毎年10月に行われる最低賃金の改定。令和5年(2023年)は、全国平均が初めて1000円を超えて、1004円(加重平均)となりました。引き上げ幅は前年を更新し、過去最大となっています。
コロナ収束後のリバウンド需要で景気回復が進む一方、近年の世界情勢や円安進行に伴う原材料の高騰、社会保険の適用拡大など、中小企業をとりまく環境は依然として厳しい状況です。
物価上昇と人手不足を背景とした賃上げも続いており、難しい舵取りを迫られる中小企業は少なくありません。
そうした中、今回の最低賃金の改定は中小企業にどのような影響を与えるのでしょうか。
株式会社ネットオンは、最低賃金の改定に伴う賃上げの予定について、採用業務クラウド「採用係長」の登録ユーザーである中小企業の採用担当者を対象にアンケート調査を実施しました。
目次
アンケート回答者属性
今回、アンケートにご回答いただいた事業所様の属性は以下の通りです。
従業員規模が20名以下の事業所様を中心に、「飲食」、「建築・不動産」、「介護・福祉」、「医療」など様々な事業所様にご回答いただきました。
また、地域につきましても、都市部を中心に全国的に散らばり、あらゆる地域の事業者様にご回答いただきました。
業種
従業員規模
都道府県
63.3%の事業所が「賃金を引き上げる予定」と回答
はじめに、最低賃金の改定による賃上げ予定について質問しました(n=210)。
もっとも多かった回答は、「最低賃金を下回ったため、賃金を引き上げる予定」です(40.9%)。「最低賃金を下回っていないが、賃金を引き上げる予定」の事業所も含めると、全体で63.3%が賃上げを予定していることが分かりました。
賃金を引き上げる事業所の割合は、2022年9月に実施した前回調査(引き上げ予定 42.2%/有効回答数 258)から21.1ポイント増加しています。
また前回調査では、約6割の事業所が「最低賃金を下回っていないため、賃金を引き上げる予定はない」と回答していました。
今回の改定で最低賃金を下回った事業所がこの中に多く含まれていたと推測できるでしょう。加えて、最低賃金をベースとした賃金設定を行っている事業所が少なくないことも読み取れます。
さらに今回の改定によって「最低賃金を下回った」「下回っていない」の割合を業種別に確認したところ、業種間では以下のような違いが見られました(ここでは27業種のうち、6事業所以上から回答があった12業種をグラフ化しています)。
※表中のカッコ内の数字は回答事業所数
「小売」「介護・福祉」「飲食」は、いずれも60%以上が今回の改定で最低賃金を下回っています。 一方、下回る事業所が30%以下の業種は5業種ありました。
もっとも少なかった「建築・不動産」においては10%未満となっており、業種間の賃金格差が浮き彫りになっています。
引き上げ理由は、「最低賃金の引き上げに対応するため」
Q1で「賃金を引き上げる予定」と回答した事業所へ理由について質問したところ(n=133)、「最低賃金の引き上げに対応するため」がもっとも多く、70.7%が回答しました。
一方で、約3割は「従業員の定着率向上(引き留め)のため」「人材採用を有利に進めるため」に賃上げを実施。「業績が回復した(伸びた)ため」はわずか3.0%であり、大半の事業所が業績に関わらず賃金を引き上げることが読み取れます。
90.2%が引き上げ後の最低賃金額を「負担に感じる」
続いて「賃金を引き上げる予定」の事業所へ、引き上げ後の最低賃金額に負担を感じるかどうかについて質問したところ(n=133)、「非常に負担に感じている」事業所が過半数を占めました。
全体の90.2%が最低賃金額を「負担に感じている」(「非常に負担に感じている」+「多少負担に感じている」)と回答しています。 過半数が「非常に負担に感じている」ことからも、中小企業の経営に及ぼす影響の大きさを示しているといえるでしょう。
もっとも賃金が低くなるのは「介護・福祉」職、平均時給は1028円
すべての事業所へ、今回の最低賃金の引き上げによってもっとも賃金が低くなる職種と、その賃金(時給換算)について質問しました(n=192)。
※表中のカッコ内の数字は回答事業所数
引き上げ後(10月1日時点)にもっとも賃金が低くなる職種は、「介護・福祉」職でした。賃金(時給換算)の平均額は1028円です。
多くの事業所が経営悪化を懸念。パート従業員の確保に追われる事業所も
最低賃金の引き上げに関する意見や感想を求めたところ、人件費の上昇による経営悪化の懸念や、扶養内で働く従業員の労働時間減少に伴う課題などを中心に回答が集まりました。 ここでは97件の回答の中から、一部を抜粋して紹介します(可読性を高めるため、文言を調整済み)。
・今の物価高騰に必要な事だと思います(農林・漁業/~4名/東京都)
・正社員、その他の社員、パートで最低賃金は別にしてもらいたい(教育/~4名/東京都)
・大手と中小で基準を変えるなどの柔軟な対応が必要(そのほか生活関連サービス/20~29名/東京都)
・どんどん最低賃金が上がり、雇う側も即戦力を求めざる負えない状況では、働きたくても働けない方が増えると思います(飲食/5~9名/埼玉県)
・引き上げるなら、法人税引下げ等の対策が欲しい(飲食/100~199名/埼玉県)
・最低賃金を上げるのも良いかとは思いますが、原価が恐ろしく上がり、世の中の給料も上がっていない中で、売価を上げるのには抵抗と不安があります(飲食/5~9名/東京都)
・引き上げは良いが、アルバイトの年収がすぐに103万円以上になる。シフトを減らすと人手が足りなくなるためすごく困っている(整備・修理/5~9名/大阪府)
・103万、130万、150万の壁を上げないと意味がない(介護・福祉/5~9名/福岡県)
・1日のスタッフの人数を今までより1名減らし、人件費がオーバーしないように考えています(小売/10~19名/東京都)
・建設業界全体に言えることだが、工事単価の引き上げもしてもらわないと、耐えられない会社さんが沢山でてくると思う(建築・不動産/5~9名/福岡県)
・入ってくる分が増えないから人件費がかさみ経営にひびく(介護・福祉/10~19名/兵庫県) ・全体的に賃金上昇はとても良い事ですが、それに伴って社会保険料も上がっていくのが会社としては痛いです(運輸/50~99名/広島県)
・最低賃金を上げるのは賛成だが、受注金額や材料費高騰に対する施策も併せて行わないと疲弊するばかりだと思う(警備/10~19名/広島県)
・物価高騰、公共料金やガソリン、社会保険料などに加えて賃金を上げることで会社の負担がさらに増加し、経営が苦しい(介護・福祉/5~9名/茨城県)
・診療報酬の改定は2年に1度に対し、物品のコストは月単位で変化しており、現状に合っていない状況です。今後の賃金引上げを考慮していく中で大きな問題であると思います(医療/5~9名/埼玉県)
・介護・福祉事業所に関しては厚生労働省が定める報酬単価が引き上がらない限り、賃金改善は困難(介護・福祉/100~199名/福岡県)
まとめ
今回の調査では、2023年10月から改定される最低賃金の引き上げに対するアンケート調査を実施しました。その結果、63.3%の事業所が「引き上げる予定」であることが分かりました。
そのうち、「最低賃金を下回ったため、賃金を引き上げる」と回答した事業所は6割以上(全体の40.9%)。中小企業の約4割が最低賃金をベースに賃金設定を行っていることも明らかになっています。
また今回の引き上げを「負担に感じている」事業所は、90.2%に上りました。 賃上げに対する意見(自由回答)では、賃上げの必要性を理解する回答がみられた一方、原材料費等の高騰が続いていることや、それらが売価に転嫁できていない中での賃上げについて「経営を圧迫する」「このままでは雇用の継続が厳しい」という回答が並びました。
賃金の引き上げは経営への直接的な影響だけでなく、扶養内での就労を希望する従業員の就労時間調整に伴う人手不足や、社会保険の負担増など間接的な影響も少なくありません。
さらに現政権は、2030年代半ばまでに平均時給1500円への引き上げを目標として掲げることを表明しており、賃上げ幅のさらなる拡大が予想されます。
それらへの対応のために、「時給に見合った人材を雇用したい」という意見も散見されました。
今後の最低賃金の引き上げを踏まえ、採用方針を見直す中小企業が増加することも考えられるのではないでしょうか。
採用業務クラウド『採用係長』を提供する株式会社ネットオンは、中小企業の持続的な成長に寄与するサービスを追求し、変化に寄り添いながら採用課題の解決に貢献してまいります。
調査名 | 賃金の引き上げに関するアンケート調査 |
調査対象 | 『採用係長』利用事業所の人事・労務担当者様 |
有効回答数 | 210 |
調査期間 | 2023年8月17日(木)~8月31日(木) |
調査方法 | インターネット調査 |
調査結果の注意点 | %を表示する際に小数点第2位で四捨五入しているため、単一回答の場合は100%、複数回答の場合は合計値に一致しない場合があります。 |
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