個々が活躍しやすい職場づくりをするうえで「ポジティブアクション」が欠かせません。
一方で言葉自体は聞いたことがあるものの、「具体的な意味を知りたい……」「どのように取り組んだらいいか分からない……」とお悩みの方も多いでしょう。
今回は、ポジティブアクションの意味や企業が実施するメリット、取り組み方などを紹介します。
ポジティブアクションについて理解を深めたうえで社内の取り組みに反映させたい方は、ぜひ当記事をお役立てください。
目次
ポジティブ・アクションとは?
ポジティブアクションとは、社会的・構造的な差別による不利益を解消するために行う企業の自主的かつ積極的な取り組みのことです。
世界中で導入されていますが、とりわけ日本では、女性活躍を推進するための取り組みを意味して使われます。
これまでの日本は性別による役割分担意識が強く、例えば下記のような差が生じていました。
- 営業職に女性がほとんどいない
- 管理職の大半を男性が占めている
こういった差別をなくすために、長期的視点で組織全体の公平性と生産性を高め、すべての従業員にとってより良い職場環境を作り出すことを目指します。
ポジティブ・アクションの目的
ポジティブアクションに取り組む目的は大きく次の2つです。
男女平等に活躍できる社会の実現
最大の目的とも言えるのが、性別にかかわらず全ての人が平等に活躍の機会を得て、自身の能力を最大限に発揮できる社会を実現することです。
特に職場において、女性が管理職として登用される、あるいは意思決定の場に参画するといった機会を増やし、男女間の格差を是正することを目指しています。
内閣府男女共同参画局によると、日本の企業の女性役員比率は下記のとおり右肩上がりで上昇してはいますが、諸外国と比べると大きなギャップがあります。
ポジティブアクションにより、まずはこの差が縮まることが期待されます。
(出典:共同参画 企業における女性登用の加速化に向けて|内閣府男女共同参画局)
多様性の促進
ポジティブアクションは、単に男女間の格差を解消するだけでなく、組織全体の多様性を促進する効果があります。
多様な背景や経験を持つ人材が活躍することで、企業の創造性や問題解決能力が向上し、イノベーションが促進されるでしょう。
現に、ダイバーシティ経営に取り組む企業は、そうでない企業と比べて売上高や利益率が高い傾向にあることが数年前から報告されています。
(出典:ダイバーシティ推進による経営効果について①|厚生労働省)
企業がポジティブ・アクションに取り組むメリット
企業がポジティブアクションを実施することで、組織づくりや事業活動にさまざまなメリットをもたらします。ここでは、特に注目しておきたいメリットを4つ紹介します。
女性のキャリア意識の向上
ポジティブアクションを実施して女性が活躍しやすい環境をつくることで、女性社員のキャリア意識が高まります。
「女性」という点でキャリアに悩んでいた社員のモチベーションアップにもつながるでしょう。
キャリア意識の向上に伴う具体的なメリットは下記のとおりです。
- 昇進・昇格への意欲向上
- 自社への定着と長期的なキャリアプランの構築
- スキルアップへの積極的な取り組み
- リーダーシップ能力の開発
企業イメージの向上
ポジティブアクションに積極的に取り組む企業は、社会的責任を果たす企業として評価されます。
性別による垣根がないというイメージを持たれることで、自社のブランディング強化にもつながり、事業活動だけでなく採用活動にも良い影響があるでしょう。
企業イメージがアップすることによる具体的なメリットは下記のとおりです。
- 顧客からの信頼度アップ
- 投資家からの評価向上
- 優秀な人材の応募増加
- メディアでの好意的な取り上げ
厚生労働省の報告によると、ポジティブアクションに取り組む企業は、「なでしこ銘柄」や「新・ダイバーシティ経営企業100選」などの表彰を受ける機会が増え、企業ブランド価値の向上につながっています。
(出典:第4節 ポジティブアクションの推進等による男女間格差の是正|厚生労働省)
優秀な人材の確保
ポジティブアクションの積極的な取り組みは優秀な人材を引き付けます。
採用を強化できるだけでなく、その後の定着にもつながるでしょう。
なお、ポジティブアクションは女性の採用にだけ効果があるわけではありません。
フラットな企業文化が醸成されることで、男性も含めさまざまな人材を呼び込むことになります。
ポジティブ・アクション能力アップ助成金を受け取ることができる
ポジティブアクションに取り組む企業は「ポジティブアクション能力アップ助成金」を受給できる場合があります。
受給は1回限りで、金額は大企業が「15万円」、中小企業は「30万円」となります。
この助成金を受け取るためにはいくつかの要件を満たす必要があり、例えば「女性の職域拡大または女性の管理職登用のいずれかにおいて数値目標を設定する」「数値目標をポジティブアクション情報ポータルサイト内のポジティブ・アクション応援サイトまたは性活躍推進宣言コーナーに掲載する」といったものがあります。
詳しい条件は下記ページでご確認ください。
ポジティブアクション能力アップ助成金|厚生労働省
ポジティブ・アクションの具体例
では、ポジティブアクションにはどのような取り組みがあるのでしょうか。
女性の採用と職域の拡大
女性の採用を積極的に行い、これまで男性中心だった職種にも女性を登用することは、重要なポジティブアクションの一つです。
例えば、理系職場での女性採用枠の設定や、営業職への女性の積極的配置などが挙げられます。
パワーアシストスーツに代表されるように、最近はツールを活用することで女性の就業が難しいとされてきた業界でも活躍の幅を広げやすくなっています。
女性管理職を増やす
「ポジティブアクションの目的」の見出し内でも紹介したように、日本の女性管理職比率は昔に比べると上昇していますが、諸外国と比較すると少ないです。
女性の管理職を増やすことで、女性社員のキャリアアップの指標にもなり、組織全体の活性化につながる場合があります。
【女性管理職を増やすための取り組み例】
- 管理職候補の女性社員に対する特別研修の実施
- メンター制度の導入
- 管理職登用の際の評価基準の見直し
- 女性管理職比率の目標設定と公表
女性の勤続年数を伸ばす
女性には妊娠・出産をはじめ特有のライフイベントがあり、本人に働く意思があるのにキャリアを中断せざるを得ないケースが男性より多いです。
働きやすさを整えて勤続年数を伸ばすことで、本人が望むキャリアが実現しやすくなり、管理職への登用などにも発展しやすくなります。
【女性の勤続年数を伸ばすための取り組み例】
- 育児・介護休業制度の充実と利用促進
- フレックスタイム制度やテレワークの導入
- 復職支援プログラムの実施
職場環境や制度を整備する
女性が働きやすい職場環境の整備は、ポジティブアクションの基盤となる重要な取り組みです。
ここで大事な視点が「男性が育休を取得しやすい空気をつくる」というように、家族単位で考えることです。
男性が家庭のために割ける時間が増えることが、結果的に女性の働きやすさにもつながります。
【職場環境や制度の整備例】
- 男性の育児休業取得促進
- 社内保育所の設置
- 女性用設備(更衣室、休憩室など)の充実
- キャリアアップ支援制度の導入
ポジティブ・アクションの進め方
ポジティブアクションを効果的に実施するためには、体系的なアプローチが必要です。
以下では、ポジティブアクションを進める際の4つの重要なステップについて詳しく解説します。
現状を分析して問題点を洗い出す
最初に、女性社員がどのように働いているのかを客観的に把握し、問題点を明確にする必要があります。具体的には以下のような項目を確認します。
- 男女別の採用比率
- 職種や部門ごとの男女比
- 管理職における女性の割合
- 男女の平均勤続年数
- 育児・介護休業の取得状況
- 給与水準の男女差 など
これらのデータを収集・分析することで、自社における男女格差の実態や課題が浮き彫りになります。
目標の設定や具体的な計画を作成する
浮き彫りになった課題をどのように改善したいのか「目標」を定め、その目標を達成するための計画を作成します。
計画には具体的な取り組み内容も明記しましょう。
計画を実行する
策定した計画を確実に実行に移すことが重要です。
実行においては以下の点に注意しましょう。
- 経営トップのコミットメントを明確にする
- 計画の内容を全社員に周知徹底する
- 実行責任者と推進体制を明確にする
- 必要な予算と人員を確保する
- 進捗状況を定期的に確認する仕組みを作る
- 社員からのフィードバックを積極的に収集する
成果を検証して改善する
一度計画を実行して終わりではありません。
定期的に成果を検証し、必要に応じて改善を行います。もし検証と改善のプロセスが分からなければ、以下のように進めてみてください。
- 設定した目標の達成状況を確認する
- 実施した施策の効果を分析する
- 社員アンケートや面談を通じて、現場の声を収集する
- 成功事例や課題を洗い出す
- 分析結果に基づいて、計画や施策を見直す
- 改善策を立案し、次のアクションプランに反映させる
ポジティブ・アクションの取り組み事例
日本におけるポジティブアクションの例について、厚生労働省が公表する資料より業界ごとに紹介します。
ポジティブアクションの成果も踏まえて紹介するので、社内で計画を立てる際にお役立てください。
建設業
労働者数48名、うち女性9名
【主な取り組み内容】
採用拡大 | 幅広い職種で女性の活躍を期待している旨を対外的に発信した。 |
職域拡大 | 作業マニュアルを整備するとともに、重機械・事務機器の使用能力を社内で登録・評価する「作業登録制度」を設置。 また、体力面でのハンデをカバーするために建設重機にAT車を導入した。 |
管理職登用 | 資格取得費用を会社が負担し、資格手当に反映させる制度「資格登録制度」を整備したうえで、「一級土木管理施工技士」の取得を男女ともに積極的に奨励している。 |
職場環境、風土の改善 | 業務計画を調整する会議や職場の問題点を検討する会議などに女性も参加してもらい、女性の責任感・意欲を向上させるための配慮をしている。 |
【結果】
女性従業員の配置に対して取引先からの評判が良く、他の従業員のモラル向上にもつながった。女性の活用が企業経営においてプラスになっている。
【出典】
企業経営へのプラスを実感、今後も多くのポジティブアクションを実施予定|厚生労働省
中・小製造業
労働者数118名、うち女性66名
【主な取り組み内容】
採用拡大 | ガイダンス、面接試験、筆記試験、採用決定の全フローにおいて女性の総務課長が中心的役割を担当。 また、採用試験を全て点数化し、男女別・学校別での差別を行わないために、履歴書の提出をなしとした。 |
職域拡大 | 女性の配置が少なかった営業部門や研究部門に女性の採用・配置を始め、同時に職務ごとのマニュアルを作成。 |
管理職登用 | 女性社員を総務課長に登用。 |
職場環境、風土の改善 | 雑用や掃除、お茶くみといった女性が行っていた慣習を見直した。また、女性を会議や勉強会に参加してもらい、リーダーとして取りまとめ役を経験してもらった。 |
【結果】
女性が能力を発揮することで経営の効率化が図られた。また、平成11年と早い段階で女性を総務課長に登用したことで、県内の報道機関から取材を受けた。
【出典】
能力重視の男女平等採用と女性の職域拡大で、合理的経営を推進中|厚生労働省
飲食店、宿泊業
労働者数99名、うち女性35名
【主な取り組み内容】
職域拡大 | 営業やブライダルアドバイザー職に女性を積極的に登用した。 |
管理職登用 | 企画部長、営業課長、企画係長、営業主任の各役職に1名ずつ女性を登用した。 |
【結果】
モデルとなる女性がいることで他の女性社員のモチベーションが高まり、女性管理職が増加。顧客のブライダル企画に対する評価の高まりにもつながった。
さらに、男性社員の意識も変わってきている。
【出典】
ブライダルアドバイザー職への女性登用で、女性社員の意欲向上にもプラスの効果|厚生労働省
まとめ
ポジティブアクションの推進は一朝一夕には実現できません。長期的な視点を持ち、粘り強く取り組むことが重要です。また、社会情勢や法制度の変化にも注意を払い、適宜計画を見直すことも忘れないようにしましょう。
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