従来、フルタイムでの勤務が可能な人材が「正社員」として採用されてきましたが、近年では「短時間正社員」という雇用形態が注目されつつあります。
育児や介護、ボランティア活動、心身の健康不全といったさまざまな事情でフルタイムでの勤務が難しい人材が増加しており、意欲や能力の高い人材を確保するために「短時間正社員制度」を導入する企業は増えてきています。
今回は「短時間正社員制度」の解説や、メリット・デメリットについて紹介していきます。短時間正社員制度に関心のある事業主や人事担当者の方は、ぜひ当記事をお役立てください。
目次
「短時間正社員制度」とは?
「短時間正社員制度」とは「フルタイム正社員と比べて1週間の所定労働時間が短い正規社員」のことです。
これは厚生労働省が2008年頃から導入を奨励している制度であり、同省によると適応対象は以下のように定義されています。
- 期間の定めのない労働契約(無期労働契約)を締結している
- 時間当たりの基本給及び賞与・退職金等の算定方法等がフルタイム正社員と同等である
育児や介護と仕事を両立したい社員、定年後も働き続けたい高齢者、キャリアアップをめざすパートタイムの従業員など、さまざまな事情がありフルタイムで働けない人材に対し、フルタイム正社員よりも勤務時間や勤務日数を短くし活躍してもらうための制度です。
厚生労働省HP:https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/navi/outline/
パート・アルバイトとの違い
短時間正社員とパート・アルバイトの明確な違いは「雇用期間」です。
短時間正社員は労働契約に期間の定めがありませんが、パート・アルバイトは契約期間に定めがあります。
フルタイム正社員との違い
短時間正社員とフルタイム正社員の違いは「所定労働時間」です。
フルタイムの正社員は1週間の所定労働時間が40時間程度の労働が基準ですが、短時間正社員はそれよりも短い労働時間で働くことができます。
時短勤務との違い
短時間正社員と時短勤務の違いは「適用条件」に関するルールの有無です。
時短勤務とは「育児・介護休業法」という法律で定められた、子育てや介護と仕事の両立を図るためにフルタイム正社員が勤務時間を短して働く制度です。おのずと対象者は、育児・介護をする従業員に限られます。
一方で短時間正社員は適用条件に制限がなく、子育てや介護以外の理由であっても対象となります。
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「短時間正社員制度」を導入する企業のメリット
では「短時間正社員制度」を導入すると企業にとってはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
まずはメリットに焦点を当てて解説します。
労働意欲・能力の高い優秀な人材の確保
仕事に対し高い意欲や能力をもっていながらも出産・子育てなどの事情によって、フルタイムで働けなくなってしまった労働者を手放さずに確保できるため、双方にメリットがあります。
また、フルタイム正社員で働くことを一度は諦めてしまった優秀な人材を新規獲得することもできるので、即戦力として活躍してくれるでしょう。
業務の効率化による生産性の向上
時短正社員は、フルタイム正社員と同様の能力が求められます。
仕事にかけられる時間が短い分、限られた時間の中で最大の成果を出そうと、高い生産性を発揮してくれることが期待できます。
また、時短正社員とフルタイム正社員の勤務時間を考慮したうえで適切な業務振り分けができれば、業務効率化にもつながりやすくなります。
満足度の高い働き方による定着率の向上
子育てや介護などの時間以外にも「資格の取得」や「趣味の時間」など時間にゆとりを持ち生活することができるため、プライベートとの両立が可能になり、理想的なワークライフバランスの実現につながります。
また、フルタイム正社員と同等の待遇を受けることができるため金銭的にも安定し、仕事に対しての意欲も高まります。結果として定着率の向上が見込めることも「短時間正社員制度」のメリットです。
労働関係法令などの改正への円滑な対応
高年齢者雇用安定法、労働契約法などの円滑な対応が可能です。「短時間正社員制度」を活用することは「無期労働契約への転換」への対応策としても有効なのです。
※「短時間正社員への転換」について詳しく知りたい方は下記資料の31ページをご覧ください
「短時間正社員制度」導入・運用支援マニュアル|厚生労働省
「短時間正社員制度」を導入する企業のデメリット
短時間正社員制度は企業と従業員にさまざまなメリットをもたらしますが、デメリットもあります。
自社での導入を検討する際は、メリット・デメリットの両方を理解することが重要です。
ここからはデメリットについて解説します。
労働者の間に不公平感が生じる可能性がある
労働時間が同じでも、パートタイム・契約社員や短時間正社員との待遇に大きな差があると、不公平感が生じるおそれがあります。
制度の透明性を高めるために職務内容や責任範囲においての差を明示し、社内の理解を得ることが必要になります。
残業を課すことができない
フルタイム勤務が困難な事情があり時短正社員として働いているため、残業を課すことが難しいのがデメリットです。
無理な残業を命じることは、場合によっては退職につながる可能性もあります。どうしても多少の残業が必要な場合は、慎重に労働者と話し合い同意を得る必要があります。
必要な経費が増える可能性がある
アルバイトやパートタイムの従業員に比べて給与や保険料、福利厚生費用など、必要経費が
増えることが考えられます。時短正社員として採用する人数の設定などは事前にしっかりと定めておく必要があるでしょう。
「短時間正社員制度」を導入する手順
ここからは「短時間正社員制度」の導入手順について、ポイントや注意点を交えながら紹介します。
現状を分析し課題やニーズを把握する
導入の目的も課題やニーズに応じて異なってきます。
企業の人材構成や活用戦略を理解したうえで、まずは課題と目的を明確にする必要があります。
なお、人事部門からの視点だけでなく、実際の現場の声も聞きながら状況を整理しましょう。従業員が少ない企業であれば1人ずつヒアリングをする、一定規模以上であればアンケート調査をするなどの方法があります。
制度や施策案の策定
運営上の問題や公平性の観点から十分な意見聴取と策定が必要です。
課題や目的を把握したあとは従業員や制度を利用する労働者にヒアリングを行い、業務量を把握します。そのうえで、短時間勤務になった後の業務スケジュールや業務配分を整理し、施策案を立案する流れとなります。
注意したいのが、フルタイム時の業務に支障が出ないように制度や施策案を策定しておくことです。例えば営業職であれば担当件数を減らす、採用担当者であれば別の担当者に応募者対応の一部を引き継ぐ、といった工夫をしましょう。
労働条件の決定
制度や施策案の策定が完了すれば、具体的な時短正社員の労働条件を決定していきます。
例) ・就業時間 ・待遇 ・人事評価 ・フルタイム正社員への復帰・転換 など
人事評価等はフルタイム正社員と同じ基準を用いることになりますが、労働時間や期待値などを踏まえ制度利用者の希望も考慮した上で、目標を設定することが必要です。
短時間正社員制度の導入を周知する
「短時間制度」が有効に運用できるかどうかは「短時間正社員制度」を従業員にどれくらい理解してもらえるかが重要なポイントになってきます。
社内報、マニュアルやパンフレットなどを用いて制度導入の目的や内容などの周知を行い、理解と協力を得ましょう。
また、透明性の高い制度として運用するためには、就業規則に制度の概要や申請手続きについて明示することも必要です。
「短時間正社員制度」の導入事例
短時間正社員制度をどのように導入・運用するのか計画を立てる際は、他社の事例が参考になります。
そこで、短時間正社員制度に関する取り組みが成果につながった事例を3つ紹介します。
【教育、学習支援業】短時間正社員制度によって雇用の安定化を実現
【会社設立年、業種、社員数】
会社設立:2006年
業種:就職支援事業・各種教養講座の運営
社員数:正社員8名(短時間正社員5名)、非正規社員8名
【導入のきっかけや背景】
正社員8名のうち女性社員が7名と多く、子育て世代の人材が事業の中核を担うケースも多かったことから、ライフステージに合わせた働き方を調整する必要がありました。
【取り組みの内容】
同社では、2014年より短時間正社員制度を導入しており、通常の正社員の所定労働時間は8:50~16:20ですが、短時間正社員は所定労働時間を6時間あるいは6.5時間(休憩含む)に短縮しています。
従業員がライフステージ応じて柔軟に働けるよう導入され、採用時から短時間正社員として入社することが可能です。
フルタイム正社員から短時間正社員への転換、あるいは短時間正社員からフルタイムへの転換も認めています。
【導入の結果】
制度をスタートさせて以降、5名の有期契約社員が短時間正社員に転換しました。
その他の取り組みも含め就業環境の良さには社内外から定評があり、ハローワーク経由で1名の募集に対し40名の応募者があるなど、採用面での好影響もあるようです。
【出典】
株式会社アカデミー 契約社員の正社員転換を通して、優秀な社員の戦力化に取り組む|厚生労働省 多様な働き方の実現応援サイト
【建設業】短時間正社員制度が従業員の仕事と治療の両立の支えに
【会社設立年、業種、社員数】
会社設立:1969年(創業1958年)
業種: 総合建設業、不動産仲介・販売・賃貸業、携帯電話販売業
社員数:正社員47名、非正規社員10名
【導入のきっかけや背景】
同社では以前より、本人の病気や出産、育児、介護といった事情によって「フルタイム勤務は困難だけど仕事は続けたい」という社員に対して、企業側から短時間勤務を提案していました。
会社としても「キャリアを積んできた社員は財産である」という思いがあります。できるだけ働き続けてもらいたいと考えていたので、「時間限定正社員制度」の本格的な導入・運用に向けて社労士と相談しつつ制度を整えました。
【取り組みの内容】
時間限定正社員に転換するにあたり「転換する前の基本給」を基準として労働時間で按分した額が「転換後の基本給」として支給されます。賞与等、他の待遇についても正社員と同じ算定基準です。
フルタイム正社員から時間限定正社員に転換する際は、制度利用者と同じ部署内でフォローする体制を整えることができるか、テレワークの利用は可能かどうかなどが検討されます。「転換可能」と判断したら、経営層が参加する会議で承認を得る流れです。「この日から転換」と期日を決めるのではなく、体制が整い次第転換ができるので、社員の事情に合わせて柔軟な対応ができます。
【導入の結果】
時間限定正社員は4名となり、企業規模に対して制度利用率は決して低くありません。
制度自体の社員からの評価についても肯定的なものが多いと感じているようです。
時間限定正社員制度のことを知った難病の学生が「病気の治療をしながら仕事がしたい」という理由から就職を希望した事例もあります。
【出典】
株式会社小坂工務店 以前より、社員からの要望に応え短時間勤務を認めてきたが、より開かれたものとなるよう制度として確立した|厚生労働省 多様な働き方の実現応援サイト
【卸売業】短時間正社員制度の導入が離職の防止に
【会社設立年、業種、社員数】
会社設立:1968年
業種:卸売業
社員数:正社員49名、非正規社員10名
【導入のきっかけや背景】
同社は元々「生涯雇用」の考えを持っており、「人を大切にして利益を上げる経営」が時代の要請であるとの認識のもと、子育てや介護、病気、高齢など、様々な事情があっても働き続けられるように「勤務時間限定正社員制度」を導入しました。
【取り組みの内容】
同社の勤務時間限定正社員制度は、始業・就業時刻や週の労働日数を「月120時間~144時間」の中で任意に設定できます。理由を問わず制度の利用が可能であり、期間に制限はないので、本人が希望すれば正社員のままで短時間勤務を続けることが可能です。
給与額については、フルタイム正社員も勤務時間限定正社員も、同じ給与・賞与規定を使い労働時間で按分したうえで決定しています。
他にも役割手当、基礎能力手当、営業手当、技術サービス手当、秘密保持手当、特殊勤務手当、通勤手当、調整手当、前払い退職手当などがあり、フルタイム正社員と勤務時間限定正社員で同じ支給基準です。
また、労働時間によって昇格・昇進の上限が設定されることはありません。
【導入の結果】
柔軟な働き方も影響して、同社では10年以上離職者がでていません。
また、社員同士が利他・貢献の気持ちを持って働けるようマインドセットをすることによって、在宅勤務を中心とした体制への移行など大きな変化があっても企業が一体感を持つことができています。
【出典】
株式会社日本レーザー 勤務時間限定正社員制度を軸とした、一人一勤務形態ともいえる多様な働き方を認めることで、人を大切にしながら利益を上げる経営を実現した|厚生労働省
まとめ
人によって働き方やライフスタイルはさまざまであり、うまく有効活用ができれば「短時間正社員制度」の導入は「企業」だけでなく、「労働者」や「日本社会」にとっても大きなメリットがあるといえます。多様な働き方を実現させるための一環として、ぜひ同制度の導入を検討してみてください。
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