中小企業退職金共済(中退共)とは?手続きやメリット・デメリットを解説

「退職金を導入したいが自社にリソースがない……」
このようなお悩みを抱えている中小企業の事業主や担当者はいませんか?
「中退共(中小企業退職金共済)」について詳しく知ることで、そのお悩みが解決できるかもしれません!

今回は、退職金制度の導入が難しい中小企業向けの制度「中退共」について、仕組みやメリット・デメリットを紹介します。導入までの流れについても解説するので、ぜひ当記事をお役立てください。

中小企業退職金共済(中退共)とは?

中小企業退職金共済(中退共)は、独自に退職金制度を設けることが難しい中小企業とその従業員のための国の退職金制度です。
正式名称は「中小企業退職金共済制度」といい、厚生労働省が所管しています。

中退共は、1959年に「中小企業退職金共済法」に基づいて創設された制度です。多くの零細・中小企業が退職金制度を独自に設けることができない中、従業員の福祉増進と企業の安定した雇用を目的としてスタートしました。

以来、60年以上にわたって中小企業の退職金制度を支え、2023年3月末時点で約56万事業所、約576万人が加入する大規模な制度となっています。

【出典】
中小企業退職金共済制度(中退共制度)|厚生労働省

中小企業退職金共済の条件・対象者について

企業として中小企業退職金共済(中退共)に加入するには、特定の条件を満たす必要があります。
同制度の対象となる労働者の条件と併せて詳しく説明します。

中小企業退職金共済(中退共)に加入する条件

具体的な条件は業種によって異なり、常時雇用する「従業員数」か「資本金または出資総額」のいずれかを満たす必要があります。

業種 従業員数 資本金または出資総額
小売業 50人以下 5,000万円以下
サービス業 100人以下 5,000万円以下
卸売業 100人以下 1億円以下
製造業、その他 300人以下 3億円以下

(出典:中小企業退職金共済事業本部「加入の条件」

中小企業退職金共済(中退共)は従業員全員が加入対象

中退共は原則として従業員全員が加入対象となります。
以下、ポイントをまとめています。

  • 正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトも加入可能
  • 年齢や勤続年数に関係なく加入できる
  • 新入社員から管理職まで、幅広い従業員層が対象

ただし、実際の加入にあたっては、事業主と従業員の間で合意が必要です。
また、中退共制度に加入している従業員は、社会福祉施設職員等退職手当共済制度に加入することはできません。

なお、下記の条件にあてはまる従業員は加入させなくてもよいとされています。

【加入させなくてもよい条件】

  • 期間を定めて雇用される従業員
  • 季節的業務の雇用される従業員
  • 試用期間中の従業員
  • 短時間労働者
  • 休職期間中およびこれに準ずる従業員
  • 定年などで相当の期間内に雇用関係の終了することが明らかな従業員

経営者・役員など対象外もある

中退共は従業員のための制度であるため、法人の代表や役員は基本的に加入することができません。
ただし、以下の条件を満たす場合のように、「使用人兼務役員」であれば従業員としての立場で加入が可能です。詳細は中退共本部に問い合わせてみましょう。

  • 従業員としての身分も有している
  • 従業員としての給与が明確に定められている
  • 就業規則等が適用される など

中小企業退職金共済(中退共)加入の手続き

中退共に加入するまでの全体の流れは下記のとおりです。

  1. 従業員本人の同意を得る
  2. 加入する従業員ごとの掛金月額を決定する
  3. 必要書類を記入する(退職金共済契約申込書(新規用)、預金口座振替依頼書)
  4. 添付書類を用意する
  5. 書類を提出する
  6. 契約成立

金融機関あるいは委託事業主団体の窓口に提出した日が「契約成立年月日」です。掛金納付は口座振替なので企業や従業員の負担がありません。
なお、書類についての詳細は下記ページでご確認ください。
中小企業退職金共済事業本部「加入手続き」

中小企業退職金共済(中退共)の掛金

ここからは制度内容についてより詳しく知るために「掛金」について解説します。

掛金は月5000~月30000円の16通り

掛金月額は5,000~10,000円は1,000円きざみ、10,000~30,000円は2,000円きざみの16パターンです。これを列挙すると下記のとおりとなります。

【掛金16種類】
5,000円、6,000円、7,000円、8,000円、9,000円、10,000円、12,000円、14,000円、16,000円、18,000円、20,000円、22,000円、24,000円、26,000円、28,000円、30,000円

なお、パートタイムなどの短時間労働者は下記の掛金が認められています。

【短時間労働者のみ認められている掛金月額】
2,000円、3,000円、4,000円

掛金は事業主が負担

中退共の掛金は、全額事業主負担となります。
従業員の福利厚生の一環として位置づけられているので、従業員の給与から天引きすることはできません。

「うちは掛金負担なんてできない……」と悩んでいる企業も安心してください。
詳しくは後述しますが、掛金の税務上の取り扱いについて補足すると、事業主が負担する掛金は全額損金(必要経費)として処理することができます。

【掛金の納付方法】
掛金の納付は、原則として口座振替によって行われます。
事業主が指定した金融機関の預金口座から、自動的に引き落とされる仕組みです。

【納付期限】
掛金の納付期限は「当月あるいは翌月の18日」です。
「当月振替」が「翌月振替」は事業主が選択することができます。
なお、18日が金融機関休業日の場合は翌営業日となります。

(出典:掛金の納付(預金口座振替)について|中退共

掛金の変更について

経営状況や従業員の賃金の変動に応じて掛金を変更することができます。
ただし、変更には一定の制限があります。

【掛金を増額するとき】
増額を希望する場合は、退職金共済手帳1枚目の「掛金月額変更申込書」に必要事項を記入のうえ、中退共本部保全課に提出します。提出期限は増額したい月の前月15日までです。
手続き完了後、新たな月額が記載された「退職金共済手帳」が送られてきます。

【掛金を減額するとき】
掛金の減額は「従業員の同意」または「厚生労働大臣の認定」が必要です。
具体的な手続きとして、「掛金月額変更申込書」に加え、「被共済者の同意があったことを証する書面」か「厚生労働大臣の認定書」を提出します。提出期限は増額するときと同じです。

中小企業退職金共済(中退共)のメリット

中退共には、事業主と従業員の双方にとって多くのメリットがあります。
以下では、主要なメリットについて詳しく解説します。

①掛金をすべて損金または経費扱いにできる

企業側における中退共の大きなメリットが、その掛金が、法人の場合は「損金」個人の場合は「経費」として扱われることです。これにより全額非課税となるため、企業の税負担を抑えることができます。

なお、給与所得にもならないため従業員の負担が増えることもありません。

②国の助成

中退共制度には、国からの助成金制度が設けられています。これにより、特に新規加入時や掛金を増額する際に、事業主の負担を軽減することができます。

【新規加入時の助成】

加入後4か月目から、掛金月額の2分の1(上限5,000円)を1年間助成。

ただし、下記に該当する事業主は本助成の対象外です。

  • 同居の親族のみを雇用している
  • 社会福祉施設職員等退職手当共済制度に加入している
  • 解散存続厚生年金基金から資産移換の申出を希望している
  • 特定退職金共済事業を廃止した団体から資産引渡の申出を行っている
  • 合併等に伴い企業年金から資産移換の申出を行っている
  • 合併等に伴い中退共から企業年金へ資産を移換する目的で新たに退職金共済契約を締結し、被共済者全員が資産移換のための契約解除をしている

【掛金増額時の助成】
既に加入している事業主が掛金を増額する場合も、助成金を受けることができます。

18,000円以下の掛金月額を増額変更する場合、増額分の3分の1が1年間助成。
(20,000円以上の掛金月額からの増額は対象外)

③福利厚生のサービスを従業員に提供できる

中退共に加入することで、従業員に対して様々な福利厚生サービスを提供できます。従業員の満足度向上や人材定着に大きく貢献し、将来的な企業成長に影響を及ぼすでしょう。

【中退共の主な福利厚生サービス】

  • レジャー施設の割引:全国のホテルや旅館、テーマパークなどの利用料金割引
  • 健康保持増進:スポーツクラブをお得な料金で利用
  • 生活支援:ハウスサービスの通常料金が割引 など

自社独自に福利厚生を導入するとなると、企画・導入・運用の労力と費用がかかりますが、中退共を活用すれば、自社の負担を最小限に抑えて福利厚生をスタートできます。

④退職金が従業員に直接支払われる

退職金は中小企業退職金共済事業本部から従業員に直接支払われます。
これにより、事業主に下記のようなメリットがあります。

【事業主のメリット】

  • 退職金の支払いに伴う事務負担が軽減される
  • 退職金の積立不足による支払い不能のリスクがなくなる
  • 退職金の支払いに関する労使間のトラブルを回避できる

従業員にとってのメリット

中退共によってメリットを得られるのは事業主だけではありません。
ここからは、従業員にとってのメリットを紹介します。

①運用利息が発生する

退職金は「基本退職金」と「付加退職金」の合計によって決まります。

基本退職金 掛金月額と納付月数に応じて固定的に決められる。制度全体として予定運用利回り1.0%として定められている。
付加退職金 掛金の納付月数43月目とその後12か月ごとの基本退職金相当額に、厚生労働大臣が定めるその年の支給率を乗じた額を、退職時まで累計した総額。

②転職した際、退職金を通算できる場合がある

中退共に加入している企業間で転職した場合、退職金を通算できる制度があります。
掛金の通算には下記の条件があります。

  • 転職前後の両方の企業が中退共に加入していること
  • 前勤務先の退職後3年以内に新しい勤務先で中退共に加入すること
  • 転職前の企業で退職金を受け取っていないこと

この制度により、従業員は転職によって退職金が途切れずに、継続して積み立てることができます。

③福利厚生サービスの享受

事業主へのメリットで紹介したとおり、中退共に加入すれば従業員は福利厚生サービスを利用することができます。
休日のリラックスや健康増進、家族とのお出かけなどに活用でき、プライベートのさまざまな場面で役立ちます。

中小企業退職金共済(中退共)のデメリット

中退共の導入を検討するときは、メリットとデメリットを踏まえて、企業にとってどちらの側面が大きいかを判断することが重要です。
中退共のデメリットについて詳しく解説します。

①加入対象の制限

中退共は中小企業向けの制度であるため、「中小企業退職金共済(中退共)に加入する条件」の見出しで解説したように加入できる企業に制限があります。また、役員は被共済者となることができません。

②短期間の退職だと不利

退職金は納付月数が11月以下だと支給されず、12月~23月は納付総額未満、24月~42月は納付総額相当、43月~は納付総額以上の金額です。
つまり、長期加入者ほど有利であり、短期間で退職すると不利益が生じることになります。

③掛金の減額にはハードルがある

一度設定した掛金を減額することは容易ではなく、「経営状況の悪化により現在の掛金額の納付が困難になった場合」「従業員の同意を得ている場合」などに限られます。

「一定期間支出を抑えたいから減額したい」など、経営状況の変化に柔軟に対応できない点が、特に中小企業にとってはデメリットとなる可能性があります。

④運用利息の変動

中退共の資産は、独立行政法人 勤労者退職金共済機構によって運用されていますが、その運用利回りは経済状況によって変動します。
過去には運用利回りが低下した年度もあり、退職金の支給額に影響を与える可能性があります。

⑤支払った掛金は企業に戻らない

中退共は継続的に支払った掛金が退職金として充当される制度です。
そのため、退職金を払い終わったあとでも企業にお金が戻ってくることはありません。

まとめ

中小企業の経営者は、中退共のメリット・デメリットを十分に理解したうえで、自社の状況に合わせて導入を検討することが重要です。
従業員の福利厚生の充実と企業の競争力向上につながる制度といえますが、企業側の費用負担も大きくなります。まずは情報を整理したうえで慎重に検討しましょう。

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この記事を書いた人
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コンノ

公務員として4年間、人事労務の実務経験あり。 これまで100名以上の事業者をインタビューしており、「企業や個人事業主が本当に悩んでいること」を解決できる記事を執筆します。

監修者
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辻 惠次郎

ネットオン創業期に入社後、現在は取締役CTOとしてマーケティングからプロダクトまでを統括。
通算約200社のデジタルマーケティングコンサルタントを経験。特に難しいとされる、飲食や介護の正社員の応募単価を5万円台から1万円台に下げる実績を作り出した。
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