中小企業の人事必見!プロに聴く、人事評価制度導入のススメ

人事評価制度がきちんと機能していない。そもそも人事評価制度自体が導入されていない。中小企業には、そんな悩みを抱えている人事担当者が少なくないはずです。

そこで今回お話を伺ったのが、セレクションアンドバリエーション株式会社の平康慶浩代表です。大企業から中小企業まで190社以上の人事評価制度改革に携わってきた氏に、中小企業が人事評価制度を導入する際のイロハを教えていただきました。

人事評価制度なくして成長なし?

——そもそも中小企業は人事評価制度を導入すべきなのでしょうか。

社員数100名以上の会社では、ほぼ確実に人事制度が必要になるしょう。そうでないと、組織の運営が非常に困難です。

それ以下の規模の場合はケースバイケースですね。毎年の入社数が社員の10%以下で、ほとんど人が入れ替わらないような会社であれば、人事評価制度がなくとも大きな問題はないかもしれません。誰がどんな仕事をしているのかを経営者がすべて把握して、全員に直接指示を出しているワンマン型の会社も、導入の必要性は薄いでしょう。

人事評価制度を導入すべきなのは、現在は小規模であっても、3年後、5年後に大きく成長したいと考える会社です。

——それはなぜでしょうか?

人事評価制度は、企業の成長に欠かせない「企業理念や事業計画の浸透」を促すメッセージツールだからです。

この考え方はすでに広く共有され、多くの会社で企業理念や事業計画を制定されているかと思います。ところが例えば企業理念は往々にして抽象的なものになりがちで、個人がどのような行動すべきか、というところまで示すことができていません。また事業計画についても全体の数字だけで、一人ひとりの目標にまで落とし込まれていないのだとしたら、目標達成のために何をすればよいかわからないはずです。

しかし、人事評価制度をしっかりと定めていれば、等級ごとの行動基準や目標項目というかたちで、ポジションごとにどんな行動や成果、成長が求められるのかを具体的に提示できるのです。それこそが人事評価制度を導入する最大のメリットです。

——つまり人事評価制度とは、社員一人ひとりに期待される行動や成果を、具体的に噛み砕いたものなのですね。

そうですね。これから新しく人事評価制度を導入するのであれば、そのように経営理念や事業計画としっかりと結びついたものになるようにするべきです。
逆にいうと、「人事評価制度は給与を決定するための仕組み」と捉えているのだとしたら、人事評価制度を導入しても大きな成果は望めないと思います。

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もし会社が居酒屋だったら。

——すぐにでも成果に結びつく人事評価制度をつくるには、どうすればいいのでしょう?

まずは自分たちのビジネスモデルをしっかりと掘り下げることですね。

その上で私がおすすめしているのは、組織図を書いてみること。

例えば、会社を一軒の居酒屋だとしましょう。お客様の接客のためにホールスタッフがいて、彼らを束ねるチームリーダーがいる。一方で厨房には調理師がいて、その上には調理長がいる。そしてお店全体を管轄するのが店長です。

こんな風にビジネスモデルが成立するために必要なポジションを書き出していくと組織図が完成します。そうすればどんなスキルや資質を持った人材が必要なのかは自ずと見えてくるはずです。これによって、各ポジションの評価基準も明確になります。あとは必要な人材を確保するのに必要な給与を、ポジションごとに定めていけばいいわけです。

——ポジションごとに給与を設定していくということは、いわゆる「職能等級型」ではなく、「職務等級型」の人事制度がおすすめだということでしょうか?

そうですね。ただ、その分類は混乱を招きがちなので、ひとまずは「必要なポストに応じて給与を定めていく」という認識でいいかと思います。

——「ポストが足りなくなり若手がいつまでも昇格できない」という心配はありませんか?

大企業ではそういったケースもありますが、中小企業でポストが足りない状態とは、会社が成長できていない状態のことです。もしそうであるのなら、人事評価制度を云々する以前にそもそものビジネスモデルや事業計画を見直すべきでしょう。会社が健全に成長していれば、むしろポストに当て込む人材の方が足りなくなっているはずです。結論としては中小企業の場合は、「職務等級型」を採用したとしてもポスト不足を心配する必要はありません。

任せるべきところはプロに。

——人事評価制度をつくるまでのプロセスを、より具体的に教えてください

まずは人事評価制度を導入するための、プロジェクトチームを立ち上げましょう。当たり前のことですが、責任者やゴール、スケジュールを明確に設定しなければ、物事は前には進みません。ここでは、6ヶ月間で人事評価制度を導入すると仮定して、各プロセスを説明していきましょう。

最初の一ヶ月間でまず取り組むべきなのは、グランドデザインです。ビジネスモデルをきちんと理解した上で、人事評価制度の大まかな戦略を定めていきます。ここで大切なのは、誰の意見をどこまで取り入れるのかをシビアに判断していくこと。アンケートなどを通じて、社員の意見を把握することは重要ですが、全員を納得させようと考えると、なかなか方向性を定めることができません。

グランドデザインが定まったら、3〜4ヶ月かけて、具体的な等級制度、報酬制度を固めていきます。このプロセスは、コンサルタントなどの専門家に任せることをおすすめします。プロに任せるべきところはプロに任せた方が決められた期日までに確実の制度が完成するし、費用も総合的に考えれば安く済みます。

残りの期間は、社内調整にあてます。基本的には減給や昇給が発生しないような人事評価制度を設計していくことがベストですが、必ずしもうまくいくとはかぎりません。そうした場合に、どうすれば優秀な人材の流出が起きないのか、感情面のケアも含めてしっかりと社内で揉んでいく必要があります。

——一度、導入してしまえば、運用は社内でもまかなえるのでしょうか?

1年程度の運用支援をコンサルタントなどに依頼するケースが一般的かと思います。1on1ミーティングなどのフォローアップを、どの程度の頻度で実施すべきなのか。評価者はどのように教育していけばいいのか。このあたりのノウハウがしっかりと蓄積されていないと、人事評価制度の運用は難しいでしょう。
はじめにしっかりとコンサルタントからのフォローを受けて自社で運用できる体制を整えられれば、あとはたまに相談するくらいでも大丈夫です。

事業戦略が変われば、人事評価制度も変わってくる。

——人事評価制度は、どんなタイミングで見直していけばいいのでしょう?

評価項目の変更など、マイナーなアップデートであれば一年ごとに行っている会社も多いですね。ただ、社員が一番興味を持っている昇給や賞与の仕組みなどはあまり頻繁に見直すと社員からの不信感が高まってしまうため、数年に一度にまとめての見直しをおすすめします。

本質的にはあまり年数には縛られず、課題ベースで考えていただければと思います。運用上の問題がないのなら、無理に見直す必要もありません。私が導入コンサルを務めたなかには、15年以上もアップデートすることなく人事評価制度を運用されているクライアントもいます。もちろん業績が右肩上がりをキープできているからなのですが。

——課題とは例えばどのようなものでしょうか?

最も影響が大きいのは、環境の変化による事業戦略の見直しでしょうね。例えば、最近多くの企業が取り組みはじめたDXです。以前はIT人材にだけ求めていたようなデジタルスキルを、一般の社員にも求める会社が増えています。そうなればデジタルスキルを評価項目に加えるなど、人事評価制度全体のアップデートが必要になるはずです。

いずれにしても中小企業にとって大切なのは、会社を組織として成長させていくことです。人事評価制度はあくまでもそのための手段。それをしっかりと認識することが、より良い人事評価制度を設計するための第一歩です。

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セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 平康 慶浩

グロービス経営大学院 准教授 特定非営利法人 人事コンサルタント協会 理事
アクセンチュア、アーサーアンダーセン、日本総合研究所を経て現職。 大企業から中小企業まで、190社以上(2020年末時点)の人事評価制度改革に携わる。 大阪市特別参与として区長公募面接、局長・部長昇任面接担当官も務める。 

編集後記

企業の成長において欠かせない人事評価制度。そして人事制度の構築のためにはビジネスモデルの深堀と、人事と事業戦略の結びつきの大切さを今回の取材でお伺いしました。
長期的な事業成長を見据える企業様はご参考になれば幸いです。

今回取材を快く引き受けてくださった平康慶浩代表にこの場を借りて感謝を述べさせていただきます。

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採用Webマラボ編集部

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監修者
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辻 惠次郎

ネットオン創業期に入社後、現在は取締役CTOとしてマーケティングからプロダクトまでを統括。
通算約200社のデジタルマーケティングコンサルタントを経験。特に難しいとされる、飲食や介護の正社員の応募単価を5万円台から1万円台に下げる実績を作り出した。
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