有効求人倍率とは? 有効求人倍率の推移や計算方法を紹介

採用市場の景況を示す「有効求人倍率」。企業にとっては採用の難易度を知る指標のひとつのため、中小企業の採用担当者なら、一度は聞いたことのある単語かもしれません。

有効求人倍率の見方が分かれば企業の採用戦略に活かすことができますが、残念ながら詳しく理解している方はそう多くはないようです。
あなたも「意味を説明できるくらいにはなりたい」と考えているのではないでしょうか。

そこで今回は、有効求人倍率の基本と読み解き方、企業の採用活動への活かし方について分かりやすく解説します。

有効求人倍率とは

有効求人倍率とは、「求職者1人に対して、何件の有効求人があるか」を示す指標のことで、企業にとって採用の市況感をつかむために役立つデータです。
有効求人倍率を算出・公表しているのは、厚生労働省。全国の公共職業安定所(ハローワーク)の登録情報をもとに算出し、「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」として公開しています。統計が始まった1963年1月から毎月更新されており、政府統計ポータルサイト「e-Stat」では、業種別や都道府県別など詳細な有効求人倍率の確認も可能です。

また景気と密接に関係していることから、景気の動きを表す景気動向指数のうち、現在の景気を示す「一致指数」にも採用されています。
実際に景気と有効求人倍率の関係を確かめてみましょう。以下のグラフ(青色の折れ線グラフ)は、1989年から2020年までの月次有効求人倍率の推移です。景気と有効求人倍率の関係
画像出典:厚生労働省(有効求人倍率と完全失業率の推移)

赤色の〇を付けた3つの箇所は、左から1991年のバブル期、リーマンショックが日本経済を襲った2009年、そして日経平均株価が29年ぶりの高値を付けた2019年です。
いずれも国内の経済状況と連動して、有効求人倍率が増減していることが分かりますね。

【POINT】
有効求人倍率の“有効”とは、有効期限内の求人・求職者が集計対象であることを意味しています。求人票(募集)と求職者(就職活動)の有効期限は、ハローワークが書類を受理した日の属する月の翌々月の末日で、いずれも更新が可能です。

新規求人倍率との違い

求職者数に対する求人数の割合を示す求人倍率には、実は2つの種類があります。
ひとつは、先に述べた有効求人倍率。そしてもうひとつが新規求人倍率です。

この2つの違いは、求人倍率の算出対象となる「求人」と「求職者」が異なる点。具体的には以下のような違いがあります。

  新規求人倍率 有効求人倍率
対象となる求人数 新規求人数(集計対象となる月に新たに登録された求人数) 月間有効求人数(前月から繰り越された「有効求人」+当月の「新規求人」)
対象となる求職者数 新規求職申込件数(集計対象となる月に新たに登録された求職者数 月間有効求職者数(前月から繰越された「有効求職者数」+当月の「新規求職申込件数」)
計算式 「新規求人数」÷「新規求職申込件数」 「月間有効求人数」÷「月間有効求職者数」

有効求人倍率の計算方法

有効求人倍率は自分で計算することができます。計算式は以下の通りです。

有効求人倍率 = 月間有効求人数 ÷ 月間有効求職者数

それでは、令和3(2021)年7月の月間有効求人数と月間有効求職者数(※1)から、有効求人倍率を実際に計算してみましょう。

月間有効求人数 月間有効求職者数
2,190,964件 1,898,280 人
2,190,964 ÷1,898,280 = 1.15

令和3(2021)年7月の有効求人倍率は、1.15でした。以下の厚生労働省の発表と同じ結果になっていますね。令和3(2021)年7月の有効求人倍率
画像出典:厚生労働省(一般職業紹介状況(令和3年7月分)について)
※1厚生労働省 一般職業紹介状況(職業安定業務統計)労働市場関係指標(求人倍率・就職率・充足率・求人数・求職者数・就職件数)

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近年の有効求人倍率の推移

有効求人倍率の基本を理解したところで、近年の有効求人倍率を確認してみましょう。

2013年から2020年までの求人数・求職数および有効求人倍率をグラフ化しました。赤色の折れ線グラフが有効求人倍率(年平均)の推移です。
2013年から2020年までの有効求人倍率(年平均)
参考:一般職業紹介状況(職業安定業務統計) 有効求人倍率 長期時系列表(実数、季節調整値)よりグラフを作成

2014年に1.0を上回って以降、有効求人倍率は2019年まで上昇トレンドです。新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けた2020年は、求人数(緑色の棒グラフ)が大幅に減少。同時に有効求人倍率も減少に転じたものの、実は1.0を下回ってはいませんでした。

さらに2020年、2021年の有効求人倍率を詳しく確認してみたいと思います。以下は、有効求人倍率の月次データをグラフ化したものです。

2020年、2021年の有効求人倍率

2020年1月から減少を続け、2020年9月~10月の1.04でようやく下げ止まりました。その後は微増ながら回復傾向にあることが見て取れますね。2021年7月の有効求人倍率は、1.15。2020年5月(1.18)の水準まで戻ってきています。

2024年(令和6年)の有効求人倍率

ここからは最新の有効求人倍率について傾向を見ていきます。
取りあげるのは、2024年11月時点で最新となる「令和6年9月分」のデータです。

都道府県別 有効求人倍率

令和6年9月時点での全国の有効求人倍率は下記のとおりです。
すべての都道府県で1倍を超えており、求職者に対して求人数が多い状態となっています。地域による大きな偏りもなく、人材不足が全国的に続いている傾向が数字に表れています。

北海道 1.07 三重 1.33
青森県 1.23 滋賀 1.26
岩手県 1.30 京都府 1.26
宮城県 1.21 大阪府 1.05
秋田県 1.41 兵庫 1.14
山形県 1.51 奈良県 1.32
福島県 1.39 和歌山県 1.22
茨城県 1.54 鳥取県 1.42
栃木県 1.28 島根県 1.58
群馬県 1.42 岡山県 1.41
埼玉県 1.15 広島県 1.33
千葉県 1.24 山口県 1.73
東京都 1.09 徳島県 1.26
神奈川県 1.10 香川県 1.62
新潟県 1.49 愛媛県 1.45
富山県 1.56 高知県 1.15
石川県 1.45 福岡県 1.05
福井県 1.93 佐賀県 1.44
山梨県 1.50 長崎県 1.35
長野県 1.44 熊本県 1.37
岐阜県 1.53 大分県 1.52
静岡県 1.26 宮崎県 1.42
愛知県 1.22 鹿児島県 1.22
    沖縄県 1.12

(出典:都道府県・地域別有効求人倍率(就業地別・季節調整値)(新規学卒者を除きパートタイムを含む)|厚生労働省

産業別(大分類) 有効求人倍率

産業別の有効求人倍率について紹介します。
産業によって人手不足の差が顕著で、サービスや保安、建設といった分野の数値が高い傾向です。
なおここでの職業分類は、厚生労働省の定義する「大分類」を基準としています。

管理的職業 0.94
専門的・技術的 1.85
事務 0.43
販売 2.06
サービス 3.03
保安 6.68
農林漁業 1.15
生産工程 1.55
輸送・機械運転 2.20
建設・採掘 5.20
運搬・清掃・包装 0.74

(出典:一般職業紹介状況(令和6年9月分)について 参考統計表|厚生労働省

職種別 有効求人倍率

次は「職種別」の有効求人倍率についてです。
特に倍率が高い職種を抜粋して紹介します。
建設業界や福祉業界をはじめ、人材不足が叫ばれている業界の職種が中心です。

建築・土木・測量 5.64
介護サービス 4.03
機械整備・修理 4.08
建設躯体工事 8.84
土木作業 6.30

(出典:一般職業紹介状況(令和6年9月分)について 参考統計表|厚生労働省

有効求人倍率の今後の予測

有効求人倍率は景気に左右される特性があるため一概にはいえませんが、日本における生産人口の減少を踏まえれば、今後はさらなる人手不足(=有効求人倍率の上昇)が予測されるというのが一般的な見方です。特に若手人材の確保は、より一層厳しさを増していくでしょう。実際に2022年以降は、22歳人口が毎年数万人単位で減少する見通しです(※2)。
一方で中高年および高齢者の労働人口は増加しているため、全体の有効求人倍率が急激に上昇することは考えにくいですが、若手人材を必要とする業種においては局所的に有効求人倍率が高くなる可能性があります。

2021年7月時点での有効求人倍率は、1.15。さらに2022年3月卒業予定の大卒求人倍率の調査では、一部の業界を除いてコロナ以前の水準にまで回復しているという結果も発表されています(※3)。
また現在、コロナショックの影響を受けている飲食業界や観光業界などのサービス業は、もともと人手不足の業界です。中小企業は大手企業と比べて遅れるものの、いずれはもとの状態に近づいていくものと考えられます。

これらの点から、コロナ終息後は労働市場全体の有効求人倍率は上昇する可能性が高いと予測できるのではないでしょうか。

※2国立社会保障・人口問題研究所(日本の将来推計人口 平成29年推計)
※3ワークス大卒求人倍率調査(2022年卒)(株式会社リクルート)

有効求人倍率を採用活動に活かすときのポイント

これまでの説明の通り、有効求人倍率は採用難易度を知り得る有益な情報です。採用活動を始める前に、職種や募集地域の有効求人倍率を確認し、採用難易度を見積りましょう。そのうえで採用手法や確保すべき予算、応募要件、選考プロセスなどの調整を行います。

例えば有効求人倍率が高い職種の場合、応募数の確保を図るために応募条件を見直したり、応募要件の緩和が難しければ、人材紹介など成功報酬型のサービスを利用したりすることが可能。他にもリモートワークが前提であれば、有効求人倍率の低い地域の人材を採用するための求人サービスを選択するなど、さまざまな作戦を考えることができます。
客観的なデータをもとにした提案は、社内調整においても有効です。有効求人倍率から得られる情報を上手に採用活動に活かしたいですね。

あくまでハローワークのデータであることを考慮する

厚生労働省が公表する有効求人倍率は、ハローワークでの登録情報をもとに算出されています。
例えばIndeeddodaのような求人サイト・転職サイトのデータは反映されていません。

実情としてハローワークを通じて採用活動をする企業は全体の一部です。
そのため、有効求人倍率はあくまでひとつの「指標」として、参考程度にとどめておくのがいいでしょう。

用語の意味をしっかり捉える

有効求人倍率を確認していくと、「常用」「臨時」というように雇用形態についてあまり馴染みのない用語が多いことが分かります。

また、一般的に使われている用語についても独自の定義があるため、意味を明確にしておく必要があります。
主な用語を下記にまとめています。

  • 常用:雇用契約において雇用期間の定めがない、または4か月以上の雇用期間が定められている
  • 臨時:雇用契約において1か月以上4か月未満の雇用期間が定められている
  • パートタイム:1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用されている通常労働者に比べて短いもの
  • 正社員:パートタイムを除く常用のうち、勤め先で正社員・正職員などと呼ばれる正規労働者

有効求人倍率を見るときの注意点

上記の用語の意味にも関係していますが、有効求人倍率がかならずしも正社員のものを表すわけではありません。

例えば「常用」と記載されていれば、雇用期間が4か月以上の契約社員や派遣社員なども含まれる場合があります。「常用(パート含む)」と記載があれば、ここにパートタイムも含めて考えるわけです。

また、有効求人倍率は新卒採用を対象にしていないことにも注意が必要です。

有効求人倍率の読み解き方

採用担当者は有効求人倍率をどのように読み解けば良いのでしょうか。ここでは基本的な読み解き方を解説します。

有効求人倍率の基準は、1.0。これは求人数と求職者数が同等の状態を表しています。1.0を上回れば「倍率が高い」、下回れば「倍率が低い」と表現し、その数値から採用の難易度をはかる判断基準のひとつとして活用することが可能です。

有効求人倍率が高い場合

有効求人倍率は、高くなればなるほど企業にとって不利な状況を示します。
例えば有効求人倍率が4.1の場合は、求職者1人に対して4.1件の求人が競合し、企業間で人材の取り合いをしている状態です。

本来希望する条件での人材確保が難しくなり、応募要件の緩和を迫られることも珍しくありません。内定通知後の辞退(他社への入社)を回避するために、さまざまな施策の実施が求められます。

一方、求職者の立場では、有効求人倍率が高いときには就職活動を有利に進めることが可能です。1人あたりの求人数が多いことで就職先の選択肢が増えることはもちろん、雇用条件の優遇も期待できます。

有効求人倍率が高く、求職者にとって有利な採用環境は、一般的に「売り手市場」と呼ばれています。2014年以降、コロナショックによる一時的な落ち込みを除くと、有効求人倍率は高止まりが続いていました。
有効求人倍率は景気に大きく影響されますが、少子高齢社会に突入して久しい日本の人口動態を考えれば、今後も高い状態が続くとみて良いでしょう。

有効求人倍率が低い場合

求人数よりも求職者数が多くなると、有効求人倍率は1.0を下回ります。
例えば有効求人倍率が0.9であれば、求職者1人対する求人は1件未満。採用競合が少なく一定の応募数が期待できるため、優秀な人材の確保や大規模採用が行いやすくなります。
ただし、有効求人倍率が低い時期は景気の低迷と重なるため、すべての企業が採用に積極的なわけではありません。言い換えると、世の中が不景気でも業績の良い企業や、業績が振るわないときにも採用活動を継続する企業にとっては、チャンスが多い時期といえます。

一方、求職者にとってはあまり良い時期とはいえないでしょう。有効求人倍率が高いときと比べて企業の選択肢が少なく、応募後も多くのライバルとの競争が待っています。一般的に「買い手市場」と呼ばれるのがこの状態です。

人材確保のために、企業がとるべきアクション

有効求人倍率は確かに有益な情報ではありますが、毎月チェックするのは意外と手間になる作業かもしれません。
中小企業の採用担当者は兼務をしている場合が多いため、有効求人倍率に合わせた採用活動を面倒に感じる方もいるでしょう。

そんな方のために、ここでは有効求人倍率に振り回されない採用手法についてもお伝えしておきます。

いくつかの有効な採用手法のうち、特におすすめの手法は「採用サイト」と「求人検索エンジン」を併用して行う通年採用です。
まずは自社の採用サイトを作成し、求職者がいつでも採用情報にアクセスできるようにします。

さらに求人検索エンジンに求人広告を掲載。採用サイトへの導線を設けることで、一定の応募数を確保します。

例えば、代表的な求人検索エンジンのひとつであるIndeedの月間ユーザー数は、3,900万人以上(※3)。加えて、求人広告の掲載費は無料です(求人情報の閲覧回数に応じたクリック課金制)。「採用サイト」+「求人検索エンジン」なら、費用対効果の高い人材採用が可能になるのです。

※3 similarwebによる2021年7月のレポートより(39.41M/2021年9月6日時点)

まとめ

有効求人倍率は、採用市場の動向を知る有益な情報のひとつです。
毎月チェックして把握する必要はありませんが、採用に最適な時期や採用難易度をはかる目安として活用することで、より戦略的な採用活動が可能になります。

2020年から現在までの有効求人倍率の推移からは、コロナショックによる落ち込みから徐々に回復していることが分かりました。
高度経済成長末期以来の高水準を記録した、2017年から2019年のような人材獲得競争が再燃するのは、そう遠くない未来かもしれません。

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この記事を書いた人
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コンノ

公務員として4年間、人事労務の実務経験あり。 これまで100名以上の事業者をインタビューしており、「企業や個人事業主が本当に悩んでいること」を解決できる記事を執筆します。

監修者
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辻 惠次郎

ネットオン創業期に入社後、現在は取締役CTOとしてマーケティングからプロダクトまでを統括。
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