グラフ(Q5.賃金を上げる予定はありますか?)
採用活動中の事業所(n=359)においては、「賃上げ実施済み」と「今後上げる予定」が59.6%に上ります。6割近くの事業所が人材獲得における賃金設定の重要性を意識して、採用に取り組んでいることが分かりました。

また、現在採用活動を行っていない事業所における採用活動再開時の賃上げ予定については、「はい(=上げる予定)」が24.0%です。

Q6.次回、採用活動を再開される際に賃金をあげる予定はありますか?

円グラフ(Q6.次回、採用活動を再開される際に賃金をあげる予定はありますか?)
ここまでの結果を整理すると、全事業所の55.3%が「賃上げ実施済み」「今後上げる予定」「採用活動再開時に上げる予定」のいずれかです。採用活動の実施状況に関わらず、事業所全体においても半数以上が賃上げを重視していることが見て取れますね。

賃金を上げる理由は、「人材確保」と「従業員の定着」

今後賃上げを予定している事業所へ理由について質問したところ(n=100)、「人材確保のため」と「従業員の定着(引き留め)のため」がいずれも50%を超えました。

Q7.賃金を上げようと考えている理由を教えてください(複数回答)。

棒グラフ(Q7.賃金を上げようと考えている理由を教えてください(複数選択可)。)
3位は「業績の向上(回復)が見込めるため」で、30%に迫っています。この結果からは、緊急事態宣言解除後に賃金を引き上げなかった背景に新型コロナウイルスの影響があったと推測でき、賃金引き上げに対する企業の葛藤がうかがえます。

さらに「賃上げ実施済み」と「今後引上げる予定」を合わせた場合(n=226)の各理由の割合を見ておきましょう。
棒グラフ(「賃上げ実施済み」と「今後引上げる予定」の理由)
全体では「人材確保のため」がもっとも多く、55.3%。「従業員の定着率向上(引き留め)のため」と合わせると、95.1% です。賃金を引き上げる理由がより鮮明になりました。

賃金を上げない理由は、「業績の向上(回復)が見込めていない」

賃金を上げる予定のない事業所へ理由について質問したところ(n=171)、「業績の向上(回復)が見込めていないため」がもっとも多く、39.8%が回答しました。

Q8.賃金を上げない理由を教えてください(複数回答)。

棒グラフ(Q8.賃金を上げない理由を教えてください(複数回答)。)

一方で、2位と3位には「賃金を上げなくても人材確保ができているため」と「他社・他店が上げていないため」が続いています。人材獲得の手段として、賃上げの必要性を感じていない事業所も少なくないことが読み取れますね。

また「その他」には、以下のような回答がありました。回答の一部を抜粋して紹介します(可読性を高めるため、文言を調整しています)。

その他

・既存社員の賃金とのバランス調整が難しいため
・すでに賃上げを実施したから
・能力に応じた、最高水準の賃金をお支払いしているため
・人員不足で現状維持が必須のため(人員が増えれば対応できるお客様も増えるので、賃金も上げられる)

賃金を引き上げられない理由だけでなく、上記のように引き上げ済みや初めから賃金が高く設定されているなどの回答も見受けられました。

Q9.賃金を上げる以外で、人材確保のための工夫があれば教えてください(自由回答)。

人材確保のために行っている工夫については、188件の回答がありました。ここでは一部を抜粋して、カテゴリ別に紹介します。

労働環境の改善

・短時間勤務やフレックスタイム制の導入
・希望優先のシフト
・就労時間の見直し
・メニューやオペレーションの見直しなどによる業務負担の軽減
・休日の増加、有給休暇取得の義務化 など

福利厚生など待遇面の改善

・資格取得のサポート
・食事補助
・福利厚生サービスへの加入
・その他福利厚生の充実 など

求人手法の工夫

・SNSを活用したPR
・募集条件の緩和
・従業員からの紹介制度の導入 など

社内コミュニケーションの活性化

・定期的な個別面談や情報共有ミーティングの実施
・目標の共有
・食事会の実施 など

その他

・パートの退職金設定
・消滅有給休暇の買上げ
・手当の拡充
・交通費支給基準の見直し
・各種研修の実施(研修内容の充実)など

多様な求人手法への対応や労働環境の改善、福利厚生の拡充など、さまざまな工夫をして人材確保に取り組んでいる様子がうかがえました。

まとめ

緊急事態宣言の解消に伴って求人件数が急速に回復していることを受け、中小企業を対象に賃金に関するアンケート調査を実施しました。その結果、採用活動をしている事業所の35.1%が緊急事態宣言解除後に賃金の引き上げを実施。「上げる予定」の事業所をを含めると、60%に迫ることが明らかになりました。
理由には、「人材確保」や「従業員の定着率向上(引き留め)」が上位に並んでおり、採用競争や人材流出の対策として賃金に重きを置いていることが分かります。ただし、賃金の引き上げによって人手不足が解消できた事業所は、現時点ではわずか5.6%です。中小企業における人手不足は厳しい状況が続いていることから、さらなる賃上げの実施も予想されます。

また今回の調査では、「賃上げを実施していない」または「上げる予定がない」事業所も、採用活動中の企業の半数近くを占める結果となりました。理由は「業績の向上(回復)が見込めていない」がもっとも多かった一方で、「賃金を上げなくても人材確保ができている」「他社・他店が引上げていない」が同程度あり、賃上げの必要性を感じていない事業所も少なくないようです。新型コロナウイルスの今後は予測ができませんが、仮に経済活動の再開が順調に進めば企業の業績は回復し、採用競争も激化するでしょう。求人票に記載する「給与」は、求職者の応募意欲を左右する重要な情報ですから、現時点で必要性を感じていない事業所が賃上げを検討せざるを得ない状況になるのは、時間の問題かもしれません。

株式会社ネットオンでは、こうした中小企業の動向を見守りながら人材確保への取り組みをサポートし、採用業務クラウド『採用係長』の提供を通じて採用課題の解決に貢献してまいります。

調査概要

調査名 中小企業の賃金に関するアンケート調査
調査対象 『採用係長』利用事業所の人事・労務担当者様
有効回答数 409
調査期間 2021年12月2日(木)~12月8日(水)
調査方法 インターネット調査
調査結果の注意点 %を表示する際に小数点第2位で四捨五入しているため、単一回答の場合は100%、複数回答の場合は合計値に一致しない場合があります。

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この記事を書いた人
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馬嶋 亜衣子(samusillee)

採用・キャリア関連、医療分野を中心に執筆を行うフリーランスライター。 各種メディアの取材ライティングやSEOライティング、採用HPのライティングなどに携わっています。

監修者
監修者
辻 惠次郎

ネットオン創業期に入社後、現在は取締役CTOとしてマーケティングからプロダクトまでを統括。
通算約200社のデジタルマーケティングコンサルタントを経験。特に難しいとされる、飲食や介護の正社員の応募単価を5万円台から1万円台に下げる実績を作り出した。
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