人々の生活を支える介護保険制度は、3年に1度改定されます。
これは「介護報酬改定」と呼ばれ、企業にとってもさまざまな対応が生じます。介護事業所の多くは収益の大半が介護報酬であり、改定内容が経営に大きな影響を与えるのです。
2024年度はどのような変更があるのかを把握して、なるべく早く、そして正確に対応することが重要です。
この記事では、2024年度の介護報酬改定について、改定内容やポイント、企業に必要な対応などを紹介します。
目次
2024年度介護保険制度の改定率は1.59%引き上げ
2024年度介護報酬改定における改定率は、全体で1.59%の引き上げとなります。その内訳は下記のとおりです。
介護職員の処遇改善分:0.98% 介護事業者の経営基盤強化など:0.61% |
また、今回の改定では「福祉・介護職員処遇改善加算」「福祉・介護職員等特定処遇改善加算」「福祉・介護職員等ベースアップ等支援加算」が一本化され、新たな「福祉・介護職員等処遇改善加算」が設けられます。
これにより、介護職員を対象とした処遇改善加算は一つにまとめられることとなります。この処遇改善一本化や介護施設の増収に伴う効果により「0.45%相当」の改定率アップが予定されており、従来の1.59%と合わせて全体で「2.04%相当」の改定率が見込まれています。
(出典1:介護報酬改定について|厚生労働省)
(出典2:介護職員の処遇改善|厚生労働省)
2024年介護保険制度の施行日は介護サービスの種類によって異なる
2024年度は、診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬が3つ同時に改定される、トリプル改定です。
診療報酬改定は、医療分野の春先の業務負荷やDX化に伴う対応などが加味され、例年より遅れて令和6年6月1日に施行されます。それに伴い、介護診療改定についても、医療と関係するサービスは6月施行、他のサービスは4月施行となります。
2024年4月施行 | 6月施行以外のサービス |
2024年6月施行 | 居宅療養管理指導、訪問看護、通所リハビリテーション、訪問リハビリテーション |
※下記の記事では、「トリプル改定」のポイントや対応など、詳細を解説しています。
→2024年度施行のトリプル改定とは? 改定のポイントと必要な対応
2024年4月に施行された介護サービス
2024年4月に施行された介護サービスの主なものとして、以下のものが挙げられます。
- 訪問介護
- 訪問入浴介護
- 短期入所生活介護
- 短期入所療養介護
- 特定施設入居者生活介護
- 福祉用具貸与
- 介護老人福祉施設
- 介護老人保健施設
2024年6月に施行された介護サービス
2024年6月に施行された介護サービスは、主に医療と密接に関連する以下の4つのサービスです。
- 訪問看護
- 訪問リハビリテーション
- 通所リハビリテーション
- 居宅療養管理指導
2024年度介護保険制度改定のポイントとは?
2024年度の介護報酬改定は、次の4点を基本的な視点としています。
- 地域包括ケアシステムの推進
- 自立支援・重度化防止に向けた多職種間の連携やデータの活用
- 介護人材不足の対処法となる働きやすい職場づくり
- 介護保険制度の持続可能性と安定性の確保
それぞれのポイントについて、どのような取り組みが予定されているのかを詳しく解説します。
地域包括ケアシステムの推進
介護を必要とする方に、地域で連携を取りながらより質の高いサービスを提供することを目指します。
具体的な内容として、居宅介護支援や訪問介護における「特定事業所加算」の見直しをはじめ、各種加算が新設・変更されます。
そのほか、利用者の負担を軽くするため、福祉用具の貸与・販売が選択制となり、一人ひとりの状況を踏まえた説明・提案が義務化されました
【具体的方向性】
- 質の高い公正中立なケアマネジメント
- 地域の実情に応じた柔軟かつ効率的な取組
- 医療と介護の連携の推進
- 看取りへの対応強化
- 感染症や災害への対応力向上
- 高齢者虐待防止の推進
- 認知症の対応力向上
- 福祉用具貸与・特定福祉用具販売の見直し
自立支援・重度化防止に向けた多職種間の連携やデータの活用
要介護者が自立した生活を送ることができ、かつその自立した生活を継続できるよう支援します。
例えば、自立支援や重度化防止を進めるため、リハビリテーションにおける加算や医療との連携を図る取り組みの加算が強化されます。
また、科学的介護を推進する目的から、厚生労働省が提供する科学的介護情報システム「LIFE」の活用に伴う改定もあります。例として「LIFEのデータ提出頻度を少なくとも3か月に1回にする」「入力項目の定義の明確化や、他の加算と共通する項目の選択肢を統一化する」といったポイントが挙げられます。
【具体的方向性】
- リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養の一体的取組等
- 自立支援・重度化防止に係る取組の推進
- LIFEを活用した質の高い介護
【参考】
科学的介護情報システム(LIFE)について|厚生労働省
介護人材不足の対処法となる働きやすい職場づくり
介護需要が高まっている一方で、介護業界全体としては人材不足が課題となっています。本改定では、人材不足に対応するための「働きやすい職場づくり」にも焦点が当てられています。
重要なポイントの一つが、介護職員の処遇改善です。令和6年度に2.5%、令和7年度に2.0%のベースアップとなるよう、段階的な賃上げが進められます。
また、先述したように「介護職員処遇改善加算・介護職員等特定処遇改善加算・介護職員等ベースアップ等支援加算」が一本化され、1種別4段階となることにも注目です。
他に、テレワークの取り扱いについての明確化や、ロボットなどのテクノロジーを活用して職場づくりをする企業への加算新設などもポイントとなっています。
【具体的方向性】
- 介護職員の処遇改善
- 生産性の向上等を通じた働きやすい職場環境づくり
- 効率的なサービス提供の推進
介護保険制度の持続可能性と安定性の確保
介護保険制度が今後も国民の安心した生活の基盤になるよう、現行の制度が見直されます。
訪問介護における同一建物減算の要件見直しや、短期入所生活介護・介護予防短期入所生活介護における長期利用の報酬単位見直しが一例です。
運動機能向上加算の基本報酬への包括化をはじめとした、報酬の整理・簡素化が進められることも特徴です。
【具体的方向性】
- 評価の適正化・重点化
- 報酬の整理・簡素化
▶各改定ポイントについては、「令和6年度介護報酬改定に関する審議報告」より出典
2024年介護報酬改定の背景は?
まずは、介護保険制度について整理しておきましょう。
介護保険制度は、要介護認定や要支援認定など、介護を要する人に必要なサービスを提供するための制度です。「社会全体で日本の介護を支える」という考え方のもとで成り立っており、40歳以上の人は介護保険制度への加入と保険料の支払いが義務付けられています。
下のイメージ図は、「保険者」「被保険者」「介護サービス事業者」の関係性を表したものです。
(出典:介護保険制度について|厚生労働省)
介護保険制度がスタートしたのは2000年のこと。地域包括ケアシステムの推進がテーマになった2012年度からは、社会の動きに合わせて3年に1度のスパンで見直しが行われています。
昨今、物価高騰や少子高齢化による人材不足などにより、介護業界が抱える課題は複雑化しています。そういった課題にどう対処して、介護サービスの質をどう高めていくのかも、制度改定において注目するポイントです。
さらに2025年、団塊の世代(1947年~1949年生まれ)が75歳以上となり、「労働力不足」や「社会保障費の負担増」といった社会課題がますます際立つことが見込まれています。これらの課題は総称して「2025年問題」と呼ばれます。
今回の介護報酬改定は、この2025年問題を踏まえた今後の介護の在り方を示すものでもあるのです。
2024年度介護保険制度の改定の流れとスケジュール
介護報酬改定の流れとしては、1年目にあたる前回改定の翌年に、社会保険審議会介護保険部会で次回改定の方向性が議論されます。その翌年の2年目には具体的な報酬単価などが議論され、年末から年明けにかけて内容が固まり、3年目にあたる3月に告示交付される流れが通常です。
参考までに、下記は令和2021年度改定時のスケジュールです。2024年度改定も、ほぼ同様の流れで進む予定です。
2024年度介護保険制度の改定に向けておこなうべきこととは?
介護報酬改定に対応するには、迅速かつ正確な情報収集が求められます。科学的介護情報システム「LIFE」の導入やICTの導入・活用をはじめ、自施設が必要な対応をしっかりと整理したうえで、その準備を着実に進めましょう。
介護報酬改定の内容は、今後の社会の変化を見据えたうえでのものです。そのため、改定内容を把握することが、これからの施設経営の方向性を検討することにもつながります。施設にとっては、現状の見直しとこれからの計画を整理する機会になるかもしれませんね。
人材確保を強化することも必要です。介護報酬改定により賃上げしても、複数ある介護施設の中から自分たちの施設を選んでもらうには、「ここで働きたい」と思ってもらえるような魅力付けが欠かせません。
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まとめ
2024年度の改定では、介護報酬の改定率が1.59%引き上げられると同時に、これまでの制度にさまざまな変更が生じます。例年と異なり、4月施行と6月施行で分けられるため、企業は情報を正確に把握して、漏れなく対応することが重要です。
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