近年、「退職代行サービス」を利用する従業員が増えていると耳にすることが多くなりました。
企業としては突然、外部の第三者から「退職を伝えます」と連絡を受ければ驚かざるを得ないでしょう。
しかし、現状では退職代行を通じての退職を全面的に拒否することは難しく、対応を誤るとさらなるトラブルに発展してしまう可能性があります。
本記事では、人事・採用担当者の皆さんに向けて、退職代行サービスの概要や形態、従業員に利用された際の具体的な対応策、そして退職代行を使われないための取り組みについて詳しく解説いたします。
ぜひ、今後の人事戦略にお役立てください。
目次
退職代行とは?
「退職代行サービス」とは、従業員本人の代わりに退職の意思を勤務先へ伝えるサービスの総称です。
近年では、上司や同僚との人間関係の問題、ハラスメントや過重労働といった職場環境の不安が原因で「『退職したい』と直接は言い出しにくい」という従業員が増え、それを背景に退職代行の需要も高まっています。
実際、株式会社マイナビが実施した調査では、退職代行サービスを利用したことのある人は下記のとおり増えています。
(出典:退職代行サービスに関する調査レポート(2024年)|株式会社マイナビ)
退職代行サービスを利用する従業員の多くは、「退職の申し出をしても上司に強く引き留められそうだ」「会社からの圧力を感じ、辞めたいと言い出せない」といった悩みを抱えがちです。
こうした状況で本人が動けず、外部の業者に依頼することで退職を進める、という流れが一般的な利用パターンだと考えられます。
一方で、企業側としては、外部の退職代行業者から突如として連絡を受けると戸惑いが生じますし、感情的にもなりやすいです。
とはいえ、対応を誤るとトラブルに発展し、企業イメージの低下や法律問題に巻き込まれるリスクも否定できません。
まずは退職代行サービスの仕組みを正しく理解したうえで、適切かつ冷静な対応を心掛けることが重要です。
退職代行の3形態
退職代行サービスには、大きく分けて下記の3つの形態があります。それぞれ認められた業務範囲や強みが異なるため、企業としても対応を変えなければなりません。
退職代行ユニオン
企業内に労働組合がなくても加入できる外部の労働組合(ユニオン)が退職代行を担うケースです。労働組合には「団体交渉権」が認められているため、退職日や未払い賃金に関して会社側と交渉することが可能です。
ただし、ユニオンはあくまで団体交渉による合意形成までが役割です。万が一裁判になった場合には、法的代理人として当該従業員を代理することはできません。
企業にとっては「労組からの連絡」という形で受け取るため、まずはユニオンの正式名称や正当な労働組合かどうかなど、身元を慎重に確認する必要があります。
弁護士事務所
弁護士資格を持つ法律事務所が退職代行を請け負う形態です。
弁護士は、従業員の代理人として会社と正式な交渉や調整を行うことが法律で認められています。
退職日や残業代の請求だけでなく、訴訟に至った場合も本人に代わって対応可能です。
弁護士を名乗る連絡があった場合には、本当に弁護士資格を持つ人物なのかを確認しましょう。
弁護士ドットコムや日本弁護士連合会のサイトなどで事務所名や弁護士名を調べ、詐称ではないかをチェックすることが大切です。
民間の退職代行サービス
最も一般的な形態とされるのが、弁護士資格を持たない民間企業による退職代行サービスです。
法律上、民間企業には交渉行為や代理行為は認められていないので、できるのは「退職したい本人の意思を伝達する」ことのみです。
例えば「残業代を支払ってほしい」「退職日を早めてほしい」といった法的な交渉を持ちかけてきた場合、それが非弁行為(弁護士以外が弁護士の独占業務を行うこと)に該当するとして問題視されるケースもあります。
民間の退職代行業者から交渉に関する連絡を受けた際は、不用意に応じずに適切な流れでの対応が必要です。
退職代行を使われた企業が取るべき対応
従業員から直接話をされるのではなく、退職代行サービスを通じて辞めたい旨が伝えられた場合、企業はどのように対応すればよいのでしょうか。
ここでは大まかな流れと、押さえるべきポイントをまとめます。
退職代行の身元・形態を確認する
まずは連絡してきた退職代行サービスが、どの形態に属するのかを確認することが重要です。
「弁護士が代理人として連絡をしているのか」「ユニオンなのか、あるいは民間企業なのか」で対応の仕方が変わってきます。
- 弁護士の場合:交渉権・代理権を有するため、労働条件や残業代などの要望があれば、正当性を検討した上で応じるかどうかを判断する必要があります。
- ユニオンの場合:団体交渉権を認められた労働組合かどうかを確認し、団体交渉の正式な手続きを踏むようにしましょう。
- 民間退職代行の場合:基本的に本人の意思伝達しかできません。労働条件に関わる交渉は認められていないため、交渉行為に出てきたら非弁行為の可能性を疑います。
従業員本人が依頼したのかを確認する
退職代行を名乗る第三者から連絡を受けた際、「本当に本人が依頼したのか」という点を確認しましょう。
稀に、いたずらや嫌がらせの可能性もあります。
依頼した証拠として、委任状や契約書などの提示、あるいは従業員本人の氏名・連絡先などの確認を行いましょう。
民間の退職代行サービスであれば、依頼を受けたことを証明できる書類や証拠を保持しているはずです。
その提示を求めた際に明確な根拠を示せないようであれば、まずは本人確認が取れるまで手続きをストップするのが安全です。
退職届の提出を依頼する
退職代行サービスから連絡があったとしても、最終的には本人名義の退職届が必要です。
第三者からの電話やメールだけでは退職が成立したとはみなされない場合が多いため、書面や電子ファイルで退職届を出してもらうよう依頼しましょう。
退職届のフォーマットを自社で用意している場合は、その書式での提出を依頼するとスムーズです。
書類が届いたら、日付や署名・捺印などに不備がないかを必ずチェックし、問題があれば再提出してもらうように求めます。
退職届を受理する
退職届が正式に提出された場合、通常の退職手続きと同様に受理し、退職日などを最終決定していきます。
無期雇用契約であれば、民法627条1項の規定により、原則として退職の意思を伝えた日から2週間経過すれば雇用契約は終了します(下記のとおり)。
(期間の定めのない雇用の解約の申入れ) 第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。 |
(引用:民法|e-GOV法令検索)
有期雇用契約の場合は、契約期間満了までの勤務が原則ですが、セクハラやパワハラ、賃金未払いなど「やむを得ない事由」があれば、従業員が期間途中で退職を申し出ることを認めざるを得ないケースもあります。
自社の就業規則だけでなく、法令上の定めにも配慮して手続きを進めることが大切です。
退職代行を使われた場合の注意点
退職代行を使われると、企業としてはスムーズに話し合いをしたり引き留めを図ったりすることが難しくなります。
ここでは、トラブルを回避するために押さえておきたい注意点を紹介します。
民間の退職代行サービスとは交渉しない
弁護士やユニオンであれば団体交渉や条件の交渉が可能ですが、民間の退職代行サービスはあくまで「意思を伝える」ことしか許されていません。
もし、退職日や賃金などの条件交渉を持ちかけられても、企業側がそれに応じる義務はありません。
不用意に応じてしまうと、非弁行為に協力したことになり、企業側も巻き込まれる形で問題が複雑化する恐れがあります。
「交渉できる権限がない方との話し合いには応じられない」と明確に伝え、従業員本人とのやり取りが必要だという姿勢を示すことが大切です。
有給休暇の消化状況を確認する
従業員から退職の意思が伝えられた場合、必ず有給休暇の残数を確認しましょう。
従業員本人に有休が残っており、退職日までに消化を希望しているならば、企業は基本的にこれを拒否できません。有給休暇を消化しないまま退職させてしまうと、後から「有給休暇を使わせてもらえなかった」としてトラブルになる可能性もあります。
特に退職代行サービスが間に入る場合、本人とのやり取りが疎遠になりがちです。残りの有給日数や使用希望日をしっかりと確認し、速やかに対応する必要があります。
退職代行の利用を理由に懲戒などの処分を出さない
退職代行を利用したこと自体を理由に、従業員を懲戒処分とすることは避けましょう。
退職申し出の手段は本人の自由である部分が大きく、「退職代行を使ったこと自体が懲戒事由になる」と考えるのはリスクが高い行為です。
企業としては、退職代行の利用に至った背景をできるだけヒアリングし、再発防止につなげるほうが建設的です。
人事や上司とのコミュニケーションが取りにくい社風になっていなかったか、辞意を申し出る際に負担が生じる仕組みになっていなかったかなどを振り返る良い機会にもなります。
退職代行を使われないために企業側がするべきこと
従業員に退職代行を使われてしまうと、企業側のダメージは大きいものです。
業務の引き継ぎが難しくなったり、突然の欠員で現場が混乱したりするだけでなく、「会社とちゃんと話をすることなく辞める」というネガティブな印象が社内外に広がってしまう恐れもあります。
こうした事態を回避するためにも、日頃から以下の点に留意しておくことがおすすめです。
退職代行を使われる原因を把握する
企業側に問題がなかったとしても、従業員にとっては「退職を言い出せない」と感じる要因が潜んでいるかもしれません。
たとえば、パワハラ・セクハラが横行していないか、過重労働や長時間残業が常態化していないかなど、退職代行の利用につながるリスク要因を常にチェックしておきましょう。
また、実際に退職代行を使われた場合は、その従業員がどのような状況で利用に至ったのか、可能な範囲でヒアリングし、再発防止策に役立てる姿勢が大切です。
※「人手不足」を原因とした問題が発生している企業は、こちらの記事をお役立てください
人手不足な業界と原因は? 人手不足の解決方法についても紹介
従業員とコミュニケーションを取りやすい環境づくり
「会社と直接やり取りしたくない」「上司に退職の相談をすると強く引き留められるから言い出しづらい」などの声は、コミュニケーション不全が原因です。
上司だけでなく、人事担当者やカウンセラー、相談窓口といった、多方面で従業員の悩みや意見を受け止められる仕組みを整えると、早期にトラブルを察知しやすくなります。
また、1on1ミーティングや定期的なアンケート調査、社内SNSの活用など、従業員が気軽に発信できる環境を用意しましょう。
本人の意向を尊重し、仮に退職の希望があったとしても一度は丁寧に話し合える体制があれば、退職代行の利用に至るハードルは下がるはずです。
※1on1ミーティングを行うメリットについて知りたい企業は、こちらの記事をお役立てください
1on1ミーティングとは?方法も踏まえて解説
自社にマッチした人材を採用してミスマッチを防ぐ
いくら職場環境を整えていても、企業の理念や業務内容が合わない人材が採用されてしまうと、早期離職のリスクが高まります。
採用段階で職場の特徴や社風を十分に説明し、応募者が「入社後のイメージ」と大きく乖離しないようにすることが重要です。
やりがいや待遇面を誇張して伝えてしまうと、実際とのギャップに苦しんだ従業員が退職代行に頼る可能性も否定できません。
逆に「リアルな働き方」をオープンに示したうえで、自社との適性を慎重に見極めれば、従業員が安心して勤務を続けやすい環境づくりが実現しやすくなります。
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まとめ
退職代行サービスの利用が広がる背景には、企業側と従業員側のコミュニケーション不足や職場環境の問題など、さまざまな要因が考えられます。
企業が退職代行を使われた場合は、感情的にならず、まずは相手の身元や依頼の正当性をきちんと確認することが重要です。
大事な考え方が、そもそも退職代行サービスが使われないよう、採用の精度アップや職場環境の改善を図ること。
問題を根本から見直すことで、採用活動や人材定着において長期的に良い影響があるはずです。
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