2013年に高年齢者雇用安定法が改正され、定年を迎えた高齢者の雇用が増えています。貴重な経験者を定年後も再雇用することで、深刻な人材不足をカバーするだけでなく、リソースの活用という点でもメリットが大きいといえます。
今回は定年後再雇用制度について、法改正の要点や導入のメリット、デメリットを詳しく解説します。
目次
「定年後再雇用制度」とは?
「定年後再雇用制度」とは、従業員の希望に応じて定年退職後も新たに雇用契約を結ぶ制度のことをいい、雇用機会を確保するための継続雇用制度のひとつです。 この制度は、高年齢者雇用安定法の改正により2013年以降は希望者全員が対象になりました。
高年齢者雇用安定法によって、従業員の定年を定める場合は60歳以上とすることが法律で定められ、定年の年齢を65歳未満にしている企業は65歳までの雇用が義務付けられています。
しかし、さらなる高年齢者の就業機会の確保を目指して、2021年4月に継続雇用制度導入を盛り込んだ「高年齢者雇用安定法」の改正が施行されます。 このあと詳しく解説します。
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高年齢者の雇用状況
2013年に改正された高年齢者雇用安定法により、「高年齢者の継続雇用」が明文化されました。厚生労働省の「高年齢者の雇用状況」調査(※)によると、高年齢者雇用確保措置を実施している企業は99.8%にのぼり、調査対象企業のほとんどの企業が65歳までの安定した雇用を確保するための措置を講じています。
今後もさらなる高年齢者の就業機会の確保を目指し、2021年4月に現行法を改正した高年齢者雇用安定法が施行されます。今回の改正で最も重要なポイントは、定年年齢を65歳から70歳まで引き上げる努力義務が追加されたことでしょう。これには、66歳以上の労働参加率を上げ、さらに多様な人材の労働参加を進めようという狙いがあると言えます。
現段階で66歳以上が働ける企業はわずか11.7%(調査対象企業161,378社に占める割合)ですが、今後は企業に対して努力義務が課せられるため、高年齢者雇用を導入する企業が増加していくことでしょう。
(※)令和元年「高年齢者の雇用状況」集計結果:https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000182200_00003.html
2021年4月に「高年齢者雇用安定法」が改正
今回の改正によって高年齢者雇用確保措置が大きく変わります。 法改正の要点をおさえ、概要を理解しておきましょう。
【現行】定年年齢65歳まで義務
- 65歳までの定年の引き上げ
- 65歳までの継続雇用制度の導入
- 定年の廃止
【新設】定年年齢を65歳から70歳まで引き上げる努力義務
- 70歳までの定年の引き上げ
- 70歳までの継続雇用制度の導入
- 定年の廃止
雇用以外の措置(労働者の過半数を代表する者等の同意を得て導入)
- 高年齢者が希望する時は、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
- 高年齢者が希望する時は、70歳まで継続的に事業主が実施する社会貢献事業や事業主が委託、出資する団体が行う社会貢献事業に従事できる制度の導入
(参考:改正高年齢者雇用安定法概要/厚生労働省)
「定年後再雇用制度」導入のメリット
経験と知識が豊富な高齢労働者を再雇用することは、企業にも多くのメリットをもたらします。以下5つのメリットに絞ってそれぞれ解説します。
人材不足を解消できる
高年齢者の雇用も「継続雇用」という形態ばかりではなく、ハローワークなどの採用媒体通じて新たな求人雇用を生み出します。もちろん、定年前と定年後では体力などに変化が出る可能性もあるため、企業と労働者の双方にとって有益な条件や労働形態を模索する必要はありますが、人材不足や採用難が深刻な企業の人員不足を解消できるでしょう。
顧客と良好な関係を継続できる
再雇用した従業員の担当顧客と良好な関係を継続できることで、担当の変更等による顧客満足度の低下や契約終了のリスクをなくすことができるでしょう。
若手人材を育成できる
若手社員が即戦力として成長するには一定の時間が必要です。経験が豊富な従業員の教育とフォローがあれば成長スピードも早まるでしょう。
技術や知見を活用できるため採用コスト・教育コストを削減できる
再雇用することによって新たに人材を雇用する必要がなくなり、採用コストや教育コストを削減できます。さらに、従業員がこれまで培った技術や知見を継続して活用できるため、企業の生産能力や営業能力の低下を防ぐことができるでしょう。
助成金を受け取ることができる
国が定める「高年齢者等職業安定対策基本方針」では、65歳以降も年齢にかかわらず意欲と能力に応じていつまでも働き続けられる制度の導入や、高年齢者の働きやすい職場づくりを企業に求めています。 このような企業努力を支援するために、以下3つの助成金が用意されています。
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
高年齢者などの就職困難者をハローワークなどから採用・継続雇用した際に、事業者に支給される助成金です。一時的な雇用ではなく雇用保険を適用し、継続雇用することが条件です。支給額は高年齢者の区分によって異なります。
詳しくはこちら:特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)
ハローワークなどから65歳以上の求職者を採用し、1年以上継続雇用することで受け取れる助成金です。対象者を雇用保険の高年齢被保険者として雇うことが条件です。70歳までの高年齢者採用を検討している企業はぜひ活用しましょう。
詳しくはこちら:特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)
65歳超雇用推進助成金
定年の年齢引き上げや高年齢者に合った雇用管理制度導入などに取り組む企業を支援するための助成金です。3つのコースに分けて実施され、65歳以上の高年齢者が働ける環境整備はもちろん、高年齢者無期雇用転換コースにおいて50歳以上の有期契約労働者を無期雇用に転換する取り組みにも助成がおこなわれます。
3つのコースについて詳しくはこちら:65歳超雇用推進助成金
「定年後再雇用制度」導入のデメリット
「定年後再雇用制度」導入には多くのメリットがある反面、当然ながらデメリットも存在します。以下3つのデメリットを解説します。
世代交代が停滞する
経験と知識が豊富な高齢労働者を再雇用することで、若い人材の育成が期待できる反面、発言力や影響力が強く社内で通ってしまうと、本来主体となるべき若い世代が萎縮し、新しいアイデアの発案や改革意識が生まれてこない可能性があります。
労働管理、評価制度の煩雑化
法令を遵守した上で、新たな雇用制度や勤務形態に対応していかなければならないため、人事面での管理が煩雑化する可能性があります。 また、再雇用後の労働に対してどう評価していくかなど、新たな評価制度の設計も必要になってくるでしょう。
モチベーションの低下
これまでの活躍を期待して高齢労働者を再雇用したとしても、モチベーションの低下により同じようなパフォーマンスを発揮することは難しいかもしれません。 年齢とともに身体的・精神的な体の機能は低下していくものなので、それぞれの労働者にあった期待値の調整を細かくおこなっていく必要があるでしょう。
まとめ
現在の日本は、65歳以上の高齢者の人口割合が全体の21%以上を占める「超高齢化社会」です。2025年には高齢者の人口割合が30%を達すると予測され、労働力不足は今後も多くの企業が抱える課題と言えるでしょう。 人材確保や労働力不足を解消するためには、高年齢者の雇用拡大が鍵となるかもしれません。
企業の生産性を高めていくためにも、高齢者が活躍できる環境づくりを進めていきましょう。
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