労働条件通知書とは?記載すべき事項や注意点を記入例も含めて解説!

企業が労働者に交付する書類のひとつに「労働条件通知書」があります。

「労働条件通知書っていつ交付するんだろう……」
「当社の労働条件通知書の様式は古くないかな……」
このように、労働条件通知書に関して悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

今回は、労働条件通知書の記載内容や交付時期、注意点など作成・交付にあたって知っておきたい情報を網羅的に解説します。
よく間違われる「雇用契約書」との違いも明確にするため、ぜひ日頃の業務にお役立てください。

労働条件通知書とは、従業員の雇用時に交付する労働条件を記載した書類

労働条件通知書とは、従業員の雇用にあたって労働条件を明示するための書類です。
賃金や勤務時間、休暇などの条件について事前に提示することで、労働者の立場を守る役割を持ちます。

労働条件の明示は労働基準法第15条によって義務付けられています。
そのため、労働条件通知書を交付しない場合は「違法」であり、各企業には確実な対応が求められます。

労働条件通知書を交付する対象者

労働条件の明示は、アルバイト・パートなどの雇用形態にかかわらず、基本的に全従業員に対して必要です。
ただしこれは「直接雇用する」従業員に限ります。派遣社員や業務委託のように、直接の雇用関係が生じない場合は労働条件通知書を交付する必要はありません。

【交付する必要がある対象者】

  • 正社員
  • 契約社員
  • アルバイト・パート など

【交付する必要がない対象者】

  • 派遣社員
  • 業務委託 など

雇用契約書との相違点

労働条件通知書と混同されやすい書類が「雇用契約書」です。
雇用契約書は、企業が従業員を雇用するにあたって、お互いが合意していることを記録として残すための書類です。「自分は合意したつもりがなかった」というような齟齬をなくし、トラブルを防止する役割も担います。

労働条件通知書と雇用契約書の違いを下表にまとめています。

  労働条件通知書 雇用契約書
目的 法律に基づいて労働条件を事前に明示し、従業員の労働者としての立場を守ること。 企業と労働者が雇用契約に合意した事実を確認すること。
通知の義務とその方法 書面での通知が原則であり、口頭での通知は認められない。ただし2019年4月より、従業員本人が希望する場合に限り、メールやFAXなど電磁的方法による通知も認められている。 そもそも書類自体に法的義務がないため、書面と口頭のどちらでも問題ない。
罰則 交付を怠った場合、30万円の罰金が科せられる可能性がある(労働基準法第125条) 罰則なし

労働条件通知書と雇用契約書はどちらも必要か

上記の表内でも触れていますが、労働条件通知書は必須であるものの、雇用契約書は必ずしも交付が必要な書類ではありません。

とはいえ、雇用にあたってのトラブルを防止する意味で、労働条件通知書と雇用契約書はどちらも交付したほうがいいと言えます。
アルバイト・パートの入れ替わりが激しいなど、雇用契約書を作成するのが大変な場合は、「労働条件通知書兼雇用契約書」としてまとめることがおすすめです。

労働条件通知書を交付する時期

労働条件通知書を渡すタイミングは「雇用するとき」と「労働条件が変更されるとき」が一般的です。それぞれ、どのような点に注意するといいかを解説します。

1. 従業員を新たに採用する際

労働条件通知書の交付時期は、法律の条文では「労働契約の締結に際し」と記載されています。しかし、具体的に「いつ」と定められているわけではありません。

労働条件通知書の目的を考慮すると、ベストなタイミングとして「内定を出したとき」をおすすめします。
「内定候補者が労働条件を確認する」→「内定を承諾する」→「雇用契約を結ぶ」という流れが、もっともトラブルにつながりにくいと考えられるためです。

現実的に考えても、求職者が労働条件を知らないまま入社を決めることはないでしょう。仮に入社時に労働条件を提示したとしたら「認識していた条件と違う!」という事態になりかねません。

2. 労働条件が変更されるとき

見落とされがちですが、労働条件を変更する場合も労働条件通知書を交付する必要があります。

とはいえすべての場合に必要なわけではなく、基本的には「雇用形態が変わるとき」に労働条件を明示します。「昇給によって基本給が変わった」「新たな休暇を導入した」といった場合は交付する必要はありません。

労働条件通知書を交付する目的

労働条件通知書の交付について困ったときは、「なぜ交付するのか」に立ち返ることが効果的です。そこで、労働条件通知書を交付する目的について解説します。

1. 労働条件を明示し、トラブルを回避するため

ここまでの内容の繰り返しにはなってしまいますが、一番の目的は「トラブル回避」です。
ほとんどの求職者は求人内容を確認したうえで、労働条件の何かしらのポイントに惹かれて応募しています。
例えば「就業場所が自宅から近いこと」が応募理由だったのに、いざ入社して自宅から遠い事業所に配属されたら「だったら応募しなかった」とトラブルにつながるでしょう。

労働条件について事前に明確にして書面に残すことで、お互いの「こんなはずじゃなかった」を予防できるのです。

2. 内定者が安心して入社するため

労働条件について事前に把握することが、内定者の安心につながります。
企業への信頼も大きくなり、入社前からエンゲージメントを高める効果も期待できます。
そういう意味では、やはり労働条件通知書はなるべく早い段階で交付することが望ましいでしょう。

労働条件通知書に記載すべき項目

労働条件通知書に必須で記載する項目は「絶対的明示事項」として下記のとおり定められています(労働基準法施行規則第5条)。

【労働条件通知書への絶対的明示事項】

  1. 契約期間と更新の有無・基準
  2. 勤務場所
  3. 従事すべき業務内容
  4. 始業と終業の時間、休憩時間
  5. 休日
  6. 休暇
  7. 賃金の決め方
  8. 賃金の支払時期と方法
  9. 退職にまつわる事項
  10. 昇給にまつわる事項

ここからは、各項目でどんなことを示すのかを解説します。

絶対的に明示する事項

1. 契約期間と更新の有無・基準

契約期間のあり・なしについて記載します。
パート・アルバイトや契約社員などで「あり」の場合は、契約更新の有無と更新の基準について明記します。

2. 勤務場所

「本社」「大阪営業所」というように入社後の就業場所について記載します。
義務ではありませんが、将来的に異動する可能性のある勤務場所についても記載すると親切です。

3. 従事すべき業務内容

当該従業員が入社後に従事する業務内容について記載します。
「総務事務」「ホールスタッフ」などが一例です。

4. 始業と終業の時間、休憩時間

始業時間と終業時間、休憩時間などの記載が必要です。
変形労働時間制やフレックスタイム制などを導入している場合はその条件も明記します。

5. 休日

休日について、定例日と非定例日を分けて記載します。
非定例日は「週・月当たり●●日」という書き方が一般的です。
1年単位で変形労働時間制を導入している場合は「年間●●日」などと書くと良いでしょう。

6. 休暇

年次有給休暇の付与条件とその日数について明記する必要があります。
時間単位年休の有無についても書いておきましょう。
また、その他の有給・無給についても記載し、「詳細は就業規則第●条」と従業員が調べやすいよう一文いれることがおすすめです。

7. 賃金の決め方

賃金に関して記載します。主に次の項目について詳しく示しましょう。

  • 基本賃金(月給、日給、時間給など)
  • 諸手当の額や計算方法
  • 割増賃金率

8. 賃金の支払時期と方法

賃金の算定基準について、次の項目を明記します。

  • 賃金締切日
  • 賃金支払日
  • 賃金の支払方法
  • 労使協定に基づく賃金支払時の控除

9. 退職にまつわる事項

退職に関して次の内容を記載します。

  • 定年制
  • 継続雇用制度
  • 自己都合退職の手続き
  • 解雇の事由および手続き

10. 昇給にまつわる事項

昇給の時期や基準などについて記載します。
昇給にまつわる事項は絶対的明示事項ではあるものの、書面を交付する必要はないとされています。

相対的明示事項

相対的明示事項は、企業が定めをしている場合に限り労働条件通知書に明記が必要な項目です。具体的には次の項目が該当します。

<導入されている場合は記載が必要な制度>

【相対的明示事項】

  1. 退職手当が適用される労働者の範囲、退職手当の決定・計算・支払方法、支払いの時期
  2. 臨時賃金(退職手当除く)や賞与、最低賃金額
  3. 食費や作業用品などの労働者負担
  4. 安全衛生
  5. 職業訓練
  6. 災害補償や業務外の傷病扶助
  7. 表彰や制裁
  8. 休職

【2024年4月施行】改正により新たに追加された記載事項

2024年4月から、新たに下記の項目が労働条件通知書への記載事項として追加されています。
改正の目的は大きく2点。「働き方の多様化に伴う雇用ルールの明確化」と「無期転換ルールについての理解促進」です。

  • 就業場所・業務の変更の範囲の明示
  • 更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容の明示
  • 無期転換申込機会の明示
  • 無期転換後の労働条件の明示

※労働条件通知書への具体的な書き方については下記記事で解説しています
【2024年4月変更】労働条件明示の新しいルールとは?労働条件通知書の記載方法や義務について解説

労働条件通知書の記載例

ここまでの内容を踏まえ、労働条件通知書の記載例を掲載します。
ぜひ自社で書類を作成する際にお役立てください。

 

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労働条件通知書の交付方法別の注意点

労働条件通知書の交付方法は「書面」と「電子」の2パターンです。
ただし、電子的に交付する場合は特定の条件を満たす必要があったりと、いくつかの注意点があります。

それぞれの交付方法について注意事項を解説します。

書面で交付する際の注意事項

労働条件通知書は原則として書面で交付する必要があります。
ただしこれは「絶対的明示事項」に限られます。
「相対的明示事項」については書面による交付は必須ではありません。

電子的に交付する際の注意事項

原則は書面での交付ですが、2019年4月以降、一定の条件を満たせば電子的交付が認められるようになりました。具体的には下記3つの条件を満たす場合です。

1. 交付を受ける従業員本人の希望に基づくこと

労働条件通知書の交付対象となる従業員が電子的交付を望んでいる必要があります。

「電子のほうが楽だから」など企業の一方的な都合で電子的交付をすると、労働基準法違反となります。とはいえ、企業側も負担を減らしたいはずですから、まずは本人の意思を確認しましょう。

2. プリント可能な形式で送付すること

メールや社内チャットなど、受け取った従業員が紙に印刷することができる方法に限られます。
従業員側が無意識に受信拒否設定にしていたりと、何かしらの理由で本人に届かない場合もあるので、企業はその到達まで確認しましょう。
なお義務ではありませんが、厚生労働省は「明示した日付」「送信した担当者の指名」「事業場や法人名」「使用者の氏名」などを記入することを推奨しています。

3. 本人以外に情報が漏れないようにする

機密性が保たれ、企業と本人以外に情報が知られないことが重要です。
使用するメールサービスやチャットサービスのセキュリティを確認すること、内容を確認したら出力して保存するように伝えることがポイントです。

【出典】
平成31年4月から、労働条件の明示がFAX・メール・SNS等でもできるようになります|厚生労働省

まとめ

労働条件通知書は企業が採用活動を行うにあたって必ず必要な書類です。
その都度1から作成すると時間と労力がかかるため、フォーマットを用意して、すぐに交付できるようにしておくことをおすすめします。

また、すでに労働条件通知書の用意が整っている企業も、ぜひ一度内容を再確認してみてください。思わぬ項目が抜けていたりするかもしれません。当記事内に労働条件通知書の例をあげているので、比較する際に活用していただけたら幸いです。

【出典】
採用時に労働条件を明示しなければならないと聞きました。具体的には何を明示すればよいのでしょうか。|厚生労働省

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コンノ

公務員として4年間、人事労務の実務経験あり。 これまで100名以上の事業者をインタビューしており、「企業や個人事業主が本当に悩んでいること」を解決できる記事を執筆します。

監修者
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辻 惠次郎

ネットオン創業期に入社後、現在は取締役CTOとしてマーケティングからプロダクトまでを統括。
通算約200社のデジタルマーケティングコンサルタントを経験。特に難しいとされる、飲食や介護の正社員の応募単価を5万円台から1万円台に下げる実績を作り出した。
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