中小企業の事業活動を支えるために、国や地方自治体ではさまざまな補助金を給付しています。
「小規模事業者持続化補助金」もそのひとつです。 小規模事業者の売上拡大や生産性向上に向けた取り組みを支援するために設けられた補助金で、定期的に公募が実施されています。
この記事では、小規模事業者持続化補助金の制度内容や申請方法を紹介。審査のポイントも解説していますので、補助金の活用を検討している方はぜひ参考にしてください。
目次
小規模事業者持続化補助金とは
小規模事業者持続化補助金とは、小規模事業者の販路開拓や生産性向上などの取り組みを支援するための補助金です。
小規模事業者の持続的な発展を目的として、申請が採択された事業者に対して給付が行われます。
2020年に第1回の公募が行われてから、これまで16回実施されてきました。
小規模事業者持続化補助金に係る取り組みは、地域の商工会または商工会議所のサポートを受けて行うことが前提となるため、補助金の申請には商工会または商工会議所の発行する書類(事業支援計画書)が必要です(商工会・商工会議所の会員である必要はありません)。
事業者が用意する書類だけでは申請できない点に留意しておきましょう。
第17回の公募開始日
2024年8月の公募開始を予想する情報が多くあった第17回ですが、10月時点で公募開始の情報はまだ公開されていません。
なお、能登半島地震の発生により設けられた「災害支援枠(第5回)」は、9月9日に申請受付を開始しました。
小規模事業者持続化補助金の採択率
小規模事業者持続化補助金は申請書類を提出後、補助金の給付が認められた場合に支給されます。これまでの採択率を確認しておきましょう。
グラフ:中小企業庁の発表をもとに作成
小規模事業者持続化補助金の採択率は、第1回(2020年3月)から50~60%台で推移していましたが、第15回以降は大幅に低下しています。
2024年5月8日に公募を開始(8月8日に採択発表)した第16回では、初めて40%を下回りました。 第15回は申請方法が変更され、第16回には申請期間が大幅に短縮されました。
これらの点が採択率低下の要因のひとつとして考えられています。
スケジュールや申請方法の変更
小規模事業者持続化補助金のスケジュールは実施回ごとに異なり、申請要件が変更されることもあります。
スケジュール(申請期間と実施期間)の短縮
第16回では、申請期間と事業実施期間(補助の対象となる取り組みを完遂する期間)がそれ以前よりも大幅に短縮されました。
また公募要領の公開日と申請受付開始日が同日だったため、提出書類を準備する期間も限られていたはずです。
公募要領公開 | 申請受付開始 | 申請受付締切 | 事業実施期間 | |
---|---|---|---|---|
第14回 | 2023年9月12日 | 2023年9月12日 | 2023年12月12日 | 2024年3月4日~8月31日 |
第15回 | 2024年1月16日 | 2024年2月9日 | 2024年3月14 日 | 2024年6月5日~10月31日 |
第16回 | 2024年5月8日 | 2024年5月8日 | 2024 年5月27日 | 2024年8月8日~11月4日 |
参照:小規模事業者持続化補助金<一般型>公募要領(商工会議所地区小規模事業者持続化補助金事務局)第14回/第15回/第16回
小規模事業者持続化補助金の申請は、受付期日の厳守はもちろん、採択されれば指定された期間内に取り組みを終えることが必須です。
スケジュールは実施回ごとに違いがあり、公募要領が公開されるまで詳細は分かりませんが、第17回も期間が短いことを想定したうえで準備に着手する必要があるでしょう。
2.専用システムからの「電子申請」へ
小規模事業者持続化補助金の申請は、第12回から原則として電子申請です。
郵送による書類提出も可能ではありますが、審査の際に減点対象となることが公募要領に明記されています。
特別な事情がない限りは、電子申請を行いましょう。
さらに第15回からは申請の際に利用するシステムが変更されました。
申請システム(https://16th.jizokuka-portal.info/)の利用には、専用アカウント(GビズIDアカウント)が必要です。
新規アカウントの発行には2週間程度かかるため、アカウントのない事業者は公募開始前に発行手続きを済ませておくことをお勧めします。
小規模事業者持続化補助金の交付を受けるには
小規模事業者持続化補助金は、「1.応募(申請書類の提出)」「2.取り組みの実施&完了・実績報告」「3.補助金の請求」の3つのステップを経て、交付を受けることが可能です。
画像出典:小規模事業者持続化補助金<一般型>第16回公募 参考資料(事業スキーム)
1.応募(申請書類の提出)
補助金の交付を受けるための最初のステップは、補助金への応募です(上記図 1・2)。申請書類の中には商工会・商工会議所が発行する「事業支援計画書」が含まれるため、まずは商工会・商工会議所へ相談の申し込みを行いましょう。
2.取り組みの実施&完了・実績報告
申請が採択された場合は、計画に基づき補助事業(取り組み)を実施。補助事業の完了・実績を事務局へ報告します(上記図 6)。
3.補助金の請求
事務局にて取り組み内容の確認が行われます。その後、通知された補助金額を事務局へ請求。事業者へ補助金が交付されます(上記図 7・8・9)
申請に必要な書類
申請に必要な書類は以下のとおりです。
直近の確定申告書(決算期を一度も迎えていない場合は開業届)×〇
必要書類 | 法人 | 個人事業主 |
---|---|---|
システム上で入力する申請書類 ・小規模事業者持続化補助金事業に係る申請書 ・経営計画兼補助事業計画1 ・補助事業計画2 ・補助金交付申請書 ・宣誓、同意書 |
〇 | 〇 |
事業支援計画(商工会・商工会議所が交付したもの) | 〇 | 〇 |
貸借対照表および損益計算書(直近1期分) | 〇 | × |
株主名簿(該当者のみ)※法人のみ | 〇 | × |
この他、希望する枠や特例等によって追加書類が必要になる場合があります。必ず申請回の公募要領をご確認ください
小規模事業者持続化補助金の補助率と上限
小規模事業者持続化補助金では、取り組みにかかる費用に対する補助率と上限額が決められています。 第16回の補助金率と上限額は、以下のように設定されていました。
画像出典:小規模事業者持続化補助金<一般型>第16回公募 公募要領(4.補助率、補助上限額等)
上記の表からも分かるとおり、小規模事業者持続化補助金には「通常枠」に加えて、4つの「特別枠」があります。 また過去には「インボイス枠」がありましたが、現在は廃止。その代わりとして、各申請枠において上乗せ可能な「インボイス特例」が設けられています。
5つの申請枠と申請要件
小規模事業者持続化補助金には、「通常枠」と「特別枠」の5つの申請枠があります。申請要件に該当すれば、通常枠より補助上限の高い特別枠にも応募が可能です。
ここでは、第16回の申請枠と申請要件を紹介します。
賃金引上げ枠
賃金引上げ枠は、最低賃金の引き上げに加えて、さらなる賃上げを実施する小規模事業者を支援するための特別枠です。
賃金引上げ枠の申請要件
・補助事業の終了時点において、事業場内最低賃金が申請時の地域別最低賃金より+50 円以上であること
卒業枠
事業規模拡大に意欲的な小規模事業者を支援するための特別枠です。
申請要件
・補助事業の終了時点において、常時使用する従業員の数が小規模事業者として定義する従業員数を超えている(以下の表に該当する)こと
画像出典:小規模事業者持続化補助金<一般型>第16回公募 公募要領(特別枠における申請要件について)
創業枠
創業した事業者を重点的に支援するための特別枠です。
創業枠の申請要件
・「特定創業支援等事業」による支援を受けた日および開業日(設立年月日)が公募締切時から起算して過去3か年の間であること
後継者支援枠
将来的に事業承継を行う予定があり、新たな取り組みを行う後継者候補を支援する特別枠です。
後継者支援枠の申請要件
・申請時において、「アトツギ甲子園(※)」のファイナリスト又は準ファイナリストになった事業者であること
※経済産業省が主催する、既存の経営資源を活かした新規事業アイデアを競うピッチイベント
通常枠
上記の特別枠に該当しない場合は、通常枠として申し込みを行います。
通常枠の要件
・経営計画に基づいて実施する販路開拓や、その取り組みと合わせて行う業務効率化(生産性向上)のための取り組みであること
インボイス特例
免税事業者から適格請求書発行事業者へ転換した事業者に対する特例です。要件を満たす事業者には、各申請枠の補助上限額に50万円が上乗せされます。
インボイス特例の要件
以下のいずれかの事業者であること
・2021年9月30日~2023年9月30日の属する課税期間で一度でも免税事業者であった事業者
・2023年10月1日以降に創業した事業者のうち、適格請求書発行事業者の登録を受けた事業者
審査のポイント
小規模事業者持続化補助金の採択審査方法は、公募要領に以下のように明記されています。
補助金の採択審査は、提出資料について、「審査の観点」に基づき、有識者等により構成される審査委員会において行います。採択審査は非公開で提出資料により行います。提案内容に関するヒアリングは実施しませんので、不備のないよう十分ご注意ください。
審査の観点は、「基礎審査」「計画審査」「加点審査」の3つです。
基礎審査 | 申請要件を満たしているかどうかの審査。満たしていない場合は失格 |
---|---|
計画審査 | 経営計画書・補助事業計画書の内容の審査。総合評価が高い計画案から順に採択される |
加点審査 | 該当する場合に申請できる加点項目(重点政策加点・政策加点から1種類ずつ申請可) |
各審査についての評価基準と加点要件等は、公募要領に詳しく記されています。
例えば、計画審査(経営計画書・補助事業計画書の審査)における評価基準は、以下のとおりです。
画像出典:小規模事業者持続化補助金<一般型>第16回公募 公募要領(7.採択審査)
経営計画・補助事業計画を策定する際は、上記の評価項目を押さえることがポイントです。分析結果や目標を数値化し、評価項目を意識した具体的な計画書を作成しましょう。
小規模事業者持続化補助金の補助対象経費と取り組み例
小規模事業者持続化補助金の補助対象経費と取り組み例小規模事業者持続化補助金では、以下の経費が補助対象として定められています。
- 機械装置等費
- 広報費
- ウェブサイト関連費
- 展示会等出展費(オンラインによる展示会・商談会等を含む)
- 旅費
- 新商品開発費
- 資料購入費
- 借料
- 設備処分費
- 委託・外注費
ただし、経費として認められるには諸条件が設けられている場合があります。条件を満たさない申請は不採択となるため、必ず公募要領を確認しましょう。 また取り組み例としては、以下が一例として挙げられています。
<販路開拓等(生産性向上)の取組事例>
・新商品を陳列するための棚の購入
・新たな販促用チラシの作成、送付
・新たな販促用PR(マスコミ媒体での広告等)
・新たな販促品の調達、配布
・国内外の展示会、見本市への出展、商談会への参加
・新商品の開発
・新商品の開発にあたって必要な図書の購入
・新たな販促用チラシのポスティング
・国内外での商品PRイベントの実施
・新商品開発にともなう成分分析の依頼
・店舗改装(小売店の陳列レイアウト改良、飲食店の店舗改修を含む)
<業務効率化(生産性向上)取組事例>
・新たに倉庫管理システムのソフトウェアを購入し、配送業務を効率化する
・新たに労務管理システムのソフトウェアを購入し、人事・給与管理業務を効率化する
・新たに POS レジソフトウェアを購入し、売上管理業務を効率化する
・新たに経理・会計ソフトウェアを購入し、決算業務を効率化する
引用元:小規模事業者持続化補助金<一般型>第16回公募 参考資料(取組事例等)
まとめ
小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者の販路拡大や生産性向上をサポートするための支援制度です。
第16回のように申請受付から締切までの時間が短いケースもあるため、補助金の活用を具体的に検討している事業者は、過去実施回の公募要領を参考にしながら準備を進めておきましょう。
販路拡大や生産性向上に向けた事業計画の策定は、補助金申請の有無や採択の可否に関わらず、中小企業にとって非常に重要なことでしょう。原材料の高騰や賃上げ、社会保険の負担増など、厳しい状況の中で事業を存続させるには、こうした取り組みが不可欠だからです。
経営力を高める取り組みが思うように進まない中小企業は、その取り組みを促すきっかけとして補助金申請を活用しても良いのではないでしょうか。
同じカテゴリ内の人気記事