人事採用担当者や労務担当者が日々の業務で取り扱うことの多い制度の1つに「厚生年金保険」があります。
厚生年金保険は、新しく雇用する社員からも問い合わせが多い制度です。
実際にインターネット上では、「いくら」「計算」「月額」などの言葉とセットでよく検索されており、多くの人が厚生年金保険の取り扱いに悩んでいることが分かります。
担当者としては、問い合わせへの対応や新入社員への説明がスムーズになるよう、基本的な知識を身に着けている状態が望ましいでしょう。
当記事では、厚生年金保険の制度内容や計算方法など、日々の業務でベースとなる知識をわかりやすく解説します。
会社の担当者はもちろん、制度について自分で調べたい会社員の方々も、ぜひお役立てください!
目次
厚生年金保険とは? 国民年金とのちがいとは?
厚生年金保険は公的な年金制度であり、厚生年金保険の適用を受ける事業所(会社)に勤務する、会社員や公務員などが加入対象です。
「厚生年金保険法」に基づき国によって管理・給付が行われ、70歳未満で常時雇用されている労働者は、全員が加入することになっています。
厚生年金保険は、健康保険と合わせて「社会保険」とも言われます。
会社で取り扱う際も基本的にセットとなり、対象者や保険料の算出方法なども一緒です。
勤務先で配布される給与明細では、「社会保険」の欄に厚生年金保険の金額が記載されている場合もあります。
国民年金との違い
厚生年金保険と同じく公的年金の1つが「国民年金」です。
厚生年金保険と国民年金には、下記の違いがあります。
※厚生年金保険料率は、2017年9月以降18.300%で固定されています
上記を見てわかるとおり、国民年金は20歳以上60歳未満のすべての人が対象です。
つまり、厚生年金保険の被保険者は国民年金に同時加入していることになり、将来的に厚生年金保険分が上乗せされます。
企業年金連合会が公表している下記の図を見ても、国民年金がすべての年金のベースにあることがわかるでしょう。
日本の年金制度は、国民年金を「1階」とし、「2階」を被用者年金(厚生年金)、「3階」を企業年金(確定給付企業年金や確定拠出年金など)とする3階建て構造なのです。
(出典:企業年金制度|企業年金連合会)
なお国民年金は、被保険者の働き方に応じて下記の3種類に分けられます。
厚生年金保険の加入者は第2号被保険者です。
・第1号被保険者:日本国内に住む20歳以上60歳未満の個人事業主、農業者、学生、フリーターなど
・第2号被保険者:厚生年金保険の適用事業所に勤務する人
・第3号被保険者:日本国内に住む20歳以上60歳未満で、第2号被保険者の扶養に入っている人
【参考】
知っておきたい年金のはなし|厚生労働省
企業年金制度|企業年金連合会
厚生年金基金の仕組み
国民年金基金とは、厚生年金保険に加えて、企業が独自に加入する年金制度のことです。厚生年金保険は公的制度であるため、条件を満たす場合は加入が必須ですが、厚生年金基金は企業の裁量で加入できます。
厚生年金基金の加入歴がある場合、将来的に厚生年金保険に上乗せした年金額が支給されることとなります。
なお、厚生年金基金には、大きく下記3つの種類があります。
- 単独設立:企業が単独で設立するもの
- 連合設立:主力企業を中心として複数企業が設立するもの
- 総合設立:強い指導力を持つ組織団体などを母体として、多数の企業が集まって設立するもの
厚生年金保険の主な種類
厚生年金保険は「老齢厚生年金」「障害厚生年金」「遺族厚生年金」の3種類に分けられます。
ここでは、種類ごとの概要や仕組みを解説します。
①老齢厚生年金
老齢厚生年金とは、厚生年金保険の加入期間がある場合に、老齢基礎年金に上乗せして65歳から受給できる制度です。一般的に、「厚生年金」という言葉はこの老齢厚生年金を指します。
なお、老齢厚生年金に関する制度として、60歳から65歳になるまでの期間に本来より減額された年金額を受け取る「繰り上げ受給」。反対に、66歳から75歳になるまでの期間に増額された額を受給する「繰り下げ受給」などがあります。
②障害厚生年金
厚生年金保険に加入している期間に、病気やケガで障害を負い、就業が制限された場合に受給できる制度です。
障害の程度が障害等級表1級~3級のいずれかである場合に支給され、老齢厚生年金とは異なり、現役で働いている人を対象としています。
なお、国民年金の被保険者に支給される障害年金は「障害基礎年金」と呼ばれます。障害厚生年金と混同しないよう注意が必要です。
③遺族厚生年金
遺族厚生年金とは、厚生年金保険の被保険者が加入期間に死亡したとき、その遺族が受給できる年金制度です。
下記いずれかのケースに該当するとき、遺族厚生年金を受給できます。
- 厚生年金の被保険者である期間に死亡したとき
- 厚生年金の被保険者であるうちに初診を受け、その病気や怪我が原因で5年以内に死亡したとき
- 1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けとっている人が死亡したとき
- 老齢厚生年金の受給権者であった人が死亡したとき
- 老齢厚生年金の受給資格を満たした人が死亡したとき
なお、遺族厚生年金を受給する遺族の優先順位は、下図のとおりです。
(出典:遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)|日本年金機構)
パート・アルバイトにおける厚生年金保険の加入条件
「正社員より勤務時間が短いパート・アルバイトも加入対象なの?」と疑問を抱いた人もいるでしょう。
パート・アルバイトの場合は、下記1か2のいずれかを満たせば厚生年金保険に加入できます。
1 週の所定労働時間および1か月の所定労働時間が正社員の4分の3以上
2 下記すべての条件に該当する人
・週の所定労働時間が20時間以上
・給与月額が88,000円以上
・継続雇用期間(見込み)が2ヶ月以上
・学生ではないこと
・従業員数101人以上の特定適用事業所に勤務していること。従業員数100人以下の事業所であれば、パート・アルバイトの社会保険加入について労使間での合意があること
なお、健康保険・厚生年金保険の加入要件は、段階的に緩和される予定です。
令和4年10月からは、継続雇用見込みの条件が「1年以上」から「2ヵ月以上」に変更され、従業員数が「501人以上」から「101人以上」に変更されました。更に令和6年10月からは従業員数が「51人以上」に変更される予定です。
詳細は下記ページをご参照ください。
▶令和4年10月からの短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大|日本年金機構
▶パート・アルバイトのみなさまへ 配偶者の扶養の範囲内でお勤めのみなさまへ 社会保険適用ガイドブック|厚生労働省
厚生年金保険料の計算方法について
社員が負担する厚生年金保険料の計算方法は下記のとおりです。
・給与の厚生年金保険料:標準報酬月額×保険料率÷2
・賞与の厚生年金保険料:標準賞与額×保険料率÷2
しかし、この計算方法を見ただけではイメージが湧かない人も多いでしょう。
「標準報酬月額」「標準賞与額」などの専門的な用語について解説しながら、実際に保険料を計算していきます。
標準報酬月額とは
標準報酬月額とは、「給与にかかる保険料を算出する際の基となる金額」です。
1等級(88,000円)〜32等級(650,000円)に分かれており、この標準報酬月額に保険料率が掛けられることで、毎月納付する保険料が決まります。
標準報酬月額および等級は、下記の保険料額表から確認できます。
標準報酬月額は、「定時決定」と呼ばれる毎年4月~6月の3か月間に支給した給与の平均から算出され、9月より適用されます。
そのため、4月~6月が繁忙期の会社では、厚生年金保険料も高くなりやすい傾向です。
また、厚生年金保険には「随時改定」と呼ばれる制度が存在し、年度途中であっても標準報酬月額が変わるケースもあります。
随時改定を実施する際の条件は、下記のページでご確認ください。
標準賞与額とは
標準賞与額は、「賞与にかかる保険料を算出する際の基となる額」。
いわば、標準報酬月額の賞与バージョンです。
標準賞与額は、支給した賞与総額から1,000円未満を切り捨てた額です(150万円が上限)。
たとえば賞与総額が201,520円であれば、標準賞与額は「201,000円」となります。
厚生年金保険の実際の計算例
では、実際の数字を入れて計算してみます。
【例】
4月~6月の平均給与額:250,000円 賞与額:400,300円(厚生年金基金なし)の場合
【毎月の給与にかかる厚生年金保険料】
厚生年金保険料額表によると、250,000円は17等級で標準報酬月額は260,000円
⇒厚生年金保険料=260,000円×18.300%×1/2(労使折半)= 23,790円
【賞与にかかる厚生年金保険料】
賞与400,300円(1,000円未満を切り捨て)→ 標準賞与額400,000円
⇒厚生年金保険料=400,000円×18.300%×1/2(労使折半)= 36,600円
※厚生年金保険の等級や保険料は下記のページで確認できます。
▶保険料額表(令和2年9月分~)|日本年金機構
厚生年金を受給するための手続き
厚生年金保険は自動的に受給が始まるのではなく、自分自身で受給手続きをする必要があります。ここでは、手続きの具体的な方法について、必要書類と併せて紹介します。
なおここでは、一般的に厚生年金=老齢厚生年金を指すケースが多いことから、老齢厚生年金の手続きについて解説します。
手続きのやり方
手続き全体の流れは下記のとおりです。
- 65歳になる3か月前に、日本年金機構から年金請求書が届きます。
- 年金請求書に加入記録が記されているため、内容を確認したうえで間違いがあれば、管轄の年金事務所に連絡してください。
- 年金請求書を記入のうえ、受給開始年齢の誕生日の前日以降に、添付書類と併せて年金事務所に提出します。
- 提出から1~2か月後に「年金証書・年金決定通知書」が送られてきます。
- そのさらに1~2か月後に「年金のお支払いのご案内(年金振込通知書・年金支払通知書または年金送金通知書)」が送られてきて、受給開始です。
なお、年金が受給可能になったときから申請せずに5年が経過すると、経過分の年金を受け取れなくなる場合があるので注意が必要です。
【参考】
老齢年金の請求手続き|日本年金機構
必要書類
厚生年金を受給するには、全員に共通して下記書類を提出する必要があります。
【すべての人に共通する書類】
- 年金請求書
- 生年月日を明らかにできる書類(例:戸籍抄本、戸籍謄本、住民票、住民票の記載事項証明書)
- 受取先金融機関の通帳やキャッシュカード(コピー可)
また、家族構成などに応じて提出しなければならない書類もあるため、次の見出しで紹介します。
必要に応じて提出すべき書類
【請求者の厚生年金加入期間が20年以上、かつ配偶者または18歳未満の子がいる場合】
- 戸籍謄本
- 世帯全員の住民票
- 配偶者の収入が確認できる書類(例:所得証明書、課税(非課税)証明書、源泉徴収票)
- 子の収入が確認できる書類(高校在学中であれば在学証明書または学生証など)
なお、「戸籍謄本」以外の3つの書類は、請求書にマイナンバーを記載することで添付が不要となります(以降のケースでも同様)。
【請求者の厚生年金加入期間が20年未満、かつ配偶者の厚生年金(共済)加入期間が20年以上の場合】
- 戸籍謄本
- 世帯全員の住民票
- 配偶者の収入が確認できる書類(例:所得証明書、課税(非課税)証明書、源泉徴収票)
【その他、状況に応じて必要な書類】
- 雇用保険被保険者証:雇用保険に加入していた期間がある場合
- 年金加入期間確認通知書:共済組合に加入していた期間がある場合
- 年金証書:他の公的年金から年金を受けている場合
- 合算対象期間が確認できる書類:国民年金に任意加入しなかった期間のある場合
- 年金裁定請求の遅延に関する申立書:年金の受給権が発生した日の翌日から5年経過している場合
- 年金受給選択申出書:他の年金を受け取っている場合
- 診断書:請求者に20歳未満で障害の状態(1級また2級)にある子がいる場合
まとめ
厚生年金保険の計算を間違うと、対象となる社員に謝罪し、追徴や返金の手続きをしなければなりません。
社員にストレスがかかるうえに、本来は必要なかった事務も増えます。
給与計算をアウトソーシングしている会社も多いと思いますが、担当者として基本的な知識を固めておくと、トラブル防止にもなりますよ。
厚生年金保険は法律によって定められている公的保険です。
一見すると複雑な制度に感じますが、取り扱いの方法が明確なので、決して難しくはありません。
保険料の計算も、表に照らし合わせるだけで簡単にできます!
ぜひ、これから厚生年金保険を取り扱う際には、当記事の内容をお役立てください。
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