「よなよなエール」をはじめ「軽井沢高原ビール」「水曜日のネコ」など、数々の人気クラフトビールを世に送り出しているヤッホーブルーイング。斬新な手法で、新製品をつくり、熱狂的なファンを増やしていますが、採用においても、自社メディアを活用し、遊び心にあふれた情報発信で、応募者の心をつかんでいます。
本記事では、現在、採用・育成部門の「モチベーションブルワーズ(HR)ユニット」に在籍している高畑さん、広報・PRを担当している道本さんに、自社メディア採用をするまでの苦節や、自社メディア採用で意識しているポイントについてお話を伺いました。
退職者が相次ぎ、人材が定着しない課題を抱えていた
目次
ーまず簡単なご経歴と、現在の担当業務について教えてください。
高畑さん:新卒で都内の企業に入社し、企業研修や人材開発、経営者向け勉強会を企画する業務を7年間ほど担当しました。その後、地元の長野にUターンし、ヤッホーブルーイングに入社しました。
入社してからは5年ほど製造業務に携わり、主にビールを缶や瓶に詰める充填(じゅうてん)、品質管理などを担当していました。その後採用・育成部門の「モチベーションブルワーズ(HR)ユニット」に異動し、現在は採用と人材開発と組織開発をメインに行っています。
ーありがとうございます。さっそく本題に入りたいのですが、御社が自社メディア採用を始めた背景、きっかけを教えてください。
高畑さん:創業当初は地ビールブームもあって売れ行きも好調でしたが、ブームが終わり、売り上げも減るなかで、チームの関係性も悪くなり、離職者が増えていきました。当時は、経営理念がうまく浸透しておらず、会社が目指すべき方向と、従業員の目指す方向が一致していませんでした。
ー当初の課題を解決するために、どのような施策をされたのでしょうか。
道本さん:まず、ミッションの明文化と共有をおこないました。多様で個性的なクラフトビールを通じて新しいビール文化をつくって幸せを届けたいという想いから「ビールに味を!人生に幸せを!」というミッションが制定されました。ミッションやビジョンは井手が社長に就任した2008年に明文化されました。それから、ミッションやビジョンをもとに業務を進める中で、2010年に組織文化、2012年に価値観、2014年に企業価値と、皆の足並みを揃えるために、そのたびに必要なものを制定していきました。
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”会社を知ってもらう”ことが、採用ミスマッチを防ぐ最良の方法
※サイトは2021年2月現在リニューアル中
ー現在、経営理念の明文化、浸透のプロセスはどのように実施されていますか?人事目線で教えていただければと思います。
高畑さん:採用プロセスでガッホー文化や価値観といった経営理念を体現できる人材かどうか評価する方法はあったものの、具体的な部分は面接官に委ねられていました。ただ、明確にスクリーニングしたり評価したりするところまで落ち切っていなかったのが課題でした。面接での質問内容や、確認する回答などを標準化したり、説明会で配る資料の改善や資料の提供のタイミングを意識したり、就職説明会で経営理念やヤッホーの働き方に関して伝える情報を増やしたり、ミスマッチが起こらないように、さまざまな施策を試しています。
ー説明会や資料作成など情報発信については、広報と連携して動いているのでしょうか?
高畑さん:そうですね。弊社は、会社が大切にしていることや社内の雰囲気を伝える場所として説明会を重視しています。しかし、コロナもあってオフラインでの説明会の開催ができなくなり、現在はWebセミナーに切り替えています。 当初は、応募者に2時間ほどの採用動画を見てもらう流れにしていましたが、再生回数は伸びず、実際の応募も増えませんでした。たしかに、2時間は長いですよね。そりゃ僕も見ないなと(笑)
そこで、昨年の7月に広報のメンバーと協力し、10分程度でビール市場の現状やヤッホーが大切にしているポイントや活動内容を説明した採用動画を制作しました。他にも、もっと会社の雰囲気が伝わるようにWebセミナーをゼロベースで再設計したりなど、広報と連携して進めることは多いですね。
ーお話をお伺いしていると、採用部署だけでなく、会社全体で採用活動をしているように感じます。
高畑さん:そうですね。会社を知ってもらうことがミスマッチを減らす有効な方法と考えているので、採用プロセスや募集内容はもちろん、説明会ではさまざまな部署のメンバーに顔出しをして説明いただいており、”顔が見えること”を大事にしています。
ー他の部署を巻き込むことは労力がかかると思いますが、工夫していること、会社として同じ方向に進んでもらうコツがあれば教えてください。
高畑さん:弊社には、新入社員に対して入社直後にお題を与え、ヤッホーらしい働き方を学んでもらいながら、プロジェクト単位で会社の課題解決に取り組む「新人プロジェクト」があります。たとえば、そのお題に「会社紹介する採用動画をつくってください」というものがあったりします。このプロジェクトで制作した採用動画がこないだ完成したのですが、なぜか社歌ができていました(笑)
https://www.youtube.com/watch?v=JqLUeDTSdmI
実は採用ホームページのリニューアルも「新人プロジェクト」で進めています。通販部門、品質管理部門、営業部門など、異なる部署のメンバーが混ざり合うようにチーム分けをしています。だからこそ、部署の垣根を超えて、チームで取り組む姿勢が自然と育まれるのかなと思っています。
デザインやワーディングは、徹底的にこだわる
ー自社メディア採用で特に意識している点があれば教えてください。
高畑さん:弊社は、特にファンコミュニケーションやファンマーケティングを重視しています。SNSなどお客さまに情報発信ができるプラットフォームを活用して採用の告知をしたり、また、どのようにヤッホーが仕事しているかが見えるようなコンテンツも用意したり、そういった地道な施策の積み重ねが採用面でも効いているのかなと考えています。
SNSなら運用担当者と連携しながら、採用セミナーの集客が最大化するようにタイミングと回数をチューニングしています。まだ正解は見つけられていませんが、なるべくコーポレートの発信のスケジュールと、ユーザーの方に見ていただきたいタイミングが重なるように調整しています。
ー発信するメッセージ、文言で意識している点はありますか?
高畑さん:たとえば、ガッホー文化の「知的な変わり者」というキーワードがあります。これは、要するに、”誰もが持つ、人と違ったキラリと光る個性を大切にする”ことなのですが、キーワードだけを発信すると構えてしまう方もいると思っていて。
転職の理由は人それぞれで、刺さり方も人それぞれだと思うし、ある程度ペルソナを細かく設定し「この人のこういう部分に響くようなものにしよう」と考えながら、文言を作成しています。
ー自社メディアの運用コストや外注化についてお聞きしたいのですが、御社ではどのように運用されていますか?
高畑さん:弊社では、ほぼすべて内製でコンテンツ制作をしています。ですので、採用メディアやエージェントにお支払いしている金額と比べると、自社メディアにかける予算のほうが圧倒的に多いですね。企業規模にしては広報部署の人数は多いですし、自社サイトの運営に携わるメンバーだけでも10名程度います。採用サイトのコンテンツ企画をしたり、社内のエピソードを掘り起こして執筆したりする部署もあって、しっかりとクリエイティブの人たちが能力を発揮し働ける体制を構築しています。
弊社は採用単体としてはあまりお金を使っていませんが、そのかわり自社メディアの制作にコストをかけているので、お金をすごく使っているとも、採用単体としては使っていないともいえるんですよね。
ーやはり、これから中小企業がオウンドメディアを構築・運用するなら、クリエイティブに費用をかけたほうがいいでしょうか?
高畑さん:それなりに予算や人をかけないと、よいコンテンツはできないと思います。今の業務量を採用担当だけで全部やるとなると、かなり大変なレベルなので。いわゆる製品のマーケティングと絡めた循環ができているのは、十分に予算や人をかけているからかなと思っています。
ー御社のサイトは、デザインがおしゃれで統一感があると感じました。自社メディアにおいてデザインにコストをかけることは重要だと思いますか?
高畑さん:そうですね。デザインを重視しているからこそ、採用サイトのリニューアルも時間をかけて取り組んでいます。
ーリニューアルをされる背景やきっかけについて教えてください。
高畑さん:リニューアルをした理由としては、情報が古くなっていて新しくしたかったのと、経営理念をもっとわかりやすく表現したかったからですね。採用サイトだけ見ると、どうしても楽しいイメージを持たれがちで「入ってみたら意外と真面目な人多いんですね」と言われることが多くて(笑)
ファニーな方もいますが、寡黙な方もいますし、別に盛り上げてわいわいする人に来ていただきたいわけではないんですよね。
とにかく、会社の魅力や理念をリアリティをもってお伝えできればいいなと思っています。たとえば、ヤッホーが掲げる「フラットなコミュニケーション」や「自ら考えて行動する」というキーワードは、耳障りがいいから誤解を生みやすいんですよね。本来は、好みがわかれる要素だと思っています。本当にそういう状況を楽しめる方に来ていただきたいと思っているので、そういう部分がしっかり伝わるような内容にしたいですね。
ー最後に、今後求める人材像や展望を教えてください
高畑さん:求める人物像は、理念にフィットしている方、ヤッホーのミッションを心から取り組んでみたい方ですね。また、弊社はコンピテンシーという発揮行動評価で評価報酬の体系ができているので、そこで活躍できる見込みのある方に来ていただきたいなと思います。
今後の展望は、今あるファンマーケティングの基盤だけに頼らず、採用として企業の魅力を発信できるようなステージに進化したいなと思っています。
我々の製品に対する熱狂度が高い方や、弊社のサイトを見て良い会社だなと思ってくださる方には応募していただけるのですが、ビールはそんなに詳しくないけど企業文化や仕事のやり方にフックする層にタッチできていない課題を感じています。弊社は、まだまだ認知度も低いので、非認知層に向けて採用に関する情報を発信する取り組みを積極的に行っていきたいなと思います。
編集後記
取材の中で、新卒社員も巻き込んで会社全体で採用に取り組むヤッホーブルーイング様の採用姿勢が印象的でした。 企業文化・経営理念を伝えるために、社内一丸で取り組み出来上がったコンテンツは社員もファンも愛着を持てるコンテンツなのではないでしょうか。
今回取材を快く引き受けてくださった株式会社ヤッホーブルーイング様ならびによなよなエール広め隊様、モチベーションブルワーズ(HR)ユニット様にこの場を借りて感謝を述べさせていただきます。
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