2021年4月16日、厚生労働省は新たな履歴書の様式例として、性別欄を任意記載項目とした履歴書を公表しました。
日本では、JIS規格に準拠した履歴書が標準的な履歴書の仕様例として認知されています。公正な採用選考を確保することを目的として、厚生労働省がこれまで推奨していたのもJIS規格の履歴書でした。それがなぜ、新たな履歴書の様式例を作成することになったのでしょうか。
履歴書の性別欄が任意項目になった背景や、これを受けて企業が採用活動の際に注意すべき点について解説します。
目次
新たな履歴書の様式例では、性別欄が任意に
厚生労働省は2021年4月16日、新たな履歴書の様式例を公表しました。 新たな様式例では、性別欄が「男・女」のいずれかを〇で囲う従来の選択式から、以下のように任意で記載する項目へと変更されています。任意記載欄であることが明記され、性別を未記載とすることが可能になりました。 画像出典:厚生労働省(履歴書の様式例の作成について)
従来の履歴書との相違点
厚生労働省が作成した履歴書の様式例では、性別欄以外にも変更された点があります。 一般財団法人日本規格協会(JSA)が示していた従来の履歴書様式例(JIS規格様式例)と、新しい様式例における相違点は以下の4つです。
- 性別欄を「男・女」選択から任意記載に変更
- 記入上の注意1、2の記載内容を削除
- 記入上の注意3の記載内容を“ ※「性別」欄:記載は任意です。未記載とすることも可能です。”に変更
- 「通勤時間」「扶養家族数(配偶者を除く)」「配偶者」「配偶者の扶養義務」の4つの項目を削除
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履歴書の性別欄が任意記載項目となった背景
厚生労働省が新たな履歴書の様式例を作成するきっかけとなったのは、2020年7月に経済産業省へ提出された約1万人分の署名です。トランスジェンダーなどLGBTQの労働問題の改善を支援する団体からの要望で、履歴書から性別欄の削除を求めるものでした。
このことからも分かるとおり、性別欄が任意記載項目になった背景には、性的マイノリティ(セクシュアルマイノリティ、性的少数者)への配慮があります。就職活動の際にカミングアウトを強制されたり、面接官から差別的な言動を受けたりするなど、履歴書の性別欄が当事者が受ける不利益の要因となっていたからです。
性別欄削除の要望を受けた経済産業省は、日本規格協会へその内容を通知。日本規格協会は要望に基づき、帳票の設計基準について規定した「JIS Z 8303」から履歴書の様式例をすべて削除しました(※1)。 それまで厚生労働省は、JIS規格に準拠した履歴書の使用を推奨し、事業者向けパンフレットなどにおいてもその様式例を掲載していましたが、従来の履歴書の様式例が削除されたため、JIS規格の代わりとなる新しい様式を自ら作成することになったのです。
※1【POINT】 JIS規格自体は帳票の仕上げ寸法などを規定するもので、履歴書の性別の記載事項に関して規定しているわけではありません。しかしながら、様式例に男女を選択する性別欄があったことから、JIS規格に準拠して作成された履歴書には同様の性別欄が設けられていました。
流通している履歴書の現状
2021年4月に新しい様式が公表されて以降、国内で流通している履歴書にはどのような変化があったのでしょうか。 文具メーカー、小売店、求人サービスにおけるそれぞれの状況を確認しました。
大手文具メーカー
大手文具メーカーのコクヨは、2020年12月23日(水)に性別欄のない履歴書を発売。行政機関や他社に先駆け、この問題にいち早く対応していました。性別欄は任意記載ではなく、項目自体が削除されています。 画像出典:コクヨショーケース(コクヨの履歴書用紙)
求人サービス
アルバイト・パート求人サービスのタウンワークは、運営するWebサイト内にある履歴書テンプレートを新様式へと切り替えています。
履歴書テンプレート(ダウンロード版)
画像出典:TOWNWORK マガジン(【職歴で選べる】履歴書の無料ダウンロードできるテンプレート一覧)
小売店
コンビニエンスストアと100円ショップでの取り扱い状況を確認しました(※2)。
コンビニエンスストア
コンビニエンスストアでは、新様式の履歴書は確認できませんでした。一部、コクヨの履歴書を販売している店舗もありましたが、店頭では性別欄ありの履歴書のみ販売されていました。
100円ショップ
100円ショップでは、新様式の履歴書は確認できませんでした。ショップ独自の履歴書も販売されていましたが、いずれもJIS規格に準拠した従来の履歴書でした。
※2 筆者の自宅周辺店舗での確認(大阪府/2021年7月15日現在)。異なるエリア・店舗では性別欄なしの履歴書が販売されている場合があります。
公正な採用選考のために、企業が気をつけるべきこと
公正な採用選考を行うにあたり、採用担当者は以下の点に注意しましょう。
独自仕様の履歴書
厚生労働省は、今回公表した様式とは異なる応募用紙を使用する際には、就職差別につながる項目を含めないよう求めています。
採用選考時に使用する履歴書の様式については、本様式例を参考にしつつ、公正な採用選考をお願いします。履歴書の様式に本様式例と異なる記載欄を設ける場合は、公正な採用選考の観点に特に御留意をお願いします。
独自仕様の履歴書がある企業は、現在使用している履歴書を確認してください。性別欄が従来の選択式であれば、任意記載項目への変更または項目の削除を行いましょう。企業サイトや採用サイト内のエントリー(応募)フォームも同様の対応が必要です。未対応のままでは、求職者ひいては社会に対する誤ったメッセージになりかねません。
一方、例外が認められている募集など性別欄を必要とするケースでは、不要な誤解を避けるためにも性別を限定している理由を記載しておきましょう。
応募時の性別確認、面接時の差別的な言動
応募者が履歴書の性別欄を選択していない場合、正当な理由がない限りは性別の確認を行わないでおきましょう。たとえそれが、記入ミスを指摘する事務的な質問のつもりでも、当事者にとってはカミングアウトを迫られる質問に聞こえます。 また面接の際には、性別や外見(服装を含む)はもちろん、採用と関係のない質問はしないことが基本です。これらは採用担当者だけでなく、面接などで応募者と関わるすべての従業員が理解しておく必要があります。
性別欄のない履歴書が、多様性のある組織づくりの第一歩に
採用においては一部の例外を除き、性別を理由に採用可否を決定することが法律で禁止されています(雇用機会均等法第5条:募集・採用についての性別を理由とする差別の禁止)。性別欄が「男・女」の選択式から任意記載項目になったことは、本来あるべき採用の姿にようやく一歩近づいたといえるかもしれません。
近年では履歴書の顔写真を廃止する企業もあり、こうした動きはさらに加速していくでしょう。採用におけるアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見、思い込み)が排除できれば、応募者の能力や業務への適性にしっかりと焦点を置くことができ、優秀な人材の確保にもつながるからです。
一方で、新様式の履歴書を取り扱っていない店舗がまだ多いことも分かりました。性別欄のない履歴書が一日も早く社会に浸透し、企業と求職者の双方にとってより良い採用のカタチが確立することを望みます。
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