2024年冬季賞与の支給、昨冬比10.6ポイント増。9割以上が「利益次第で賃上げ・賞与還元できる」と回答|中小企業の賞与支給に関する実態調査

まもなく迎える、2024年冬季賞与の支給時期。賃上げ率の更新が続く大手企業は、冬季賞与も昨年より増額となることが予想されています。

ところが、中小企業においては、適正な価格転嫁が進んでいない企業が少なくありません。
原価高騰と最低賃金の大幅な引き上げが続く中、2024年10月からは社会保険の適用範囲が従業員51人以上の企業(所定の要件を満たす短時間労働者)にも拡大。経営負担の増大に直面しています。

従業員確保の観点からも重要な意味をもつ、賞与。このような状況下での冬季賞与の支給について、中小企業はどのように計画しているのでしょうか。
株式会社ネットオンでは、2024年冬季賞与について、採用マーケティングツール「採用係長」の登録ユーザーである中小企業の採用担当者を対象にアンケート調査を実施しました。

アンケート回答者属性

今回、アンケートにご回答いただいた事業所様の属性は以下の通りです。
従業員規模20名以下の事業所様を中心に「介護・福祉」、「建築・不動産」、「飲食」、「医療」など様々な事業所様にご回答いただきました。
また、地域につきましても、都市部を中心に全国的に散らばり、あらゆる地域の事業者様にご回答いただきました。

業種

従業員規模

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都道府県

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冬季賞与を「支給する」は、64.5%

はじめに、2024年冬季賞与の支給予定について質問しました(n=107)。

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その結果、「支給する」と回答した事業所は64.5%。昨年冬季(53.9%)と比べて10.6ポイント増加することが明らかになっています。
さらに賞与支給の有無を業種別に確認したところ、業種ごとに以下のような違いを確認することができました(ここではアンケートに回答した21業種のうち、5事業所以上から回答があった8業種をグラフ化しています)。

グラフ(2024年冬季賞与の支給予定(業種別))

※()内の数字は回答数を表示

上記8業種のうち、「医療」「介護・福祉」「建築・不動産」「工業・製造」の4業種では、「支給する」が「支給しない」を上回りました。
中でも「医療」は、アンケートに回答したすべての事業所が「支給する」と回答しています。
上記の中で支給する事業所の割合がもっとも低い「運輸」は、16.7%です。 「運輸」は昨年冬季のアンケートにおいて、支給する事業所の割合が前年から大幅に減少(62.5%から28.6%)。今冬はさらに減少が進んでおり、長引く円安による燃料価格の上昇が経営に大きく影響していることがうかがえます。

支給額は、昨年冬季と「変わらない」が約6割

Q1で「支給する」と回答した事業所(n=69)へ、支給額の変動について質問したところ、「変わらない」がもっとも多く、60.9%を占めました。
「増額予定」は31.9%。昨年(39.9%)より8ポイント減少しています。

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増額理由1位は「従業員の意欲向上のため」

Q2で「増額予定」と回答した事業所(n=22)へ、その理由について質問しました。
もっとも多かったのは「従業員の意欲向上のため」で、63.6%が回答。2位は「業績が好調のため」(45.5%)、3位には「従業員の定着率向上のため」(40.9%)が続きました。

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「業績が好調のため」を選択した事業所は昨年冬季(50.8%)と比べて5.3ポイントの減少となりましたが、「従業員の定着率向上のため」は13ポイント増加し、「物価高騰による生活費増加に対応するため」が10.8ポイント減少。
この点からは、前向きな増額を実施する事業所が多かったことが読み取れるでしょう。

また、Q2で「減額予定」と回答した事業所(n=5)にもその理由について質問しました。
もっとも多かったのは「業績の向上(回復)が見込まれていないため」。60%の事業所が減額理由として選択しています。

支給額の最多は「1カ月以上1.5カ月未満」

Q1で「支給する」と回答した事業所(n=69)へ、賞与支給額(基本給換算〇カ月)について質問したところ、40.6%が「1カ月以上1.5カ月未満」と回答しました。
「1カ月未満」は15.9%、「1.5カ月以上2カ月未満」は17.4%、「2カ月以上2.5カ月未満」は14.5%での支給を予定。2.5カ月以上は、5.7%です(「その他」を除く)。

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昨年冬季の賞与支給額(基本給換算〇カ月)と比較してみましょう。

2023年冬季の賞与支給額(基本給換算〇カ月)

「1カ月以上1.5カ月未満」は、昨年冬季(27.5%)と比較して13.1ポイントの大幅増。
一方、大幅減となったのは、昨年冬季(28.1%)よりも12.2ポイント減少した「1カ月未満」です。賞与を支給する事業所の78.2%が1カ月以上の支給を予定しています(「その他」を除く)。

76.6%が生産性向上に「取り組んでいる」または「取り組む予定」

すべての事業所(n=107)へ、生産性の取り組みについて質問しました。

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その結果、「取り組んでいる」と回答した事業所は51.4%。「今後取り組む予定」の事業所を合わせると76.6%が生産性の向上に向けた取り組みを行っていることが分かりました。
一方で、全体の2割以上が取り組みを行っていない現状も明らかになっています。

取り組み内容は「人材育成」「人員配置」が半数以上

Q6で生産性向上に向けて「取り組んでいる」または「取り組む予定」と回答した事業所(n=82)へ、取り組み内容について質問したところ、1位は「人材育成」(64.6%)でした。
2位には「適正な人材配置」(50%)が続いており、既存従業員の活用に注力している中小企業が多いことが分かります。

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一方で3位の「ITツールの活用」は35.4%、6位の「AIの活用」は12.2%です。
これらに取り組む事業所が少ない点からは、DX関連の取り組みに対する中小企業の消極的な姿勢がうかがえました。 さらに、生産性向上への取り組みの状況を賞与支給額の変動別に確認してみましょう。

グラフ(賞与支給額の変動と生産性向上の取り組み予定)

「増額予定」の事業所は約9割が生産性向上に向けて取り組んでおり、「変わらない」事業所においても約7割が取り組んでいます。
これに対し「減額予定」の事業所では、「取り組んでいない」が「取り組んでいる」を上回ることが明らかになりました。 減額理由1位は、「業績の向上(回復)が見込まれていない」です。
生産性向上への取り組み状況と業績の関係を示唆する結果といえるのではないでしょうか。

「利益が確保できれば、賃上げ・賞与で還元できる」は9割以上

すべての事業所へ、利益を賃上げや賞与として還元できるかどうかについて質問しました(n=107)。

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その結果、93.5%が「はい(=賃上げまたは賞与として還元できる)」と回答。今冬の支給予定は7割未満でしたが、支給しない事業所を含めた大半が従業員への利益還元を考えていることが読み取れます。
同時に、利益確保が賞与支給の大きな障壁となっている現状も明らかになりました。

賞与支給に関する課題・意見は、「DX化と人員削減が必須」「手取りを増やす政策が必要」など

賞与支給についての課題や意見(自由回答)を求めたところ、原資確保や支給額に関する自社の課題、現行の政策・制度についての意見など13件の回答がありました(n=107)。
その中から一部を抜粋して紹介します(可読性を高めるため、文言を調整済み)。

賞与支給に関する自社の課題
※カッコ内は、業種/従業員規模/所在地

・10年後には最低月給が25万円程度になることを踏まえると、DX化と人員削減を考えなければいけない(医療/5~9名/栃木県)
・鳥インフルエンザ発生等、事業リスクを考えるとなかなか上げることができない(農林・漁業/20~29名/埼玉県)
・サービスに対する適切な価格が設定できるようになれば、賞与の支払いが滞りなくできると思う(整備・修理/~4名/兵庫県)
・利益がない場合でも賞与を出さないわけにはいかない(介護・福祉/20~29名/大阪府)
・年1回の業績賞与に切り替えたが、納得感のある業績評価を行うことが難しい(その他/10~19名/東京都)

政策・制度に対する意見
※カッコ内は、業種/従業員規模/所在地

・給与を増額すれば手取り額も増額となるよう、社会保険料および税金の軽減に期待したい(IT/30~49名/東京都)
・診療報酬については2年に1回の改定だが、物価上昇や労働条件向上など時代の流れにあっておらず、従業員への報酬に直接の影響を及ぼしている(医療/5~9名/埼玉県)
・大企業から中小の下請け企業への利益還元が必要。最低賃金の上昇だけを目指す政策では、状況は良くならない(その他/50~99名/広島県)

まとめ

今回の調査では、2024年冬季賞与の支給についてのアンケートを実施しました。 その結果、64.5%の事業所が賞与を「支給する」と回答。昨年冬季と比べて、10.6ポイント増加しました。一方、「増額予定」は昨年より8ポイント減少しています。

今回のアンケートでは、生産性向上への取り組みについても質問を実施しました。「取り組んでいる」または「取り組み予定」の事業所は、76.6%。その半数以上が「人材育成」と「適正な人材配置」に取り組んでいます。 さらに、生産性の向上によって利益を確保できれば、「賃上げや賞与として還元できる」と回答した事業所は全体の9割以上。取り組みの結果とともに、来年度の「支給する」および「増額予定」の増加に期待したいところです。

2025年4月からは雇用保険法が改正され、雇用保険の適用範囲が拡大します。保険料負担の増大は中小企業にとって決して小さいとはいえず、今後の賞与支給にも影響を与えるかもしれません。
今回の改正では、失業給付(失業手当)における給付制限期間の短縮も行われるため、雇用の流動性が高まる(=従業員が退職しやすい状況が生まれる)ことが予想されています。

賞与支給の有無や支給額が、人材を確保するうえでこれまで以上に大きな意味をもつ可能性がある中、中小企業のさらなる生産性の向上は急務といえるでしょう。

採用業務マーケティングツール『採用係長』を運営する株式会社ネットオンは、採用業務の効率化や人材確保を支援するサービスの提供を通じて、中小企業の成長に貢献してまいります。

調査名 2024年冬季賞与の支給に関するアンケート調査
調査対象 『採用係長』利用事業所の人事・労務担当者様
有効回答数 107
調査期間 2024年11月1日(金)~11月25日(月)
調査方法 インターネット調査
調査結果の注意点 %を表示する際に小数点第2位で四捨五入しているため、単一回答の場合は100%、複数回答の場合は合計値に一致しない場合があります。

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この記事を書いた人
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馬嶋 亜衣子(samusillee)

採用・キャリア関連、医療分野を中心に執筆を行うフリーランスライター。 各種メディアの取材ライティングやSEOライティング、採用HPのライティングなどに携わっています。

監修者
監修者
辻 惠次郎

ネットオン創業期に入社後、現在は取締役CTOとしてマーケティングからプロダクトまでを統括。
通算約200社のデジタルマーケティングコンサルタントを経験。特に難しいとされる、飲食や介護の正社員の応募単価を5万円台から1万円台に下げる実績を作り出した。
Indeedはもちろん、インターネット広告やDSP広告を組み合わせた効率的な集客や、Google Analytics等の解析ツールを利用した効果分析、サイト改善を強みとしている。