近年は、個人アカウントを開設し、積極的に情報発信を行う人事担当者や採用担当者も増えてきました。なかには、強力な影響をもつ、いわゆるインフルエンサーのような存在の人も。
SNS運用では、フォロワー数を伸ばすことが成功の定石とされていますが、人事コンサルタントの大橋高広さんは「フォロワー数は必ずしも成功の要因ではない」と語ります。その真意とは?大橋さんに採用におけるSNS運用のコツや中小企業でありがちなSNSの失敗例などについて詳しくお話を伺いました。
目次
フォロワー数よりも”インプレッション数”を重視しよう
ーーまず簡単に大橋様のご経歴を教えてください。
大学を卒業し、大手通信会社に就職して新規開拓営業を経験しました。歓楽街にあるお店に飛び込み営業をするということで、かなりハードだったんですね。やりたい仕事ではなかったこともあって経済団体に転職し、公的事業運営や中小企業の経営支援を担当しました。仕事は楽しかったのですが、行政改革で職場環境が悪くなってしまいました。次に中小の製造業で総務・人事・経理などのバックオフィス業務を担当しました。しかし、ここもまた職場環境が良くなくて……(笑)。
組織に属している限りは、自分で職場環境をコントロールできないと思い、独立を決意しました。起業は、経営コンサルティング業と決めていたのですが、その中でも自分がもっとも悩み続けた人事領域を扱うことにしました。今取り組んでいる事業は、主に人事評価制度の設計・運用支援と管理職研修・職場改善研修です。弊社の人事コンサルティングの特徴として、現場の実態をスタッフの皆様にヒアリングして把握しながら職場の問題解決に取り組んでいます。のべ70社以上の支援実績、1,200人以上の面談実績があります。近年はビジネス作家としても活動していて、人事に関する書籍を2冊出版しています。(3冊目が2021年5月27日発売予定)
ーー採用ではTwitterやFacebook,LinkedInといったSNSが注目されていますが、どのSNSを使うのが効果的でしょうか?
TwitterとInstagramは始めることをおすすめします。最近はLinkedInを推す流れが来ていますが、LinkedInはいわゆるアッパー層向けです。どちらかといえば、アッパー層をヘッドハンティングするSNSととらえた方が良いかもしれません。広くリーチしたいならTwitterとInstagramがおすすめです。Instagramは若い女性が使うイメージを持たれているかもしれませんが、実はかなり幅広い層が使っているんですね。Instagramで積極的に発信しているビジネスパーソンは一部ですが、見ている人は非常に多いんですよ。ということは、投稿していれば刺さるってことなんです。
ーー採用アカウントを伸ばすには、どのような施策が有効でしょうか。
といってもフォロワーが20や30では、そのアカウントが偽ものなのかどうかすら判別できないので、なかなか難しいです。僕の事例では、フォロワー数が300を超えると効果を実感していただけるフェーズに入ると思います。
また、フォロワーを増やす戦略として「FF比※」が挙げられますが、こういうテクニックも一切必要ないです。ただし、フォローがフォロワーよりも多すぎるのはあまり良くないです。なので「フォロー<フォロワー」の状態だけはキープしましょう。
※1:フォロワーとフォローの比率のこと
ーーフォロワー数が少なくても効果は出せるってことですね。すごい希望になるお話ですね。
そうですね。FF比をキレイにするために、フォローバックされたらすぐにフォロー解除するのは絶対NGです。リアルで人間関係を作るときに「あいつは数合わせに利用しているだけだ」みたいに振る舞ったら絶対に嫌われるのと一緒で、その人がアンチになるからです。
ーーリアルの知り合いにフォローしてもらうのはどうでしょうか?
リアルの知り合いに登録してもらうのはアリですが、あまり効果は望めません。その知り合いはリアルでは活躍しているかもしれませんが、Twitterではアクティブじゃない可能性があるんですよ。つまり、インプレッションもエンゲージメントも上がらないフォロワーばかり増えてしまって、ファンがいない状態になってしまうんですよね。例えば、Facebookはリアルな人間関係でつながる場所なので、リアルな人間関係はFacebook、それ以外はTwitterやInstagramとそれぞれの媒体特性を考えながらSNSを運用してみましょう。
ーー「フォロワー数が重要じゃない」とわかっていても、上司からフォロワーを増やしてほしいと言われていて板挟みになっているケースも多そうですね。
多いですね。そこは上司に「フォロワー数を追うことは意味がない」ことを理解してもらうしかないでしょうね。もし、それでも理解されなければ、応募数やメルマガダウンロード数など成果につながる数字を提案してみましょう。
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フォロワー数は気にするな!”会社のありのままの姿”を発信しよう
ーー採用でSNSを活用する場合、どのようなコンテンツが効果的だと思いますか?
会社を辞める理由は「給与が低い」「仕事が合わなかった」などさまざまですが、多いのは「人間関係・職場環境」なんですよね。なので、特に発信してもらいたいのは職場の雰囲気です。理想は、社員同士でポジティブな発信をしあう・社員が会社で働いている様子を撮影することですね。画像はもちろんですが、10秒の動画を撮るだけでも全然違いますよ。新卒社員への教育体制を見せていくのも大事ですね。
ーー動画を撮るときに脚色してしまいそうですが、リアルな雰囲気を作るコツはありますか?
ウェーイとかする必要なくて、業務中の様子をそのまま撮るだけでOKです。いわゆる映えっていうのは結局、フォロワーを伸ばす施策でしかないんですね。ここポイントなんですけど、フォロワー数を伸ばそうとするほど大衆のニーズに合わせようとしてどんどん本質を見失ってしまうんですよ。多くの人に刺さるという事は大衆受けするってことなんですよ。でも大衆受けしても、欲しい人材の採用には結びつかないじゃないですか。
これはインプレッションにも同じことが言えます。Twitterにはルールみたいなものがあって(正式に公表されているわけではないため正確には不明ですが)、投稿してから10〜20分以内にみんなで協力してリツイートすればインプレッションは簡単に伸ばせるんですね。でも、こうやって増やすとまともなファンがいなくなるんですね。そうすると、今日のテーマ「良い人を採用する」にはつながらないんですね。
ミスマッチをなくしたいと思ったら、自社の理念や大切にしていることを伝える必要があるじゃないですか。そうすると必然的におもしろくなくなるんですよね。なので、一旦フォロワー数は気にせずに運用してみましょう。
ーーSNSだと顔が見えないから、ついフォロワーを増やすために、リアルさを隠して運用してしまいがちですよね。
裏を返せば、リアルさを出すとSNSはどんどん良くなりますよ(笑)私はSNSとリアルの境目を作っていません。SNSで出会った人も多いし、そういう人たちをリアルでの知り合いに紹介したりもしています。
ーー「画面の向こうには人がいる」という当たり前のことを理解して運用することが大切ですね。
そうですね。だからSNSで意識してほしいのはプロフィールです。対面で会うときは身なりを整えますよね?それと同じように、SNSには正体不明なアカウントも多いため、プロフィールをしっかり書き込んでリアルな存在であることを確認してもらうんです。あとは、気になる人の投稿にいいね!をつけたり、コメントを書いたりしてみてください。そうすると接点が生まれますよね。この方法なら、フォロワー数が50人くらいでも十分効果を出せます。
ーーつい見たくなるプロフィールの作り方やコツはありますか?
どういう人を採用したいかによりますね。キラキラ系で意識高い系の人を採用したいなら、そういうブランディングをしたほうが良いし、そうじゃなければキラキラ系のプロフィールを意識する必要はないですよね。プロフィールと求める人物像を一致させる必要があります。
なので、理想はターゲットに近しいスタッフに登場してもらうことですね。なぜならその人を見ることで職場の雰囲気をイメージすることができるので。SNSでもリアルでも、やはり類は友を呼びます。
ーーSNSを運用するなら、個人アカウントにするのと、それとも法人アカウントを複数人で担当するのだと、どちらが良いでしょうか?
人は人に共感するので、個人アカウントのほうが伸びやすいですね。もし、法人アカウントを運用するなら、エース級社員の方や広報担当の方のアカウントで、その法人アカウントを徹底的にフォローすると伸びます。さきほど話したように、チームでコメント(リプライ)したり、いいね!やリツイートをし合ったりすれば伸びる仕組みになっているからです。なので、言ってしまえばTwitter採用で最強の施策は、スタッフがみんなアカウントを作って、相互フォローすることなんです。
ーーチームで取り組むってことですね!顔出しに関してはどうですか。
もちろん実名・顔出しがベストですが、最近よくある「〇〇株式会社の中の人」もアリだと思いますし、似顔絵のイラストと名前を出すだけでも効果はあるかなと思います。
SNSを継続して取り組むにはどうしたら良い?
ーーSNS運用でハードルになるのが「継続的に発信すること」だと思っているのですが、ネタ切れしないコツはありますか?
例えば、よく工場で貼られている「率先垂範(そっせんすいはん)」という理念がありますが、その理念に基づいた実際のエピソードを書いてみるのも1つです。これならすぐに取り組めそうですよね。
ーー長く発信を続けていくと、「同じようなネタになってしまう」と悩まれる方も多そうです。
同じような内容は何も悪いことじゃないですよ。世の中には完全にオリジナルの内容なんてないんですから。同じような内容が悪いのではなく、同じ文章が駄目なんですね。
それが難しければ、日々仕事で感じた気付きをネタにしてみましょう。なんだかんだそういう気付きがウケますね。1日8時間も働いていれば、何かしら気付きがあるはずなんですよ。もし、思いつかない場合は、毎日ただルーティン作業をこなすのではなく、少しでもクリエイティブな気持ちで仕事に取り組んでみると良いかもしれません。
ーーそれは、ささいな気付きでも良いんですか?
良いと思います。僕の例だと、最近新しい本を執筆中でバタバタしていて、習慣だった筋トレをサボっていたんですね。筋トレをさぼったらやっぱりパフォーマンスが下がるしあかんなと思って、「筋肉と仕事は一緒や!」ってつぶやいてたんですね(笑)それが、けっこうウケていました。これも「仕事を一生懸命やっている人は、運動をサボってパフォーマンスが落ちているんじゃないか」という気づきだと思うんですよ。
ーー書くことに慣れていないと、SNSの発信が日記みたいになる人も多い気がします。そこから脱するコツはありますか?
日記やランチ投稿をしてしまうのは、ターゲットがぶれているんですね。ターゲットが決まれば、投稿する内容は絶対ブレないはずなんですよ。
とはいえ、やはり文章力はあるに越したことはないです。人は文章に共感して応募したり申し込んだりするわけですからね。結局、フォロワーが2人でも文章が良くてそこから応募が来てクロージングできたらOKじゃないですか。マイナビやリクナビでも一緒だと思うんですけど、はじめのリード文で会社の魅力をしっかり伝えることができたら、募集要項に書かれている給料や休日はそこまで重要ではなくなると思うんですよ。
ただ文章の良さを考えすぎてしまうと、なかなか発信できなくなると思うので、相手を傷つける投稿や炎上する表現だけ気をつけて、コツコツ真面目に発信していきましょう!
編集後記
「SNSで大切なのは、フォロワー数ではなく、画面を通して目の前にいる人たちにどれだけ響くか」という大橋さんの言葉にあるように、SNSであっても目の前の人たちをしっかり見て、その人たちへ伝えたいメッセージを発信し続けることが大事ということを改めて認識させられました。
大橋様、今回の取材に応じていただきありがとうございました!
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