定年退職する従業員を再雇用する際に、「嘱託社員」として迎える予定の企業は多いと思います。
ところが、嘱託社員の働き方については、詳しく知らない担当者が少なくないようです。
「契約社員やパートタイマーとの違いがよく分からない」、「業務範囲や労働条件の決め方が分からない」。あなたもそんな悩みを抱える一人ではないでしょうか。
嘱託社員は、法律では定義が定められていない雇用形態です。
そのため嘱託社員として採用を行う場合は、一般的にどのように扱われる雇用形態であるかを知る必要があります。
この記事では、定年退職者を嘱託社員として継続雇用することを検討している企業の担当者に向けて、嘱託社員の一般的な業務範囲や待遇、再雇用の際の手続きについて紹介。
また契約社員・パートタイマーとの違いについても解説していますので、今後の採用や雇用契約を行う際の参考にしてください。
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目次
嘱託社員とは
嘱託社員とは、企業と有期雇用契約を結ぶ従業員のうち、定年退職後に引き続き雇用契約(再雇用制度における継続雇用)を行った従業員のこと。
再雇用時の雇用形態は必ずしも嘱託社員である必要はありませんが、多くの企業が嘱託社員を選択しています。
また嘱託社員は、法律によって定められた雇用形態ではありません。一般的には定年退職後に再雇用された有期契約労働者(有期雇用労働者)を指す用語として用いられていますが、企業によっては、自社の就業規則に基づき再雇用以外の従業員を嘱託社員として採用しているケースもあります。
嘱託社員のメリット
嘱託社員は、「雇用する企業」と「雇用される労働者」の双方にメリットがあります。 (ここでは、定年退職後の再雇用であることを前提に、メリットを解説しています)
嘱託社員を雇用する企業のメリット
- 社内やプロジェクトの状況を把握しているため、着任後すぐに業務を進めてもらうことができる
- 嘱託社員として新たな契約を行うため、人件費を抑えられる可能性がある(再雇用後の労働条件に合わせて給与等が下がる場合)
- 採用・教育コストをかけずに、企業が必要とするスキルや経験のある人材を確保できる
嘱託社員として雇用される労働者のメリット
- 定年退職後も安定的に収入を得ることができる(給与などの労働条件は、定年退職前と変わる可能性あり)
- 基本的には、これまで従事した業務で培った知識や技術を活用できる(「高年齢者雇用安定法」改正により、2021年4月からはグループ会社での継続雇用も可能)
嘱託社員の雇用形態と待遇
前述のとおり、嘱託社員は法律に定められた雇用形態ではありませんが、多くの企業で採用されている有期雇用契約のひとつです。
企業は、どのような待遇で嘱託社員を迎えているのでしょうか。
まずは嘱託社員の雇用形態と待遇に触れ、正社員や契約社員との違いについて確認しましょう。
雇用形態 | 嘱託社員(有期労働契約) |
---|---|
雇用期間 | 最長5年。ただし、1年契約で65歳まで更新を行う企業が多い |
給与・賞与 | 再雇用では責務や業務内容、労働時間等の条件が変わる場合が多く、それに伴って給与や賞与も減少することが多い(※) ただし、定年退職前と同じ責務を担い、労働条件も変わらない場合は、待遇も同等であることが必要 ※日本経済新聞社のアンケートでは、過半数が4~6割減と回答 |
厚生年金・健康保険 | 「1週間の所定労働時間」および「1カ月の所定労働日数」が通常の労働者(正社員)と比べて4分の3以上になる場合は加入が必要 |
労働保険(労災保険・雇用保険) | 「1週間の所定労働時間が20時間以上」かつ「31日以上の雇用見込みがある場合」は、手続き不要で継続加入 ただし、給与が減少する場合は、当該従業員が「高年齢雇用継続給付金」の給付対象となる可能性があり、その申請手続きは事業主を経由して行うことが原則 |
有給休暇 | 定年退職日と再雇用開始日に空白期間がない場合は、定年退職前から通算した勤続年数に応じて有給休暇が付与される |
【POINT】社会保険の手続きについて 賃金が減少する場合は、社会保険料を減額するための手続きが必要です。 再雇用の特例として設けられた「同日得喪」の手続きを行う(「資格喪失届」と「資格取得届」を同日に提出する)ことで、給与変更月から標準報酬月額の改定が可能になります。
嘱託社員と正社員との違い
正社員も嘱託社員と同じく、法律で定められた定義はありませんが、厚生労働省の資料には以下のように記載されています。
一般的に正社員は、以下の条件に該当します。
(1)労働契約の期間の定めがない
(2)所定労働時間がフルタイムである
(3)直接雇用である引用:厚生労働省(都道府県労働局「多様な正社員とは?」)
近年では、短時間正社員制度を導入する企業も増加していることから、上記(2)が該当しない場合もあります。
つまり、嘱託社員と正社員のもっとも大きな違いは、契約期間に定めが「ある」か「ない」かの違いであるといえるでしょう。
嘱託社員の職責や業務内容等は企業によって異なりますが、継続雇用で嘱託社員として働くケースでは、定年退職以前に正社員として勤務していたときよりも責務が軽くなることが一般的です。
嘱託社員と契約社員・パートタイマーとの違い
契約社員は「有期雇用労働者」に含まれる雇用形態のひとつで、一般的には有期雇用労働者のうち、フルタイムで働く労働者を指す名称です。
パートタイマーも「有期雇用労働者」に分類される雇用形態。
中でも、同じ事業所で働く正社員と比べて1週間の所定労働時間が短い「短時間労働者」の名称として使われています。
“有期雇用”という点においては、嘱託社員と契約社員・パートタイマーは同じです。
ただし、1回の契約で定める雇用期間や更新について、両者には以下のような違いがあります。
嘱託社員 | 契約社員・パートタイマー | |
1回の契約で定められる雇用期間 | 最長5年 | 一部の例外を除いて、最長3年(3年経過後は契約を更新) |
無期労働契約への転換 | 企業が「第二種計画認定・変更申請」を行うことで、無期転換ルールの適用外とする特例が設けられている(※2) | 通算の労働期間が5年を超えた時点で、期間の定めのない労働契約 (無期労働契約)への転換を申し込む権利が発生する(無期転換ルール(※1)/労働契約法第十八条) |
※1 当該労働者から申込みがあった場合、企業は無期労働契約への転換を行う必要がある ※2 厚生労働省:無期転換ルールの継続雇用の高齢者に関する特例について(第二種計画認定・変更申請)
まとめ
高年齢者雇用安定法では、定年退職年齢を65歳未満と定めている企業に対して、定年退職後65歳までの雇用確保措置の実施を義務付けています。
この義務を果たすために、当該従業員を嘱託社員として継続雇用する(または検討している)企業は少なくないでしょう。
嘱託社員は契約社員やパートタイマーと同じく、期間の定めのある有期雇用契約を結ぶ「有期雇用労働者」ではありますが、契約期間や必要な手続きについては異なる点があります。
また嘱託社員になることで、定年退職以前に正社員として勤務していたときとは、職責や業務範囲が変わることも珍しくありません。
こうした違いを踏まえ、定年退職後に嘱託社員へと切り替わる従業員がいる企業の担当者は、雇用契約の内容や手続きの確認を早めに行いましょう。
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