採用における差別をなくすために|関連する法律と公的ルールを解説

採用における差別

企業が採用活動を行い、結果として誰を採用しようとそれは企業の自由です。

しかし、採用活動にあたって不合理な理由で応募者の選択を妨げるような事項があったり、適性や能力に関係がない部分で採用可否を判断すれば、それは就職(採用)差別に該当するでしょう。

今回の記事では採用における差別に着目し、それらに関連する法律と公的ルールについてまとめてみました。

採用における差別とは

厚生労働省は、採用選考の基本的な考え方として以下の2点を掲げています。

  • 応募者の基本的人権を尊重すること
  • 応募者の適性・能力に基づいて行うこと

また、公正な採用を実施するにあたって応募者の適正・能力とは関係がない事柄で採用の可否を決定してはならないと述べており、それらの事項を採用基準とすることは就職(採用)差別につながると定義しています。

そのため、適正と能力に関係がない事柄を聞いたり、書類選考の際に書かせたりすることは差別に該当すると考えておいて間違いないでしょう。

具体的には次のような事項が該当します。

【本人に責任のない事項の把握】

  • 「本籍や出生地」に関すること
  • 「家族」に関すること(職業や収入など)
  • 「自宅」に関すること(間取りや住宅の種類など)
  • 「生活環境や家庭環境」に関すること

【本来自由であるべき事項の把握】

  • 「宗教」に関すること
  • 「支持政党」に関すること
  • 「人生観や生活信条」に関すること
  • 「尊敬する人物」に関すること
  • 「思想」に関すること
  • 「労働組合」や「学生運動」などに関すること
  • 購読新聞や雑誌、愛読書に関すること

参考:公正な採用選考の基本|厚生労働省 – 雇用

上記に加え、合理的かつ客観的に必要だと認められない健康診断を実施(採用選考時)するケースも採用差別にあたるので気を付けましょう。

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採用において差別が問題である理由

そもそもなぜ、採用において差別が問題となるのでしょうか。

その理由として、日本国憲法ではすべての人に職業選択の自由を保証しています。

日本国憲法第二十二条
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
引用元:日本国憲法

仕事を探している人にとって、「就職」は人生および生活を左右するものであることはもちろん、働くことを通じて社会に貢献し自己実現を図る極めて重要なものです。

もちろん、採用する企業側にも採用方針や採用基準といったものが定められており、採用の可否についても自由が認められています。企業にとっても「誰を採用するか」は、その後の事業の成否を左右する大きなポイントだといえるでしょう。しかし、企業にいくら採用の自由があるからといって、そこに差別があってはなりません。

前述した、採用選考の基本的な考え方を念頭に置いたうえで採用活動を実施する必要があります。

採用における差別に関する法律と公的ルール

ここでは、採用における差別に関する法律と公的ルールについて見ていきましょう。

男女雇用機会均等法

男女雇用機会均等法は「雇用の分野における男女の均等な機会および待遇の確保等に関する法律」の通称のことで、1985年に制定された比較的新しい法律です。この法律では企業活動の至る場面において性別を理由にした差別を禁じており、第5条では雇用における性差別を禁じています。

第五条 事業主は、労働者の募集および採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない
引用元:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

「看護婦」が「看護師」に、「スチュワーデス」が「客室乗務員」に名称を変更したのもこの法律がきっかけです。

また、2007年の改正では差別的取り扱いの禁止を女性ではなく、「性別」を理由としました。
具体的にどういった事項が差別に該当するのかは厚生労働省が公表している、「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」(以下、「指針」とする)に記載があります。

指針からいくつか抜粋して説明すると、以下の事項に該当する場合は男女雇用機会均等法違反にあたる恐れがあるので注意しましょう。

  • 一定の職種や一定の雇用形態(正社員や派遣社員といった雇用形態)について、募集対象を男女いずれかとする
  • 求人広告に「男性歓迎」「女性向きの職種」などといった記載をする
  • 性別によって募集や採用における条件が違う
  • 男女いずれかを優先する採用を行う

上記からもわかるように、事業主は採用・募集時において男女のどちらかを優遇することのないようにしなければなりません。
また、合法的な理由がない限り、次のような間接差別も違法とみなされます。

  • 募集や採用にあたって、応募者の身長や体重、耐力などを要件とすること
  • 男女差別とは少々異なるが、募集・採用時において転居を伴う転勤に対応できることを採用条件とすること

障がい者雇用促進法

障がい者雇用促進法は、障がい者の職業の安定を図ることを目的に制定された法律です。

この法律が制定された背景として、すべての国民が障がいの有無にかかわらず、個人として尊重されること。そしてすべての国民が障がいの有無によって差別されることがなく、相互に人格と個性を尊重しあいながら労働をはじめとした社会活動に参加しようといった理念があります。そのため、障がい者雇用促進法の第34条(障がい者における差別の禁止)では、以下のように定められています。

第三十四条 事業主は、労働者の募集及び採用について、障がい者に対して、障がい者でない者と均等な機会を与えなければならない
引用元:障害者の雇用の促進等に関する法律

人材を募集・採用するにあたって障がい者を排除するようなことがあってはならないのはもちろん、障がい者ではない人を積極的に採用することも禁止されているので注意しましょう。

また、ここでいう「障がい者」について、障がい者雇用促進法では「身体障害や知的障害、発達障害を含む精神障害、その他の心身の機能の障害により、長期にわたり職業生活に相当の制限を受ける者、あるいは職業生活を営むのが著しく困難な者」とされています。

すべての事業主に、算出された雇用率に相当する分の障がい者を雇用する義務が課せられており、障がい者手帳を所持していない人は算定対象外です。
とはいえ、障がい者手帳を持っている人だけを積極的に採用するのではなく、持っていなくともさまざまな困難を抱えた人が働きやすい職場環境を作ることもまた企業の努めでしょう。

公正な採用選考の基本

握手

私たちを含め、生活していく限り「就業」は重大な意義を持っており、生活の安定や社会参加を通じて生きがいを享受できます。

前述ように、憲法には「職業選択の自由」が明文化されており、その意味を守るためには雇用する立場の人間が差別のない公平な採用活動を行わなければなりません。
また、人権問題に関心を持ち、なにかと複雑な人権問題の解決に企業としてできる範囲での力添えをすることは結果として企業価値を向上させることにもつながるでしょう。

採用活動を実施する際に意識してほしいことは、次の3つです。

  1. 応募者の基本的人権の尊重:人を人として見る
  2. 応募者の適正・能力を元に選考を行う:仕事と関係のないことを聞かない
  3. 応募者に広く門戸を開く

上記を踏まえたうえで公正な採用活動を実施できるよう、現状を見つめ直してみましょう。

まとめ

今回は採用担当者に向け、採用活動時における差別について法令を交えながら解説しました。

誰を採用し、労働契約を結ぶかどうかは企業と個人の間で自由に決めることですが、ここでいう「自由」とは一定条件のもとでの自由であることを忘れてはいけません。
特に性別差別については、ちょっとした言葉の使い方で差別と捉われてしまうケースも多々あることから、注意が必要です。
いまいちど、採用活動において法令違反が生じていないかどうか確認してみましょう。

この記事が少しでも役に立てば幸いです。

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この記事を書いた人
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採用Webマラボ編集部

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監修者
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辻 惠次郎

ネットオン創業期に入社後、現在は取締役CTOとしてマーケティングからプロダクトまでを統括。
通算約200社のデジタルマーケティングコンサルタントを経験。特に難しいとされる、飲食や介護の正社員の応募単価を5万円台から1万円台に下げる実績を作り出した。
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