「SOGIハラ」とは?SOGIハラをはじめとする「ハラスメント」を防ぐために大切な考え方

「SOGIハラ」という言葉を聞いたことがありますか?SOGIとは「Sexual orientation and gender identity(性的指向および性自認)」の略で、ソジー、ソギーと呼びます。

よく間違われる「LGBTQ」は、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・クエスチョニングと一部の人を対象にしたものですが、SOGIはあくまで本人の属性をさす言葉です。
全員が何かしらの性的指向や性自認を持つため、皆が対象になります。

本記事では、匿名と顔を伏せることを条件に、実際にSOGIハラの被害を受けたAさんに、世間と当事者のギャップ、SOGIハラの実態などについてお話しいただきました。
具体的な「SOGIハラ」のイメージを持っていただき、それに合わせてどのような行動をとればいいのか、ひとりひとりが考えるきっかけになりますと幸いです。

 

目次

「SOGIハラ」って何?

ーーまず簡単に自己紹介をお願いします。

2006年に、現在の会社に新卒で就職しました。最初は営業部に配属され、その後経理、広報などを担当しました。その頃から髪を伸ばしていましたが、特に周囲にはカミングアウトしていませんでした。その後、工場の総務に異動したタイミングでSOGIハラを受けました。それが原因で精神に不調をきたして3年弱休職しました。今は同社の工場内の別の部署で働いています。

 

ーーちなみに戸籍上の性別と性自認が違うことをカミングアウトはいつ頃されたのでしょう?

工場へ転勤することになって、作業服に着替える必要が出たんですね。つまり、男性更衣室を使わないといけなくて。そこで「実は性同一性障害で、可能なら別の更衣室を使わせてもらいたいです」と相談をしました。

 

ーーあらためて、「SOGIハラ」の定義をお聞きしても良いですか?

SOGIを略さずに言うと「Sexual orientation and gender identity(性的指向および性自認)」です。
「Sexual orientation」は指向、つまりどのような性別の人を好きになるかを指します。男性もしくは女性、あるいはその両方とも好きになる、なかには誰も好きにならない人もいます。

「gender identity」は、自分の性をどう認識しているかを指します。女性か男性かというのは典型的ですが、どの性にも属さないという人も居り、そういう方は「nonbinary(ノンバイナリー)」や「Xジェンダー」とも呼ばれています。

SOGIハラとは、例えば性的少数者であることをカミングアウトして以降「あいつ気持ち悪い」と避けることや、「俺のこと襲うなよ」と発言することがそうですね。
本人から同意を得ず、知人が周りの人に「あの人ゲイなんだよ」と周囲の人にばらす「アウティング」もSOGIハラにあたります。

かなり前からLGBTという言葉は使われていましたが、それだとレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーなど特定の人しか指さないですね。
SOGI(ソジ)は性的少数者に限らずに皆の問題になるということで、最近はSOGIが使われ始めています。

 

ーー今のお話を聞いて、LGBTという言葉が少しずつ広がりを見せていって、次のステージに突入したのかなという感じを受けました。

そうですね。あと、SOGIハラという言葉が広がった背景には、2020年6月頃に「労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」が改正されて「性的指向・性自認に関するハラスメントや性的指向・性自認の望まぬ暴露(アウティング)」が追加されたのも関係していると思います。

それが企業としても取り組むきっかけになっていますし、労働者も「性的指向・性自認に関するハラスメントもやってはいけないことだと法律にきちんと明記されているんだ」と理解して、徐々に労災申請や裁判になるケースも起こってきています。

あと、繰り返しになりますが、SOGIハラはわれわれ性的少数者だけの問題ではないんですね。
例えば、30代の男性だったら一度は「そろそろ世帯をもったほうが良いんじゃないの」と言われた経験があると思います。こう言われて「面倒くさいな」「いやだな」と思うのも一種のSOGIハラになるんですね。

 

ーー皆の問題であるというのは重要な示唆ですね。そもそも皆が皆カミングアウトしているわけではないので、だからこそ、誰に対しても気遣いをもって接するべきですよね。

10人に1人が性的少数者という統計もあるくらいなので、身近にいるという感覚で発言や態度に気を付けないと、うっかり他人を傷つけてしまうことはありえると思います。

 

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「会社の制度」と「周囲の理解」の両輪が必要

ーー日頃ご自身が感じている課題について、大きく「会社の制度」と「周囲の理解」の2つの側面からお伺いしたいです。

各個人が「ゲイやトランスジェンダーなんて気持ち悪い」と思うのは残念なことではありますが、人それぞれ考え方や思いがあるので仕方がないことだと思っています。

しかしながら、仕事上で「あなたのことは嫌いだ」と言ったら当然コミュニケーションが成立しないですよね。

性自認やプライベートな部分は、別に仕事に関わることではないし、プライベートと仕事を割り切って考えられる人がもっと増えたら良いなと思います。

 

ーーただ、それでも攻撃的な言葉を出してしまう方もいます。

そこで重要になるのが会社の制度なんですね。社内規程に「こういった事例がハラスメントに該当します」や「SOGIハラをしてはいけません」と明記し、違反した場合の処分もあわせて記載することが重要です。

今所属している会社は去年、ハラスメントに関する宣言として「性的指向や性自認を含む」という記載を盛り込みましたが、社内規程や規則のなかにそれが噛み合った形で落とし込まれているかといえば、まだなされていないのが現状です。

 

ーー規程に書かれていても、それを使う方々が理解していないとなかなか運用には至らないですよね。

そうですね。だから会社の制度と周囲の理解の両輪が必要なんですよね。年に一回でも良いので、制度に基づいて会社が主体となって講習会を実施する必要があると思います。まだそれをしっかりできている会社は少ないですが。

 

ーー会社がハラスメントに関する宣言を掲げていても、しっかり社内規則に落とし込まれていない状況のなかで、労災申請をするのは苦労も多かったと予想できます。特に大変だったこと・苦労したことはありますか?

まず、精神的なことでかかった3つの病院から、それぞれカルテを取り寄せるのが大変でした。1つが埼玉県の病院だったので、「わざわざそこまで取りにいくのかー」と思って……。

弁護士さんとカルテを読み解こうとがんばったのですが、どうしても病院の先生の文字が解読できなくて(笑)最終的には、労災の申請書類とは別に弁護士さんが意見書を作ってくれました。

あとは、ハラスメントを受けていた当時にこっそり録音していたデータを、前使っていたスマートフォンから取り出す作業も手こずりましたね(苦笑)

 

ーーもし録音データがなかった場合は、証明できるものがないということで申請が通りにくくなるのでしょうか?

通りにくくなるのは事実だと思います。ただそこであきらめてはいけなくて。当時つけていた日記や本人の記憶でも構わないんですよ。きちんとつじつまを合わせて、それを意見書に落とし込んでいけば問題ないです。ただ、労災申請すると労働基準監督署が被害者と会社双方に聞き取りを行うので、もし記憶だけだと「うちの会社はそんなことやっていません」とはぐらかされる可能性はあります。

 

ーーそうですよね。労災に向けて、録音以外に何か意識していたことはありますか?

当時は、労災や裁判まで発展させようと思っていなかったんですよ。加害者の人が私を人間として見てくれて、普通に仕事させてくれる環境を作ってほしいと願っていただけなんです。会社には「加害者の行為がひどいので注意してください」や「制度を作るように言ってください」など、何度も説得や抗議を続けていました。

ハラスメントされたことによるダメージはもちろんありましたが、それよりも本来味方になってくれるはずの労働組合や会社、加害者以外の上司が全然動いてくれないことが決定打になりました。最終的には病院でうつと診断をされました。

 

相互理解を深めるには?気をつけるべきポイント

ーー日頃、世間と当事者間で感じるギャップはありますか?

今TwitterなどのSNSでは、トランスジェンダー女性に対する激しいバッシングが起きています。Twitterで「トランス」「トランス女性」で検索すると、至るところに「トランス女性は女子トイレを使わないでほしい」と書かれていて。むしろ、この格好で男子トイレに入る方が問題になりますよね。

そういった批判をする人のなかには、過去に男性からセクハラを受けてトラウマを持っている人もいるかもしれないので、仕方がない部分が多少あるにしても、SNSで発言や発信するのは違うと思っています。

 

ーーなかには、悪意なくうっかり言ってしまうパターンもあると思います。非当事者が注意すべき発言があれば教えてください。

近所にゲイバーがあるのですが、そこに久しぶりに遊びに行った時に、「初めて会ったときはAちゃんは女かと思った」と言われて、「え、女だよ!」ってツッコミを入れたことがあったんですね。トランス女性を相手に「女性だと思ってた」と言ってしまうのもわからなくはないんですけど、複雑な心境にはなりますよね。

 

ーーなるほど、たしかに知らなければうっかり言ってしまいそうです。逆に、Aさんが普段意識していることはありますか?

女性として見られるために、女性のような声を出すボイストレーニングを行ったり、格好をしたり、しぐさに気を付けたりですね。

女性だから女性らしさを追求することは構わないと思うんですが、性の多様性を求め続けているのに、LGBT当事者自らが女性のステレオタイプを率先して表現してしまっていると矛盾を感じるときはありますけどね。

 

ーー性の多様性を認めていくのであれば、容姿や格好は関係ないということですよね。たしかに、そこのバランスは難しいところですよね。

「女性として生きる」という言葉自体もどうなのかと思いますが、やはり「あの人男なの?女なの?」と思われてしまうと、普通の人は混乱すると思うんですよね。ただ、今の自分として生きていくと決めた以上、周りへの気遣いとして、ある程度しぐさや声などで女性らしさを出すことは、それはそれで良いのかなと思っています。

 

人事や労務担当が対策すべきことは?

ーー今後のお話について、どのような職場があると理想だと考えますか?

会社によっては、葬儀や結婚式などの冠婚葬祭やケガや病気に備えて毎月お金を積み立てる「互助会」のような制度があると思いますが、そのなかに、同性同士の結婚も認めてもらえると理想ですね。

あと、会社によっては性的少数者や「アライ(Ally)※」が集える掲示板を構築しているところもあるらしいです。そういう集いの場所がある会社が増えれば良いなと思います。
※性的マイノリティの人達を理解し支援する人達のこと

 

ーー今制度のお話がありましたが、ガイドラインやルールに明記されていると良いなと思う項目はありますか?

「性的少数者に限らず少数者の意見をきちんと受け止めて、その人たちの尊厳を認めて差別や偏見をしないようにしよう」ということは書かれていないといけないと思います。

 

ーーなかなかルールで縛ったとしてもイメージがつかないと思います。それを社内研修などで補うことになると思いますが、どのような内容の研修があると良いでしょうか?

ただ座学を受けるだけだと理解が深まらないと思うので、5、6人くらいで、日常生活で性的少数者が職場で生じる具体的な事例を考えるグループワークがあると、考えるきっかけになるかなと思いますね。

あと、動画作品を見るのも当事者意識をもって双方の気持ちがわかるので良いかも知れません。国際レズビアン&ゲイ映画祭でグランプリを受賞した作品「カランコエの花」や「トランスアメリカ」、トランスジェンダーの少女がバレリーナを目指す「Girl(ガール)」もおすすめです。

 

ーー最後に、SOGIハラなどの問題にたいする人事の向き合い方、対処について意見を伺いたいです。

とても根本的な話で恐縮ですが、性的少数者に対して差別的な目線を持っている人が人事になってはいけないと思います。まさに、当時ハラスメントを受けていたときに対応していた人事がそんな感じでした。「復帰するために会社にこういう制度を作ってください」と話し合いの場をもとうとしましたが、応じてくれなくて。

少なくとも偏見をもっている人が人事になってはいけないと思うし、なった限りはさまざまな立場の人がいることを認識し、社員誰ひとりこぼさないような施策を会社内で推進できる人になってほしいと思います。

 

まとめ

ここまでご覧いただき、誠にありがとうございます。
人事だけではなくすべての方に読んでほしい内容でしたね。
もし、この記事に共感していただいた方は、ぜひともTwitterやFacebookで拡散にご協力の程よろしくお願いいたします。

この記事を通じてSOGIハラで苦しむ人が少しでも減るきっかけになりますと幸いです。
もちろんSOGIハラだけではなく、ハラスメントについては個人と組織の両方が考えていかないといけません。

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ハラスメントの種類はいろいろあれど、結局のところ「人の嫌がることをしない」ということが前提です。
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被害者を守るだけではなく、加害者になるのも防ぐ役割もあるので、しっかりと取り組みましょう!

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監修者
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辻 惠次郎

ネットオン創業期に入社後、現在は取締役CTOとしてマーケティングからプロダクトまでを統括。
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