人材獲得が難しくなり、採用方法が多様化している近年。
企業が理想的な人材を確保するために効果的な採用方法の1つに、「コンピテンシー面接」があります。
コンピテンシー面接は、応募者の「行動特性(コンピテンシー)」に焦点を当てて評価する手法で、従来の採用手法とは、特徴が大きく異なります。
「自社で取り入れたい」と考える一方で、「なんだかよく分からない」「始めるにも、何からしたら良いのだろう……」と悩む方もいるでしょう。
今回は、コンピテンシー面接の特徴やメリット・デメリット、自社での取り入れ方などを解説します。
「これを読めば、コンピテンシー面接をすぐに始められる!」という内容なので、ぜひお役立てください。
目次
コンピテンシー面接とは
コンピテンシー面接とは、採用候補者の「行動特性(コンピテンシー)」を見極めるための採用手法です。
そもそも「コンピテンシー」は、もともと心理学の分野において「好成績者の行動特性」という意味合いで使われていた用語で、人事分野でも使用されるようになりました。
人事領域においては、「自社で高いパフォーマンスを発揮している人材に共通した要素」として、扱われています。
コンピテンシー面接では、「自社に必要なコンピテンシー」を分析したうえで事前に合否の基準を定め、本人が持っている特性やスキルが、基準を満たすかを判断します。
日本においては、バブル崩壊に伴い成果主義の企業が増加した1990年代からコンピテンシー面接が増え始めました。
年功序列の薄れや少子高齢化の進行などを背景に、ここ数年で注目度がさらに高まっています。
コンピテンシー面接と従来の面接手法の違い
コンピテンシー面接と従来の面接がどのように違うのかを、より具体的に整理していきましょう。
下表は、コンピテンシー面接と従来の面接の違いをまとめたものです。
コンピテンシー面接 | 従来の面接 | |
評価方法 | 会話ベースでやり取りを繰り返しながら、応募者の行動特性を評価する。 | 面接時の回答内容を基に、人柄やスキルなどを判断する。 |
面接のスタイル | 会話形式 | Q&A形式 |
面接の基準 | 自社で実際に活躍する人材を基準に「コンピテンシーモデル」を定め、事前に決めた項目に沿って合否を判断するため、客観的に評価できる。 | 企業方針や経営目標などに沿って基準を設けるものの、評価項目が定まりにくく、面接官による主観が含まれやすい。 |
ミスマッチ | 自社で活躍している人材の行動特性が一致しているため、ミスマッチが起こりにくい | 行動特性の確認を行わずに採用となった場合、ミスマッチとなる可能性がある |
面接準備にかかる企業への負担 | 大きくなりやすい | 大きくなりにくい |
コンピテンシー面接の大きな特徴は、応募者の経験を基に、「なぜそのような行動を取ったのか」「どのような結果になったのか」と、会話形式で意図や成果を深掘りすることです。
応募者は「自分の過去を思い出す作業」がメインになります。
一方で従来の面接は、Q&A形式で質問を繰り返しながら、応募者の人柄やスキル、経歴などについて聞きます。
応募者にとっては、プレゼンテーションのような形です。
情報量は多くなりますが、一方で表面的な部分しか判断できない可能性が高いことがデメリットです。
またコンピテンシー面接では、自社で実際に活躍している人材をベースに評価基準を定めるため、合否判断がブレにくく、ミスマッチを防止できるメリットもあります。
後ほど詳しく説明する通り、準備にかかる負担が大きいデメリットはあるものの、効果的に実施できれば、まさに企業の救世主となりうる採用手法なのです。
コンピテンシー面接を実施するメリット
では、コンピテンシー面接を実施するメリットについて具体的に見ていきましょう。
従来の面接と異なる特徴を持つコンピテンシー面接には、複数のメリットがあります。
応募者の本質・素の姿を見極められる
最大のメリットとも言えるのが、応募者の本質を見極めやすい点です。
本来、履歴書や職務経歴書からはもちろん、面接という1時間の中で、応募者の本質を見抜くことは簡単ではありません。
コンピテンシー面接では、自社で活躍している人材を基に「コンピテンシーモデル」を作成して評価基準を定めるので、「本当に自社で活躍してくれるか」という本質を判断できます。
過去の実績や表面的な能力にとらわれないため、例えば、下記のような人材を採用することができるのです。
・前職で目立った成果を出していなくても、本人のスキルと自社の事業に親和性があり、活躍するポテンシャルを秘めた人材 ・人間関係を理由に前職を短期間で離職しているが、自社の社風と相性が良く、長期にわたって定着してくれる人材 ・面接では緊張して受け答えがスムーズではなかったが、業務上必要なコミュニケーションスキルは高い人材 |
従来の採用面接では、経歴や実績などが強調されやすいため、面接官側も「きっと優秀な人材だ」と判断して採用するケースがありました。
しかし、過去に成果を出している人材が、かならずしも自社で活躍できるとは限りません。
それに、経歴や実績が充実していると、「すごい人」という主観が入った状態で判断するため、合否にも影響が出やすくなります。
そのような、面接における表面的な判断を、コンピテンシー面接では防止できるのです。
入社後のイメージが湧きやすい
コンピテンシー面接では、応募者が「過去に実際に取った行動」を深掘りします。
実体験をベースにして応募者を知ることができますし、応募者の根本にある行動特性を評価するため、「入社後にどのように活躍してくれるか」がイメージしやすい点がメリットです。
面接の段階で働くイメージを持てれば、内定を出した後の、配置や業務振り分けなどもスムーズに進みます。
企業にとっては適材適所での人材活用、応募者にとっては自分のスキルを生かしてスムーズに仕事に慣れる、など、双方にとって良い効果があると言えます。
背伸びした回答を見抜くことができる
面接は、応募者にとっては自分の人生を左右する場です。
そのため、中には自分を良く見せる目的で、事実よりも内容を誇張する人がいることが珍しくありません。
中には、作り話をする人がいることも実情です。
コンピテンシー面接では、そのように背伸びされた回答を見抜くことができます。
これは、コンピテンシー面接では会話形式で応募者を深掘りするので、質問への回答を事前に準備できないためです。
背伸びした回答をしようとすれば、内容に矛盾が生じたり、回答が変に遅れたりします。
また、従来の面接では「面接官からの質問→候補者による回答」が繰り返され、緊張感が生まれやすい特徴がありました。
コンピテンシー面接は会話メインで進むので、応募者がリラックスしやすく、飾った内容ではなく本心を語ってもらえる効果も期待できます。
学歴や年齢、性別などに左右されない
面接では、「学歴」や「年齢」「性別」など、自社で活躍してもらうにあたって本来重要ではない要素に、どうしても意識がいきがちです。
しかし、「コンピテンシーを満たしているかどうか」だけが判断基準となるコンピテンシー面接では、そのような表面的な要素に左右されません。
評価基準が明確になる
従来の面接では、「自分と同じような経験をしている」「明るく笑顔で好みの性格だ」のように、面接官の主観が反映されやすい傾向にあります。
評価基準をあらかじめ明確にするため、面接官の好みが反映されない点も、コンピテンシー面接のメリットです。
コンピテンシー面接を実施するデメリット
ここまで読むと、「コンピテンシー面接はメリットだらけだ!」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、いくつかのデメリットも存在します。
自社での実施を判断するためには、デメリットについても理解を深めることが重要です。
コンピテンシーモデルを作成するのに時間がかかる
コンピテンシー面接を実施するにあたっては、最初に「コンピテンシーモデル」を作成します。
この作業には、ある程度の時間と労力を必要とするのです。
後ほど詳しく解説しますが、コンピテンシーモデルの作成には、「成果を出している社員の抽出」「抽出した人材へのヒアリング」「共通点の分析」といったさまざまなステップが発生します。
コンピテンシー面接を開始したいと思っている時期から逆算して、できるだけ早めに準備を進めることが重要です。
モデルとなる社員がいないと実施が難しい
そもそもモデルになる社員がいないと、コンピテンシー面接は成立しません。
「設立したばかりで既存社員の成果を判断するのに十分な期間がない」「成果を出している社員と聞いて、ぱっと思い浮かぶ人材がいない」のような企業は要注意です。
モデルがいない場合、経営目標や企業方針などを踏まえて、ゼロからコンピテンシーモデルを作成するので、通常よりも時間がかかります。
求人広告を掲載したい方へ
採用係長は最大5つの求人検索エンジン(求人ボックス、Googleしごと検索、スタンバイ、Career jet、キュウサク)にワンクリックで連携できます。ぜひ一度お試しくださいませ。
コンピテンシー面接のやり方と流れ【質問例付き】
ここからは、コンピテンシー面接の実施に前向きになっている方向けに、実際の進め方と流れを解説します。
質問例も併せて紹介するので、ぜひ自社で実施するうえで参考にしてください。
まず、コンピテンシー面接を開始するまでの流れは下記の通りです。
①社内の活躍人材モデルとなる社員を特定する ②求める人物像を明確化し、面接評価シートを作成する ③STAR面接のフレームワークに沿って質問を設定する ④コンピテンシーレベルで応募者を評価する |
各ステップで取り組む内容とポイントについて、見ていきましょう。
①社内の活躍人材モデルとなる社員を特定する
まずは、モデルとなる社員を特定するところからです。
具体的には、下記の流れで進めると良いでしょう
1 部署や役職、職種などの分類ごとに活躍している社員を抽出する 2 抽出した社員の、過去の行動や思考についてヒアリングする 3 ヒアリングを通して集めたデータから、行動や思考の共通点を分析する 4 分析結果をもとに「コンピテンシーモデル」を作成する |
ここで定めたコンピテンシーモデルは、以降のステップにおいて土台となるため、時間をかけてでも丁寧に進めることが大切です。
②求める人物像を明確化し、面接評価シートを作成する
明確にした人物像を基準として、面接時の項目などを定めた評価シートを作成します。
面接官ごとの評価のバラつきを最大限防止するために、重要なステップです。
面接評価シートには、次の項目を盛り込むと良いでしょう。
・質問内容と進め方 ・評価基準 ・応募者の発言内容 ・コンピテンシーレベル評価 ・メモ欄・コメント欄 |
進め方と評価が一目で把握できるよう、評価シートの内容はできるだけ簡潔に記載することがポイントです。
また、上記の項目はあくまで基本的な内容なので、自社でアレンジするのも良いでしょう。
③STAR面接のフレームワークに沿って質問を設定する
実際に応募者を前にしてコンピテンシー面接を進めるうえで効果的な方法が「STAR面接」です。
STAR面接は、次の4つの単語の頭文字を取ったもので、Situation(状況)から順に質問します。
Situation(状況)→Task(課題)→Action(行動)→Result(結果) |
4つの観点においてどのような質問をすると良いのか、例文付きで解説します。
Situation(状況)の質問例
「Situation(状況)」では、特定の経験における環境や体制、自身の役割などを聞きます。
状況について初めに整理することで、面接官自身も、応募者の経験を具体的にイメージできるようになります。
状況について聞くうちに、気になる内容が出てくるはずなので、どんどん深掘りしていきましょう。
・前職において、あなたのスキルを発揮したプロジェクトを教えてください。 ・そのプロジェクトで、あなたはどのような役割を担っていましたか? ・プロジェクトに関わっていたメンバーは何人でしたか? ・そのプロジェクトはどのような背景から始まったのですか? |
Task(課題)の質問例
次に、そのプロジェクトにおいて直面した課題や、その課題に対する考え方、解決のための取り組みなどについて聞きます。
仮に応募者が責任の重いポジションを経験していたり、大きいプロジェクトを担当していたりしても、そのときの本人に課題意識がなければ、自社での再現性は期待できません。
「Task(課題)」では、主に、本人がどのような意識でプロジェクトに臨んだのかを深掘りします。
・そのプロジェクトにはどのような課題がありましたか? ・その課題に対して、あなたはどのような認識を持ちましたか? ・その課題は、どのようなきっかけで気が付いたのですか? ・課題を解決するために、自分のスキルをどのように生かそうと考えましたか? |
Action(行動)の質問例
「Action(行動)」では、課題に対する具体的なアプローチについて質問します。
「状況」や「行動」での発言内容を踏まえて、起こした行動の意図や工夫したことなどを深掘りしましょう。
・課題を乗り越えるために実施した取り組みを具体的に教えてください。 ・その取り組みを行った意図についてお聞かせください。 ・取り組みを進める中で、特に工夫したことはなんですか? ・ご自身のスキルを実際にどう生かしましたか? ・取り組みを進める中で、困ったことはなんですか? |
Result(結果)の質問例
最後の「Result(結果)」では、課題に対して行動をとった結果、最終的にどうなったのかを聞きます。
成果だけでなく、本人の学びや周囲への影響など多角的に質問すると、応募者への理解をより深めることが可能です。
・行動を起こした後、そのプロジェクトはどのような結果になりましたか? ・一連の行動から、あなたは何を学びましたか?また、今後にどのように生かせそうですか? ・あなたの行動は、周囲にどのような影響を与えましたか? ・あなたの行動に対して、周囲からはどのような評価がありましたか? |
④コンピテンシーレベルで応募者を評価する
コンピテンシー面接の評価には、「コンピテンシーレベル」という基準を活用します。
コンピテンシーレベルは、下記5つのレベルに分かれており、どのレベルに該当する人材を採用するか、事前に決めておきます。
レベル1 受動行動 レベル2 通常行動 レベル3 能動行動(主体的行動) レベル4 創造行動(課題解決行動) レベル5 パラダイム転換行動 |
各レベルが表す内容について、詳しく解説します。
レベル1 受動行動
受動行動とは、「周囲からの指示」を基に行動する、受け身姿勢のことです。
例えば、「上司に言われたから行動した」「同僚から求められたから行動した」のようなケースが、受動行動に該当します。
受動行動のレベルにある人材は、仕事に対してポジティブな意識を持っている人が少なく、「仕方なくする」「責任のある仕事はしたくない」のように考えている傾向にあります。
主体的な行動を求める企業にはマッチしない可能性が高いでしょう。
レベル2 通常行動
通常行動は、自分に与えられた仕事を正確にこなせる状態です。
自ら率先して動くわけではなく、アイデアを生まない点は「レベル1受動行動」と似ていますが、任せられた仕事はしっかりと遂行する点が「レベル2通常行動」の特徴です。
「上司にデータを分析するように頼まれたので、未経験の仕事ではあったが、周囲に相談しながらミスなくやり遂げた」のようなシーンがその一例です。
自分の担当する仕事に対しては責任感を持っているので、最後までやり遂げる傾向にあります。
レベル3 能動行動(主体的行動)
能動行動は、業務遂行にあたって必要なことを自分で考えて行動できる状態です。
このレベル3以上の人材は、多くの企業にとって「優秀な人材」として認識され、採用したいと思わせるような特徴を持っています。
レベル3の例を挙げると、「今週末に商談が入るかもしれないと言われたから、自ら先方の情報を調べたうえで、商談用資料を準備しておいた」のようなケースが該当します。
「自らの思考」で業務を進められるため、トラブルが発生しても冷静に対処したり、以降の業務においても高い再現性を発揮したりします。
レベル4 創造行動(課題解決行動)
レベル4は、課題解決のために創意工夫をする状態を指し、「創造行動」と呼ばれます。
レベル3も一般的には優秀な人材ですが、それよりもさらに大きな差があるとされており、市場における希少価値も高いです。
例えば、飲食店であれば、「電話での予約対応が負担になっていたので、ネット予約システムの導入を提案・実行した」のような取り組みが挙げられます。
このように、特定の業務において変化をもたらせる人材が、「レベル4創造行動」に該当します。
レベル5 パラダイム転換行動
パラダイム転換行動は、コンピテンシーレベルの最上位で、独創的な発想で、会社に好影響をもたらすような改善を実施できる状態です。
組織に根付いてきた常識にとらわれないで、改革を起こすことができます。
レベル4と同じく飲食店を例にすると、「ネット予約システムを導入した上で、スタッフ向けの操作マニュアルを作成・共有した」など、組織全体に変化をもたらす行動が挙げられます。
独りよがりの行動ではなく、リーダーシップも発揮して周囲のメンバーを巻き込みながら変化を起こしてくれることも特徴です。
まとめ
少子高齢化や人材の流動化が進む今の時代、人材不足に悩む企業は多いはずです。
だからこそ、求職者からの一つひとつの応募をムダにはできません。
コンピテンシー面接は「導入するのに手間がかかる」「モデル社員がいないと実施が難しい」などの懸念点もありますが、一方で、自社にマッチする人材を確実に採用する上で、多くの好影響をもたらしてくれます。
まずは一度、自社での実施を前向きに検討してみると良いかもしれません。
同じカテゴリ内の人気記事