建退共(建設業退職金共済制度)は建設業を営むすべての事業主が加入できる国の退職金制度です。
法人はもちろん、一人親方などの個人事業主でも加入でき、独自に退職金を設けることができない事業主の心強い味方です。
今回はこの「建退共」について、制度の仕組みや企業と労働者別のメリット・デメリット、申し込みの流れを紹介します。
この記事を読めば、建退共の全体像が分かるため、ぜひ教科書代わりにお役立てください。
目次
建退共(建設業退職金共済制度)とは?
建退共(建設業退職金共済制度)は、建設現場で働く労働者のための国の退職金制度です。
中小企業退職金共済法に基づいて設計され、独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営しています。
法人・個人問わず、建設業を営む事業主であれば建退共に加入することができます。
建退共は業界特有の課題を解決するための退職金制度
建設業は元々、労働者を社員として雇用する風潮があまりなかった業界です。
これは、ひとつの現場が終わるとまた違う事業主の現場に移ったり、時季による仕事量の変動が大きかったりと、建設業ならではの働き方が関係しています。
最近こそ正社員として雇用する企業は増えてきましたが、いまだに「日給月給制」の賃金体系を採用している企業も少なくありません。労働者からすると、他業界のように一つの事業主のもとで長く働くことはなく、それによる恩恵を受けられないのです。
建退共は、このような業界特有の問題点を解消できる制度だと言えます。
建退共の主な特徴は以下の通りです。
- 事業主が労働者の働いた日数に応じて掛金を納付
- 労働者が建設業界で働き続ける限り、事業主が変わっても退職金は通算される
- 国が掛金の一部を助成(新たな従業員の加入後50日分の掛金が免除)
- 掛金は全額損金または必要経費として扱われる
この点も交えて、制度の詳細について解説していきます。
退職金でいくらもらえるのか?
退職金がいくらもらえるかは、加入期間によって異なります。
下記は納付した掛金に対する支給額の早見表とグラフです。
このように、加入期間が長いほど運用利益が大きくなり、納付した掛金に対して得をすることになります。
建退共(建設業退職金共済制度)の加入条件と加入対象者
建退共の仕組みとしては、事業主が建退共と「退職金共済契約」を結び、労働者の掛金を納めます。そのうえで、労働者が1年以上建設業で働き業界から離れる際に、建退共から労働者に退職金が直接支払われます。
【加入条件】
国内で建設業を営む事業主であれば、総合、専門、職別、下請、日本法人、外国法人を問わず加入できます。建設業法の許可を受けているかどうかも問われません。
【対象となる労働者】
職種問わず全ての労働者が被共済者となることができます。
ポイントを下記にまとめました。
- 建設業に従事する全ての労働者が対象
- 専業でも兼業でも可
- 臨時、日雇い、アルバイトなども含む(雇用形態は問わない)
- 年齢制限なし(若年者から高齢者まで加入可能)
- 一人親方でも任意組合をつくれば被共済者となれる
【加入対象とならない人】
- 事業主や役員報酬を受けている人、および事務専用社員
- 同居の親族だけを雇用する事業所の使用者および個人企業の配偶者
- 中退共、清退共、林退共に加入している人
- すでに建退共に加入している人
建退共(建設業退職金共済制度)の掛金について
建退共の掛金は、労働者が働いた日数に応じて事業主が納付します。
2024年10月現在、1日あたりの掛金額は「320円」となっています。この掛金額は令和3年10月1日から適用されており、建設業の労働環境や経済状況に応じて今後も見直される可能性があります。
【掛金の納付方法】
掛金の納付方法には、主に以下の2つがあります。
- 証紙貼付方式
- 電子申請方式
1.証紙貼付方式
証紙貼付方式は、従来から行われている方法です。
事業主は、建退共から購入した証紙を労働者の共済手帳に貼り付けることで掛金を納付します。この方式のメリットは、日々の労働に応じて確実に掛金を納付できることです。
2.電子申請方式
電子申請方式は、2017年4月から導入された新しい納付方法です。
証紙に代わる「退職金ポイント」をインターネットで購入し、労働者の働いた日数に応じて掛金を計算・納付します。インターネット上で作業が行えるので、事務作業を効率化したい場合におすすめです。
「企業や事業主」にとっての建退共のメリット
メリット①:税制上の優遇措置と掛金の一部免除
建退共に加入することで、企業や事業主は下記のように税制上の優遇措置を受けることができます。
- 法人の場合:掛金の全額を「損金」として計上可能
- 個人事業主の場合:掛金の全額を「必要経費」として計上可能
共済証紙の現物交付により元請負人が負担した証紙の代金も工事原価に参入できます。
これらの税制上の優遇により、高い節税効果が見込めます。
メリット②:従業員の定着率向上と人材確保
建退共制度を導入することで、従業員の定着率向上や優秀な人材の確保にもつながります。
「退職金がもらえるかどうか」は多くの労働者にとってその企業で長く働く理由の一つになります。「建退共」でその点をカバーできれば、従業員の将来への不安が軽減され、定着率向上につなげることができるでしょう。人材募集のアピールポイントにもなります。
建設業界における人手不足は深刻な問題であるため、建退共制度の導入は、この問題に対する有効な対策の一つとなり得ます。
※建設業の若者離れを対策したい方はこちら
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メリット③:競争入札の経営事項審査で加点評価
公共工事に競争入札に参加するための「経営事項審査」において、建退共に加入している場合は「建退共制度評価点」が加点されます。
これにより公共工事の受注機会が増えれば、事業の幅を広げることができるでしょう。
「労働者など加入者」にとっての建退共のメリット
メリット①:安定した退職金の確保
建退共は国によって運営されている制度であり、国が定めた計算によって確実に退職金が支払われます。
「企業が倒産してもらえる予定の退職金がもらえなくなった」といった事態になることを防げます。
メリット②:手続きの手間がない
加入手続きは事業主が行うため、労働者自身が複雑な手続きを行う必要がありません。
また、退職金の請求も比較的簡単で、「退職金請求書」に必要事項を記入して提出するだけで手続きが完了します。
メリット③:加入期間が通算される
建退共は、建設業界全体で運用されている制度のため、仮に転職しても勤務先が建退共に加入していれば期間が通算されます。
「退職したら今まで頑張った分が無駄になってしまう……」という心配が最低限になるので、個々のキャリア構築の幅が広がるでしょう。
「企業や事業主」にとっての建退共のデメリット
デメリット①:経済的負担の増加
建退共制度に加入することで、企業や事業主は労働者一人当たり日額320円の掛金を負担する必要があります。
この金額は一見少額に思えるかもしれませんが、従業員数や就業日数によっては、年間で相当な金額になる可能性があります。
特に中小企業や個人事業主にとっては、この経済的負担が重荷となるかもしれません。
デメリット②:事務作業の増加
建退共制度に加入すると、企業や事業主は新たな事務作業を行う必要が生じます。
主な作業には以下のようなものがあります。
- 建退共の加入手続き
- 共済手帳の管理と配布
- 共済証紙の購入と貼付
- 退職金ポイントの購入や管理
- 就労日数の記録と管理
- 退職時の手続き支援 など
一つひとつの作業はそこまで手間がかかるものではありませんが、特に人員が少ない企業や個人事業主にとっては、本来の業務に割く時間を減少させ、生産性の低下につながる恐れがあります。
デメリット③:一度加入すると解約するのが難しい
事業主が建退共から脱退する場合、「建設業退職金共済契約解除同意書」により、被共済者の3/4以上の同意を得たことを示さなければなりません。
「やっぱり負担が大きかったからやめたい」というように、事業主側の一方的な都合では脱退が難しい可能性があります。
加入前に自社の財務状況を踏まえ、しっかりと検討することが重要です。
「労働者など加入者」にとっての建退共のデメリット
デメリット①:加入期間が12か月以下だと退職金を受給できない
労働者の加入期間が1年に満たない場合、建退共から退職金を受給することはできません。
また、長い間加入するほど掛金に対して退職金額が大きくなるため、建設業である程度長いキャリアを積みたい場合でなければ、退職金の恩恵を十分に受けられない可能性があります。
デメリット②:建設業以外への転職では通算されない可能性がある
建退共は建設業に特化した退職金制度であるため、建設業以外の業界に転職する場合、以下のような問題が生じる可能性があります。
- 新しい業界で建退共と同等の退職金制度がない場合がある
- 建退共の加入期間を新しい退職金制度に引き継げない可能性がある
- 途中で退職金を受け取ることになり、長期的な資産形成の観点から不利になる可能性がある
このように、キャリアの途中で建設業から他業種へ転職を考えている労働者にとっては、将来の退職金計画に影響を与える可能性があります。
建退共加入の流れ
企業が建退共に加入するための大まかな流れは下記のとおりです。
- 建退共HPから「建設業退職金共済契約申込書」と「建設業退職金共済手帳申込書」をダウンロードして記入する
- 建退共支部に提出する
- 契約が締結される
- 「共済契約者証」と「掛金助成共済手帳」が交付される
共済契約者証は中小事業主には「赤色」、大手事業主には「青色」のものが交付されます。
大手事業主とは労働者300人以上で資本金が3億円を超える事業主です。
※詳細はこちら
手続きのご案内|建退共事業本部
まとめ
建退共は退職金を独自に設けることが難しい中小企業や個人事業主にとって、大きな助けとなる制度です。掛金分の負担は増しますが、税制上の優遇措置がありますし、人材確保にも好影響が生じやすいので、総合的なメリットを踏まえて加入を検討すると良いでしょう。
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