個人事業主として飲食店や商店を経営していると、その規模が大きくなるにつれて従業員を雇わなければならない場面も出てきます。
その際、どういう公的手続きを行い、どうやって雇用すればよいのかと悩む事業主の方も多いのではないでしょうか。本記事では、個人事業主が従業員を雇う際に必要な手続きと最適な雇用方法についてわかりやすく解説します。
「法人でないと従業員の採用はできない」と考えてしまいますが、結論からいうと個人事業主でも従業員の雇用はできます。
個人事業主でも正社員から、契約社員・アルバイト・パートといった人材の雇用が可能です。
また、従業員ではありませんが、業務委託など仕事を依頼するだけの契約もできます。
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目次
個人事業主が従業員を雇用する際に必要な手続き
では、個人事業主が従業員を雇用する際に必要な公的手続きには、どのようなものがあるのかを詳しく見ていきましょう。
1.労働条件の通知
(労働条件通知書のひな形)
従業員を雇用する際は、法人と同じように労働条件を通知する必要があります。
内容の一部をご紹介します。
- 雇用形態
- 契約期間
- 労働時間
- 業務内容
- 休日休暇
- 給与
- 給与の支払い方法や期日
- 勤務地
- 退職について
雇用される側が安心できるような労働条件を整えておきましょう。
労働条件通知書については以下の記事で解説しています。
⇒労働条件通知書とは?書き方と実際の雛形・フォーマットをご紹介
また、情報管理の観点から就業規則を定めて誓約書にサインしてもらうこと、NDA(秘密保持契約)を交わしておくこともおすすめします。
2.労働保険・社会保険の手続き
実際に人を雇ったら労働保険、雇用人数によっては任意で社会保険の手続きを進める必要があります。労働保険は雇用保険・労災保険、社会保険は健康保険・厚生年金です。
下記に加入条件などをまとめたので、参考にしてみてください。
・労災保険
1人でも従業員を雇ったら加入しなければならないものなので、手続きが必要です。
必要書類:雇用して10日以内に労働保険関係成立届、雇用して50日以内に労働保険概算保険料申告書の提出が必要です。 届け出先:労働基準監督署
・雇用保険
1週間の所定労働時間が20時間以上で、かつ、31日以上引き続いて雇用される見込みのある従業員は加入となりますので、上記に当てはまる場合は手続きが必要です。
必要書類:雇用して10日以内に雇用保険適用事業所設置届・雇用保険被保険者資格取得届の提出が必要です。 届け出先:ハローワーク
出典:厚生労働省ホームページ「事業主の行う雇用保険の手続き」
・社会保険(健康保険・厚生年金)
個人事業主の常勤社員が5人未満なら任意で加入が可能、それ以上は強制で加入が必要です。
必要書類:従業員が5人以上になった日から5日以内に新規適用届・新規適用事業所現況書・被保険者資格取得届・健康保険被扶養者届の提出が必要です。 届け出先:社会保険事務所
出典:日本年金機構ホームページ「健康保険・厚生年金保険 保険料関係届書・申請書一覧」
加入しなければならないものを忘れている状態で労働災害が起きた場合は、雇用者側に大きな費用負担が発生するため、忘れないようにしましょう。もし、こういった公的手続きが苦手であれば、社会保険労務士に依頼してしまうのも1つの手です。
3.税務署への届け出
(給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出のひな形)
初めて従業員を雇う場合は、税務署に「給与支払事務所等の開設届出書」の届け出をする必要があります。個人事業主の新規開業と同時の場合は、開業届に記載しておきましょう。
4.源泉徴収の準備
(源泉徴収票のひな形)
次に、源泉徴収の準備をします。従業員を雇ったら「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を毎年記入してもらい、保管しておいてください。
この内容をもとに従業員の給与から税金を天引きし、事業主が税務署に納める必要があります。本来は毎月納付しなければなりませんが、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出すれば、年2回で済みます。事務処理を減らすためにも出しておくといいでしょう。
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個人事業主が従業員を雇用するメリット
「個人事業主なら一人で事業をしたほうがいいのでは……」と考える人もいると思いますが、従業員を雇用することで、いくつかのメリットがあります。
3つのメリットについて、個人事業主への影響と併せて紹介します。
事務作業を任せて本業に集中できる
個人事業主として活動していると、通常の企業で総務担当者や経理担当者が担っているような事務作業を、すべて一人でこなす必要があります。
例えば個人で飲食店を経営している場合、閉店後や休憩中など、業務の合間を縫ってそういった事務作業をしなければなりません。
しかし、従業員を雇用して事務作業を任せることで、自分は本業に集中できます。
従業員の雇用に人件費はかかりますが、本業に集中できた結果、利益が増える可能性もあります。
事業拡大の可能性を期待できる
人手が増えることで、事業拡大ができる可能性もあります。
例えば、これまで店舗経営がメインだった飲食店が、従業員を雇用したことで時間的な余裕ができ、オンラインショップを始められるかもしれません。
もし将来的な事業拡大を見据えているのであれば、採用する段階で求める経験やスキルを明らかにすることがポイントです。
青色事業専従者給与の特例を受ければ家族への給与を経費計上できる
原則として、個人事業主が家族を従業員として雇用した場合、その給与は経費計上できません。
これは、税金逃れのために、個人事業主本人の給与を家族にあてることが可能になるからです。
ただし、「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出していて、かつ一定の条件を満たしている場合は、家族への給与を経費計上できます。
詳細は、国税庁の下記ページで確認可能です。
個人事業主が従業員を雇用するデメリット
個人事業主が従業員を雇用することで、いくつかのデメリットも生じます。
メリット・デメリットの両方を踏まえて、雇用を検討することが大切です。
従業員の保険料の負担義務が生じる
従業員を1人でも雇用すると、個人事業主は労働保険(雇用保険・労災保険)に加入する必要があり、保険料負担も発生します。
また、5人以上を常時雇用する場合、同じように健康保険・厚生年金保険の事業主負担が加わります。
※この場合、常時雇用とは「正社員であること」「パート・アルバイトなどのうち1ヶ月の所定労働日数が正社員の4分の3以上であること」を指します
保険料の負担が大きくて心配な場合は、保険加入が生じない範囲で雇用することも一つの方法です。
【参考】
令和4年10月から5人以上の従業員を雇用している士業の個人事業所は社会保険への加入が必要です。
採用・雇用の手続きが必要になる
少子高齢化や人材の流動化などにより、近年は従業員を1人採用することも難しくなっています。人脈を生かして探したり、求人系のサービスを使ったり、なんらかの工夫が必要になるでしょう。さらに、面接では、能力や人柄、適性などを自分一人で見極めなければなりません。
いざ雇用する際には、労働契約書の締結をはじめとした手続きも発生するため、慣れない個人事業主にとっては負担になるでしょう。
従業員の雇用と法人としての会社設立、どちらがおすすめ?
「従業員を雇用するなら、いっそ法人にしてしまおう」と考える人もいると思います。
個人事業主のまま従業員を雇用するケースと会社設立するケース、大きな違いは所得税の算出方法です。
個人事業主には累進課税が適用され、所得が大きくなるほど税金も増え、最大で45%の税率が適用されます。
一方で法人の場合は税率が固定で、どれだけ所得が増えても税率は23.2%です。資本金額や所得額によっては、15%あるいは19%が適用されます。
とはいえ、会社を設立するには、法人登記の手続きをしたり資本金を用意したりと、さまざま段取りが必要です。決算書を1年に1回作成するなど、財務面の負担も大きくなります。
「今の所得なら、法人にしたほうが税金面でのメリットが大きい」というように、自らの所得に応じて判断することがおすすめです。
※個人事業主・法人の税率については、国税庁の下記ページで確認できます
⇒所得税の税率|国税庁
⇒法人税の税率|国税庁
個人事業主が従業員を雇用するのに最適な方法
個人事業主が従業員を雇用するときには、どのような方法が適しているのでしょうか。適切な募集をかけ、無事に雇用できるように、ぜひ参考にしてみてください。
ハローワークに求人を出す
まずは無料の求人媒体で地域に根ざした求人を載せている、ハローワークに求人を出すのがおすすめです。年齢層が高いイメージを持つ方もいるかもしれませんが、最近では若手の方が活用しやすいような雰囲気を心がけているハローワークも多くあります。
ハローワークの求人情報はハローワークインターネットサービスでも閲覧できます。また、来所すればインターネット検索とは異なる偶然性によって、さまざまな方の目に触れる機会もあります。
国としても求人数が増えることは喜ばしいことなので、採用の支援は惜しみなく行ってくれます。まずは求人票を書きに訪れ、どうすれば興味を持ってもらえるかを相談してみるといいでしょう。
無料のWeb媒体に求人を出す
ハローワーク以外にも、無料のWeb媒体に求人を出していきましょう。地域に根ざしている無料のWeb媒体としてジモティーなどが有名です。他にもげんきワーク、求人Freeなど無料で掲載できるWeb媒体も数多くあるので、ぜひ参考にしてみてください。
無料で掲載できる求人サイトについては以下の記事で解説しています。
⇒無料で求人広告を出せる12種類のサイト | 効果の出し方について
採用サイト作成ツールを利用する
採用サイトを持っていない場合は、「採用係長」などの採用マーケティングツールを利用するのがおすすめです。
「中小企業がおすすめする採用サイト作成ツールNo.1※」の採用係長は2分で求人票を作成できるフォーマットがあり、好きなテンプレートを選んで採用サイトが作成できるので、新たに作る暇がない事業主の方にも向いています。作成した求人は、各種求人検索エンジンにも掲載されるので、求職者にアピールしやすいサービスとなっています。
※調査概要:2021年3月期_ブランドのイメージ調査/日本マーケティングリサーチ機構調べ
出典:採用係長公式Webサイト(https://saiyo-kakaricho.com/)
従業員の雇用には信用が重要?
雇われる側は、事業の継続性があるのか、給与の支払いが無事にされるのかどうかなど信用できるか注視しています。その点をクリアできるような求人内容にしておくと、安心して応募してもらえるでしょう。
まとめ
今回ご紹介した方法は、個人事業主の立場で従業員を採用するというものでしたが、安定的に案件を受けられる体制が整ってきた場合は、法人化を検討してみるのも良いでしょう。
個人事業主として1人で行ってきた事業が大きく拡大する局面が訪れたとき、そのチャンスを掴むためにも、従業員の雇用手続きや雇用方法は知っておくことが大切です。安定的に事業が継続し、従業員の雇用を考えた際はぜひ今回ご紹介した内容を参考にしてみてください。
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